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第2章 聖女編
たりない* sideカシュエル②
しおりを挟む理性ではそんなことは無理だとわかっている。
そんな世界は成り立たず、狭く閉ざされた関係は破綻する時は一瞬で脆い。追い詰めすぎると逃げてしまいそうだ。
だからこそ、カシュエルは少しずつ少しずつレオラムの大事なものを取りこぼさないように囲い込み拾い上げる。
だけど、この手に抱いてもその時はレオラムを感じることができて満足するのに、しばらく経つと不安になって求めてしまう。
だから、少しでもレオラムが遠いと感じると、強く縛り付け自分色に染めてしまいたくなる。
解けた場所から一生懸命自分で満たされるように、自分を染み込ませ刻み付けていないと不安になる。
二人きりの時は、自分だけを見ていてほしい。
レオラムの精一杯をもらっているとわかっていても、言葉が欲しい。
『落ちきっていない』
聖女の言った言葉は的を射ていた。
レオラムが何もかも初めてなのは自分で、そういったものの戸惑いも含めて身体を預けていいと思うほど心を許されている自負はある。
レオラムなりの精一杯の言葉や態度で伝えてもらっている。
本来ならばそれで満足しなければならないと思うのに、何かのきっかけですぐにそれらを振り切ってどこかへ行ってしまうのではないかという不安は拭えない。
雁字搦めに縛り付けてしまいたい。
けれど、それをしてしまうとさらにどこかに行ってしまいそうで、息ができるように逃げ道を用意する。
そうすることで、逃げる先がわかるからまだ安心できる。
優しいレオラムは罪悪感とともにさらに自分のことを考えてくれるから、それでなんとかカシュエルは膨れ上がる気持ちとの折り合いをつけていた。
「カシューのが欲しいです」
たとえ、行為に対しての言葉であっても、それはカシュエルの心を躍らせる。
普段のレオラムは決して言わないから。そして、それだけではないと信じたいから。
カシュエルはそう思うことで、今は満足だと自分を誤魔化す。
誤魔化しながら、褒めて、足りないものをもっともらえるように、さらに縛り付ける行動は止められない。
「そう。言えてえらいね。レオラム覚えておいて。レオラムを気持ち良くするのは、できるのは私だけ。私以外は求めてはいけないよ」
「カシュー以外はありえません!」
「だったらいいのだけど」
レオラムがこういった行為を簡単にするとは思っていない。
カシュエルが相手だからというのも本音だとわかっている。
頭ではわかっていても、今日出会ったばかりで連れまわされたであろう聖女に心を許している姿や、勇者相手に印を残している事実など、自分が必要とされていないようでつらい。
そういったものが自分に向けられないのは、レオラムの気遣いや自分の立場によるものだとしても、もっと求めてほしいという気持ちは止まらない。
自分は必要ない?
役に立たない?
レオラムの世界にはいなくても問題ない?
そんな子供じみた考えがもたげてしまう。
常に一目置かれ頼られることが当たり前、できて当たり前のカシュエルにとっては、もっとも頼ってほしい人に相談も頼りにもされない事実を突きつけられたようで心の中がひどく荒れていた。
レオラムとの関係に自分の立場が邪魔をする。
それらを放り投げることができない以上、レオラムが逃げないように逃げたいと思えないように、居心地がいいように環境を整え囲い込むことに力を入れる。
カシュエルは親指を抜き、肉をぐいっと持ち上げあてがっていたものを、奥へと押し込んだ。
「…カシュっ、……あっ、んあっ……」
「はぁ……。力抜いて。……そう。上手」
感じ入った声に満足し、はくはくと動かす小さな唇にキスを落とすと、さらに奥へと押し込みレオラムのいいところをえぐった。
「んああっ!」
自分のすることに反応するレオラムが愛おしくて、カシュエルの腰の動きも早くなる。
愛おしいと思うままに名を呼ぶと、そのたびにきゅっと締め付けてくるそんな動作さえも愛おしくて、際限がなくなっていった。
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