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第2章 聖女編

エセ平凡

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 聖女のミコトと聖君のカシュエルと手を繋ぎ、両手に花ならぬ、両手に聖なる者となった俺は、ゆらりと立ち上がり墓石に支えるように手を置いたグリフィン局長になぜか説教を食らっていた。

「エセ平凡クン。せっかくイイ素材だと思ったのに、そんなノ引き連れてくるなら最初から言っといてヨ」

 カシュエルとの距離は保ちたいのかそこからは全く動く気はないようで、離れた位置からの苦情に俺は冷めた目で見た。
 まるでこの現状は俺が原因だと詰め寄ってくるが、そもそも聖女を釣ろうとしたのはグリフィン局長なのでそれには意を唱える。

「私はたまたま聖女様と一緒になっただけですので」
「チガウッ! エセ平凡クンのその両手にはナニがいる?」
「何がって、殿下と聖女様ですけど?」

 見たまんまだ。

「ですけどではナァーイ! 周りをよく見てみなよ。魔物タチが怖がって出てこない。すっかり大人しくなってしまってカワイソウに。ねェ、知っているかい?」
「何をですか?」

 本当、ずっと目の前の人は言動がおかしい。
 そんな人にかわいそうだなど言われる筋合いはないと、すんと表情が消えていく。

「この国の第二王子が魔王退治にナゼ参加しないのか? 魔力が国随一だと言われているのにドウシテなのか?」
「すでに殿下は魔法でこの国を守ってくれています」
「それはそうなんだけどネェ。それだけの力があるのなら、殿下が出陣したらいいと思わナイかい?」

 確かにそういう考え方もあるが、王子が自分の都合だけで魔王退治を辞退するとは思えないし、防衛の面で何か王子が王都にいないと機能しないとかそういった理由があるのだと勝手に思っていた。
 あとは立場もある人なので、俺には想像がつかない王侯貴族の事情など、様々なことを加味した上で王子は王都にいるのだろう。

 以前、カシュエル自身も王都ここを離れることができないと言っていたし。
 そんなことを考えながら確認するようにカシュエルのほうを見ると、ゆるりと微笑まれた。
 ミコトが、うんうんと横で頷く。

「確かに言われてみればそうよねえ」
「そうだね。でも、戦うだけがすべてではないし、すでに殿下はずいぶんと貢献してくださっていますし、戦うのに特化した勇者一行もいます」
「そうなんだけド、そういうことではないのだよ。この現状。こんなに魔物タチが怯えるノは、その無闇に眩い光と魔力を放つ第二王子のセイなんだよ」

 そこで、俺は檻の中にいる魔物たちを見た。どれも隅っこで頭を覆うように震えている。
 先ほど、黒リボンオークが牢屋に猛ダッシュで入っていったことといい、確かに尋常ではない怖がりようである。

「もしかして、殿下が出るとすべての魔物が逃げてしまって退治どころではなくなってしまうのですか?」
「ソウナノだよ。退治するはずの魔物が一目散に逃げていくから効率悪くって、つくづく迷惑なヒトなのだよ。ホント迷惑! ここの魔物タチもこうなってはしばらく使い物にならなくなってしまうシ。だから、そんなのを引き連れてきた平凡クンにワタシは幻滅した」

 だから、勝手に期待して勝手に幻滅されてもこっちは知ったことではない。
 それに、カシュエルは俺が引き連れてきたわけではない。

「と言われましても」

 それにしても、王子にそんな作用と言っていいのかわからないが、意外な事情を知った。
 怯えるだけで消滅するわけでもないなら、確かに討伐には向いていないのだろう。逆に連携して追い詰めていたのに、カシュエルの登場で逃げ出すのなら作戦の邪魔になってしまう。

 ただ、カシュエル殿下のそばはものすごく安全であるとなれば、なおさら、国の中枢である王都、そして王がいる王宮は守らなければならない場所で、そこに聖君を置いて置くのはものすごい防衛でもある。
 聖女とは違った意味で、絶対的な安全圏である聖君はやはり最強ではないだろうか。

「だーかーらー、ソンナノと手を繋いで普通に話している時点で、平凡クンではナイと私は悲しんでいることをわかってくれないカナ」
「だからと言われても、この現状に自分は無関係ですよね?」

 本当、勝手なことを言われてもと思う。
 何度も言うが、俺はミコトの行動力によって巻き込まれただけである。カシュエルも地上でなんらかの動きがあってミコトを探しに来ただけだろう。

 そもそも、聖女であるミコトをここに来るように仕向けたのはグリフィン局長。すべての原因の相手に、なぜ説教をされなければいけないのか。
 なので、今回のことに全く関係ないと言い切れるし、相手の言い分が全く理解できないと俺は首を傾げた。

 すると、片手でくいっとカシュエルに両頬を持たれ、顔をそちらに向けさせられる。
 美しい顔は困ったように笑っているが仄暗い光を持って見据えられ、俺は目を見開いた。


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