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第一話
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「あなたが太陽なのね!」
真っ直ぐこちらを見つめる銀色の目が、キラキラと光っている。
初めて夜に外に出た日、私は、月に出会った。
「おはよう、今日はよく眠れた?」
お母さんがにっこり笑って聞いてくる。
私はいつも通り「うん。」と頷く。本当は、目はシパシパするし頭もぼんやりしていて、もっと寝ていたいなと思う。けれど、そんなこと言ったらお母さんに怒られてしまうし、また病院につれて行かれてしまうかもしれない。そうなったら面倒臭いから、何か言われる前にさっさと朝ごはんを食べてしまおうとテーブルに座る。
お母さんが後ろを向いた隙に、あくびを一つ。お父さんがふふっと笑った気がして顔を見ると、目があった。小声で「夜更かしはほどほどにな。」とニヤリと笑う。あくびを見られたのが恥ずかしくて、私もニヤッとしてしまう。お母さんは夜に眠れない人のことを病気だと思っているけど、お父さんは「世の中にはそういう人もいる」って教えてくれた。
「いってきまーす。」
「いってきます。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
お父さんと私は毎朝一緒に家を出る。お母さんはお留守番だ。家の前の道を、「あったかくなってきたね。」「あ、あそこのお花咲いてるよ!」「あれは……ワスレナグサかなあ。」「春って感じだね!」なんておしゃべりしながら歩いていく。突き当たりの大きい道を、私は左に、お父さんは右に曲がる。
「じゃ、気をつけて。」
「うん、じゃあねー。」
お父さんと別れて、今度は一人で歩く。ちょっと前までコートを着てもちょっと寒かったのに、パーカー一枚でゆったり歩ける。植物達も穏やかな風に花や葉っぱを揺らしている。なんだか人間と同じな気がして、ちょっと嬉しくてゆっくり歩く。
「おはよう!」
しばらく歩いていると、右側からルンちゃんが飛び込んできた。
「おはよう!」
「ソラちゃん今日はちょっとゆっくりなんだね。」
「急いだ方がいいかな?」
ルンちゃんは同じクラスの子で、いっつも遅刻ギリギリにくることで有名だ。ちょっとゆっくり歩きすぎたかもしれない。私が早歩きを始めると、ルンちゃんも慌ててついてきた。
「でも私今日ちょっと早く出たよ。」
「えーほんと?いっつもぎりぎりじゃん。」
「そうだけどー。でもほんとだよー。」
「でも早く着くに越したことはないでしょ。」
「まあそっかー。」
ルンちゃんを急かしながら進むと、どんどんランドセルを背負った子が周りに増えていく。確かに、こんなにいるならまだ余裕なのかもしれない。そう思って、段々とスピードを周りと同じくらいまで落としていく。
「本当に余裕だったね。」
「ね?言ったでしょ。朝から疲れちゃった。」
「あはは、ごめんね。」
「でもこのくらいにくるとみんなと一緒に行けるんだね。」
ルンちゃんが周りをキョロキョロして、にっこり笑う。
私もつられてキョロキョロすると、色とりどりのランドセルに乗っかった金色の頭の中に、知っている顔がちらほら。ちょっと前の方に、いつも途中で一緒になるソニちゃんとソルちゃんが喋りながら歩いているのが見えた。
「そうだね。私もいっつもソニちゃんとソルちゃんと来てるよ。」
「へー。私はいつも一人だからなあ。」
「いっつもこれくらいに来ればいいのに。」
「うーん。でもそれって家を早く出なきゃってことでしょ?それはなー。」
「なんで早く出られないの?」
なんだか難しそうな顔をするルンちゃんに不思議に思って聞いた瞬間に、ドキッとした。ひょっとして、ルンちゃんも夜眠れないのかな?それで起きるのも遅くて、早くおうちを出られないのかな?
