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4.中学校時代

6.花壇の君

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 ようやく次に花壇に来られたのは期末テストが終わってからのことだった。

 もう夏。

 すっかり中学生活に馴染み、何とか平和に過ごせている。
 あれから私にいちゃもんをつけてくる人はいなくなったし、学業に専念するのにちょうど良かった。

 遠野くんもそこまでしつこくされていないので、非常に常識的な人なのだと大変高く評価している。

 賢太くんもさすがに毎日は行けず終い、週に一回くらいに減ったのも助かっている。
 全く来なくなるのもアレだし、週一ならちょうど良い。

 そんな感じで平和に過ごしていた時にふと思い出したのだ。

「あ……花壇の君はどうしているのかしら」

 放課後に立ち寄ってみようか。ちょうど百合子ちゃんは用事があって一緒に帰られないと言うし。

 --------------------

 学校の中はそこまで広くないので、花壇があるところは限られている。
 花壇の君のこと、神田先輩を探すのは容易だった。

「神田先輩」

 彼は花に水遣りをしているところだった。

「やあ、会田さん。暑くなってきましたね」
「急に暑くなりましたね。雨もあんまり降りませんでしたね。水不足にならなきゃいいけれど」

 額の汗を拭いつつ水を遣る神田先輩の穏やかな顔がやけに眩しい。

「会田さんも水を遣りますか?」
「はい!」

 神田先輩に手渡されたじょうろを持つと、ずしりと重たかった。
「おっと、気をつけてね」

「庭仕事ってすごい体力要りますもんね」

 そうなのだ。
 何気に神田先輩の腕がたくましいことに気付いた私は、少しときめく。

「まあ僕は筋トレも趣味ですから」
「えっ? 筋トレも?」
「病弱だったから、身体を鍛えようと思って鍛えたらなんだか楽しくなってしまってね」

 園芸部の部員とは思えない発言だった。

「植物にすごく興味があるんですよ、僕。だから大学は植物の方に行こうかと思っていましてね」
 メガネをすらりとした中指でくいっと上げる仕草も、神田先輩だからこそ似合うのだろうか。
 なんだか様になる。

「ふふっ、楽しそうですね、先輩」
「君も興味ありますか? お花とかに」
「一応は」
「じゃあ、夏休みに植物園に行きませんか? 山の方にある――」

 おっと、これはデートのお誘い……?

「ちょうど僕、行こうと思っていたのですが、君もどうですか? 別に行きたくなかったらいいですし」
 さらりと言うあたり、別に彼はデートの誘いだと意識していないのだろう。
 好きだから行く、ついでに一緒にどうか、という気軽なお誘いだ。

「良いですね。素敵です。行きましょう」

 変に意識されないから、私も気楽に過ごせるのかもしれない。
 心地良い、と感じた。

「良かった。じゃあ行きましょう。また近いうちに具体的なことを決めましょうか」

 そうなのだ。まだポケベルが出る前だったから、個別に連絡することが少し難しかった。
 普及し始めていても、まだ持つことは難しかっただろうし、持っている人が少なかった。
 家電でもいいのだが、母親にばれると色々と面倒臭い。

「楽しみにしています!」

 思わぬところで少し年上の知的な男性と二人で出かける予定が出来て、ちょっぴり心がうきうきしてしまった。

 神田先輩はイケメンではないが、好青年だ。
 礼儀正しく、後輩に対しても丁寧に接してくれるし、気遣い上手だと思う。
 結婚するならこういうタイプだろう。

 もしかしたらありかもね、と私は帰りの時にふとそんな考えを過ぎらせた。
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