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────1・可視交線────

31性質①

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 後悔の念に囚われる蒼依の反応を見た桐生が、面白そうに目を細める。

「知らなかったみたいだな」
「そんなの知りませんでした。それに名前を知ったのは今朝の集まりの時にたまたま知っただけで」
「そうなんだ? でも、あいつ姫さんと同じ部屋だよな?」
「同じ……」
「ああ、その反応はそれも知らなかったようだな。まあ、仕方がないな。南条先輩適当だからな」

 それ、さっきも翠との会話でやったばかりだ。デジャブだ。


 ──南条先輩、どこまでざっくりなんですかー?


 適当すぎるにもほどがある。昨日の時点でそのことに触れる機会たくさんあったはずだ。
 絶対、面倒くさいか、もしくは故意に話さなかったに違いない。

「適当にもほどがある」

 思わず苦情を漏らすと、桐生はくっと笑った。

「本当に教えてもらってなかったのか」
「はい。お楽しみだと言われて」
「なるほどな。なら、悪いことしたな。楽しみを奪って」
「まったく奪ってませんから」

 くつくつと楽しそうに笑う桐生に、蒼依はぶんぶんと首を振りがっくりと肩を落とす。
 
 というか、信じられない? そんなことが重なる?
 もう一度確認してみよう。聞き間違いということもあるだろうと、蒼依は口を開いた。

「その、同室者が加賀っていうのは本当なんですか?」
「嘘ついてどうする。姫さんの同室者は孤高の一匹狼。加賀だ」


 ──────うわぁぁ、やっぱりぃ~!?!?!?!?


 えっ? 本当に? ドッキリとかではなくて?
 蒼依は溢れんばかりに目を見開いた。

 うわー、お姫さま抱っこの元凶である加賀が同じ部屋。協調性の欠片も感じなかったが、上手くやっていけるのだろうか。
 そして、さらに平穏が遠のいた気がする。

 桐生は他人事だと思ってか、煽るように口端を上げた。

「話題性豊富だな」
「そんな話題性は要りませんから」
「ここまでくると、中途半端より行き切る方がいいと思うけどな。それにしても、加賀がなあ。姫とは同室者のよしみってことで接触したのか?」

 桐生が感慨深げに西園寺へと視線やると、ゆっくりと長い指を唇に押し当てた西園寺が足を組み直した。しばらくそうしていたが、入り口の方を見ながら考えるように告げた。

「確か、彼は以前から南条先輩と何やら交渉していたようだから、条件の中に外部生の案内でも指示されたのじゃないかな。それで条件達したから、外に出た可能性が高いしそのまま帰ってないんじゃないかな」
「ああ、そういうことね」

 そういういことって、どういうこと?
 蒼依が衝撃で固まっていると、なぜか西園寺が流れを無視して話しかける。

「結城くん。君が嫌がっているようだから桐生みたいに “お姫さん” なんて呼ばないから、アオイって下の名前で呼んでもいい?」
「ああ。それいいなアオイ姫」
「姫はつけないでください」

 すぐさま乗ってくる桐生に、思わず何も考えずに突っ込んでしまう。
 しかも、南条と一緒だ。同じことを言うなんて、二人が一緒の時は要注意だ。

 というか、なぜ下の名前? 仲が良いだろう先輩同士は名字で呼びあっているのに、なぜ後輩を下の名前で呼ぶ必要があるのか?
 そもそも、西園寺先輩って結構マイペース?

 蒼依が圧倒されて思考を散らしている間に、勝手に話がまとまっていく。

「なら、アオイ。でもなあ、もうこの流れは姫確定だろ? 騒ぎを起こした加賀と同じ部屋ってだけで、アオイのこれからは決まったようなものだろ? 俺らがどうしようがもう変わらないだろうし」
「桐生。こちらが話をしてるんだけど」
「いいじゃないか。面白いから俺も仲良くしたい」
「仕方がないですね」
「あのー」
「なに?」

 にこやかに笑みを浮かべる西園寺に、蒼依は困ったように眉根を寄せた。
 突っ込みどころがありすぎて、どこから指摘していいのかわからない。なぜ、西園寺が了承するんだろうか。そういうところも王子っぽい。マイペースだ。

 まともな人がいないの?
 悪い人たちではないのはわかるし、変わっているというほど変わっているわけでもないけれど、こう、なんだろう、もう少し相手を慮る言動をして欲しいというか。容赦ないというか。

「ああ、っと、翠、助けて」

 出鼻をくじかれ先の不安に、蒼依は思わず翠に助けを求めるように見つめた。もう、いっぱいいっぱいだ。

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