初めて「夜眠れない仲間」が見つかるかもしれない。ほんの一瞬で心臓がドキドキしたけれど、ルンちゃんはあっさり答えた。
「うちね、朝ごはんがいっぱい出てくるの。」
「……朝ごはんが、いっぱい。」
「そう。いーーっぱい。今日はお母さんが風邪ひいちゃって、パンだけだったからいつもより早く出れたんだけどね、いつもは食べるのに時間がかかるから、それで遅くなっちゃうの。」
「そっか。大変だね。」
それからルンちゃんの家のいつもの朝ごはんを教えてもらったり、私の家の朝ごはんを教えながら歩いていく。ルンちゃんの家の朝ごはんは本当に多くて、いっつも元気なルンちゃんの秘密がわかったような気がしたけど、なぜかちょっと寂しいような、がっかりしたような気分は教室についても消えなかった。
真っ直ぐこちらを見つめる銀色の目が、キラキラと光っている。
初めて夜に外に出た日、私は、月に出会った。
「おはよう、今日はよく眠れた?」
お母さんがにっこり笑って聞いてくる。
私はいつも通り「うん。」と頷く。本当は、目はシパシパするし頭もぼんやりしていて、もっと寝ていたいなと思う。けれど、そんなこと言ったらお母さんに怒られてしまうし、また病院につれて行かれてしまうかもしれない。そうなったら面倒臭いから、何か言われる前にさっさと朝ごはんを食べてしまおうとテーブルに座る。
お母さんが後ろを向いた隙に、あくびを一つ。お父さんがふふっと笑った気がして顔を見ると、目があった。小声で「夜更かしはほどほどにな。」とニヤリと笑う。あくびを見られたのが恥ずかしくて、私もニヤッとしてしまう。お母さんは夜に眠れない人のことを病気だと思っているけど、お父さんは「世の中にはそういう人もいる」って教えてくれた。
「いってきまーす。」
「いってきます。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
お父さんと私は毎朝一緒に家を出る。お母さんはお留守番だ。家の前の道を、「あったかくなってきたね。」「あ、あそこのお花咲いてるよ!」「あれは……ワスレナグサかなあ。」「春って感じだね!」なんておしゃべりしながら歩いていく。突き当たりの大きい道を、私は左に、お父さんは右に曲がる。
「じゃ、気をつけて。」
「うん、じゃあねー。」
お父さんと別れて、今度は一人で歩く。ちょっと前までコートを着てもちょっと寒かったのに、パーカー一枚でゆったり歩ける。植物達も穏やかな風に花や葉っぱを揺らしている。なんだか人間と同じな気がして、ちょっと嬉しくてゆっくり歩く。
「おはよう!」
しばらく歩いていると、右側からルンちゃんが飛び込んできた。
「おはよう!」
「ソラちゃん今日はちょっとゆっくりなんだね。」
「急いだ方がいいかな?」
ルンちゃんは同じクラスの子で、いっつも遅刻ギリギリにくることで有名だ。ちょっとゆっくり歩きすぎたかもしれない。私が早歩きを始めると、ルンちゃんも慌ててついてきた。
「でも私今日ちょっと早く出たよ。」
「えーほんと?いっつもぎりぎりじゃん。」
「そうだけどー。でもほんとだよー。」
「でも早く着くに越したことはないでしょ。」
「まあそっかー。」
ルンちゃんを急かしながら進むと、どんどんランドセルを背負った子が周りに増えていく。確かに、こんなにいるならまだ余裕なのかもしれない。そう思って、段々とスピードを周りと同じくらいまで落としていく。
「本当に余裕だったね。」
「ね?言ったでしょ。朝から疲れちゃった。」
「あはは、ごめんね。」
「でもこのくらいにくるとみんなと一緒に行けるんだね。」
ルンちゃんが周りをキョロキョロして、にっこり笑う。
私もつられてキョロキョロすると、色とりどりのランドセルに乗っかった金色の頭の中に、知っている顔がちらほら。ちょっと前の方に、いつも途中で一緒になるソニちゃんとソルちゃんが喋りながら歩いているのが見えた。
「そうだね。私もいっつもソニちゃんとソルちゃんと来てるよ。」
「へー。私はいつも一人だからなあ。」
「いっつもこれくらいに来ればいいのに。」
「うーん。でもそれって家を早く出なきゃってことでしょ?それはなー。」
「なんで早く出られないの?」
なんだか難しそうな顔をするルンちゃんに不思議に思って聞いた瞬間に、ドキッとした。ひょっとして、ルンちゃんも夜眠れないのかな?それで起きるのも遅くて、早くおうちを出られないのかな?
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「うちね、朝ごはんがいっぱい出てくるの。」
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「そっか。大変だね。」
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