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────1・可視交線────
12視線の先②
しおりを挟むゆっくりと目を閉じ気持ちを整えると、ふと視線を感じ斜め前の席に顔を向けた。
あまりにもばっちりと視線があったのでパチリと目を瞬くと、にこっと笑みを浮かべそのまま遠慮もなく相手はじっと自分を見ている。
同じクラスの列。先ほどクラスでまとまった時に見かけた気もするが、すぐに移動になったので名前などは把握していない。
座っているから分かりにくいが、身長は161センチの蒼依とそう変わらなさそうだ。栗色の髪をふわふわさせ可愛いらしい。
その彼がじっと自分を見る理由を模索し、昨日のことなのかもしれないと思い眉を寄せた。
すると、人好きする顔で笑顔を向けられ、小さな声で話しかけられる。
「あ、ごめん。見たことがないから外部生かなって」
「うん」
「もしかして、昨日加賀に運ばれた?」
加賀という名の人物は知らないが、運ばれたというそれはきっと自分のことなのだろう。
抱っこと言われなくて良かったのかどうか。あまりにも昨日は抱っこという言葉が寮に蔓延していたから、気を遣ってくれたのかも知れない。
「多分」
「そっか。大変だったね。何かわからないことがあれば気軽に聞いてね。僕も同じ朱雀寮だから」
「ありがとう」
始めの印象作りを予期せぬ形で失敗したため友人作りは難航しそうであったが、純粋に気にかけてくれているらしい呼びかけに、蒼依はほっと笑みを浮かべ礼を述べる。
相手もまた笑顔で頷くと、「また後でね」と前を向いた。
昨日のアイツ──加賀はこの学園である意味で有名人らしい。なので、余計に目立ったことを寮長の南条に聞いていた。
ある意味とは、出で立ちや言動から素行のことなのだろうと察せた。
あとは目立つ相貌と独特の排他的な雰囲気。遠慮なくおデコをぶつけてきたことは記憶に新しく、思い出したらじわりと痛む気がする。
この式にあれだけ目立つ彼の姿が見つけられないということは出席していない可能性の方が高く、あながち推測は間違っていないように思える。
だから、その有名人である加賀にされた『お姫様抱っこ』は、タイミングとともに蒼依にとって不幸でしかない。
昨日から今日にかけて、先ほどの青年のように親しみを持って認識してくれる人もいれば、面白半分の人もいたり、あとなぜか嫉妬混じりであったりと、視線がうるさい。
ただでさえ、外部生として異質な存在であったのに、あっという間に目立ってしまった。
たらればを言い出したらキリがないが、眠気に負けたことが一番悔やまれる。
小さく息をつくと、壇上に視線を戻す。
蒼依から見て右側が高等部、左側が中等部。そのうち半分ほどが金のバッチをつけており、今現在されている説明では生徒会と風紀の人たちのようだ。その他は、各寮長、各委員長らしい。
そして、面白いからとスピーチを蒼依に任せると言ったらしい中央に立った会長を見る。
長めの髪を後ろに無造作にくくり、横に流れる髪から見える切れ長の瞳がなんともエキゾチックな印象を持たせる。
「高等部会長、榊原迅だ。新入生、編入生の諸君、ようこそ清蘭学園へ。そして全校生徒に告ぐ。俺たちについてこれば、夢のような学園生活を過ごせることを約束しよう」
そう宣言すると最後に流すように視線をやり、それを見て興奮した生徒がパタパタと手で顔を扇ぎ出した。
さっきまで嬉々として名を呼び興奮しながら騒いでいたが、話し出すと聞き逃さないとばかりに静かになる。
こくこく、と頷く可愛らしい系の青年たちに、「よし」とふっと口角を上げる会長。
どこかで、バタンっと生徒が倒れる音してすぐ、速やかに現れた救護班にその生徒が運ばれて行く。
その中でも平然と壇上では話が続けられ、周囲も特に気にした様子もない。
まるでいつものことだとばかりのそれに、蒼依だけ時間が止まったように感じた。
──なにこれ、カオス。
失神者が出るのもどうかと思うが、普通は中断するとかするよね?
触れればやけど必須の色気がだだ漏れ会長のようだ。男しかいないのに、不毛な色気。これもカリスマと捉えるといいのだろうか。
それにしてもなんていうか……、華やかな人が集まりすぎるっていうか。自信も漲りすぎというか。
蒼依をここに放り込んだ保護者は行けばわかると言っていたが、それは顔面偏差値とこの圧倒的なカリスマ性のことなのかもしれない。
約束しようなんてなかなかの俺様発言だが、それに周囲がしっかりついていってるので人たらしの類なのか。
どちらにしろ、顔だけではないことがあれだけでよくわかった。
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