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3.カンボジア

8.雷の日に

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 私はどうやら信田に何かをされるのではないかと警戒しつつも、何も起きなかったことに愕然とする自分がいることに気付かされるのに時間がかからなかった。

 この五日間、普通に仕事をしただけであった。
 それなりに楽しかったけれど、信田は私の腰を引き寄せることもなければ、口説くこともしなかった。

 普通に接してくるのが、「素っ気ない」と感じるまでになるとは。

「どうかしたんですか?」
「い、いえ……」
「疲れましたか?」

 にっこりと笑う信田の目が榊とそっくりだった。

 私は何を期待していたんだろう。

 榊という彼氏がいながらも。

 どこかで信田といい感じになりたかったのか?

 本当にそう思っているのなら、ゲスな女だと思う。
 自分が不安がっている事象を自らしようとしているのだから。

 いや、私はどうして信田にどうにかされたがっているのはどうしてなのか。

 榊の兄だから? 違う。
 信田に身体を触れられてもイヤじゃないのは、なぜなんだろうか。

 ――分からない。

「いえ、大丈夫ですよ。行きましょう」
「そうですか?」

 こうして一日を終え、明日には帰国する。

 このまま何もなく、一時の熱は忘れよう。
 そう決めたはずなのに。

 --------------------------

 私は雷が大嫌いだ。

 乾期がもうすぐ終わろうとしている境目に、一気に豪雨がやってきた。
 派手に鳴る雷に怯えていると、今度は停電になった。

「きゃーっ!」
 怖くて仕方ない。
 布団にくるまってぶるぶる震えていると、ドアを強く叩く音がした。

「ありすさん! 大丈夫ですか?」
 スマホは圏外、榊に連絡したくても出来ない状況下において、助けに来た信田に抱きつくのは仕方なかったと辛うじて片付けられそうだ。

「信田先生……ッ!」
「大丈夫ですか? ひどく震えてますね」

 信田に抱きかかえらながら、ベッドに腰を下ろす。

「すみません……トラウマがあって……」
「どんなトラウマですか? 人に話すと楽になるかもしれませんよ」
「……小さい時、一人でお留守番させられていた時に突然雷が鳴ったんです。母に助けを求めても帰ってこなくて――一人ぼっちで震えてました」
「そう、怖かったんですね」

 あの日をよく覚えている。
 母が私を置いて出掛けてしまった時のことだ。
 あの時、母は男に会いに行っていたことは知っている。

 夜にカップラーメンだけを置いて、男の元へ行く。

 そして翌日の昼過ぎに戻ってくるのだ。
 たばこ臭い匂いをまとって、そのまま布団に突っ伏す。

 そんな環境で育った私は、いつも不安感を抱えていた。
 出て行けばもしかしたら一生戻ってこないかもしれない、という強い不安感。

 雷が鳴ったことで、その不安感が増幅していった。
 声にならない悲鳴を上げ続け、大粒の涙を零した。

 守れるのは自分しかいない。

 そう決心した日でもあった。
 当時、私は七歳だった。

 いつの間にか涙を流していたようだ。
 信田に頭を優しく撫で続けられ、気持ちを落ち着かせてくれた。

「すみません……甘えてしまって」
「いえいえ、本当に怯えていたので……そこまで辛い思いをしていたんだなって」
「雷が怖いですね……夏が来ると」
「じゃあ……」

 信田は私の頬に手を添えて、優しく撫でる。
「雷が鳴った時に、今日のことを思い出せれば、怖い気持ちが和らぎますか?」
「え……?」
「別の雷の日に、宗佑と幸せな時間を過ごしても……今日のことを思い出してくれれば本望かな?」
「どういう意味……」

 私が最後まで言う前に、口を信田の唇で塞がられた。

「んっ……」

 ねっとりとした甘いキスを何度も繰り返される。

「たった一回――今日を特別な日に」
「信田せんせっ……」

 ベッドの上に押し倒され、顔の角度を変えながら深いキスをし続けた。

「永遠に、二人だけの秘密にしましょう」

 そう言って、私の乳房を服の上から揉む。
 私は荒い呼吸を繰り返すだけで、イヤとも言えなかった。

 きっと、心のどこかで望んでいたのだ。
 信田と関係を持つことも。

 そして、私の中に秘密を作ることも。

「ありすさん……好きです」
 耳元で囁かれる低い声に、背中がビクンと反る。

「僕は色んな女を抱いてきたけど……あなたを抱くことを……すごく畏れ多いと思ってしまっている」
 どうしてだろうね、と私の服をたくし上げ、ブラの上から乳首を摘まむ。

