退屈な魔王様は冒険者ギルドに登録して、気軽に俺TUEEEE!!を楽しむつもりだった

有角 弾正

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237話 一般非公開

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「ん? クダ、下らん、だとぉ? おいコラてめえっ! そら一体どういう意味だァッ!!?
 テメ、ことと次第によっちゃ、」
 自ら標榜する優位なる特異性らしき"第七位階"を軽視、いや露骨に蔑視されたロボは、 無論聞き捨てならないとして息巻いた。

「ウム、大方下手の横好きよ、まぁ黙って聴け。

 まず前提としてだがな、魔法とは、この大気と同じく、世界に充満する"魔素"を抽出して、それに意志力を付すことによって、何かしらの作用を起こさせるものだ。
 まぁ神聖、召喚魔法はまた別モノだが。

 云うなれば、一般に魔法の行使とは、大まかな仕組みとしては、ある種の毒蛙、毒魚などによく似ている。
 毒=魔素を一杯に溜め込んで、それを使う、という点ではな。

 あー、ウム、ここまでは分かるな?」
 今日は珍しく、この虚無主義のごときドラクロワが不思議なほどに饒舌である。

「あぁっ!? なんだぁテメェ!! んなこたぁテメェなんかに今更説法されなくても、コチトラ分かりきってらぁ!!」
 ロボは露骨に嬲(なぶ)られたように感じ、殆ど激昂した。

「ウム、よしよし。なるほど、それなりに基礎は把握している、ということだな。
 ならば、それとして次に進むぞ?

 となれば、その魔素と自らを限りなく調和させ、それをなるだけ蓄積しておいてから、術者本人の保有する意志力によって発火をさせるのが魔法のおおまかな原理だということになる。

 ウム。であれば魔法の効果とは、意志力がある程度強固であることが前提だが、蓄積した魔素をどういう方向で、どう作用させるかについては、その術者の持つ感性、また想像力、あいや"創造力"に依(よ)ることになる。

 つまり、ねぇ見て見て、ボク、前より大きな炎が出せたよー、とか、スゴい竜巻を喚んだよー、とか、稲妻が使えるんだーとか、太古からある既存の攻撃魔法の概念に縛られて、陳腐な魔法を多少行使したところで、その程度では初歩も初歩。
 ありきたりで当たり前の作用を、その幾らか大きい小さい、強い弱いと"誤差"の程度で勝手に切り分け──
 
 挙げ句、よしよしこれなら俺は第何(ナニ)位階だな、とか自らの無能さと浅薄をさらすがごとく悦に入っている程度では、まずまず真の意味での魔導士というには程遠い訳だ。

 それがお前達、極めて程度の低い、凡愚暗愚なる魔法使いであり、ウム、また芸術で例えるのはシャクだが、まぁ一生"模写"でもして喜んでろ、この度しがたき愚図めが、と、こう評さざるをえないのだ」
 と淡々と語るドラクロワに、すべての聴衆は困惑して、しばし水を打ったような重苦しい沈黙が場を支配した。

「…………て、テメェという野郎は、ホント、もう何て言っていいか分からねぇくらい、信じられねぇほどにひでぇヤツだな…………」
 ロボは、最早怒りなどを通り越して、真冬の湖のように、穏やかで澄みきった殺意を抱き、眼を細め、高みからドラクロワを見下ろした。

「へぇー、アタシは魔法使いじゃないから、今の説明は全然分からなかったけど、うーん、もしかしてこういうこと?
 えーっと、ま、剣でいえば、この人はネンイリな"素振り七段"てカンジかな?

 アッハ! ねぇねぇオニイサン、もっとさ、死ぬほど、血のアレが出るくらいに苦労してさ、その、えと、なんてーの? 
 うん、もっと型にハマらずさ、こう自分なりに、ノビノビーってした強さを目指して腕を磨いた方がいいんじゃないかな? アッハ!」
 マリーナは無垢な笑顔でロボに向けて宣い、シメに、バチッと眼帯の反対を閉じた。

「うん、マリーナ。前々から云おう云おうと思っていたが、お前という女はだな、不思議とズバリ話の本質を理解しておいてから、相手の気持ちを少しも斟酌せず、いつもそれを極(キ)めるが、いい加減そのうち相手も怒りだすぞ?」
 シャンは、マリーナの得た理解で大方は間違っていないとして、まるで太鼓判を捺すかのごとく、実に鷹揚に首肯してみせた。

「ヒャッ!! しゃ、シャンさんまで!! だだだ、ダメですよー! ホント全部聴こえちゃってますからね!? 
 私は慣れてますけど……直ぐに他人の至らなさをメチャクチャ正確に指摘しちゃうドラクロワさんが一番いけないんですけど、だからって、まるでそれを支援するかのようなこと言っちゃダメですってー」 
 ユリアは眼を剥いて、シャン達の無神経さに戦慄さえし、大層肝を冷やしたという。

