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19.拘束①
しおりを挟む「おい、いつまで寝てるんだ!」
「……んっ」
ざばぁっと水をかけられて、ノアはその冷たさに覚醒した。
目を開けて顔を上げると数人に囲まれており、意識を失っていた間にどこかに運ばれたことを理解する。
視線を巡らす。部屋の様子は明かりがついているためよく見えるが、窓のカーテンは閉められ外の様子がうかがえない。
時間もどれくらい経ったのかわからないので、ここが王都なのかも判別できなかった。
ゆっくりと瞬きを繰り返し、思考を巡らす。
ぽとっと髪から落ちた水を払おうとして、手が拘束されていることに気づく。椅子の後ろに回されるような形で括り付けられているようだ。
完全に不利な状況。
殺されるような恨みを買った覚えはないし、これは脅しなのだろう。
今までは間接的に嫌がらせをされ、冒険者を巻き込んできたがとうとう実力行使にでたようだ。
そこまで時間や手をかけて手に入れたい能力がノアにあるとは思えないが、単純にランドルフへの嫌がらせも入っていそうなのがまた楽観視できないところだ。
相手がどこまでのことを望んでいるのか聞いてから、今後のことは考えるしかない。
残念ながらこの状況で自分ができることは限られている。
下手に抵抗せず、できるだけ時間を延ばして周囲にノアの不在を気づいてもらうしかない。
襲われてからあまり時間が経っていないと仮定すると、気づいてもらえるだろう自分が出勤する時間までかなり粘らなければならなそうだ。
面倒なことになったなと、ノアはふぅっと大きく息を吐き出した。
――というか、息、苦しくない……
殴られてお腹が破裂するかと思ったのに、普通に息ができている。
あの衝撃に反して全く痛みがないことを不思議に思いながらも、手が不自由なこと以外問題がないことに安堵した。
「やっと起きたか」
ゆっくりと状況を把握していると、がしっと前髪を掴まれ無理やり上を向かされる。
怪我していたらこんなことされただけで激痛だったに違いない。
仮にも同じギルド職員なのに最悪だなと眉をしかめると、この状況を楽しんでいるらしいトレヴァーがにやにやと笑みを浮かべた。
性格の悪さが滲み出ており、嫌なヤツだとさらに嫌いになった。
そんな人物と一緒に働くなんて考えらるわけがないのに、この状況は逃げ道がなくてげんなりした。
ふっと息をついたと同時に、耳の後ろの水が伝う感触に身体を震わせる。
「さむっ」
身体はどこも悪くないとわかると、途端、びちゃびちゃに濡れた身体が気になった。
その原因の男を睨みつける。
「風邪引きそうなんですが?」
「目が覚めただろ?」
「…………」
ノアは嘆息した。
――陰湿な男だ。
トレヴァーは魔法が少しばかり使える。その実力は一般人よりも優れているが、それを活かして職業につくほどでもない。
水属性が得意なので、キンキンに水を冷やしてかけたに違いない。
夏にコップを冷やして上司の点数稼ぎくらいしか能がないくせに、こういうことだけは頭が働く。
本人も微妙な魔力を気にしていて、威張ったり卑屈になったりと相手によって態度をころころと変え面倒くさい。
冷たさに震えながらも、そっちがその気なら相手するものかと無視をして奥の二人を見た。
こういうタイプは、下に見ている、見たい相手に無視されると神経に障るだろう。
地味に嫌なことをしてくる相手に、ノアはお前は小者なのだと突き付けることにした。
「バイロンギルド長……、と誰ですか?」
声も普通に出る。口の中の感じとかそう時間は経っていなそうだ。
魔法を使用しての移動なら王都ではない可能性はあるが、それでも魔法も万能ではないのでそこまで遠くはないだろう。
まず視界に入ったのは、ぺちぺちとノアの頬を叩くいつも営業妨害をしにくる本部ギルド職員のトレヴァーとノアを拉致した三人組。
その後ろには腕を組んだ本部ギルド長と、その横にひょろりと背が高く神経質そうな四、五十代くらいの男が立っていた。
「おいおい。俺は無視かよ」
「……」
ただの使い走りの相手をしても仕方がないだろうと、目線だけで語り無言を貫く。
「本当、腹が立つな」
大きく振りかぶってぱしんと叩かれ、その際に歯が口内に当たりノアは反射的に顔をしかめた。
だが、ぶつかった感触と経験上血の味がしてくると思ったのにまったく味もしないし痛くない。
それはそれで不安になる。
一瞬拍子抜けし、それから自分の身体はどうなっているのかと眉をしかめた。
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