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13.甘える冒険者②
しおりを挟むそれから一時間後。
ノアはぎゅうっと背後から抱きしめられ、べったりくっついて離れないブラムウェルに絡まれていた。
「ブラム。もう重いって」
「こうしていると安心する」
「そっか。でも、そろそろ離れてほしいな」
「いやだ」
耳元でささやかれ、ぞくりと肌が粟立つ。
「くっ。絡み酒」
油断していた。まったく平気そうに飲んでいたから予想していなかった。
酔うと絡み甘えるタイプのようだ。
「ノア。どこにも行かないで」
今もすりすりと肩に顔を埋めて、ノアの腹のところに持ってきた手を交差させ懇願してくる。
「行かないよ」
いっこうに緩まない腕。もしかしたらノアがあの朝何も言わずに帰ったことにより、彼の過去の記憶を刺激してしまったのかもしれない。
そうじゃないと、ノアにこれほど執着する意味がわからない。
――今は酔って記憶が曖昧になっているのか。
高ランク冒険者といえども、三つも年下だ。
彼らの活躍を初めて聞いて数年経つが、これまで数々の危険を潜り抜けてきたはずだ。強くなっても誰かに甘えたい時だってある。
派手な活躍ばかり耳に入ってきていたが、苦労していないはずはないのだ。その中に大切な相手との別れがあってもおかしくない。
ノアがそうだったように……
ノアはふぅっと息を吐いた。
今日も抱きつかれながら寝るコースなりそうだ。
仕方がないなとそのまま張り付かせながら、ベッドがある部屋へと移動する。
やっとのことで部屋に到着しドアノブに手をかけ、そこで、んっ? とノアは立ち止まった。
本気で体重をかけてこないのはいいのだが、そもそも体格差を考えるとノアが運べること自体おかしい。
じぃぃぃっと見つめると、きゅっとさらにくっつかれた。
「ブラム?」
「んっ。ノアと一緒」
すりすりと頬ずりされ、肩に鼻を埋めてふふっと笑う。やっぱり酔っているようだ。
人目がなくて安心しているのだろう。
「落ち着くって言ってたしね」
それだけ信頼してもらっていると思うと頬が緩む。
ノアはよいしょと一緒に寝転ぶ形でブラムウェルをベッドに寝かせた。安物のベッドが二人分の体重でぎしりと軋む。
体勢が変わってもブラムウェルが起きる気配はなく、若干拘束されている腕の力が緩む。
さすがにこのまま寝るわけにはいかないと、時間をかけてずりずりと身体を捻りようやくその腕から脱出することができた。だが、すぐにくいっと引っ張られてそのままベッドに引き戻される。
「ちょっ」
せっかく脱出したのにと文句を言おうとしたら、シャツの端を握られた。
「行かないで」
「でも」
テーブルの上を片付けたいし、あと着替えたい。
あまりに可愛い引き止め方に躊躇っていると、今度は覆いかぶさるようにノアをのぞき込んできた。
下半身に乗るように体重をかけられて身動きをとれなくされる。
「ノア。ここにいて」
鮮やかな動きと、とろりと潤んだ双眸にノアは抵抗するのをやめた。
まっすぐに見つめてくるこの美しい緑の瞳には弱いのだ。
「はぁ。わかった。ブラムの好きにしていいよ」
この一週間、この瞳で一緒に眠ることをねだられてきた。
このまま寝ることになるのかと諦めの息をつくと、あろうことかブラムウェルがノアのシャツの下に手を差し入れてきた。
「……ノア」
「えっ、待って」
愛おしそうに響く優しい声音で名を呼ばれる。
すりっとお腹を撫でられへそをくるりと一周すると、あろうことかその手は胸元まで這い上がってきた。
――もしかして、好きにしてと言ったのはこっちの意味にとった?
慌ててその手を掴み止めると、ブラムウェルはむっと小さく口を尖らせた。
「なんで?」
言葉とともに、いいって言ったよねと視線で訴えてくる。
――いや、こっちはまた手を出されるなんて聞いてないから。
同じ人は相手にしないって噂で聞いていたのにとまさかの行動にただただ驚いていると、「ノア」とさらに甘く名を呼ばれる。
「なんでって。好きにと言ったのは、いつもみたいにくっついて眠ってもいいっていう意味だから」
一度目は成り行きで片付けられる。だけど、二度目は曖昧なままは絶対嫌だ。
ノアにとってやはりそういうことは恋人とするもの。
そもそも現状は生死に関わることはあまりないので、冒険者たちみたいに興奮してしまいどうしようもないということもない。
しかも睡眠確保の行為のための『寝る』に、そういうことが混ざってしまったらややこしくなる。
身体を重ねたらその分情も移るだろうし、いずれ遠くに旅立つことなる相手はノアとしても困る。
不思議と男だからというのはブラムウェルに関しては浮かばなかった。
「ノア」
「ここで一緒に過ごすつもりなら、なおさらそんな簡単に関係を持ちたくない」
本当にダメ? と切なそうな顔をして首を傾げてくるがノアは言い切った。
ブラムウェルなら簡単にノアの手をどけることができ、手練手管でノアを陥落させることができるはずだけど、律儀にノアの待てを不服そうにしながら守っている。
「………………………そう」
長い沈黙のあと、ぽつりとそう呟くとブラムウェルはそっと手の力を抜いたのでノアは止めるために掴んでいた手を離した。
ぺたりとノアの胸元に手を置いたままだが、ブラムウェルはそこから何かするつもりはないようだ。
この一週間、特にそういったことはされなかったからやっぱり酔っているのか。感情の起伏がいつもよりコントロールできていないようだ。
ずどーんと肩を落とし、お先真っ暗と顔色を悪くさせたブラムウェルの手が震えだす。
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