上 下
38 / 50
第2章 聖女編

たりない* sideカシュエル②

しおりを挟む
 
 理性ではそんなことは無理だとわかっている。
 そんな世界は成り立たず、狭く閉ざされた関係は破綻する時は一瞬で脆い。追い詰めすぎると逃げてしまいそうだ。

 だからこそ、カシュエルは少しずつ少しずつレオラムの大事なものを取りこぼさないように囲い込み拾い上げる。
 だけど、この手に抱いてもその時はレオラムを感じることができて満足するのに、しばらく経つと不安になって求めてしまう。

 だから、少しでもレオラムが遠いと感じると、強く縛り付け自分色に染めてしまいたくなる。
 解けた場所から一生懸命自分で満たされるように、自分を染み込ませ刻み付けていないと不安になる。

 二人きりの時は、自分だけを見ていてほしい。
 レオラムの精一杯をもらっているとわかっていても、言葉が欲しい。

『落ちきっていない』

 聖女の言った言葉は的を射ていた。

 レオラムが何もかも初めてなのは自分で、そういったものの戸惑いも含めて身体を預けていいと思うほど心を許されている自負はある。
 レオラムなりの精一杯の言葉や態度で伝えてもらっている。
 本来ならばそれで満足しなければならないと思うのに、何かのきっかけですぐにそれらを振り切ってどこかへ行ってしまうのではないかという不安は拭えない。

 雁字搦めに縛り付けてしまいたい。
 けれど、それをしてしまうとさらにどこかに行ってしまいそうで、息ができるように逃げ道を用意する。

 そうすることで、逃げる先がわかるからまだ安心できる。
 優しいレオラムは罪悪感とともにさらに自分のことを考えてくれるから、それでなんとかカシュエルは膨れ上がる気持ちとの折り合いをつけていた。

「カシューのが欲しいです」

 たとえ、行為に対しての言葉であっても、それはカシュエルの心を躍らせる。
 普段のレオラムは決して言わないから。そして、それだけではないと信じたいから。

 カシュエルはそう思うことで、今は満足だと自分を誤魔化す。
 誤魔化しながら、褒めて、足りないものをもっともらえるように、さらに縛り付ける行動は止められない。

「そう。言えてえらいね。レオラム覚えておいて。レオラムを気持ち良くするのは、できるのは私だけ。私以外は求めてはいけないよ」
「カシュー以外はありえません!」
「だったらいいのだけど」

 レオラムがこういった行為を簡単にするとは思っていない。
 カシュエルが相手だからというのも本音だとわかっている。

 頭ではわかっていても、今日出会ったばかりで連れまわされたであろう聖女に心を許している姿や、勇者相手に印を残している事実など、自分が必要とされていないようでつらい。
 そういったものが自分に向けられないのは、レオラムの気遣いや自分の立場によるものだとしても、もっと求めてほしいという気持ちは止まらない。

 自分は必要ない?
 役に立たない?
 レオラムの世界にはいなくても問題ない?

 そんな子供じみた考えがもたげてしまう。
 常に一目置かれ頼られることが当たり前、できて当たり前のカシュエルにとっては、もっとも頼ってほしい人に相談も頼りにもされない事実を突きつけられたようで心の中がひどく荒れていた。

 レオラムとの関係に自分の立場が邪魔をする。
 それらを放り投げることができない以上、レオラムが逃げないように逃げたいと思えないように、居心地がいいように環境を整え囲い込むことに力を入れる。
 カシュエルは親指を抜き、肉をぐいっと持ち上げあてがっていたものを、奥へと押し込んだ。

「…カシュっ、……あっ、んあっ……」
「はぁ……。力抜いて。……そう。上手」

 感じ入った声に満足し、はくはくと動かす小さな唇にキスを落とすと、さらに奥へと押し込みレオラムのいいところをえぐった。

「んああっ!」

 自分のすることに反応するレオラムが愛おしくて、カシュエルの腰の動きも早くなる。
 愛おしいと思うままに名を呼ぶと、そのたびにきゅっと締め付けてくるそんな動作さえも愛おしくて、際限がなくなっていった。

しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。