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第2章 聖女編
滅びませんから①
しおりを挟む「カシュエル殿下……」
次から次へとなんてタイミングにと思いながら説明しようとするが、痺れが広がり話す余裕がない。
体勢から顔は見えないが、アルフレッドがそっと俺の肩から手を退け一歩下がる。その分、カシュエルの気配が近くなった。
「カシュエル殿下も起こしになったのですね」
エバンズがさっと立ち上がり、ほかの護衛たちと同じように頭を下げる。
こっちはこれ以上の醜態を晒すわけにはいかないと動けない状態なのに、エバンズは痺れていないらしい。座り方にコツでもあるのだろうか。あるなら言ってほしかった。
俺は固まりながら王子の存在を意識していると、カシュエルがもう一度聞き直した。
「訓練は終わったと聞いて迎えに来たのだけど、何をしているのかな?」
「はぁぁぁ~。いつ見てもその美貌やばい。やっぱり潤うわ~。 あっ、今レオラムは足が痺れて動けない状態なんです」
欲望に忠実な感想が声に出てますよ、ミコトさん。
あと、代わりに説明をありがとう。痺れだした足は戻ることができないようで、だんだん思考も散漫になってくる。
「へえー」
カシュエルの平坦な声で相槌を打ったが、気にしている場合ではない。
もう、なんでもいいからこの痺れをどうにかしてほしい。そう思っていると、カシュエルが俺の膝を救い抱き上げた。
「ひえぇぇぇっ」
持ち上げるとか拷問なんですけど?
ひぃぃっと笑いたくなるような痺れを少しでもごまかすように、俺はカシュエルの首にがしっとしがみ付いた。
駄目。本当に駄目だ。
触られるとか無理。かといって、降ろされるのも無理。とにかくこれ以上動かさないでほしい。
俺はむぎゅうっと腕に力を入れて、なるべくこれ以上動かされないようにとカシュエルに縋る。
「相当、痺れているようだね。痺れるほど長時間何を話していたのかな?」
カシュエルの無駄にいい声が耳元で響く。
ぴくっと肩を震わせ耳を押さえたい衝動に堪えていると、ミコトがえっへんと胸を張って答えた。
「レオラムに王宮でなんて呼ばれてどのような認識をされているのか、自覚することを促していました。なので、殿下が心配することではないですよ。後で聞かされるか、もう聞いてらっしゃるかはわかりませんが、スカートのやり取りは私たち二人とも悪気はこれっぽっちもありませんのでご心配なく。むしろ、推してますから!」
「へえー」
あのー、殿下。その反応とっても不安なんですが……
あとミコト。なんでもかんでも話しすぎ。いや、この場合は正直に先に話すほうがいいのかな。
そこを判断する前に、どんな話をしたとかエバンズと一緒になってここまでの会話を事細かく説明しだしたから考えても一緒だった。
内容的には別に隠すことでもないし、自分の代わりに話してくれるのならば言い訳みたいにならなくていいだろうと任せることにする。
カシュエルも納得するように頷いているので、その判断は間違っていないだろう。
少しずつ痺れもマシになってきたのでもぞもぞっと足を動かしながら慣らしていると、アルフレッドが余計な一言を投下した。
「結局多少自覚したところで、レオラムの根本が変わらなければあまり変わらない気がするけどな。やっぱり当人同士の信頼関係が大事なんだろう」
「それは忠告と捉えていいのかな?」
「ご随意に」
「なるほどね」
なんでそこで水を差すのか勇者よ。変な絡み方をするのはやめてほしい。
カシュエルの声が心なしか冷ややかに聞こえてなんだか嫌な予感がして顔を上げると、じっと俺を見つめるカシュエルと視線が合った。
「殿下?」
戸惑いで妙に鼓動が早くなっていく俺に、カシュエルが秀美な顔を寄せると唇が眉間に触れる。
しっとりした感触に目を丸くすると、カシュエルは見事としか言えないような完璧な笑みを浮かべた。
ミコトが、「はわぁっ」と魂を飛ばしたような感嘆の声を上げているが、ミコトを注意するどころではない。
形の良い唇が動き、もう一度同じように唇を触れさせた後、カシュエルは穏やかな笑みを浮かべ口を開いた。
「レオラムが心身ともに離れようとしなければ杞憂に終わると思うけれど、レオラムはどう思う?」
「……できるだけ一緒にいられればとは思います」
「レオラムならそう言うと思ったけどね」
「…………」
俺の精一杯の答えはお気に召さなかったらしい。
くいっと顎を上げられて、唇が触れるか触れないかの状態でじっと見つめられる。
────くっ。拷問か……
視界いっぱいにカシュエルの顔しか見えないが、周囲の視線を嫌というほど感じる。
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