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3.カンボジア
7.危険な匂い
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ギリギリまで榊とセックスを楽しんだ後に、榊は村に戻っていった。
私が信田と二人で過ごすのが相当嫌なのか、最後まで渋っていた。
「本当に気をつけてください……」
そう言って泣く泣くバスに乗り込んでいった。
「行っちゃいましたねー」
ホテルに戻ると早々に信田がロビーで偶然を装いつつ私の姿を見つけて声を掛けてきた。
「さて、何から話しましょうかね……」
「あの……、仕事のお話ですよね?」
「まあ、それもありますけどね」
信田が不意に私の首筋に手を添えた。
「あらら、露骨なことをしますね、榊君は」
「え?」
「キスマークついてますよ、ガッツリと」
「やだっ!」
信田の手を払いのけて首筋を隠した。
抱かれている時に首にキスをされたが、結構強く吸うな、としか思わなかった。
キスマークを意図的につけていたのか、と思うと恥ずかしい。
「榊君と寝たんですね」
寝た、という言葉は何となく低俗なイメージを彷彿させる。
「……あの、信田先生には関係ないですよね」
「まあ、答えたくなければいいですよ。向こうにいた時、隣の部屋であなたの喘ぎ声を聞かされちゃあね」
「す、すみません……」
やだ、恥ずかしい、と私は首をさすった。
「でも、僕もあんまり責められませんけどね」
「え? どうして?」
「実は、あなたの喘ぎ声で自分を慰めてしまったんで」
「……ッ!」
私のビックリした顔を見て、信田が苦笑いをする。
「あなたは無自覚だから厄介なんですよね」
「と言いますと……?」
「色気があるんですよ。榊君があなたに夢中になるのは無理もないくらい、あなたは色気があります」
ロビーの真ん中で日本語で変な話をしても誰も怪訝に思うことはない。
その分、羞恥心が私の身体を纏わり付く。
「は、恥ずかしいので……あの……」
「二人きりになれる場所に移動しましょうか?」
それはそれで危険だが、恥ずかしがる姿をなるべく見られたくないので、信田の部屋に行くことになった。
私は信田にベッドに腰掛けるよう言われたが、避けて部屋にある椅子に腰掛けた。
「警戒されてますねーはは。まあそれぐらいが良いですね」
信田はベッドに楽に座って、私をじっと見つめる。
「色気あるって言われても……これまでの人生でモテたことがあんまりないんですけどね」
「うーん、それは多分違うと思いますよ。男って自分より下にいる女の方がいいんですよ。通説ですけどね。振られないって妙な自信がついたら口説くんですよ」
「そういうもんですか?」
「そう、だからオレでもイケると思うまでは口説きもしないんですよ。それだけあなたは高嶺の花というわけです」
「でも……前に付き合った人は私を振って好きな女性のところにいきましたけどね……」
「たまたまですよ。相性が悪かったりとか、タイミングの問題だったり。とにかく、あなたは色気があることをもう少し自覚した方が良いです」
私が首をかしげていると、信田が「あなたの喘ぎ声、最高でしたよ。おかげで興奮しました」と意地悪そうに笑った。
「出来れば、僕の前で喘いで欲しいんですけどね」
「そ、それは……」
断る、といった仕草で拒否した。
「宗佑が羨ましいなあ」
「榊さんとは……長い付き合いなんですか?」
私がそう訊ねると、信田が意外そうな顔をした。
「おや、聞いていませんか? 僕と宗佑の関係」
「いいえ、全く……」
「僕たちは血が繋がってますよ。ガッツリ身内です」
「え、ええっ?」
「宗佑の母親と僕の母親が姉妹なんです。姉がうちの母親で、妹が宗佑の母親です。ついでに言うと、父親が一緒です」
「え?」
一瞬思考がショートした。
「父親が、同じ? って……どういうことですか?」
