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12話 悪戯(いたずら)ガール

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 アミトは炬燵(こたつ)の上のミカンでも取るように、無造作とも言える動きで小柄な少女の折れそうに細い腕を掴み、立たせ、腹の前に引き寄せた。

 片手がノースリーブのブラウスとスカートの黄金色の髪の少女は、自らのブラウスの右手の生地を捻(ねじっ)った物を猿ぐつわにされ、固く目を閉じ、うつむき加減で呻(うめ)いている。

 その繊細(せんさい)な顎を、黒い鉤爪の親指と人指し指で掴むアミト
 「そこの赤い鎧!貴様が人間にしては異常なほど強いのは良く分かった!
 俺はもうこの街に興味はない、手ぶらで出て行くつもりだが!貴様はどうする?!」

 
 conan Mk-IIIは腕を組み
 「好きにしろ。それより、その民間人を離せ」


 アミトは右の手で少女の頭を上から鷲掴みにし
 「分かった、では帰るとする。
 貴様は鈍重(どんじゅう)そうだから心配はいらんが、貴様の仲間に俺を追走(ついそう)せんと約束させろ!」

 黒い鉤爪の手が少女の金の前髪を掻き上げ、色白の額を握る。

 「んんーっ!んんんーー!」
 少女が唸る。

 エンシェントリザードマンの握力なら、小振りな少女の頭蓋など熟柿(じゅくし)を潰すように、一瞬で握り潰してしまうだろう。


 conan Mk-IIIはムラマサへ向き
 「どうだ?奴が民間人を解放したら見逃してやるか?」

 ムラマサは肩をすくめ
 「ま、素直に逃げるって言ってんだからいんじゃねーの?」

 conan Mk-IIIは、赤いエンシェントリザードマンに向き直り
 「だ、そうだ。繰り返すが、今直ぐその民間人を解放しろ」

 アミトが降参するように手を上げ、少女の額に前髪が帰ってきた。
 「交渉、成立だな」

 conan Mk-III
 「いや待て。先ほどお前が言っていた、その…………何だ?
 し、四十歳(しじゅう)を越えた妙齢(みょうれい)の妖艶で、肉付きの良い美魔女達はどこにいる?」

 勝手に条件が増えていた。

 アミト「んー?あぁ、肉の垂れた者共か。
 それらなら、この街からそう遠くないロザンスカの谷の洞窟だ。
 そこには俺達が住めるほどの大きな坑(あな)は一つしかない。
 直ぐに見付けられるだろう。

 とにかく俺はこの一帯からは手を退(ひ)く。
だから貴様らとはもはや会うこともないだろう。
 だが念の為、この女は街の入り口まで預かる」
 そう言って少女の縛られた後ろ手を掴み、後退しようとする。


 平常心を取り戻した快感美剣士が、conan Mk-IIIの斜め後ろに戦線復帰していた。
 「人質を、取られたか」
 
 ムラマサ「おー2号か!お帰りー!
 そーなんだよなー。
 賭けてもいい、こいつぁーめんどくせー事になるぜ」
 黒革の手袋で前を差した。


 conan Mk-IIIは
 「いや、お前がその民間人に危害を加えんという保証はない。
 今直ぐ、その手を高く上げろ」
 赤い装甲の手を弓を引くように構える。

 アミトはそれを見てぎょっとし
 「い、いや、そうはいかん。
 この女を手放した瞬間、そっちの剣士が俺を斬るかも知れん」
 再び少女の頭を鷲掴み、トゲのアゴでメタリックレッドの後方を差す。


