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第2章 聖女編
滅びませんから②
しおりを挟む「ひゃぁーっ! いきそうでいかないとか生殺しなんですけど! この流れでこれ? 噂がさらに信憑性増してまた加速するんじゃないかな。やっぱり、殿下って……」
「ミコト様!」
もう当然のように興奮したミコトが余計なことを話そうとするのを、エバンズが止める。
何を言おうとしたのかわからないけれど、こんな公の場での微妙な発言はしないほうが安全だ。
「ああー、思っても話すなって? わかったわ。レオラムに未来がかかってるってこういうことね。納得したわ。それにしても、このレオラム限定の空気に微笑が見れるのは貴重よね。これぞ友人特権!! 見て。惜しげもなく美貌を曝け出し、レオラムに向けるあの柔らかくも嫉妬が混じったような悩ましさが含んでるのだろうなと想像させるけれど崩されない完璧な微笑」
「なんですか。その分かりにくい解説は。ほんと、殿下のお顔が好きですね」
一応、制されたところは控えたが、結局カシュエルの美貌を前にはしゃぐことを止められないミコトに、エバンズが呆れた声を出した。
「鑑賞するだけで心が洗われるような美貌は次元が違うのよ。もっと大々的に国で称えてもいいと思うわ。何より、やっぱりレオラムといる時は美味しすぎない? なんで、私はもっと早くにレオラムに会いにいかなかったのかしら」
「…………」
ミコト、うるさいよ。
エバンズも最終的には黙ってしまったではないか。どれだけカシュエルの顔が好きなんだ。
興奮しすぎだし、護衛たちみたいに見て見ぬふりされるのも微妙に居心地が悪いのだが、注目されすぎるのも恥ずかしい。
そして、言われているカシュエル本人は表情一つ変えないし、むしろミコト総無視で俺を見てるとか反応に困ってしまう。
「殿下。見すぎです。あと、ここ外なのですが」
「それが?」
「それが……って」
外であることやミコトやアルフレッドたちが見ているというのも、いつもより恥ずかしさが倍増である。
しかも、ミコトが騒げば騒ぐほど注目が集まっているような気もして、ぼぼぼぼっと顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
「ミコト様。レオラムの自覚を促してくださったようでありがとうございます。当人同士のコミュニケーションがもっと必要だとアドバイスも受けたので、今日はこのままレオラムを連れ帰ってもいいでしょうか?」
「ええー! もっとそのお顔を見ていたいのだけど……、あ、スマイルをありがとうございます! その微笑で今日はいいかな。ってことで、レオラムまたね。しっかり殿下と意思疎通してきてね」
ミコトが、カシュエルの微笑みで買収されてしまった。
ちょろすぎない? いや、その顔で落ちてしまうところがミコトらしくはあるのだけど、カシュエルの美貌の前には友情は霞むようだ。
「それでは行こうか」
足が痺れた俺をカシュエルはあっさりと連れて行こうとするが、この体勢のまま移動とかまずいだろう。
噂のことがあっても、いや、噂を知ったからこそ余計に無理だと俺は声を上げた。
「殿下。降ろしてください」
「だけど、レオラムは歩けないのでしょ?」
そう言うと、ひょいっと抱え直される。
「あはっ……」
変な声が出た。
今、ぽんっとわざと触らなかった?
なんか、アルフレッドやミコトと絡むようになってから、ときおり殿下が意地悪というか、堂々とあえて触れてくるというか、絡み方が違うと感じるのは気のせいだろうか。
「ほら、触ったらろくに話せないのだったら私に任せておいて」
「でも」
「レオラム。そこはカシュエル殿下に甘えるところよ」
ミコトが口を出してくる。
「いや、でも、噂が」
「そんなの今さらだろ」
「…………」
ふん、とばかりに鼻を鳴らすアルフレッドの言葉に俺は沈黙した。
ちょっとくらい俺の心情を推し量ってくれる人はいないのだろうか?
エバンズがしごく真面目な顔で、カシュエルに抱かれた俺の顔を覗き込むと、俺に言い聞かせるように一言一言はっきりと告げた。
「レオラム様。先ほど話したことをよく頭に入れてくださいね。頼みましたよ」
「「「「よろしくお願いします」」」」
護衛たちが一斉に頭を下げてきたので、俺は息を呑む。
顔を上げたあとは懇願するような視線を向けられてしまい、俺は引き攣った笑みを浮かべた。
殿下の機微で国が滅ぶとかそういこと?
それが自分の出方で変わってくるって?
さすがに影響することに関して否定はしないが、こんな状況でなければ声を大にして言いたい。
────滅びませんからっ!!
「やっぱりレオラムといると楽しいわ」
ふふふっと笑うミコトの笑い声に見送られ、俺はにこりと微笑み見下ろしてくるカシュエルに不安を覚えながら、ぎゅっと逃がしはしないと抱え込まれその場を後にする。
透き通った空の向こう側はうっすらと赤みを帯び、どこまでも広がっていた。
✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.
これにて、第2章完結です。
構想当初の展開の半分をようやく超えてきました。おかしいな。予定ではこれくらいの文字数で終わっているはずだったのに……。
思ったよりも主軸の二人がじっくり思考タイプだったので長くなっておりますが、お付き合いくださっている皆さま本当にありがとうございます!!
第3章は妹や叔父たち、そして吐き出しきれていないレオラムの過去に触れながら、王子との関係(執着?)もさらに深めていけたらと思います。
他作に取り掛かりますのでしばらく間が空きますが、第3章更新再開の際はまたお付き合いいただけたら幸いです。
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