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28.別れ sideブラムウェル①

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「ブラムってばずっとノアにくっついて。そんなにべったりしてノアも迷惑よ」
「なんで? 邪魔せず手伝ってるよ? ね、ノアは嫌じゃないよね?」
「そうだね。手伝ってくれて助かっているよ」

 ブラムウェルはノアと一緒に配膳をしていた。
 ノアがすることを手伝うとその分一緒にいられるし、その後もノアを独占しやすくなるのに気づいたからだ。

 ノアは好意を示されると甘くなるし、頑張ると認めてくれる。
 この特殊な孤児院にいるみんなを平等に大事にしているので、好意を示す相手は拒まない。

 年下の子には特に甘いし、こうしてブラムウェルのように好意を前面に押し出すとわりと甘やかしてくれる。
 背丈は一緒だけど年齢はノアより三つ下なので、ノアの中でブラムウェルは可愛がる対象として入っていた。

 それをブラムウェルはわかっていて、全身で甘えノアの横に陣取っていた。
 それをよしとしないルイサが文句を言ってくるが、ノア本人が許しているのだからブラムウェルは気にも留めなかった。

 ルイサはやっぱり面倒だけれど、ちょっとした言い合いもノアがいれば何でも楽しかった。
 いつしかブラムウェルにとって自分も城の仲間だと思えるくらいには、心を許す場所になっていた。
 だけど、それは唐突にやってきた。


 院長室に呼び出された先にはヒギンズがおり、孤児院から引き上げることを伝えられる。
 王弟である実父の権力が優勢になってきたため、これからは王都で一緒にいられるようになるとのことだった。

 急にやってきて出ていくことはいつものことだ。ましてやここは辺境。事前に連絡する時間もなく直接やってきたようだ。
 そういったことに対してこれまで問題がなかったから、ヒギンズはブラムウェルがこんな反応をするとは考えもしなかっただろう。

「……嫌だ」

 その気持ちに支配される。それしか出てこない。
 ここから離れることなんて考えられない。ノアがいないところに自ら行くことを考えるだけで、大事な何かがもぎ取られるようで目の前が真っ暗になる。

「ブラムウェル様」

 困ったように眉根を寄せるヒギンズが差し出した手をぱんっと弾いて、ブラムウェルは後ろに下がり距離を取った。
 ヒギンズが来てからずっと苦しい。これまではその顔を見て安心さえしていたのに、今は見たくない。

「ここにいる! どうせ戻ったところですぐに家族と一緒に過ごすわけではないし、また邪魔になるかもしれないじゃないか」
「殿下はずっとあなたと会うことを願っておられたのですよ」

 わかっている。
 自分の命を守るためにした選択だということを、そのためにヒギンズをつけくれているのだとも理解している。

 別に両親を恨んでいるわけではない。
 ただ、血が繋がっていると聞かされているだけで自分の中でどこかその事実は遠いのだ。どのように感情を抱いたらいいのかわからない。

 わかるのは今の自分の気持ち。
 自分にしかわからないだろう、絶対的な感情のありどころ。

「ノアと離れたくない」

 一度離れてしまえば自分の先もわからないし、ノアだっていつまでここにいるかわからない。
 もう一生会えないかもしれない。

 以前考えたことが目の前に迫っている。
 そんなの耐えられないと、ブラムウェルはぶんぶんと首を振った。

 感情が追い付かず、行動の制御ができず、自分でもどうしていいのかわからない。
 心臓がぎゅうっと握りつぶされるような痛みを訴える。苦しくて苦しくて、悔しくて、ブラムウェルの感情が爆発した。

「行かないから!」

 捨て台詞を置いてブラムウェルは部屋を飛び出し、目の前の廊下を突っ走った。

「ブラムウェル様!」

 背後でヒギンズの引き止める声がする。
 聞きたくないとブラムウェルは一層足を速く動かした。

「ブラム?」

 外に出ようとしたところでちょうど畑から戻ってきたノアたちとすれ違い、ブラムウェルは無意識にノアの手を掴み走り出した。

「ブラム!? どうしたの?」

 ノアは引っ張られながらもブラムウェルに合わせて走る。
 いつのまにか背丈は自分のほうが高くなっていて、少し前は誇らしい気持ちだったのに今はその変化がすごく怖くなった。

 このまま時間が止まればいいのに。
 そしたらずっと一緒にいられる。

 ノア。ノア。ノア。ノア。
 頭の中までノア一色だ。

 ノアを思うことに関して、どうしてという疑問はいらない。
 ブラムウェルにはノアが必要だ。ノアがいれば自分の中が満たされて、すべてうまくいくような気持ちになれる。

 以前に孤児院を飛び出し隠れた岩にたどり着く。
 さすがに息が切れたし、ノアがぜえぜえと苦しそうだったためブラムウェルはそこで足を止めた。


✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.

ここで失礼いたします。
いつもお付き合いありがとうございます!
本棚登録や更新のたびに反応をいただき励みをいただいてます。
予想外のことが重なり、ここ最近時間が取れず更新がとぎれとぎれになっておりすみません。
それ以外のことでは今作の執筆優先しておりますので、まったりとお付き合いいただけたら嬉しいです(*ノ´□`)ノ

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