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4.中学校時代

10.土曜日の植物園

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 神田先輩と二人きりでの植物園は、なんだか違う景色を見ているようでときめく。
 相変わらず神田先輩は植物の豆知識を披露してくれるけど、それも楽しい。
 気兼ねなく話を聞けるし、気を遣う人もいないので気楽だった……が、時々賢太くんの顔がちらつくのはどうしてだろう。

 あれから一週間、電話もなかったし、終業式の日にも珍しく来なかった。
 音沙汰ないので、余計に気になっていた。

「なにか、心配事でもあるんですか? 顔がちょっと暗いですよ?」
「あ……」
「彼氏さんのこと?」

 そうだ、誤解されたままだ。
 私はなんて答えようかまごついていると、神田先輩が「ねえ、本当に彼氏?」と鋭いツッコミをしてきた。

「えっと……」
「いやあ、彼氏彼女にしてはちょっと不自然な感じがしたから、どうなのかなあと思っていまして」
「やっぱり、分かりますか……?」
「あ、ホントだったんだ。カマ掛けたつもりなんだけど」

 先輩があはは、と朗らかに笑った。
「あの……私が言うのもアレなんですけど……、その、男が寄ってくるので……、賢太くんに彼氏になってもらってるんです……」
「ああ、会田さん、めっちゃ綺麗だからね」
「そ、そうですか?」

 神田先輩の口からそんな褒め言葉が出るとは。ビックリしつつもすごく嬉しかった。

「そっか。優しいね、彼」
「そうですね。いつも甘えてばっかりです」
「大切にしないとね」
「はい」

 神田先輩が顎をさすりながら独りごちた。
「オレも虫として認識されたのかな……」

「え?」
「あはは、何でもない」

 ベンチがあったので、そこに腰掛けようと彼が言ったので、ひとまず休憩することにした。
 神田先輩は普段はオレって言うんだ……とちょっと男を感じてしまった自分を恥じる。

「ということは、こうやってデートしているのは、僕が抜け駆けしているってことですよね?」
「え? デートなんですか?」
「……そのつもりだけど」
「あっ、そうだったんですか……」
「嫌でしたか?」
「嫌じゃないですけど……神田先輩、植物しか興味がないと思ってて」

 ベンチの背に深くもたれた神田先輩が口を開く。
「でも気持ち悪いよなって思う自分もいるんですよ。こんな年下の――しかも中学に入りたての女の子をデートに誘うのって……」
 葛藤しながら誘いました、と正直に述べた。

「それぐらい、会田さんはすごく魅力的なんですよ」
 高校生が使う言葉だと思えないくらい、神田先輩は大人びている。

「まあ……こうやって、のんびりと会って、話せればいいかなと思ってます」
「はい、それぐらいなら……」

 本当は飛び付いて、付き合いたいですとでも言いたいところだが、徹底的に受け身になろうと決意している今、動くわけにはいかなかったのだ。
 過去の教訓をここで活かせなければ、意味がない。

 私が男を追いかけたらろくなことにならないのだ。

 男に追わせるぐらいがちょうど良いのだ、と改めて痛感する。

「彼氏さん……いや、彼氏役さんには申し訳ないけれど……、時々こうやって内緒で会ってくれれば嬉しいかな」
「その時に……、神田先輩の読んでいる本とか、教えて欲しいです。色々教えてください」
「もちろん」

 付き合うでもなく、ゆっくりとした関係。
 でも、別れは来るだろう。

 神田先輩はあと一年ちょっとで高校を卒業して、大学に行く。
 私は東大に行くと決めている。

 短いけれど、この淡い恋を大切にしたいなと思った。

「楽しい時間はあっという間に終わっちゃいますね。もう塾に行かなきゃだ」
「そういえば、神田先輩はどこの大学を目指しているんですか?」
「一応、京都大学を志望しているけどね」
 ああ、賢太くんと同じなのか――。
 キャンパスで鉢合わせた時のリアクションはどうなるのだろう、と想像すると少し笑えた。

「行けるといいですね。応援しています」
「短いけど……、あ――卒業しても、時々こうやって会えればいいかな」

 草食系っぽく見えて、ぐいぐいとアプローチするところは男ではならの性質なのだろう。

 好かれることがこんなにも満たされるとは。

 前の人生と何が違うのだろう。

 綺麗な顔でモテていたのは同じ。
 姿形は変わらないのだから。

 でも、モテの質が違うのだ。
 分からないけれど、分かるのだ。

 とにかく、受け身に徹して、身持ち堅くできれば……いいのだろうが。

 性欲も強いので、どこまで我慢出来るのか――それが問題だった。

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