「うちのクソ親父が美人姉妹である母親たちの評判を聞きつけて、まずは姉を口説いたんですよ。貧乏だったんで、うちの母親はお金に目がくらんで愛人になったんです」
これも妹のためだったという。
頭が良い姉妹だったので、姉妹ともに姉が愛人になることで大学に行かせてくれたのだという。
姉妹の年の差が大きかったため姉が愛人になった当初は幼かったが、妹の方も成長すると美しくなった。
父親は妹にも手を出し、宗佑を妊娠させたのだという。
姉妹は肩を寄せ合ってお互いに支えながら子育てをしたらしい。
「僕も宗佑も父親を嫌ってますよ」
「あの……愛人ってことは、また別に本妻がいるってことですよね……?」
「そうですね。まあそこはあまり気にしなくてもいいですよ。住み分けがちゃんと出来てるんで」
「奥様も愛人の存在を知っているんですか?」
「知ってますよ。会ったこともあります。それなりに優しい方でしたね。本妻の方に子供が恵まれなかったので、僕たちを可愛がってくれました」
信じられなかった。
どうして自分の夫がよそで作った子供を可愛がることが出来るのか。
「そりゃ苦しんだでしょうよ。でも、諦めざるを得なかったと思いますよ」
「複雑ですね……」
「まあ、そういうわけで、僕は宗佑の兄です。長い付き合いになると思うので、宜しくね」
信田が立ち上がって私に近づき、握手を求めてきた。
「あ、あの……二人の苗字が違うんですけど……」
「簡単ですよ。信田は母親の方の苗字、榊は父親の方です」
「あ、そうなんです……かっ!」
差し出された手を握った瞬間に、信田に強く引っ張られた。
「油断したらダメですよ?」
信田にしっかりと抱き締められる形になってしまい、慌てて引き剥がそうとした。
「男が泊まっている部屋に一人で入っちゃダメって習いませんでしたか?」
「あ、あのっ……」
「全く、隙だらけで呆れてしまいます」
ぎゅっとお尻を揉まれてしまった。
「いやっ……」
「良い身体をしてますよね……ありすさん」
形を変えるほどに強く揉まれる。
「もっと強く抵抗しないんですか? これじゃあ続けてって言ってるようなものですけど」
信田は意地悪そうに私の腰を強く抱きしめ、その唇で私の唇を塞いだ。
「んううっ……」
「あーあ、兄弟揃って女の趣味も同じなんて最悪だな」
口を離してそう言った。
「僕も一目惚れだったんだけどな。宗佑が連れてきた時――素敵な女性だと思ったんですよね」
「信田先生……」
これまでの好意的な態度は気のせいだと思っていたのだが、気のせいではなかったのか。
「隣の部屋であなたの喘ぎ声を聞いた時はショックでしたよ。傷つきました。でも、同時に興奮している自分もいたのが悲しかったけれど」
出来ればこの手であなたを喘がせたい、と耳元で囁いてきた時はぞくぞくっとしてしまった。
このまま押し倒されるかと思ったが、急に信田の方から身体を離した。
「……ふう、申し訳ないことをしましたね。じゃ、明日から仕事頑張りましょう」
信田の下半身はすでに盛り上がっていた。
榊と同じくらい力強く上向いている。
私の視線が下半身に注がれていることに気付いた信田が、「見ますか?」とおちゃらけた。
「いえ、いいです……」
「でも見たそうにしてましたよ?」
「やめてください」
「ふっ……、そのうち見せますよ」
「いいですってば」
「もうキスをした仲ですし」
「やだ、それは無理矢理でしょう?」
「宗佑には秘密にしておきますから」
「当たり前です……」
「これで二人だけの秘密が出来ちゃいましたね」
茶化す信田を睨んで、部屋を出た。
自分の部屋に戻ると、ベッドになだれ込んだ。
正直危なかった。
あのまま流されていたら、信田とセックスをしてしまうだろう。
榊と信田の雰囲気が似ているのは兄弟だからだ。
腑に落ちたところで、悶々してしまった。
これから一週間、二人きりで過ごすことになる。
