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第2章 聖女編
たりない* sideカシュエル①
しおりを挟む太い屹立をレオラムの慎ましやかなすぼみに押し当て、カシュエルは滑らかで細い腰をするりと撫でた。
欲しがってほしい。
もっと、もっと、自分を求めてほしい。
カシュエルは一つひとつの動作に、言葉に、レオラムへの想いを込める。
レオラムにとって言葉はとても重いもので、だからこそカシュエルは縛り付けるように言葉で想いを告げながら、言葉だけではないことを示していかなければならなかった。
昼の騒動の沈静化を図り、聖女に追いかけ回されなくなったのでいつもより早めに部屋に戻ると、レオラムの姿が見えない。
すぐさま魔力を探りバルコニーに気配を感じると、少しでも早くこの腕に抱きとめたくてカシュエルは足早に向かった。
暗闇に浮かぶシルエット。濡れるのにもかかわらずレオラムは空を眺めていた。
その瞳は暗く沈み天から落ちる雨粒が涙のように頬を伝っているのを見て、カシュエルはきりきりと胸が痛んだ。
昼はあれだけ聖女に引きずられるように話していたのに、一人になると途端自分の内側にこもろうとするレオラム。
目を離すとやはり自分の思いもよらないところに行ってしまいそうに見えて、カシュエルは不安になる。
レオラムの抱えているものを半ば無理やり吐き出させたことで、以前より張り詰めていた気配が緩み明るくなった部分もある。わずかにだが笑うことが増えた。
だが、叔父夫婦のことや妹のこと、それらのすべての憂いが払拭できていないこととは別に、ときおり沈み込む瞳にカシュエルは気づいていた。
特に叔父夫婦のことは場合によってはと思っているが、レオラムが自分で決着をつけたいと話してくれたから、その時期がくるまでは見守るつもりでいる。
それでも耐えているほうなのに、まだレオラムは何かを抱えている。話してくれない。
レオラムの抱えているものをすべて、今すぐ吐き出させて丸ごと抱え込んでしまいたい。
だけど、そうするとレオラムを保っているものが一気に崩れてしまいそうで、カシュエルはゆっくり慎重に見守りながら距離を詰めていた。
聖女や勇者のように、レオラムの良さを認めるものが増えていくことは誇らしい。ずっと縮こまっていたレオラムが、心の裾を広げて気を楽にできる場所が増えるのは喜ばしいことだ。
そう思う気持ちは本物なのに、それと同時にレオラムのことは自分だけが知っていればいいと傲慢な気持ちが膨れ上がる。
「レオ。欲しいものはちゃんと言わないと。気づいてる? ずっと腰を揺らしてねだってるから身体は正直だよね」
甘やかしたいのにいじめてしまう。
顔を赤らめるレオラムを愛おしく見つめながら尻のあわいに親指をぷつりと入れくるりと回すと、か細く愛らしい声が上がる。
自分のすることに反応し甘い声を上げるのに気を良くしながら、指を動かし続きを促す。
「……カシューのが」
「ちゃんと言葉にしないとあげないよ」
今日はそんな可愛らしい声だけでは許してやれず、揺れている腰とはあえて合わさない動きをした。
レオラムは眉尻を下げると、ゆるゆると腰を動かしながら唇を噛み締めた。
──ほんと、頑だな……
そんなところも面倒くさいのではなく愛おしいと思うのだから、カシュエルは重症だった。
簡単にすべてをほだされてくれないレオラムだからこそ、その心の中に入るだけでもどれだけレオラムにとっては大変なことなのかはわかっている。
情に厚いからこそ、自分のことで精一杯だったレオラムはいろんなことを切り捨ててきたのだろうと思う。入れないように、他者と距離を取っていたのだろう。
だからこそ、一度内側に入れるとそれはレオラムの中で重くのしかかる。簡単に切り捨てられず、様々なことを含めて悩み込むのだろう。
それがわかっていても、カシュエルはレオラムを諦められない。重くてもなんでも、やはり自分だけの色に染めてしまいたい。
レオラムの良さを知っているのは自分だけでいい。
レオラムの世界が自分だけになればどれだけいいのだろう。
傾けるものが自分へのものだけなら、今抱えている悩みや苦しみもなくなって、たくさん甘やかせられるのにと思う。
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