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────1・可視交線────

1計測不可値

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 広大な宇宙。その神秘的な空間は、幾千もの時を経て今もなお人々を魅了する。
 計り知れない力。計測することでさらに遠くなる。
 夜空に散らばる星々はそこに存在するだけ。存在していただけ。


カツン、カツン、


 暗闇の中、足音が響き渡る。

「どこだ? あれはどこにいった? 確か……」

 男は懐中電灯で足元を照らしながら、必至の形相で探していた。
 目は血走り、ぎょろぎょろと忙しなく動かす。

 レンガで敷き詰められた壁を、無造作に撫で回す。
 時に押したり、叩いたり、それでも何の変化も現れない。そのせいで男の手は擦り傷だらけで血が滲み出ていたが、よほど気が急いているのか痛みを感じていないようだ。

「ここにきて……。くそ!!」

 男は苛立ちを爆発させ、力任せに壁を蹴りつけた。
 当然、壁はびくともせず、さすがにそこで男は痛みに呻いた。

 全身真っ黒な服装と般若のごとき様相さえしていなければ、目鼻立ちははっきりとしていて比較的端正な容貌なのだろう。
 だが、男から受ける印象はドロドロとした陰湿な雰囲気だけである。

 ううっ、と声にならない声が漏れる。
 この日のためにどれだけの時間を費やし犠牲にしてきたことか。その時間ときの長さと過大な期待の結末に、絶望の境地で目の前が真っ暗になる。


 ──あと少し、そう、少しだったのに……。


 祈りを捧げるかのように、両手を胸の前でしっかりと組み合わせて部屋の中央で立ち尽くした。
 信仰心など持ち合わせてはいないが、すがれるものがあるならば藁にもすがりたい。

「ああ……、…」

 苦しげに声をあげたが、続く言葉は出なかった。
 自分の力ではどうしようもない現実に、男は憑き物が落ちたように力なくその場に崩れるように座り込んだ。

 先ほどまでの必至さも消え失せ、もはや動く気力がない。
 男にとって全てだったものがここにきて崩れ去った。絶望の境地とはまさにこのことをいうのだろう。

 この部屋に一つだけある小さな窓から、月明かりが漏れ入る。
 だが、男には優しい月の光は届かない。ただその空間にいるだけで、時や物質、あらゆるものから遮断されたようだった。

 更に暗闇が男を覆い、のっそりと闇を濃くしていく。
 男は、儚い夢とともに一切動くことを放棄し永遠の眠りの世界へと旅立った。




 ──少し時をさかのぼること数時間前。


 月明かりの中、長身の男が一人。迷うことなく足を進めていたが、一つの壁の前でぴたりと立ち止まった。
 しばらく静かに佇んでいたかと思うと、スッと差し出した手は固いはずの壁を突き抜けていく。

 男は無表情のままぐにゃりと歪んだ壁へと身体を入れ、そのまま消えてしまった。
 黒っぽく見えるレンガの壁だけでできたその部屋は、月の淡い光の音がサラサラと聞こえてきそうなほど異様に静かだった。

 ホコリがキラキラと輝くように流れて見える。
 静かに、砂時計の砂が時間をかけて周囲となんら変わりなく散りばめられるかのようにそこにあり、流れるままに落下しては些細な風の動きに合わせて舞う。

 しばらくして、どこからともなく出てきた男の手には赤い何かを掴んでいた。
 大切に、だけどどこか深長な面持ちでそれを見つめた後、来た時と同じ様に足音もなくその場を去っていった。


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