上 下
55 / 59

28.指輪

しおりを挟む
 
「……その後ろのべったりなのはどうした?」

 ギルド長室に訪れたノアを見たランドルフは、眉根を寄せていの一番に声を上げた。
 背後にくっつくブラムウェルに視線をやると離れないぞと後ろからお腹に手を回され、ノアははははっと苦笑した。

「彼のこれは気にしないでください」
「……はぁ。ノアがいいならいいが」

 ここに来るまでにも散々そのことで言い合ったが、ブラムウェルはノアの守護神のように近い距離で周囲を威嚇するのをやめなかった。
 保護魔法の強化と何やら新しい魔法を編み出すのに時間がかかり万全ではないため、ノアが外に出るのは不安らしい。

 侯爵も本部ギルド長も捕まったので大丈夫だと言ったのだけれど、何があるかわからないからと譲られなかった。
 ブラムウェルの事情も考慮しているのかもしれない。

 昨日の今日ということもあり、最終的に好きにさせるほうが今後のためにいいだろうと結論付けノアは説得するのを諦めた。
 ブラムウェルのいうところの強化が済んだら納得するのだろう。

「はい。今日ですがブラムも一緒に聞かせてください」

 ノア自身もいざ話を聞くとなったらどんなことを話されるのだろうとドキドキしてきたのでそれどころではないというか、むしろ呆れるくらいの態度に救われる面もあった。
 座るように促され、一度離れたブラムウェルだが座るとノアの右手を繋いでくる。
 それにやっぱり呆れと同時に心強さも感じて、ノアは頬を緩ませた。

「……ああ。一時期あの孤児院で一緒に過ごしていたらしいな」

 その様子を見ていたランドルフはわずかに頬を引きつらせたが、軽く肩を竦めると話を進めた。

「うろ覚えですが、ブラムから話を聞いて少しずつ当時のことは思い出してきました」

 孤児院の仲間たちの顔立ちや性格が以前より明確に思い出せるようになった。だけど、まだ圧倒的な何かが欠けていてそれがなんだか思い出せない。
 きっとそれが記憶を封印することになった一端なのだろう。

「そうか。記憶のことだが、エイダに確認を取ったらやはり強く望めば解けるようなものと言っていた。だから慌てなくてもいいとは思うが、どうしても急ぎで思い出したいなら見ると言っていたがどうする?」

 トレヴァーは本部ギルド長、オルコックは貴族なので手続きなどが大変だったと思うが、そこまで短い時間で動いてくれていたようだ。
 左目の傷跡がいかつくて怖いイメージを持たれるランドルフだが、大雑把さと細やかな気配りが絶妙のバランスでいつもものすごく頼りになる。

「ありがとうございます。それについてはランドルフの話を聞いてから考えたいです」

 ブラムウェルの話を聞いて思い出したように、また話を聞いたら刺激されるものがあるかもしれない。
 それにその話の内容によっては、一度考える必要もあり一気に情報を得るのは怖い気がする。

「そうか。なら、ノアの母親の話からしようか」
「はい。お願いします」
「といっても、昨日も話したように俺は詳しくは知らない。今から話すのは、俺の知る彼女と今回のことで知ったオルコック家の者だという情報を元にした推測も混じるがいいか?」
「それでいいです。お願いします」
「わかった。あと、先にこれを渡しておく」

 ことりと机の上に置かれたそれは、金の指輪で宝石などは一切ついていないが蔦のような模様が全面に細工されている。
 古いものだけれど、丁寧に磨かれて大切にされてきたとわかるものだ。

「これは?」
「ノアの母親から預かっていたものだ。今のノアに渡すほうがいいと思ったから渡しておく」

 ノアは手を伸ばして指輪を手に取った。
 女性のものにしては太く分厚い指輪だ。よく見ると、そこに何かあったのかそういうデザインなのか一か所くぼみのようなものがある。

 一緒に覗き込んでいたブラムウェルは黙ったままそれを見ていた。
 口を挟む様子はないので、ノアはランドルフに視線を戻すと話に耳を傾けた。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

【完】姉の仇討ちのハズだったのに(改)全7話

325号室の住人
BL
姉が婚約破棄された。 僕は、姉の仇討ちのつもりで姉の元婚約者に会いに行ったのに…… 初出 2021/10/27 2023/12/31 お直し投稿 以前投稿したことのあるBLのお話です。 完結→非公開→公開 のため、以前お気に入り登録していただいた方々がそのままお気に入り登録状態になってしまっております。 紛らわしく、申し訳ありません。

運命の人じゃないけど。

加地トモカズ
BL
 αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。  しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。 ※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

処理中です...