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────1・可視交線────
36公開告白③
しおりを挟む蒼依は戸惑いを隠せず、当事者である夏葉に説明を求めた。
「ナツバ……。これどういこと?」
「告白を断っただけだよ」
だけ、にしてはいろいろ突っ込みどころがありすぎる。
取り敢えず、先輩は大丈夫だろうかと見ると、すくっと立ち上がるところだった。「イテテテ、さすがだ」とお尻をさすりながら、再び夏葉の前にやってきて声を張り上げる。
「ナツバさん。ありがとうございました。これで踏ん切りがついた」
────ん????
ここでなぜお礼?
……でも踏ん切りがついたのならいいのか?
あれ? 理解力足りてないのは自分だけかな?
ああー、わからなさすぎて、体育会系のノリにしか見えなくなってきた。
告白だったよね?
告白の結末がこれだよね?
疑問ばかりで、蒼依の頭では現状の理解が追いつかない。
爽やかに礼を告げる先輩に対して、夏葉は何も言わない。
それでも構わないようで、この騒動を起こした先輩はすっきりした顔で夏葉に一礼して教室を出て行った。
──いや。ホント、どういうこと???
「えっ?」
先輩の姿が見えなくなると、蒼依は疑問を露わに声を上げた。
本当に誰か何が起こっていたのかわかるように説明してほしい。
「ちょっとどういうこと? 先輩襲いかかってたよね? それで投げたよね? 結構びっくりしたのだけど、なんでみんな普通なの?」
何度も頭の中で先ほどの出来事を確認するが結局理解できずもう一度訊ねると、クラスメイトがアハハハッと楽しげに笑い出す。
「「「「「おお~、新鮮だな。結城の反応」」」」」
「こういう反応はいいね~」
「やっぱり、普通じゃないのかぁ。見慣れすぎてるのかもな」
「でも、藤堂のはこれって感じだよな。これ以外は想像つかない」
「まあなぁ」
「まだ、藤堂のはマシな方だしね」
「「「「「ま、そのうち結城も見慣れるよ!!!!」」」」」
クラスメイトが面白そうに声を合わせてくる。ぐっと親指を突き出し蒼依の反応をニヤニヤと見る。息ぴったりの仲良しこよしだ。
蒼依たちのクラスのS組は成績優良者が集まり、だいたいが中等部から同じなのだそうだ。
AからEも成績を考慮されるが、そこは家柄、成績、スポーツといろんなことを加味されてクラス分けされるらしい。
スポーツや芸能特待で外部入学した人の方が多く、このクラスに外部性が二人なのは成績では二人だけだったということだ。もともとのレベルが高い。
「アオイ、混乱してるね。これがここの告白システムじゃないから安心して。ナツバのは変わってるというか。断られたら襲って、投げられるまでがセットだから」
「セット?」
「そう。セット。儀式みたいなものなのかな」
そこで説明してくれたのが、この学園にきて仲良くなったもう一人の友人である本郷律樹。
律樹も同じく朱雀寮であり、夏葉と同じ部屋で二人は中等部からの友人関係だそうだ。なので、必然的に律樹と話す機会も増えよく行動を共にする。
中等部の時は生徒会長をしていたほどしっかり者で、大雑把な蒼依と夏葉の保護者みたいな役割を担ってくれ、全てにおいて頼りがいのある人物である。
「へえ~」
説明を受けても、驚愕で気の抜けた相槌しか出てこなかった。
……告白して投げるって。
綺麗な一本投げは見事であったが、その小柄な体格からどこにそんな力が? だ。
うーんと唸っている蒼依を見た夏葉が、にっこりと笑みを浮かべる。
軽く肩を竦めると、なんでもないことのように淡々と心情を吐露した。
「男をそういう目で見るとか考えられないし、ずっとそう言ってるから、好意がというよりはその行動は迷惑なんだけどね。ま、それで諦めてくれるからまだいいけど」
「そ、そうなんだ?」
迷惑とはっきり告げ、自分はこうだと言い切れる強さが眩しいが、先ほどの衝撃がまだくすぶっているのでいまいち話に感情がついていけない。
「うん。中等部から定期的にあるんだよ。男なのにこんな見た目だから一目惚れされるのよくあるし、腹が立つけどこれも日々の鍛錬になるよ」
そう気負いもなく言い切った夏葉は、やっぱりは男前な性格だ。
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