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────1・可視交線────
17再会②
しおりを挟むコンコン、と部屋の扉が叩かれる音。
一瞬、同部屋の相手が帰ってきたかとも思ったが、彼もキーを持っているだろうからそれはないかとその考えを却下する。
「はーい」
寮長かなとちょうど部屋を出るところだったこともあり、蒼依は返事をしながら特に確認もせず扉を開け、固まった。
「あっ、えっ??」
自分よりは10センチは高いだろうか。
あまりにも久しぶりすぎて戸惑いの声を上げたっきり、蒼依はぽかんと訪問者を見上げる。
「今、いいですか?」
「えっ、ああ、うん」
──最後に会った時は目線が変わらなかったのになぁ。
慌てて返事を返しながら、蒼依はぼんやりとそんなことを思う。
思っていただけのはずだが、ぽろりと言葉が漏れる。
「……身長」
「身長?」
「ううん。なんでもない」
ぶんぶんと首を振り、また相手を見上げる。
見上げている事実、……うぐっ、悔しくない、悔しくないったらないっ。
彼の兄も背が高い人であったため、これは遺伝で仕方がないのだと無理やり納得させる。まだ、中学三年。伸び盛り。
一方、蒼依の方はすでに停滞気味で頭打ちが見え始め、最近密かにひやひやしている。いや、まだまだこれから……。何事も希望を捨てたらダメだ。
思わぬ身長差を突きつけられ、そんなどうでもいいことを考えていたため蒼依は挨拶をするのが遅れた。
ぼんやりする蒼依を前に、二年ぶりに再会した幼馴染の口元が小さく引かれたような気がしたが、こちらを見下ろす表情は感情を削ぎ落としたようで、幻覚でも見たのかもしれない。
感情の欠片も見せない双眸で、淡々と口を開いた。
「お久しぶりです」
亜麻色の瞳に蒼依を映し込み、彼の育ちの良さを窺わせるように軽く頭を下げ丁寧な挨拶をよこす青年は、幼馴染の如月翠。
「あ、うん。久しぶり」
さっきから落ち着きのない返事ばかりの自分が情けなく眉尻を下げたが、その様子を見ていた翠が、今度こそ小さく笑みを浮かべた。
「相変わらずですね」
「なに?」
「いえ。すぐに頭の中の思考に囚われて、ついぼんやりするところとか。もしかして、身長差が気になりました?」
ば、ばれてるー。
こっちが1年だけとはいえ年上で、中学生と高校生。
ちょっと悔しい。いや、思考がだだ漏れで、そんなしょうもないことを考えていたことがバレていること自体だいぶ悔しいし恥ずかしいのだけど。
「なんでわかるの?」
「隠そうとする意図がない時は、表情に結構出ますからね」
そ、そうなんだ。
とういか、知ってたー。
何考えてるかわからないって言われる時もあるけれど、単純だなと周囲にからかわれることがあるくらい表情に出ていることは知ってましたー。
翠に指摘されるとまた別というか、焦ってしまった。
これ、やっぱり年上として威厳がないよね?
「威厳がとか思ってます?」
「エスパー?」
「かもしれませんね」
思わず素直に思ったことを口にすると、くすりと笑われ柔らかな空気にはっとして見つめ返すが、すぐに口元は引き締められ戻ってしまう。
残念に思ったが、会話の中で自分に向けられたその表情に、そこでようやく目の前に翠がいることを実感した。
──翠だ!!
本物の翠だっ。
偽者とか、本物とかそういう問題じゃないけれど、会いたくて、会うのが怖くて、ずっと気になっていた幼馴染とやりとりが普通にできていることが信じられない。
表情をあまり変えない彼の控えめな微笑。
たったそれだけと言えば、それだけ。だが、貴重なそれを己の前でと思うだけで、蒼依の中でじわじわと嬉しさが増していく。
さっきまで高く聳え立っていた会わなかった二年という年月が、その瞬間だけなかったかのように近く感じる。
「翠」
「はい」
「翠、だね」
「なんですか。それ」
始業式では視線も合わなかった。合わさないようにしていた。だけど、ずっと気になっていた。気にしないでいられなかった。
翠の方は自分のことを気にしていないのか、もしかしたら無視しているのか、そう考えることはこちらが意識しすぎなのか。
自分も極力見ないようにしていたから、本当のところはわからなかったけど、常に頭のどこかでちらちらと考えるだけで胸を締め付けていた。
だから、翠からの行動による再会に、嬉しさから蒼依は何度もその名前を呼ぶ。
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