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第2章 聖女編

膝を突き合わせて②

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「全く? 役目はこなすつもりだけど、プライベートまで口を出されるなんて真っ平御免だからこういうのは先にはっきりしておくほうがお互い楽なのよ」

 それにしても、ミコトが話すと余計にこじれそうだ。良くも悪くも言葉を飾らず率直なので、人によっては誤解を招きそうな言い方だ。
 こういうところから、誤解を生んでこれまで騒動が大きくなっていたのだろう。

「ミコト。もう少し言葉を足そうか。ミコトがそう思っていることとは別に、ミコトが頑張っていることを知る人は増えてきたけど誤解されやすいよ。自由に動きたかったらもう少し言葉も選んだら楽になるんじゃないかな?」
「うーん。そういうのが面倒なのよね」

 ミコトが小さく唇を尖らす。

「ミコト」
「まあ、レオラムが言うなら仕方がないわね。でも、私はこの国に仕えているわけではないし、ただ危険な現状を知ってそれを解決できる力が私にしかいないのなら頑張るかとは思ってるけどね。それとこれは別だし。で、いい?」
「うん。さっきよりはマシかな」

 ちゃんとミコトなりに考えていることを周囲にも理解してほしくて、俺は追加された言葉に満足する。
 徐々にではあるが、ミコトの行動を周囲も理解してきたのでそれぞれで折り合いをつけてきている。訓練以外は関わらなかったというアルフレッドがこの場にいることが、その証拠だろう。
 だが、この国に縛られる必要がないからか自由で勝手な印象を与えてしまって、それは時として攻撃の対象になりやすくて心配である。

 それとは別にミコトの言葉には一理ある。
 やはりそこまで強気に出られる者は少ないので、その自由さは憧れもするものだ。

 言葉の足し方も清々しいほどで、ミコトはミコトだなと俺は小さく笑った。
 ミコトとのことは訓練の手伝いのこともあり、関係者で協議した結果、俺がミコトと仲良くすることはプラスになるので賛成者多数で決定されたと聞いている。

 カシュエルも反対しなかったと聞くし、本人からは言及はされなかった。
 だから、ミコトと仲良くすることは誰にも気兼ねすることはない。

 俺自身も、ミコトの気分転換や、魔王討伐にあたり少しでも危険から避けるために、伝えられることや役に立てることがあるのならば協力したいと思っている。
 そんなやり取りを見ていたエバンズが、はあっと溜め息をついた。

「レオラム様はカシュエル殿下の大事な人であるという自覚が足りない。そして、ミコト様に意見を言って聞き入れてもらえるほどの影響力があるというのも自覚してほしいですね」
「…………」

 俺は反論しようと口を開いたが、エバンズの冷たく見える双眸を目の前に結局言葉が出てこなかった。
 自分が全く彼らに影響を与えていないとは思わない。
 お互いに意思を持って接しているのだから、それぞれ何かしらの影響は及ぼし合う。

 ただ、幼少期に愛情を持って育てられたことで気を許した人を信じたい心はあるが、その後の虐げられてきた生活は他者と自分から関わりを持つことは足踏みしてしまう。
 エバンズたちからすれば、その辺りがもどかしいと思う部分なのかもしれない。

「レオラム様にも事情がおありのことかと思いますし、謙虚な姿勢は好ましくもあります。殿下の思いをレオラム様なりに受け止めようとされていることも理解しています。ですが、まだまだです。そろそろ全体を見ていただかないと、こっちは心労で倒れる者が出てもおかしくない」

 俺のどうしようのない部分に理解を示しながらも、エバンズは訴えてくる。
 正直、俺に時間を割くよりも宰相にはもっと大事なことがあるのではとは思うが、怖くて口には出せない。

「ねえ、もしかしてレオラム自身が周囲になんて呼ばれているのか知らないんじゃない?」
「まさか」

 ミコトの言葉にエバンズが目を見開き、俺を凝視する。
 そんなに凝視されなくても、噂くらい知っている。
 今回の説教とどう関係するのかは知らないが、この手の噂話を二人とも直接話したことがあるはずなのに、今さらするなんてと俺は首を傾げた。

「無気力守銭奴ヒーラーだよね? それは知ってるよ」

 もしくは無気力愛想なしヒーラー? あんまり大差ない。

「違うわ。それじゃないわよ」
「違う?」
「そう。こういうのって当人には誰も言わないし、私もアルフレッドもそういった話をしないし意外と知らないものなのかもね。周囲は大騒ぎで、現在進行で加熱してるけど」

 そこで、ミコトがじっと俺を見つめぽんっと手を打った。

 ──……えっ。なんか怖いんですけど。

 俺は話の流れに頬を引き攣らせた。

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