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第2章 聖女編
扉の向こう
しおりを挟む身体を緊張させて周囲の様子をうかがっていたが特に何もなさそうだとわかると、ミコトが後ろからこそっと話しかけてきた。
「レオラム」
「何?」
なんとなく先ほどよりは小声になる。
「今の音は何かな?」
「爆発音と魔物の声だね。爆発はそんなに殺傷能力があるようなものではなく、小さめの容器にわざと密閉させて爆発させたのかも。魔物の声もこもったような感じだし口を覆われている可能性はある」
「冷静っていうか、まあ、……そういうのを聞くと、冒険者だったって本当だったって思えるわ」
「戦闘能力は皆無だけどたくさん見てきたから」
何より、危険な存在を王宮でカシュエルが野放しにするとは思えない。
そのためなんらかの理由で安全は守られていると思ったからの推測だが、それでも異常であることは変わりない。
カンカンカンカンッ
そんな会話をしていると、早く来いとばかりに音が頭上で鳴り響く。
「うるさっ」
「これは音を拡散する魔道具を使っていると思う」
「へえー、魔法もいろいろあるのね」
挑発するようなその音は、扉の中からというよりは扉の外から響いているので、どこかに魔道具が設置されていると思われた。
そうする理由は全く不明であるが、これで地下全体に声が広がる理由はわかった。
そのことで相手が人間であるとはっきり確信できたが、同時に俺が会ったことのない類いの変人である可能性は大きい。
「うん。中の音を広範囲で聞こえるようにしているだけだけど、逆に言えば実際に声や音の主がここにいるってことになるね」
「それはそうか」
「最初にも言ったけど、地下とはいえ王宮だし滅多なことは起きないとは思う。だけど、相手は俺たちのことをすでに気づいて待ち構えている可能性は大きい。それでも行く?」
ミコトに走らされていた時に俺が嫌な予感がしていたのは、ここのことだったのだろう。多分、扉を開けるとトンデモナイことが待っている気がする。
見つけて入ることができたら頭がおかしくなるような体験ができる場所と言っていたし、現在見つけて入るか入らないかの選択に迫られている。
「うん」
「そっか」
だけど、ミコトは迷わず頷いた。
少し前のミコトは、何か発奮したくてというのもあったのだろうが、今は好奇心が完全に勝っている。
やはり、行動力のある人で、あっけらかんといろんなことを話すことといい、切り替えも抜群すぎた。
命に関わるような危険があるとは思っていないが、ミコトが引き返そうと言ったら俺はすんなり引き返すことを選択していただろう。
だが、ミコトが行くことを選択したのなら、まあこんなことでも楽しみを見出せているのなら扉を開けるのみ。
なんか、このあとが怖いというか首筋がちりちりするけれど、いろんなことを素直に話してくれた、そしてこの世界のために頑張ろうとしてくれている彼女の気分転換になるのならと思った。
「行くよ」
とにかくここまで来たら進まないことには始まらない。
ミコトには安全だとわかるまでは身体の後ろにいるようにと再度注意してから、俺はギィーッと音を立てて黒い扉を押した。
そこは想像もしなかった大きな空間が広がっており、両端は檻で埋め尽くされていた。
奇しくも、地下で薄暗いイコール牢屋のような雰囲気だなとここに来るまで思っていたが、実際に地下牢があると圧倒される。
中はここに来る道中ほど暗くはなく、壁にある蝋燭がゆらゆらと照らし部屋全体が見渡せている。
地下とはいえ王宮で明かりの魔道具だってあるのに、手間のかかる蝋燭を使用している理由はわからないけれど。
そんなことよりと異様なものを目にした俺たちは息を呑む。
後ろの服を掴んでいたミコトが、俺の左手を握ってきた。その手は震えている。
「ミコト」
「レオラム……」
好奇心はあるが、怖いものは怖いのだろう。ましてや、この世界にやってきてまだ数か月。
向こうの常識とこちらの常識は違うだろうし、どこまでが正常と異常の判断かもつきにくいはずだ。
俺はしっかりと自分より小さな手を握り返した。
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