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27.一緒にいて sideブラムウェル②

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「ノアのばか」
「ブラム、どうしたの? 部屋から出ていったのは僕が何かしたから?」

 ブラムウェルは自分でもどうしようもない感情のままノアに当たって甘えた。
 これまではどんなことでも諦めがついたし、逆に言えば諦めがつく程度で人と深く関わりたいと思ったことはなかった。

 だけど、初めてどうしても意識から外せない気になる存在ができた。
 ノアに出会ってからこれまで通りでいられなくなった。

 自分でもわかる。普段から周囲に関心があまり向かないが一つこれと認めたらそれ以外見えない性格だ。
 散々否定して遠ざけたりもしたがノアを完全に意識から排除することは無理なのだと認めてしまえば、一気に存在が増しブラムウェルのど真ん中にきて誰にも触らせたくないほど独占したくなる。
 今、ひしひしと全神経がノアに向かっているのを感じた。

「だって、違うって言った」

 ブラムウェルにはノアだけだ。ノアさえいれば満足できる。
 なのに、ノアには大事なものがたくさんあって、その他大勢の一人でしかなくて、それはものすごく不公平だと思った。
 こんな気持ちにしたノアに最後まで責任をとってもらわないと割に合わない。

 なのに、自分たちは違うと線引きされた。それがノアの口から聞かされたショックがじくじくと胸の辺りを蝕んでいく。
 ぎゅうぎゅうと締め付け訴えると、苦しさに抵抗していたノアがぴたりと動くのをやめた。

「……ああ。ルイサたちとの話を聞いていたの? でも、ブラムウェルと僕たちは違うのは事実だよね?」
「何も違わない。ノアとは一緒がいい」

 ノアは取り繕わない。
 言ったことを誤魔化すつもりもないノアにむっとしながらも、誤魔化されたら誤魔化されたでムカつくから、このノアらしい反応をいいなと思う自分もいる。

 結局、どんな対応を取られても、ブラムウェルはノアがノアのまま自分のために何かをしてくれるならなんでもいいのだ。
 ノアのばかとすぅっはぁっとブラムウェルはノアの匂いを嗅いだ。

 ノアの匂いを取り込むことで気持ちが落ち着く。ノアの成分が自分に移って離れなくなればいい。
 ノアはくすぐったそうに肩を竦めたが、ブラムウェルの好きなようにさせてくれた。

 もっと早く素直に自分の気持ちを認めてこうしていればよかった。
 わからなくて突っぱねていた時間がもったいない。
 これまでの分ももっともっとと、どれだけくっついても匂いを嗅いでも足りない。

 ――これが自分だけに許されるものだったらいいのに。

 いや、これからはそうして見せるとブラムウェルは思考を巡らせながらノアの話を聞いた。

「うーん。区別しているのではなくて、僕たちは孤児で誰かにもらわれるまでか成人するまでここにいるけれど、ブラムウェルは時期が来たら帰る場所がある一時的な滞在だってみんな知っているよ。だから、役割も違うし、ブラムの魔法はすごいから僕たちに合わせる必要はないでしょ? そういう意味で言ったんだ」
「ノア、もらわれるの?」

 ノアの言葉の真意はわかったが、さっきまで気にしていたことが吹っ飛んだ。
 拗ねている場合ではない。ノアがいなければ違いがどうこうの話どころではなってしまう。

 これまでの孤児院で子供がもらわれていく現場を何度か見てきたのに、微塵も考えもしなかったブラムウェルは衝撃を受けた。

「話があったらね。だけど、これまで何度か養子の話をもらったけれどどれも院長が断ったんだ」
「やるな。院長」

 ノアはずっとここにいるものだと思っていたが、違う場所に行ってしまえば会うことが叶わなくなってしまうかもしれない。
 院長に対して魔法がすごいなと思うことはあってもそれだけだったが、初めてブラムウェルは院長を認めた。これからはちゃんと敬おう。
 うんうんと頷いていると、ノアがくすくす笑った。

「もう怒ってない? 僕はブラムともっとたくさん話をしたいし一緒にいたいと思っているよ。だからいつも誘ってきたのだし」
「ちゃんと捜しにきてくれたから許してあげる。あと、これからはもっとノアと話すし一緒にいる。ご飯も一緒食べる」
「ああ、それも聞いていたんだね。うん。一緒に食べよ。この後、みんなでピクニックに行くのだけどブラムウェルも行く?」
「行く!」

 ブラムウェルは間髪入れずに返事をした。

 本当はみんなとなんて嫌だ。
 だけど、それを言えばノアは自分を置いて行ってしまう。だったら、ブラムウェルが参加するしかない。
 それにノアには自分がいるのだと周囲にアピールしないといけないしと、ブラムウェルはこの日からどこにいてもノアにべったりくっつくようになった。


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