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第2章 聖女編
やっぱり顔だった
しおりを挟む俺はぎゅっと唇を噛み締め、息を深く吸い込んだ。
こういった話は苦手であるし、そもそも会話自体慣れてない。だけど、向き合おうと思った以上、聖女としてではなくこの少女と話し合わなければと思った。
「……聖女様は」
「ミコトね。様もいらないわ」
「そうですか。では、ミコトと。ミコトは男同士というのは気にならないのでしょうか?」
「レオラムは気にしているの?」
逆に質問をされ、俺は頷いた。
「異性でも同性でも関係を築いていくのはその人たちなので、より良い関係を築けているのならそれでいいと考えています。ただ、相手の立場により同性では問題になる場合はあると思っています」
「ああ、なるほどね。へえー」
「なんですか?」
含むような声に首を傾げると、聖女が困ったように笑う。
「なんか、思っていたのと本当に違ったから。さっきの答えだけど、この国では同性も法的に結婚が可能だって聞いているし、私が住んでいた世界でも同性間のカップルは公にはしにくい風潮ではあったけどいたし、それに偏見があるわけではないわ」
「あまり変わらないのですね」
異世界はどんなところなのだろう。魔法が使えないと聞いているが、どんな世界が広がっているのか全く想像がつかない。
だが、どんな世界でも恋愛や結婚に関してはこちらとそう変わらないようだ。
「うーん。でも、さっきも言ったけどそういう人たちは肩身が狭いことも多いから隠している人も多いし、国や地域や場所によっても違うわ。コミュニティも別となることも多いから、友人に突然カミングアウトされたら驚いちゃうかな。その辺はこちらの世界のほうが受け入れられていると思う。普通に王宮でもカップルっぽい人いるし」
「そうですか」
観察するところはしっかり見ているようだ。
「ただ、完璧な美貌の聖君の横に立つのは、誰もが認めるものすごい美姫でないと納得しない人多いんじゃないかな。すごく勝手だけど、それなら敵わないなって悔しくても諦められるんだよね。だから、私もカシュエル殿下が性格の悪い顔は普通の男を大事にしているって知って面白くないって思ってた。で、本当のところはどうなの?」
確かに、熱を上げている男性が同性のしかも性格が悪い男に夢中だと聞いたら嫌だろう。
俺自身も、性別、立場、顔など第二王子に相応しいとは客観的には思えない。
「どのような言葉が的確に当てはまるのかはわかりませんが、カシュエル殿下とはそういう関係ではあります」
「やっぱそうなんだ?」
ミコトの返事は淡々と事実を受け止め、ものすごく軽いものだった。そこに嫉妬だとかそういったものは感じられない。
頻繁に王子に会いに脱走するほどだったにしてはあまりにもあっさりとした言葉で、いったいどうなっているのかとミコトを見つめる。
「はい。ミコトはカシュエル殿下に熱を上げていると聞いていましたが、それを知ってどうしたいのですか?」
「別に、かな」
「別に?」
話の内容や今までの行動の割に、ミコトの言葉はずっと軽快だ。
「そうよ」
「うーん。でも、ミコトは何度もカシュエル殿下に会いに脱走してたでしょう? なのにどうしてそんなに平然としているのでしょうか? 好きだったのではなかったのですか?」
「好きよ」
その言葉に嘘はないのだろうけれど、噂で知っていた聖女の熱量を感じる行動とは一致しない。
俺はあまりにも噂と乖離した印象に、訊ねずにはいられなくなった。
「ミコトはカシュエル殿下のどこが好きなのでしょうか?」
「そんなの決まっているわ。顔よ顔」
若干胸を張って、ミコトがふんすと主張する。
「顔?」
「そうよ。あれは拝むべきレベルの顔でしょう」
「顔……」
「何よ、悪い?」
じろりと睨まれて、俺は首を横に振った。
だけど、波紋のように衝撃が広がっていく。
──やっぱり顔だったー!?
えっ、こういうのってこんなふうに堂々とするもの?
確かにカシュエル殿下は人外と言われるレベルの美貌だが、聖女がこんなにあっけらかんと顔が好きだと告白してくるとは思わず、俺は遠い目をした。
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