ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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失ったもの sideブラムウェル

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 その噂を聞いたのは偶然だった。
 いつものように辺境のダンジョンの魔物を倒したのち近くの村に寄り、これまたいつものようになかば諦めながらもどうしても諦めきれず情報収集をしていた時のことだった。

 冒険者にとって、辺境の大して有名ではない地は遠く面倒なので敬遠する者が多い。しかも、ダンジョンのレベルが低いと魔物を倒しても大して金にならない。
 冒険者や魔法を使える者にとって弱い魔物でも、村人にはどうにもできない害ある存在。数が多ければ災害だ。

 十二年前のある村での魔物の氾濫もそのせいで、もう少し早く力をつけて動けていたらとブラムウェルはずっと後悔していた。
 当時、力を持たないどうすればいいかわからない子供だったが、何かできていたのではないだろうかという思いは消えない。
 ブラムウェルは事情があり隠していたが、その時から魔法が使えていたためなおさらその気持ちはなくならなかった。

 ブラムウェルがその孤児院にいたのは一年間だけのこと。
 そこは孤児もいるが訳ありの子供も出入りするので、急に預けられたブラムウェルも特に不思議がられることなく受け入れられた。
 その孤児院でかけがえのない相手、――ノアと出会い、村に起こった悲劇から生きていることは絶望的と言われてもノアのことを忘れられずにいた。

 今回訪れたその村も、魔物を間引く冒険者が来ず今にもあふれ出そうなダンジョンに困りながらも、他に移動することが適わず細々と怯えながら彼らはそこで暮らしていた。
 その中の一人、足を悪くし杖をついた年配の男が、十二年前に魔物の氾濫で潰えた村の出身だということが発覚した。

 なんでも、魔物に襲われ村をなくしやっとのことで移住先を見つけそこに住んでいるのだという。
 ただ、怪我した足では逃げることもできず半分覚悟を決めていたとのことだった。
 また同じことになる恐怖とずっと戦っていたとしんみりと眦に涙を溜めながら礼を言われ、数えきれないほどしてきた質問の返答にブラムウェルは食いついた。

「本当に見たのですね?」
「ああ。村全体、あそこの孤児院に住んでいた子供たちも、あんたも聞いた通りあの日にほとんどの者が亡くなった。だが、俺を含め生き延びた者はいる。その中の一人にあの子も入っていたと記憶している」
「間違いはないですか?」

 そうあってほしい。
 だけど、違った時の落胆を思うと再度念を押して確かめずにはいられない。

「ああ。忘れようにも忘れられない。あの日、俺は村の外に猟に出ていたため、帰った時にはすでに魔物に襲撃された後だった。残骸と遺体だけが放置され生々しい殺戮の痕が残る荒れ果てた地に運よく生き残った者は確かにいる。あの子もそのうちの一人だ」

 懐かしみながらも傷むように目を眇め男は言い切った。
 ああ、とブラムウェルは言い知れない安堵と焦燥感に囚われた。

「茶色の髪に瞳だけでははっきりわからなかっただろうけど、あんた、一時期あの子にべったりくっついていた子だろ? あの子は妙に人に好かれる子だが、とくにあんたは周囲をけん制してまでくっついていたからセットで覚えている。女の子だと思っていたが男だったんだな」
「……それで、ノアはどこに?」
「風の噂では名のある冒険者に拾われて、王都に向かっていったとか」

 ノアが生きている。しかも、王都に……
 完全に盲点だった。
 だが、生きているかもしれない。それだけでブラムウェルは血が沸騰しそうなほど歓喜した。

 ブラムウェルは震える心のまま、ゆったりと微笑んだ。体中に巡る歓喜に表情を取り繕うことができない。
 今までにない有力な情報に完全に期待してしまっている。

 大事な思い出の場所を、ノアを殺した魔物が憎かった。
 ダンジョンを管理せず放置した上のやり方にも……

 そしてしばらく何も知らずにいたこと、できなかった自分への後悔から辺境のダンジョンを片っ端から攻略し魔物を間引いてきたが、ここで目ぼしいところは回り終えたばかりだった。
 まるでその功績を認めるかのようなタイミングで情報を得ることができ、この先どうするかと考えていたブラムウェルにとって天啓のようだった。

 だが、まだ噂だ。でも……、と葛藤を繰り返し、ひとまず王都に行くことを決める。
 話を横で聞いていたマーヴィンが、男がいなくなると口を開いた。

「捜していた彼のことか?」
「ああ。その可能性は高い。確かめるためにも王都に行く」

 当時、性別を間違われがちだったのも、ノアを独占しようと必死で周囲をけん制していたのも、常に追いかけまわしていたのも本当のことだ。
 だから、信憑性はある。

「わかった。そろそろパターン化されて飽きてきたところだったし、目ぼしいところは攻略したしな。王都も誘いがうるさいからこのへんで顔を出すのもいい」

 それからは早かった。
 感謝の気持ちとして宴会を開いてくれようとしたが、急ぐからとすぐに王都へと向かった。

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