「んぅっ!」
「可愛い声出しちゃって。あなたのすべてが愛おしい、と思ってしまうのは、本気なんだろうと思ってます」

 くりっ、と拈られて、「ああっ」と声を漏らす。
 外ではゴォォ、と激しく雨が降っているのに、互いの荒い息遣いがクリアに聞こえてきた。

「ありすさん、好きだ……」
 信田は隆起した一物を晒し、私のズボンを脱がせてショーツの上からぐりぐりと押しつける。

「もう今にも爆発しそうですよ」
 余裕ぶろうと笑う信田の目は、切なそうに私を見つめていた。

 ブラも外されて、突起が露わになる。

「きれいなおっぱいですね。こりゃ弟も夢中になるのは無理もないか」
 そう言って、ちゅうっと吸い始めた。

「ああっ、いやっ……だめぇ……」

 雷がゴロゴロと鳴りまくっているのに、私の意識は信田の吸う口に完全にいっていた。

 もっとっ……もっと吸ってぇっ!

 と心の中で叫んだつもりが、声に出してしまっていたようだ。

「可愛いな……」
 お望み通りに、と口に乳首を含ませて、舌で転がす。

「あっ、あっ……ああっ……」

 秘部が熱くなっていくのが分かった。
 信田の硬い先端がぐりぐりと押し付けられているのもある。

 今の私は、かなり淫らな格好になっている。
 彼氏の兄に股を開き、気持ちよさそうに喘いでいる姿を。

 でも止められなかった。

「欲しい……ちょうだい……」

 甘えた声で、信田にせがんだ。
 これに信田はぞくっときたのか、一気に私のショーツを脱がして、ずぷっ、と先端部分を挿れた。

「あああっ!」

 先端しか挿れられていないのに、もう感じてしまい、ぐいぐいと奥まで挿れようと勝手に膣が締めてくる。

「くっ……締めすぎ」

 ゆっくりと挿入したいのに、膣が勢い良く吸い込もうとしているのだ。

「ちょ、ありすさん……すごすぎ」
「わ、私も止まらないの……ッ!」
「もうダメだ」

 我慢出来ずに奥まで一気に貫いた。

「あああんんんっ!」

 止まらなかった。
 信田は激しく腰を振り、荒い呼吸を繰り返す。
 その顔に余裕は一切なかった。

 切なそうに顔をしかめ、私に何度もキスをしては「好きだよ」と愛の言葉を囁いた。

 私は強く突いてくる腰を受け止めながら、信田の首に手を回してキスをする。

「くっ……、イキたくない……」

 イキそうになるのを堪え、腰を止めた。

「イッたら……終わっちゃうでしょう?」
「信田先生……」

 最初で最後。
 一回ヤッて終わらせるのだ。

 そう考えると、切なくなってきて、私の目尻に涙がこぼれ落ちていく。

「……はあ……、少しは怖い気持ち、減りましたか……?」
「はい……だいぶ楽になりました」
「良かったです。しかし、ありすさんの中、すごいですね。ぐいぐい締め付けてくる……」
 もう動かしていないのに、私の膣の中は物足りないのかきゅ、きゅ、と信田の肉棒を強く包み込むようにして締め付ける。
 もっと動かせ、と言わんばかりに脈打っていた。

「恥ずかしい……」
「宗佑が爆発したの、すごく納得」
「え……ど、どういうことですか……」
「ヤバいんですよ、ありすさんのナカ……動かしてないのにイキそうで必死に我慢してるんですよ。かといって抜きたくないんですよね」

 苦笑いしながら、私の乳首を舐める。

「やべ、イキそう。いったん抜きます……」
 ぬるっと抜かれた信田のモノは今にも爆発しそうなほどに膨張していた。

「くう~っ……こんなのは初めてだ……」
「経験豊富なのに……?」
「心の底から好いた女を抱くのは人生初ですよ」
「……本当ですか?」
「嘘つきませんよ。僕は嘘が下手ですから。僕の息子もバカ正直ですよ? ほら」

 びくんびくん、と弾けるようにして脈打っている。

「余裕なさそうでしょ? 真っ赤にして」
「あは……」
「あーダメだ、我慢出来ない」

 私の閉じた股をガバッと開かせて、その間を割って入り、そのまま強く奥まで貫いた。

「ああっ、すごいっ」

 パンパンに硬く膨らんだものが私の奥までずぷずぷと貫く。
「ナカに出しちゃうよ」
「えっ、ダメ、だめぇ」
「もう遅いよ……」

 最後の突きの直後に、信田は私の中に白粘液を注入した。

 兄弟揃って同じことをするのは、血所以か。

「イッちゃった……」

 信田は私の乳房の間に顔を埋めて、がっくりとうなだれた。

「もう終わり……?」

 上目遣いでちらっと私を見つめて、もう一回したい、とせがまれる。

 もう一回を許すと、これで最後だから、と二回も許してしまった。

 そのせいで榊からのメール返信と荷造りを慌てたのは言うまでもない。

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