ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)

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12.冷淡な冒険者②

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「そういうことで美人さん。ブラムは僕と話しているので帰っていただけますか?」
「なんであなたに言われないといけないのよ」

 意気込んでみたものの、これくらいで引くなら最初から声をかけてこないだろう。
 ノアではなくマーヴィンだったら態度よく話しかけられたのだろうけれど、彼女にとってノアは役不足の邪魔者でしかない。

「まあ、そうだよね。僕だって君のことに首を突っ込みたくないけれど、今ブラムと一緒にいるのは僕だし」
「そこは普通は察して引くものじゃない?」

 女性だから?
 この場合、性別は関係ないだろう。

「普通ってなに? それに察してこうして間に入っているのだけど」

 言葉でも態度でもブラムウェルはあからさまなのに、優先させるべきだとの態度はこれまで男性に雑に扱われたことがなく自分に自信があるのだろう。
 あまり女性に強く当たるのは嫌なんだけどなと嘆息すると、ブラムウェルが冷え冷えとした声を発した。

「なんで勝手にノアと会話している?」
「えっ、だってこの人が話しかけてきたから」
「言われて引き去っていたらいいことだし、割り込んできて不快だ。人の邪魔をしてその態度何様のつもり?」
「何様って。それに、そいつ男じゃ」

 ブラムウェルに顔を見ずに放たれた言葉にかぁっと顔を赤くさせた女性が声を上げると、ダンッと音がし、続いてガシャンとコップや皿が割れる音が響いた。
 完全に真っ二つに割れた机から、乗っていたものすべてが落ちる。

「きゃあっ」
「ねえ。頭悪いの? ノアに向かってそいつ? 腹が立つなぁ」

 周りの空気さえ凍らせてしまうほどの声音に、女性が悲鳴を上げて後退る。
 興味本意でこちらを見てしゃべっていた者も静まり返った。

「二度と俺とノアの前に顔を見せるな。失礼な女は嫌いなんだ」

 すぱっと切り捨てるブラムウェルに、女性も黙っていない。
 そもそもブラムウェルが冷たいのは今に始まったことではないので、彼女も多少は覚悟の上なのだろう。

「そんな!? もしかして彼が相手なの? ブラムってば男もいけたの?」
「誰が愛称を呼んでいいと言った?」

 そこでブラムウェルは鋭い眼光で彼女を射抜いた。
 それはどこまでも冷たくて、こんな目で見られるくらいならノアだったら無視されるほうがマシだ。

「だって、彼が」
「そう呼んでいいのはノアだけだ。次話しかけてきたらその口縫い付けるよ」
「……ひどっ」

 彼女は目じりを濡らし、ブラムウェルを見た。
 女性が泣くとブラムウェルが悪者みたいになってしまう。
 気分が乗らないのに自信があるからと女性に絡まれて、誘いに乗るのも断るのも自由だけれど毎回相手をしないといけないブラムウェルは気の毒だ。

「ちょっとブラムの言葉悪いけど、誰だって気乗りしないのに知らない相手にしつこく声をかけられるのは不快だよね? 誘うなとは言わないけれど、状況把握はしなきゃ。僕も友人が嫌がっているのにいつまでも時間を潰されるのは困るな。引き際は大事だと思うよ」

 関係は曖昧だけど、知り合い以上だと思うのでこの場はそう言わせてもらおう。
 今後、ブラムウェルと付き合いを続けるなら舐められたままだと同じ事を繰り返すので、周囲にも聞こえるように声を張った。

 それと同時ににっこり笑みを浮かべておく。
 丁寧な態度で余裕を見せておくと、自然と周囲の印象も変わってくるので大事だ。童顔なノアが取れる処世術だ。

 ブラムウェルには冷たくされ、ノアには余裕をかまされ彼女は肩を震わせる。
 だけど、最終ブラムウェルの冷ややかな視線に後退り、赤くした顔を伏せて席を離れていった。

「はぁ。最悪。邪魔が入ってしまった。ごめん」
「ブラムが悪いわけじゃないから」

 なんとなく彼女の後ろ姿に視線を投じると、くいっと顎を掴まれ顔を戻された。

「ノアのことを無視した相手は見る価値はない。むしろ見ないで」
「もう見ないよ。そもそも彼女は僕に眼中がないし。……それよりもこの後どうする? かなり目立ってるし、家に来る?」

 机を壊してしまったし、注目を集めた今は落ち着いて話どころではない。
 女性が来るまでの会話も人目があるようなところでするものでもないし、一週間毎日誘われノアを優先する姿を見せられれば、こちらから歩み寄り今後について話し合うべきだ。
 
「いいの?」
「うん。僕もゆっくり話せるほうがいいし」

 そう伝えると、ブラムウェルはそそくさと席を立った。
 シュタッという表現が合う勢いでノアの横にくる。

「なら、早く行こう。食事もテイクアウトすればいいか。ほら、ノアも立って」

 それからのブラムウェルの行動は早かった。壊した物は弁償すると店の者に話をつけるとノアの腰に手を回す。
 注目されるなか、ブラムウェルにぴったりとくっつかれたまま店を後にした。


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