 ムラマサは手を叩き
 「ヌハハハハ!爬虫類のクセして意外に慎重なヤローだな」

 鏡二郎もうなずき
 「妖怪め、黙って駆ければ良いではないか。
 もっとも悪党の頭目など、この手の臆病者ともとれる、自身の危険に鋭い、慎重に慎重を重ねる者が多いがな」
 流石に悪党狩りの名手、その手の見識は高かった。
 

 conan Mk-IIIが
 「早くしろ」
 一歩踏み込んだ。


 「んんっ!」少女が呻く。
 アミトが爪を頭皮に食い込ませたのだろう。
 「う、動くな!本当に潰すぞ?!」
 

 ムラマサは銀の前髪を吹き上げ
 「やれやれ、ありゃダメだな。
 追い詰められるとノリで殺っちゃうタイプだ。
 しょーがねーなー」
 
 そう言い、両手の二丁のオートマチックガンを眺め、奇妙なことを始めた。

 「おい!レディ!ガール!起きろ!」
 突然声を上げた。

 近くには鏡二郎がいるだけ。
 だが、ムラマサは明らかに何かに呼び掛けている。

 それは自らの手元へだった……。
 

 「まぁーたこの件(くだり)やんなきゃなんねーのかよー!
 ハァ……。
 オイ!宇宙に三つとない超美人銃姉妹!」

 隣の息を飲むような美剣士が柳眉を上げ、銀髪の美男子の顔を眺める。


 「あら?ムラマサ。どうしたの?」
 女性のひどく甘ったるい声がした。

 鏡二郎が辺りを見回す。
 一周して、目線をムラマサの手先に落とす。
 どう聞いてもそこから女の声がしたからだ。

 ムラマサが「ケッ!」と言い
 「あぁレディ、悪りぃがガールも起こしてくんねーか?」
 やはり、どう見ても右手の長大な銀のオートマチックガンに話しかけている。

 レディと声を掛けられた右手の銀狼が喋った
 「分かったわ。ガール!起きて」

 今度はムラマサの左手、鏡で映したようにそっくりな、もう一丁の銀のオートマチックガンが声を上げた
 「ハーイ!起きてるよ!ムラマサどーしたの?」
 女学生を思わせるハツラツとした声だった。

 ムラマサはゲンナリした顔で
 「あぁ、久し振りだなガール。
 ちょっと弾変えてーんだけどよー、俺の肩が外れねーてーどの炸裂タイプで頼むよ。
 今回は貫通力は求めてねぇ、その逆だ。
 超破壊力重視の、先がバカッと開くヤツが良い。
 とにかくスンゲーの頼むよ」

 美剣士は不可解な面持ちで、銀狼、ムラマサの口元を代わる代わる見る。

 レディと呼ばれた右手のオートマチックガン
 「アラ?今回は標的(まと)が大きいの?」
 その声に嘲(あざけ)る調子はなかった。

 ムラマサは前方をチラッと見て
 「まーな。今回のは心臓の位置が左だっつー保証もねぇし、脳もデカイから貫通させるだけじゃ不安だ。
 ほぼ一撃で極(き)めなきゃなんねーからよ」


 左手のガールが軽やかに
 「じゃあダムダムの79でいいかなー?」
 提案するように言った。

 ムラマサが目を剥く
 「な、79!?バカかテメー?! 
 79とか俺の肩がどっかに飛んでくだろーが!」

 ガール「バカとはなによ!バカとはー!
 アーン!レディーー!バカにバカって言われたー!」
 若い妹が姉に泣き付くような声であった。

 レディは猫なで声で
 「おーよしよし。大丈夫!あなたは出来る娘(こ)よ。
 ムラマサ!貴方ね!モノを頼むならもっと言い方ってものがあるでしょ?!」

 ムラマサも姉に叱られたような顔になる  「あーもー!めんどくせーなー。
 悪かったよガール!俺が悪かった!
 次からバッチし気ぃ付けるからよー、頼むからオメーもダムの45にしといてくれ」