果たしてグイグイ迫られてもきっぱりと拒否することが出来るのだろうか。
正直、信田も魅力的な男性だ。
信田とだけ出会っていれば、確実に付き合っている。
「大丈夫かなあ……」
私が信田と二人で過ごすのが相当嫌なのか、最後まで渋っていた。
「本当に気をつけてください……」
そう言って泣く泣くバスに乗り込んでいった。
「行っちゃいましたねー」
ホテルに戻ると早々に信田がロビーで偶然を装いつつ私の姿を見つけて声を掛けてきた。
「さて、何から話しましょうかね……」
「あの……、仕事のお話ですよね?」
「まあ、それもありますけどね」
信田が不意に私の首筋に手を添えた。
「あらら、露骨なことをしますね、榊君は」
「え?」
「キスマークついてますよ、ガッツリと」
「やだっ!」
信田の手を払いのけて首筋を隠した。
抱かれている時に首にキスをされたが、結構強く吸うな、としか思わなかった。
キスマークを意図的につけていたのか、と思うと恥ずかしい。
「榊君と寝たんですね」
寝た、という言葉は何となく低俗なイメージを彷彿させる。
「……あの、信田先生には関係ないですよね」
「まあ、答えたくなければいいですよ。向こうにいた時、隣の部屋であなたの喘ぎ声を聞かされちゃあね」
「す、すみません……」
やだ、恥ずかしい、と私は首をさすった。
「でも、僕もあんまり責められませんけどね」
「え? どうして?」
「実は、あなたの喘ぎ声で自分を慰めてしまったんで」
「……ッ!」
私のビックリした顔を見て、信田が苦笑いをする。
「あなたは無自覚だから厄介なんですよね」
「と言いますと……?」
「色気があるんですよ。榊君があなたに夢中になるのは無理もないくらい、あなたは色気があります」
ロビーの真ん中で日本語で変な話をしても誰も怪訝に思うことはない。
その分、羞恥心が私の身体を纏わり付く。
「は、恥ずかしいので……あの……」
「二人きりになれる場所に移動しましょうか?」
それはそれで危険だが、恥ずかしがる姿をなるべく見られたくないので、信田の部屋に行くことになった。
私は信田にベッドに腰掛けるよう言われたが、避けて部屋にある椅子に腰掛けた。
「警戒されてますねーはは。まあそれぐらいが良いですね」
信田はベッドに楽に座って、私をじっと見つめる。
「色気あるって言われても……これまでの人生でモテたことがあんまりないんですけどね」
「うーん、それは多分違うと思いますよ。男って自分より下にいる女の方がいいんですよ。通説ですけどね。振られないって妙な自信がついたら口説くんですよ」
「そういうもんですか?」
「そう、だからオレでもイケると思うまでは口説きもしないんですよ。それだけあなたは高嶺の花というわけです」
「でも……前に付き合った人は私を振って好きな女性のところにいきましたけどね……」
「たまたまですよ。相性が悪かったりとか、タイミングの問題だったり。とにかく、あなたは色気があることをもう少し自覚した方が良いです」
私が首をかしげていると、信田が「あなたの喘ぎ声、最高でしたよ。おかげで興奮しました」と意地悪そうに笑った。
「出来れば、僕の前で喘いで欲しいんですけどね」
「そ、それは……」
断る、といった仕草で拒否した。
「宗佑が羨ましいなあ」
「榊さんとは……長い付き合いなんですか?」
私がそう訊ねると、信田が意外そうな顔をした。
「おや、聞いていませんか? 僕と宗佑の関係」
「いいえ、全く……」
「僕たちは血が繋がってますよ。ガッツリ身内です」
「え、ええっ?」
「宗佑の母親と僕の母親が姉妹なんです。姉がうちの母親で、妹が宗佑の母親です。ついでに言うと、父親が一緒です」
「え?」
一瞬思考がショートした。
「父親が、同じ? って……どういうことですか?」
「うちのクソ親父が美人姉妹である母親たちの評判を聞きつけて、まずは姉を口説いたんですよ。貧乏だったんで、うちの母親はお金に目がくらんで愛人になったんです」
