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6.大学時代【R18含む】
4.ランチデート
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谷萩先輩がチョイスしたお店は、雑誌に掲載された人気のカフェだった。
すごく頑張って調べたんだろうな、とじんわりと胸が熱くなる。
自分が男性にここまで大事にされたり、優しくされるのは前の人生では皆無だった。
みんな顔と身体だけ目当てで寄ってきた。
それは自分が安売りしていたのもある。
今は違う。
谷萩先輩が私のために頑張って振る舞っている姿を見て少しいいなと思うが、やはり決定的に「セックスをしたい」という衝動には駆られないのだった。
キスまでは出来ても、その先には進めない。
濡れないのだ。
キスをしても乳首を吸われても一切濡れないだろう、というのが手に取るように分かる。
私の性感帯が乳首にあるので、好きではないが少しセックスしたいなと思える相手であればすぐに濡れる。
「こんな素敵な店……ありがとうございます。私も前から気になっていて、行きたいなって思ってたんです」
男の歓心を買うためにベラベラと言葉を並べる。
私の悪い癖だが、彼の努力を無駄にしたくない。
「良かった……。苦手だったらどうしようと思ってたので」
「そんなことないです。ここのサンドイッチ、すごく評判ですよね。それを頼んでもいいですか?」
ここのカフェの売りは焼きサンドイッチなのだが、さすが東京。値段が高いのである。
「勿論。好きなのを頼んでください」
「ありがとうございます!」
オーダーをした後に、それとなく熊野先生のことを話題に出した。
「それにしてもさっきのデリカシーなかったですね、熊野先生」
「はは、いつもあんな感じですよ。生徒をいじるのが好きなようです」
愛があるからいいんですけどね、と谷萩先輩が呟いた。
「あの余裕はどこから来るんでしょうか」
私が訊ねると、谷萩先輩は「さあ、稼いでるからでしょうか」と言った。
「奥さんとかはいないんですか?」
「あーいるとは聞いていたんですけど、そこまで詳しくはないですね」
――いるんだ。
でも結婚指輪はしてないですよね、と私は少し微笑む。
気持ちを悟られてはいけない。
こちらも余裕のある笑みを浮かべなければ、と少し頑張った。
「邪魔だから、とつけてないみたいですよ。奥さんの方はつけてほしいらしいですけど」
「そうなんですね。だからか、女性の誘いに一切乗らないっていうのは。納得です」
「単にめんどくさいだけだと思いますよ。女性よりフィールドワークとか研究の方が好きなだけだと思います」
――ああ、そこもまた魅力的だわ。
悔しいが、そういう素っ気なさがすごく魅力的で仕方ない。
振り向いてもらえないもどかしさが恋慕になるのだろうか。
万が一過ちが起きてしまったら、私の方がかなりのめり込むことは必定だ。
「好きですか?」
「え?」
ばれた? とハッと我に返る。
「何がですか?」
と、誤魔化したがどうだろう。
「いや、このミックスジュースです。確か関西から来られたんですよね?」
いつの間にか私の目の前にミックスジュースが来ていた。
「ああ、大阪の方で……」
「なんか有名みたいですね。今度大阪に行ったら喫茶店に入ってミックスジュースを頼んでみようかと思います」
「そういえば谷萩先輩はどこなんですか?」
「僕は北海道なんです。実家は北大行けって言われてたんですけど、どうしても東京に来たくて」
そうなんですね、と私はミックスジュースに手を伸ばして飲む。
申し訳ないが、どうでもいいのだ。
ここまで無関心でいられるのも逆に感心するが、谷萩先輩はやはり魅力を感じない相手なのだと分かった。
それにしても熊野先生に妻がいるとはね、とかなりガッカリする。
子供はいるんだろうか、夫婦生活は上手くいっているのだろうか、とやきもきし始めて、谷萩先輩の話は殆ど耳に入ってこなかった。
適当に相槌を打っては、サンドイッチを頬張るだけのランチだった。
――それでも……熊野先生と話をしたい。
結局悶々した挙げ句の結論がこれだった。
恋愛はともかく、ただ純粋に先生と話をしたい。
それに尽きる。
