自こ慢ぞく之家族

飴盛ガイ

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相馬誠一

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「せいちゃん、一緒に昼飯食おうぜ」

隣の席の升井が有無も言わせず、俺の机に弁当箱を置いた。特に断る理由も無かったので、俺も自分の弁当を取り出した。

「お、中身同じじゃん」

お互いの弁当箱を開いた途端、升井が訳のわからない事を言ってきた。お前の弁当はお前の母親が作ったものだろうが。同じなわけが……

「あれ?」

 升井の弁当と見比べて変な違和感があった。確かに中身の構成は違うが、おかずは何個か被っている。その被っているおかずが問題だった。

「あ、おい」

試しに升井のから揚げを一口食べて、次に俺の方のから揚げも食べてみた。一緒だった。升井がお返しとばかりに俺の弁当のおかずを取ったがどうでもいい。

「このから揚げ、冷凍食品にしては美味いからな。うちの母ちゃんも最近はずっとこればっかりだよ。それよりさ、
さっきの……」

升井の言葉は耳に入らなかった。
昨晩確かに母さんはから揚げの仕込みをしていたはずだ。俺は親父がうざかったので早々部屋に引きこもったからその後どうなったかはわからないが、だとしたらから揚げの仕込をしておきながら、弁当には冷凍のから揚げを使ったという事か。どういうことだろうか。

「別にどうでもよくないか?」

升井に俺が感じた疑問をぶつけてみたところ、心底どうでも良さそうな答えが返ってきた。

「え、でも昨晩わざわざ仕込んでたのに、弁当には出さないって可笑しくないか?」

それでも、俺は食って掛かったが升井から返ってきたのは取り付くシマも無いようなものだった。

「別に母親だからってそこまで手間掛けて弁当なんて作りたくないんだろ。それともお前は親に何でもかんでもして
もらわないと嫌なのか」
確かにそうかもしれない。仮に俺のから揚げが冷凍食品だとして何か問題があるのか?俺が騒ぎ立てない限り全く無いじゃないか。どうも知らず知らずのうちにあいつの影響を受けているようだ。

「確かにどうでもいいことだったな」

「そうそう、そんなことよりさ、放課後どっか行こうぜ。どっかだけ」

家族なんてどうでもいいものだ。



元々あいつのことはうざいと思っていた。俺が何かしているときに無理矢理割り込んでは自分の話しばかりしてくる。何かにつけて父さんは、とか父さんだったらと上から目線で延々と語ってきて俺が何か言おうとしても、すぐに自分の話しに持っていく。そのうち面倒くさくなって適当に相槌だけ打つようにしたが、それであいつは満足らしい。俺の話には全く興味が無いんだなって思った。でも、それだけならまだ良かった。


 俺は一週間ごとにお小遣いを貰っていたが、ある週だけ何の前触れも無く減っていた。理由はわからないが、何となく怖かった。だが、翌週には元に戻っていた。そんな事が何回か続き、とうとう俺はあいつに理由を聞いてみた。

「自分で考えてみなさい」

あいつは普段通りの人を見下しきった目でそう答えただけだった。ますますわからなくなった。しょうがないので、試しに家事を手伝う事にした。

「無理しなくていいわよ」

母さんはそう言ったが、俺は自分で出来る事を一生懸命やったつもりだ。その結果、小遣いが減る事はあっても増える事は無かった。俺のやったことは何の意味もなかったということだ。いや、あいつにとってか。

「僕達は家族だよ」

恥ずかしながら俺はあいつが吐くこの言葉をあの時までは、綺麗なものだと思っていた。少なくとも俺達にも意味があるものだと。


ある日、俺はあいつが風呂に入っている間にあいつの部屋に忍び込んだ。理由は単に金が欲しくてあわよくばへそくりか何かが見つかればいいなくらいだった。机の中や本棚の隙間を漁ったが、特にめぼしいモノも出てこず諦めて部屋を出ようとしたとき、そう言えばスーツのポケットは調べていないなと思い出した。今思えば、その時とっとと部屋から出ていた方が良かったのかも知らない。いや、あいつのことだから結局は変わらないか。
ポケットには手帳が入っていた。黒革張りの高級そうなやつで厚みからして金は挟んでないなと最初はがっかりしたが、とりあえず中を開いてみた。そして、そこに書き込まれていたものを見たとき、俺は自分の目を疑った。

誠一。反抗的な目をした。-2
   あいさつを返さなかった-3
   僕の話に反抗した-4
   

俺に対する考察表。書かれていることはやたら細かい減点だけで加点は一切無い。妹の加奈の欄も合ったが、最初に何個か物凄く細かい事を書き込まれていただけ。どうしようもない虚脱感に包まれて俺は、メモ帳を元に戻して、あいつの部屋を出た。

「おーい、誠一。よかったら風呂に入らないか」

答える気力も無く、俺はその声を無視してベッドへ倒れこんだ。

数日後、小遣いは減らされていてメモ帳にはしっかりと「僕のいう事を無視して一緒に風呂に入らなかった」と書き込まれていた。
 
「なあ、升井」

「どうした、真面目な顔して」

「お前にとって家族ってなに?」

俺の突然の質問に、升井は驚いたような顔をしたが、しばらく考えるような素振りをして答えてくれた。

「わかんねえ。そんなの考えた事ないし」

返ってきた答えは升井らしいシンプルなものだった。

「そっか」

「何かあったのか?」

「いや、なんでもない」

本当に何でもない、何もない。家族とはなにかと考えること事態がおかしいんだよな。

「僕達は家族だよ」

この言葉の意味が今になってよくわかる。

「僕の家族だよ」

そう、だからあいつにとって家族は自分が主人公のゲームみたいなものなんだろう。あいつが見ているのは俺達じゃなくてゲームの進行具合やステータスだけ。

「たまには美奈と一緒に帰るか」

俺達は家族じゃなくて、あいつがプレイしているゲームのキャラクターってことか。ふざけるなよ。




相馬誠一の日記
「家族について考えれば考えるほどわからなくなった。結局家族ってわからないってことでいいんだろう。だがあいつにとって家族はゲームで、俺を息子役としか見ていないし、母さんや美加も似たようなものと考えていやがる。なら俺も同じようにしてやるよ。俺にとってあいつは父親ではなく父親のふりをしてくるモンスターだ。このゲームはモンスターを退治するゲーム。モンスターなんだから父親扱いする必要は無い。クリアする方法はたくさんある。何だか楽しくなってきた。そう考えるとあいつがいう家族というのも悪くないかもしれない」
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