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第2章 聖女編
衝撃
しおりを挟む俺は話を聞き撃沈した。
──はっ? 王子の秘宝って何?
意味がわからない。
もうすでに王宮に広まっているらしいので叫んでも一緒だと思うが、ものすごく叫びたい。
あと、普段正座なんてしないから足が痺れてきて動けないんですけど?
前にいるエバンズは平然とした顔をしているから大丈夫なのかもしれないが、俺は結構限界がきていた。
今動けば足の感覚がほぼないため、絶対にベンチから落ちる醜態を晒す謎の自信があった。
少し前からしびれていたが話題も話題でしっかり聞きたかったのもあり、せめて話が終わるまではもう少しだけ我慢しようと今に至る。
そして、まだ話は続いているので、俺はもうしばらく我慢しなければならないようだ。
「やっぱり知らなかったんだ。ま、こういうこともあるわよね。どんまい」
「どんまいって。そもそもミコトと行動したから広まったのでは?」
「うん。それも運というやつよねー」
「よねーって」
ミコトはえへっと笑い、わざとらしく私は悪くないわよと首を傾げて見せる。それ、絶対自覚あるでしょ?
「でも、まあレオラムみたいなタイプに宰相出張ってくるのもなんかわかるわ。レオラムは卑屈ってわけではないからイラッとはしないし、話してみると暗いってわけじゃないしわりかしはっきり発言するけど自己評価低いし、なんかモヤッとするのよね」
えっ、そんなふうに思われているんだ。地味にショックだ。
ほかの誰に言われてもそんなに気にしないが、仮にも友情を育もうと言った相手にそれは酷いのではなかろうか。
「モヤッて、それってよいことじゃないよね?」
ちょっと拗ねた気持ちで訊ねると、ミコトはすぱっと即答した。
「そうだけど、イラッととモヤッとは違うから。イラッとするなら関わらないけど、レオラムのは悪いモヤッとじゃなくてなんていうのかなぁ、こっちが何かしたら面白いほうに変わるんじゃないかって楽しみも混じっているのよね」
面白いって……
やっぱり酷い。俺はじとりとミコトを睨み上げた。
「やっぱりよいことには聞こえないけど」
「まあ。まあ。不快ではなく楽しみも混じっているから、関わりのある人に与える印象は悪くないってことよ。それに私の場合は殿下の顔を鑑賞できる機会も増えるし、レオラムと仲良くなるのはいろんな意味で美味しいからいいじゃない」
「いいじゃないって……」
最後はミコトらしくて、俺は苦笑した。
殿下のことを含め、俺と仲良くすることはやめないぞと、俺と話しているようでエバンズたちを牽制しているのだろう。
その証拠に、ミコトは俺ではなくエバンズのほうを見て言っている。
しっかり意図は伝わったのだろうエバンズが、こほんっと咳をした。
「仲良くされることに反対はしません。むしろ、それでお二人のお気持ちが和やかになるのならば大歓迎です。ただ今回はですね、お二人の話の内容ややり取りが問題なのです。自覚はありませんか?」
「ええーっ。楽しく話していただけなのに?」
「やり取り? うーん。スカートのところはちょっとあれかなとは思うけど」
訓練も終わったし休憩がてら話しましょうと、ミコトがスカート丈について熱弁しだしたので聞いていた。
男からしたらというのもあるが、内容は誰が聞いてもちょっと照れてしまうような、居心地が悪いけど気になるというような話ではあった。
冒険者などは様々な格好をすることはあるので例外だが、こちらの女性は基本生足を見せないことに対して、ミコトの住んでいた世界は結構見せることが平気なのだそうだ。
向こうの服装や水着というものがあることなど、水に入るとなると途端に下着同然のような格好も平気になるとかカルチャーショックだ。
世界が変われば常識が変わる。
同じ世界でも、地域や家庭で差異はあるものだが、やはり異世界情報は衝撃だった。
これくらい、と自身のスカートを上げようとするのを俺は慌てて下げてミコトを嗜めた。
それに対して周囲はやきもきしたという話なら、俺は止めたほうなので矛先がこっちに向くのはどうかと思う。
ミコトが発端なのに、エバンズの視線は俺に向いている。
俺は居心地が悪くて、つつつっとわずかに視線を逸らした。
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