退屈な魔王様は冒険者ギルドに登録して、気軽に俺TUEEEE!!を楽しむつもりだった

有角 弾正

文字の大きさ
上 下
16 / 247

15話 あれ?職権濫用ってこんな字?

しおりを挟む
 リンドーは西に鬱蒼たる森の広がる、トランより遥かに大きく、モンスター避けのバリケードも高い、王都の如くとはいかないにしろ、かなり栄えた城塞都市であった。

 勇者等は見上げるような強固な外門で、見張りの自警団に冒険者ギルドの登録証を見せると、許可云々どころの話ではなく、是非にと街の中へ歓待された。

 慌てて自警団の詰所から出てきたのは、雄牛のような角兜、スケイルアーマーの自警団長。
 ギラギラとした三十代後半の暑苦しい体育会系の男であった。

 露出の多いマリーナの肢体を見て、いかつい髭面を弛ませ
 「むほおっ!?これはこれは、いやはや凄いですな……。
 はっ!申し遅れましてすみません、私自警団長をつとめております、ゴイス=ボインスキーと申します。
 伝説の勇者様ご一行でごさいますな!?
 いやはや!お、お会いできまして光栄でございます!
 魔王討伐の旅にこの街をご利用いただけるとは……いやはや有り難き幸せ!
 ささっ!まずは、どうぞ領主にお会いください。
 今この街は丁度、七大女神祭りの真っ最中でございまして、伝説の勇者様がご観覧頂けるとのことであれば、祭は更に盛り上がりを見せること必至でございます!
 いやはや、あいにくと宿は祭りのせいで満室でございますが、領主の館に来賓用の部屋がございますのでそちらにご案内致します。 ん?私、いやはやが多いですかな?!いやはや」
 終わりの見えない屋台の列と舞い散る春の花びら、その中をそぞろ歩く賑やかな人の群れへ向けて大きな手を指した。

 自警団長の言った通り、このリンドーでは七大女神に捧ぐ、神前組手大会が開催されており、近隣からのみならず遠方からの客も非常に多く来訪し、街には隅々まで熱気が溢れ、派手に盛り上がっていた。
 
 神前組手大会とは、リンドーで毎年春に行われる、長い歴史を持つ、女性限定の二人一組のタッグマッチ形式の格闘大会で、刃のついた武器と魔法の使用は禁止、決められたエリアから押し出されるか、降参を宣言した方が敗者という女達の熱い闘いの祭りであった。

 その昔、戦国乱世の時代。
 『男達の留守の家を守る女達よ剛健にあれ』という、この土地の血気盛んな気風から自然と興ったものであったとされる。

 優勝者には、まず歴史ある大会の覇者としての栄誉、それから土地も含めた新築の家を一軒建てられるほどの価値のプラチナ硬貨一枚が与えられる。

 ただしこの大会、参加資格が厳しい事でも有名であり、まずは年齢制限が16歳以上29歳以下。
 そして、ただの力自慢や体格に恵まれているだけでは資格に満たず、少なくとも戦士、魔法、盗賊のいずれかのギルドで職業レベルが5以上でなければ参加登録も出来ない。

 この職業レベル5とは、戦士ギルドならギルドの指導役と、2㎏の片手剣での打ち合い組手を通しで30分出来なければならず。
 魔法ギルドでは四大属性の完全な理解と、その十万文字以上の論文の提出。
 盗賊ギルドなら垂直30メートルの手掛かりのある岩壁の登破がそれに当たる。

 それに加え、神前と名の付く通り、決して強ければそれで良いという訳ではなく、内面の人間性も問われ、心、技、体の全てが調和よく優れており、品行方正で犯罪歴の無い者でなければならないという。

 つまり登録、出場出来た時点で万歳三唱なハイレベルな競技大会であった。


 ユリアが神前女組手大会のパンフレットを手に、今述べた参加資格を勇者一行に読み聞かせた。

 「実際の試合では魔法の使用が禁止なのに、魔法ギルドの職業レベル5でも参加が可能なんですね。
 うーん。知性的な女性が戦略的な戦いを披露するのを期待されているのかも知れませんねー。
 私は魔法ギルドのレベルは13ですから一応、参加は可能ですねー。
 恐いから絶対やりませんけど……」
 
 カミラーは左右に引き絞ったコルセットの腰に小さな手を置き、面倒臭そうに
 「ふぅむ、じゃがお前はちっとも知性的ではないのう。
 その職業レベルとやらは幾らで買えるのじゃ?」
 ユリアの顔をしげしげと見詰めながら言った。

 ドラクロワはユリアの
 「カミラーさん!酷いですー!」
 をうっとおしそうに横目で見て
 「下らん催しだな。ふん、七大女神の好みそうな事よ。
 俺は酒場へ行って来る。お前達は買い物でも何でも好きに過ごせ。
 今宵は領主とやらの館に泊まり、明朝ここを発つ」
 言うや、ピンッ!とプラチナ硬貨を、綺麗に磨かれた紫の爪の親指で弾き、シャンにパシッ!と受け取らせた。

 禍々しい暗黒色の鎧姿は、春風に薄紫の髪を靡かせ、既に雑踏へ歩き始めていた。

 ピンクのロリータファッションがその後を
 「お供致します!」
 と慌てて追った。

 残された女勇者三名は立ち尽くし、それを見送っていたが。
 長身の深紅の鎧の美女が
 「シャン!これってさ、アタシ達シードで出れないかね?」

 女アサシンは腕を組んで、ジロッと女戦士を見て
 「私達は伝説の勇者だぞ?
 強いて求められこそすれ、断られる事はまずあるまい」

 ユリアは鳶色の眼を丸くし
 「えっ!?マリーナさん!シャンさん!
 正か、こ、これに二人で出るんですか!?」
 パンフレットにトンッ!と指を差した。

 マリーナが長い深紅の手甲の掌を挙げると、黒い爪のシャンの手が横殴りにそれをパシンッ!と握った。

 「そうゆーこと!」

 「だな」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

白水緑
ファンタジー
魔王を倒して報酬をもらって冒険者を引退しようとしたところ、支払いを踏み倒されたリラたち。 国に見切りを付けて、当てつけのように今度は魔族の味方につくことにする。 そこで出会った魔王の右腕、シルヴェストロと交友を深めて、互いの価値観を知っていくうちに、惹かれ合っていく。 そんな中、追っ手が迫り、本当に魔族の味方につくのかの判断を迫られる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...