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18.お相手

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 翌日、ギルドでの休憩時間。
 今日もマーヴィンのみで、ブラムウェルの姿はなかった。
 ノアもあえて訊ねることもせず、その時は受付が空いていたのでウォルトと三人で談笑した。

 ウォルトは今まであまり関わろうとしなかったけれど、どうやら休日に外で偶然二人は出会い、そこから交流するようになったようだ。
 警戒心の高いウォルトがリラックスした状態で楽しそうに話しているところは、さすが黄昏の獅子の窓口役を担うマーヴィンだと感心した。人当たりのいい美形は懐に入るのが上手い。

 食事の後のコーヒーをウォルトや同僚の分も入れ席に戻ると、ウォルトが口を開く。
 マーヴィンがギルド職員に休憩時間にと渡してくれたチョコレートを口に入れる。どろりと甘さが広がり、ノアはカップに口をつけた。

 これはウォルト好きだろうなとノアが普段食べるものより甘めのチョコレートを食べながらウォルトを見ると、嬉々として二つ目に手を伸ばしていた。
 立て続けに三つ目をお腹の中に入れ満足したウォルトが、そういえばさと口を開く。

「聞いた? ブラムウェルさんが貴族の女性と付き合いだしたって。確かお相手はサミルド伯爵家のヨランダお嬢様らしい」
「そうなんだ?」

 サミルド伯爵家は王都に近い場所に領地を持ち、製糸事業に成功し今勢いに乗っている家門の一つである。
 ノアが昨日見たのはその令嬢なのだろう。ブラムウェルなら貴族令嬢に気に入られても不思議ではない。

 ふ~んとまたカップに口をつける。
 本当、このチョコレートはノアには甘すぎる。
 
「何も聞いてないの? 一緒に住んでるんだよね?」

 ウォルトには護衛もかねてブラムウェルに部屋を貸していると話していた。
 そもそも毎日迎えに来て一緒に帰っていたのだから、周囲は自分たちが親しいことを知っている。それもあるから、本部ギルドもここ最近大人しかった。

「言葉通り住んでるだけだからね。一緒にいてもそこまで互いのことは干渉していないから、受付を通っていない任務やプライベートのことまではわからないよ」
「そういうもの? でも、ブラムウェルさんなら詳しく話さずともノアに告げていそうだと思ったのだけど」

 周囲からもそう思われるくらい、ブラムウェルはノアしか眼中に入っていない態度を徹底していた。

「そう思われるくらい、まっすぐ僕を見ていたから。そのおかげで本部ギルドもブラムたちを刺激しないように大人しかったし。そう思われていること事態が目的だから成功してるよね」

 普段が冷淡な分、ブラムウェルの視線や言動はわかりやすいくらいわかりやすかった。

「うーん。しっくりこないなぁ」
「どうして?」
「見かけだけとかではないと思うけどな。そんな面倒なことするタイプじゃないでしょ。だから、噂もだけど最近顔を出さないのも何か理由がありそうというか」

 その可能性もあるとは思う。
 だけど、顔を合わせる時間がないのだから確認することはできない。

「まあ、そのうちはっきりするんじゃない」
「ノアはなんていうか、どんな時も変わらないよね」
「慌てても変わらないものは変らないし。必要なら知る。必要でなければ知ることはない。生きていたら自分だけではどうしようもないことは出てくるし、ある程度流れに任せるのは大事だよ」

 これに関しては時間が解決するだろう。
 やっと甘さが消えたとコーヒーを飲み終えると、ウォルトが眩しそうな顔でノアを見た。

「ノアって強いよね」
「僕はウォルトのように体術は優れてないよ」

 本来ならノアも男として恰好よく体術でもびしっと決めたいところだが、冒険者には容姿で舐められ笑顔と言葉でしか勝つことができない。
 ウォルトはどっちもできるから、ノアとしては羨ましい。

「そうじゃなくて。精神的にだよ」
「そうかな?」
「ほわっとしてるのにどしっと構えてるから、こっちも安心するんだよね。確かにブラムウェルさんのことは周囲が騒いでもしょうがないしね。ただ、そうなると本部ギルドのことが気になるから気を付けて」
「確かに。この機会に接触してくるかもね」

 前に煽ったし、そろそろ動くかもしれないなとランドルフにも再度声をかけておこうとノアは頷いた。

 その会話が呼び水となったのかそれから数時間後。
 ノアは恰幅のいい三人組の男に囲まれていた。腕の太さがノアの二倍はあり武器も所持している。
 
「何か用でしょうか?」
「東支部ギルド職員のノアだな。おとなしくついてきてもらおう」
「嫌だと言ったら?」
「わかるだろ?」

 刃物をちらつかされ、ランドルフにまだ話していないのにとノアは嘆息する。
 抗っても余計な怪我をするだけだと両手を上げたのに、思いっきりみぞおちを殴られる。

「うぐっ」
「獅子が動く前にすぐに連れてこいってことだからな」

 息ができずに目の前がぐらぐらした。お腹の中が破裂したのではないかと思うくらい痛い。

 ――ああ、最悪。

 どっちみち危害を加えるつもりだったんじゃないかと内心で文句をたれ、男の最後の言葉にブラムウェルの顔を思い浮かべノアはそのまま意識を失った。


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