これも妹のためだったという。
頭が良い姉妹だったので、姉妹ともに姉が愛人になることで大学に行かせてくれたのだという。
姉妹の年の差が大きかったため姉が愛人になった当初は幼かったが、妹の方も成長すると美しくなった。
父親は妹にも手を出し、宗佑を妊娠させたのだという。
姉妹は肩を寄せ合ってお互いに支えながら子育てをしたらしい。
「僕も宗佑も父親を嫌ってますよ」
「あの……愛人ってことは、また別に本妻がいるってことですよね……?」
「そうですね。まあそこはあまり気にしなくてもいいですよ。住み分けがちゃんと出来てるんで」
「奥様も愛人の存在を知っているんですか?」
「知ってますよ。会ったこともあります。それなりに優しい方でしたね。本妻の方に子供が恵まれなかったので、僕たちを可愛がってくれました」
信じられなかった。
どうして自分の夫がよそで作った子供を可愛がることが出来るのか。
「そりゃ苦しんだでしょうよ。でも、諦めざるを得なかったと思いますよ」
「複雑ですね……」
「まあ、そういうわけで、僕は宗佑の兄です。長い付き合いになると思うので、宜しくね」
信田が立ち上がって私に近づき、握手を求めてきた。
「あ、あの……二人の苗字が違うんですけど……」
「簡単ですよ。信田は母親の方の苗字、榊は父親の方です」
「あ、そうなんです……かっ!」
差し出された手を握った瞬間に、信田に強く引っ張られた。
「油断したらダメですよ?」
信田にしっかりと抱き締められる形になってしまい、慌てて引き剥がそうとした。
「男が泊まっている部屋に一人で入っちゃダメって習いませんでしたか?」
「あ、あのっ……」
「全く、隙だらけで呆れてしまいます」
ぎゅっとお尻を揉まれてしまった。
「いやっ……」
「良い身体をしてますよね……ありすさん」
形を変えるほどに強く揉まれる。
「もっと強く抵抗しないんですか? これじゃあ続けてって言ってるようなものですけど」
信田は意地悪そうに私の腰を強く抱きしめ、その唇で私の唇を塞いだ。
「んううっ……」
「あーあ、兄弟揃って女の趣味も同じなんて最悪だな」
口を離してそう言った。
「僕も一目惚れだったんだけどな。宗佑が連れてきた時――素敵な女性だと思ったんですよね」
「信田先生……」
これまでの好意的な態度は気のせいだと思っていたのだが、気のせいではなかったのか。
「隣の部屋であなたの喘ぎ声を聞いた時はショックでしたよ。傷つきました。でも、同時に興奮している自分もいたのが悲しかったけれど」
出来ればこの手であなたを喘がせたい、と耳元で囁いてきた時はぞくぞくっとしてしまった。
このまま押し倒されるかと思ったが、急に信田の方から身体を離した。
「……ふう、申し訳ないことをしましたね。じゃ、明日から仕事頑張りましょう」
信田の下半身はすでに盛り上がっていた。
榊と同じくらい力強く上向いている。
私の視線が下半身に注がれていることに気付いた信田が、「見ますか?」とおちゃらけた。
「いえ、いいです……」
「でも見たそうにしてましたよ?」
「やめてください」
「ふっ……、そのうち見せますよ」
「いいですってば」
「もうキスをした仲ですし」
「やだ、それは無理矢理でしょう?」
「宗佑には秘密にしておきますから」
「当たり前です……」
「これで二人だけの秘密が出来ちゃいましたね」
茶化す信田を睨んで、部屋を出た。
自分の部屋に戻ると、ベッドになだれ込んだ。
正直危なかった。
あのまま流されていたら、信田とセックスをしてしまうだろう。
榊と信田の雰囲気が似ているのは兄弟だからだ。
腑に落ちたところで、悶々してしまった。
これから一週間、二人きりで過ごすことになる。
果たしてグイグイ迫られてもきっぱりと拒否することが出来るのだろうか。
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