……まあ、いいか。
セックスが目的ではない。
くっつくのが目的ではないのだから、と自分に言い聞かせる。
すごく頑張って調べたんだろうな、とじんわりと胸が熱くなる。
自分が男性にここまで大事にされたり、優しくされるのは前の人生では皆無だった。
みんな顔と身体だけ目当てで寄ってきた。
それは自分が安売りしていたのもある。
今は違う。
谷萩先輩が私のために頑張って振る舞っている姿を見て少しいいなと思うが、やはり決定的に「セックスをしたい」という衝動には駆られないのだった。
キスまでは出来ても、その先には進めない。
濡れないのだ。
キスをしても乳首を吸われても一切濡れないだろう、というのが手に取るように分かる。
私の性感帯が乳首にあるので、好きではないが少しセックスしたいなと思える相手であればすぐに濡れる。
「こんな素敵な店……ありがとうございます。私も前から気になっていて、行きたいなって思ってたんです」
男の歓心を買うためにベラベラと言葉を並べる。
私の悪い癖だが、彼の努力を無駄にしたくない。
「良かった……。苦手だったらどうしようと思ってたので」
「そんなことないです。ここのサンドイッチ、すごく評判ですよね。それを頼んでもいいですか?」
ここのカフェの売りは焼きサンドイッチなのだが、さすが東京。値段が高いのである。
「勿論。好きなのを頼んでください」
「ありがとうございます!」
オーダーをした後に、それとなく熊野先生のことを話題に出した。
「それにしてもさっきのデリカシーなかったですね、熊野先生」
「はは、いつもあんな感じですよ。生徒をいじるのが好きなようです」
愛があるからいいんですけどね、と谷萩先輩が呟いた。
「あの余裕はどこから来るんでしょうか」
私が訊ねると、谷萩先輩は「さあ、稼いでるからでしょうか」と言った。
「奥さんとかはいないんですか?」
「あーいるとは聞いていたんですけど、そこまで詳しくはないですね」
――いるんだ。
でも結婚指輪はしてないですよね、と私は少し微笑む。
気持ちを悟られてはいけない。
こちらも余裕のある笑みを浮かべなければ、と少し頑張った。
「邪魔だから、とつけてないみたいですよ。奥さんの方はつけてほしいらしいですけど」
「そうなんですね。だからか、女性の誘いに一切乗らないっていうのは。納得です」
「単にめんどくさいだけだと思いますよ。女性よりフィールドワークとか研究の方が好きなだけだと思います」
――ああ、そこもまた魅力的だわ。
悔しいが、そういう素っ気なさがすごく魅力的で仕方ない。
振り向いてもらえないもどかしさが恋慕になるのだろうか。
万が一過ちが起きてしまったら、私の方がかなりのめり込むことは必定だ。
「好きですか?」
「え?」
ばれた? とハッと我に返る。
「何がですか?」
と、誤魔化したがどうだろう。
「いや、このミックスジュースです。確か関西から来られたんですよね?」
いつの間にか私の目の前にミックスジュースが来ていた。
「ああ、大阪の方で……」
「なんか有名みたいですね。今度大阪に行ったら喫茶店に入ってミックスジュースを頼んでみようかと思います」
「そういえば谷萩先輩はどこなんですか?」
「僕は北海道なんです。実家は北大行けって言われてたんですけど、どうしても東京に来たくて」
そうなんですね、と私はミックスジュースに手を伸ばして飲む。
申し訳ないが、どうでもいいのだ。
ここまで無関心でいられるのも逆に感心するが、谷萩先輩はやはり魅力を感じない相手なのだと分かった。
それにしても熊野先生に妻がいるとはね、とかなりガッカリする。
子供はいるんだろうか、夫婦生活は上手くいっているのだろうか、とやきもきし始めて、谷萩先輩の話は殆ど耳に入ってこなかった。
適当に相槌を打っては、サンドイッチを頬張るだけのランチだった。
――それでも……熊野先生と話をしたい。
結局悶々した挙げ句の結論がこれだった。
恋愛はともかく、ただ純粋に先生と話をしたい。
それに尽きる。
……まあ、いいか。
セックスが目的ではない。
くっつくのが目的ではないのだから、と自分に言い聞かせる。
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