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2.幼少時代

2.赤ん坊時代

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 父は一度も私を見に来なかった。
 兄が祖母に連れられてきて、妹の私を見て嬉しそうに笑っていた。
 あの兄があんなに可愛く笑う時があったのか、としみじみと見つめる。

「大人しい子ね。あまり泣かないし」

 祖母が私を抱っこしながら母に話し掛けた。
 母は弱々しい声で、「そうね」と相槌を打っただけだった。

 疲れ切っていたのだろう。
 父が仕事ばかりかまけていて、自分はワンオペだったのだから。

 家に帰った後の人生がいかにハードだったかをうっすらと思い出して、目尻に涙をため込んだ。

 与えられるミルクがくっそマズいのだが、ここは我慢して飲み干すとしよう。
 少なくとも化学的な栄養を確保出来るわけだし、身体を丈夫にするためにもせっせと飲み干した。

「この子、よく飲むわねえ。きっと丈夫な子になるわ」

 好き嫌いが激しかった私はミルクもあまり飲まなかったのよ、と母が愚痴っぽく言っていたのを覚えている。

 それならば、と私はマズいミルクを飲み続けたのだった。

 一週間の入院を経て、私たちは家に戻ってきた。

 祖母が泊まり込みで身の回りのお世話をしてくれるようだ。
 母はノロノロと起き上がり、私にミルクを作っては与える、という日々が続いた。

 伝わってくる、母の心。
 子供はこんなにも親の心を手に取るように分かるのか。

 それなら、私の子供たちもまた――私の心を容易く読み取り、愛嬌を振りまいたのだろうか。
 それが鬱陶しくて、拒絶してしまった。

 なんてことをしてしまったんだろう、と今更ながら後悔する。

 気遣うべき相手は、親ではなく、子供の方だったのだ――。

 しばらくして、ようやく父親が帰宅した。
 出張で家を空けていたようだ。

 父は出張がちでほとんど家にいなかった。私の記憶の中に、父の存在があまりにも薄く、いたかどうか分からないくらいだった。

 だからこそ求めたのだろうか。

 幻想の父親を。

 父もまた、毒親なのだ、と気付くまでに時間を要した。

 ともかく、私は乳児時代を大人しく世話されながらすくすくと成長していくとしよう。
 しかし、睡眠欲がすごい。
 ハンパない。

 ひたすら眠い。
 眠らずにいられない。

 もし大人と同じように起きていたら非常に退屈していただろうから好都合だった。

 欲に身を任せてひたすら寝た。

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