 レディ「分かったわムラマサ。ダムダムの45ね。
 ガール、もう許して上げなさい?」

 ガール「グスン。しょうがないわねー!
 今度バカって言ったら許さないからね!
 あんまり調子に乗ってるとダムダムの135しか出さないから!」

 ムラマサ「おい!135て!俺を車イスにしてーのかよ?!
 ケッ!分かった分かった!じゃ45で頼んだせ?」

 レディ「OK!ムラマサ、ちゃんとやっとくわ!
 じゃあ後はお好きになさい。またね」

 ムラマサは肩をすくめ
 「あぁ、またな」

 ガール「いーだ!!」


 鏡二郎は黙って聞いていたが、おっ?という顔をし
 「何だ、お前は人形劇の芸者だったか」

 ムラマサはオエッと舌を出し
 「アホ!違ぇよ!
 この銃は弾は無限だが、弾の種類はさっきのレディとガールに頼まねぇと変わらねぇーんだよ。
 毎度毎度めんどくせーことだぜ!!」
 それこそ吐き捨てるように言った。



 conan Mk-IIIは、アミトと未だ、放せ、放さないの交渉(ネゴシエーション)を繰り広げていた。


 ムラマサがconan Mk-IIIの直ぐ後ろに行き、アミトの腹の前へ手を振り
 「おーい!人質ぃー!テメー何歳だー?」

 アミトは顔を上げ、少女はンーンー!と頭(かぶり)を振った。

 ムラマサは合点し
 「あ、そーか。テメー、ギャグボール噛まされてんのか。
 んじゃあさ、うなずくかイヤイヤをしろ!良いかー?
 よし、お前19か?」


 少女は頭を横に振るう。

 ムラマサは胸を撫で下ろし
 「よーし!よしよし!先ずは大ハズレはなくなったな!」
 黒革のハットが何度も上下する。


 アミトはムラマサへ指差し
 「貴様!いきなり割り込んで来て、何を勝手に話している?!」


 ムラマサはいーからいーからと手であっち行け
 「よし!じゃあ18か?」
 言って、ムラマサは子供が注射針を刺される直前の顔。

 少女は頭をまた横に振るう。

 アミトの頭頂の鶏冠(とさか)が逆立ち、皮膜がパッと広がる。
 「貴様、勝手なやり取りをするなと言っているだろうが!!
 この女を殺すぞ!?他にも代わりの女はいるんだからな?!!」
 足元の女達を指差す。


 ムラマサは聞かず、正解を引き当てたクイズ解答者のようにガッツポーズ。
 「よーし!よしよし!!ってこたぁ……テメーは17かー?!
 そうか?!そうなんだよなー?!!」


 少女は満を持して、金髪頭を下に落とした。

 連盟捜査官conan Mk-IIIはメタリックレッドのヘルメットをムラマサへやり、アミトを指差し
 「狙撃班前へ。
 一発で無力化させねば人質が死ぬぞ。

 外すなよ?」


 ムラマサは狂気の炎を瞳に燃やし
 「テメ誰に言ってんだ!誰に!
 つーか宇宙最強のムラマサ様は二丁持ちだぜー!!ヌハハハハー!!」

 寒気がするほどの美貌の剣士は前に出て、首を傾げ
 「また言ったな。うちゅう……」


 何をされるか理解出来なかったが、少女はその美剣士の顔をまともに正面から見てしまい
 「んんっ!!」
 一声呻いて、後頭部を赤いエンシェントリザードマンのクリーム色の腹にぶつけ、ストンと芝生に尻をついた。

 アミトには限界がきたようだ。

 「だから!な、ん、な、ん、だ貴様はー?!
 俺をコケにしやがってー!!もう止めだ!この女は殺す!
 大体、俺が全力で駆ければ、人間ごときに追い付かれる訳はないだろうからなー!
 こら立て!今、湯気のそそり立つ脳味噌をこの爪で掻き出してくれる!!立て!立たぬか!!
 ええーい!!」


    ドババンッ!!
    バッシャッ!!

    ボキボキッ!!



 二匹の銀狼の先から目も眩(くら)むようなガンファイア!!


 アミトの上半身は破裂、いや爆裂し、一瞬でこの世から消滅した。


 狙撃班ムラマサが
 「うごぁーー!!」
 叫んで後方に倒れる。

 見れば、不自然に伸びた左腕が、ガンスモークの上がる銀狼を掴んだまま、あらぬ方向へ捻(ねじ)れていた。

 のたうち回る銀髪の美男
 「ちきしょー!!ガールーーー!!!テメーしれーと135入れやがったなぁーー?! うがぁーーー!痛だだだだだーーー!!」
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