上 下
31 / 33

追跡 sideブラムウェル

しおりを挟む
 
 薄闇が王都を覆う。
 ぱちっと自身の中で魔力が反応を起こし、窓辺に凭れるように立ち外を眺めていたブラムウェルは手をかざした。

 あの時の判断が正しかったと、ブラムウェルはノアにかけていた保護魔法が発動したことを感知し、すぐさま追跡魔法を起動させた。
 何かあればと思ってのことだったが、こんなに早く起動させる日が来るとは思わなかった。

 追跡魔法は念のために保険としてしたことだが、さすがに勝手に魔法を施し起動させ位置を把握したとなれば後でノアに説明と謝罪しなければならないだろう。
 だが、まずはノアの救出と安全確保が先だ。

「今日で契約は終わりです」
「あら、もう行くの?」

 窓辺に立っていたブラムウェルは、サミルド伯爵とその娘であるヨランダに向けて告げた。

「約束は守りました」
「ほんとつれないんだから。まあ、でも、いい男を連れ歩くのは楽しかったわ」
「今後、協力が必要なことがあれば言いなさい」

 ヨランダに続く伯爵の言葉に小さく頷き礼をすると、ブラムウェルはすぐさま伯爵邸を後にした。
 話ながらも起動させていた追跡魔法で感じるノアの位置。歩くスピードではない移動の仕方に、拉致された可能性を考えブラムウェルは舌を打った。

 本当はノアのもとから一時も離れたくなかった。
 できることならずっとそばにいたい。だが、自分たちは冒険者とギルド職員。それぞれ仕事もあるし、築いてきた立場がある。

 今さらそれらがなかったことにはできない以上、今後の生活や立場を強固にするしかない。
 そばにいたいという気持ちだけでは後に支障をきたすため、泣く泣くブラムウェルはノアと離れていた。

 一時の感情で、ノアとの未来を壊すつもりはない。
 二度と出会うことがなかったかもしれない自分たちが、奇跡とも言える確率で出会えたのだ。もう簡単に周囲の都合に流され離れることは許さない。

 今回の依頼は大きな取引のためのサミルド伯爵の護衛。
 それと同時に令嬢のヨランダが高位貴族の男に付け狙われていたため、防波堤として強さと顔で選ばれたのが黄昏の獅子だった。

 今回の依頼は守秘義務がありノアに事前に話すことはできなかった。
 しかも変な噂が流れていて、それをノアが鵜のみにしていたらと思うと気が気でなく、ノアのことを考えるだけで胸が苦しい。

 無事一週間の依頼を遂行し、残りは令嬢に付きまとう男のことだがそもそも彼女自身や家門の力で振り払える。なのに延長を言われたのは、なかば貴族の遊びのようなものだ。
 ブラムウェルのみの延長に関しては、思うところがありこちらのタイミングで引き上げることを条件に合意しているため仕事に支障はない。

 そもそも、このタイミングで依頼を引き受けたのには理由がある。
 東部ギルドの依頼をこなすようになってからわりとすぐ、貴族から黄昏の獅子に対しての長期の依頼が増えだしたためだ。

 これは本部ギルドが思うように靡かない自分たちを邪魔に思い、東部ギルドから引き剥がすためだろうと踏んでいる。
 どれか一つ受けなければさらに強引にねじ込んでくる可能性を考慮して、ノアにかけていた保護魔法が完成したと同時にランドルフギルド長と馴染みのある伯爵の依頼を受けた。
 それと同時に、ランドルフもギルド長としての仕事を振られ忙しくなったと聞いている。
 
「魔物のほうがわかりやすいし簡単だ」

 屠ればいいだけだ。力が強い方が勝つ。
 だが、人間はそうはいかない。

 利権が絡む足の引っ張り合いに辟易しながらも、そういったなかでうまくやらなければこちらが葬られるだけだ。単純な力の強さだけでは人が多く住む場所ではやっていけない。
 そのため、今回そばにいて退けたとしても、第二弾、第三弾と狙われるだけだと依頼に融通の利く相手と自身が王都にいて動ける時に片付けてしまうべく、あえてノアのもとには帰らなかった。

 本部のギルド長はやけにノアに拘り、粘着質な男らしく牽制するだけでは引かないだろうとのことだった。
 だったら、早々に徹底的潰しておく必要がある。

 離れることで危険がある可能性は承知していたが、ずっと一緒にいたため今なら保護魔法の効果は絶大だ。
 自分の手が届かないところでノアが危険な目に遭う可能性をなくすため、確実に敵を殲滅できる時に片付けてしまわなければならない。

 だが、本当に保護魔法が発動するような手の出し方をするとは……
 ブラムウェルはぎりっと奥歯を噛みしめた。
 ノアに手を出したらどうなるか、本部ギルドと貴族どもにもわからせてやる。

「ノアに手を出したことを後悔させてやる」

 ブラムウェルは魔法を展開し移動しながら、ノアのもとへと向かった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました

かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。 ↓↓↓ 無愛想な彼。 でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。 それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。 「私から離れるなんて許さないよ」 見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。 需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

公爵の義弟になった僕は、公爵に甘甘に溶かされる

天災
BL
 公爵の甘甘に溶かされちゃう義弟の僕。

溺愛お義兄様を卒業しようと思ったら、、、

ShoTaro
BL
僕・テオドールは、6歳の時にロックス公爵家に引き取られた。 そこから始まった兄・レオナルドの溺愛。 元々貴族ではなく、ただの庶子であるテオドールは、15歳となり、成人まで残すところ一年。独り立ちする計画を立てていた。 兄からの卒業。 レオナルドはそんなことを許すはずもなく、、 全4話で1日1話更新します。 R-18も多少入りますが、最後の1話のみです。

処理中です...