「へぇ…………ホントお前ら、よ……どいつもこいつもトンでもねえタマだよな。
 ふう……じゃあ、そこのドラクロワさんとやら、とりあえずよ、あんたがどれだけ素晴らしい魔法使いさんなのか、早速見せてもらおうじゃあねえか、ええ?」
 ロボは、耳を覆いたくなるような歯軋り混じりに、むしろ厳かに言って、再びワンドを握り直した。

「ウム、ロボとやら、貴様がどうしてもというのなら相手をしてやらんでもないが、まぁ聴け。
 この俺の話はまだ終わっていないのだからな。

 で、お前達人間族、あいや俺もか……にとっては、この魔素というのは瘴気に似て可(か)なり有毒であり、無論直接身体に溜め込むのは不可能だ。

 だから、今お前が手にしているような短杖、ユリアのルビーの据わった杖など、ある一定に理にかなった処理が施された、代わりに魔素を蓄積する"触媒"が必須となる訳だ。

 そこで先に触れた魔法の原理に戻るのだが、一般的に、蓄えた魔素への行使、働きかけには、一義的なる意志の提示が必要となる。

 無論それは、魔法使役の為の魔素への"命令"にあたる"詠唱"によって為される訳だ。
 
 そこでだ、俺が永きにわたり研究してきた課題のひとつである、お前達魔族ではない、程度の知れた魔法使いをどう強化、向上させるか、になる。

 何が云いたいかというとだな、魔素をどの程度蓄積できるかは、自ずとその触媒の完成度、性能によって、どうしようもなく容量に限界が定められるのだが、それと同じくらいに、その蓄えた一塊の魔素への"的確なる命令"というものも重要になってくる」

「…………なるほど、な。チッ! シャクだが、テメェの云うこたぁ一々もっともだ。 
 そ、そんでよ、その大層ご立派な研究の答えってえのはどう出たってんだぁ?
 おいドラクロワとやら、黙って聞いてやる代わりに、キッチリ耳揃えて聴かせろや」
 この時ロボは、ドラクロワの持論の提示に言い知れぬ魅力を感じ、一瞬にして殺意も、また怒りすらをも忘れた。

 そしてまた、その隣にて頬杖をつく女頭目シュリも、両脇に据えられた豪奢な燭台により、美しくも険しい顏(かんばせ)を彫り深く彩られたまま、不思議と彫像のごとき沈黙を保っている。

「ウム。さて、ここからが核心だ、よく聴け。あー、例えばだな、ここに言葉を理解するのに疎い、愚鈍極まりないある奴隷が居たとする。

 この男、確かに腕っぷしだけは強いのだが、いかんせん絶望的に頭が悪く、主(あるじ)より指示された、ここに行ってあれをしろ、またこれをしろという、与えられた仕事の詳細までは理解しきれていない。

 だが、それでも重い腰をあげ、命令された役割を、持ち前の浅い理解のまま、やや見当違いに為してから、あぁくたびれた、とばかりにまた腰をおろす。

 だが、この愚図な男に対して、その郷里の言葉で解りやすく説明してやり、その上指示を段階的にしたためた"覚書"を持たせてやるとどうだ、途端に仕事の全貌と本質を理解し──

 なーんだ旦那様、最初(ハナッ)からそう説明してもらえりゃ、流石にこの馬鹿なあっしでも分かりやすぜ! と膝を叩いて、いつもとはうってかわって精力的にその能力を最大限に発揮し、実に効率よく、無駄なく仕事をまっとうするだろう」
 ここでドラクロワは少し間をおき、難しい神妙な顔つきのユリアを見た。

「は、ハイ! な、なるほどー! その奴隷とは魔素のことで、それへの命令が的確でなければ、どこか空回りして、魔素は充分に魔法としての威力を発揮出来ない、ということですね!!

 だ、だからナインサークル魔法大学は、いつもでも既存の魔法の詠唱について執拗に掘り下げるように研究を重ね、そうしてより改善、刷新されたモノを発表してきたんですね!!

 はー、そうかぁ、なるほどなるほど、より効率よく魔素に指示を与えるということも、とーっても重要なんですね。

 そ、そうか……確かに、ただ暗唱した決まりきった魔法語の詠唱という、そんな同じ指示を繰り返してばかりでは、その効果も余り代わり映えしないってことかぁ……うん、うん。

 ん? てー、あえっ!? じゃじゃじゃ、じゃあドラクロワさん! そ、その"覚書"っていうのは一体ナニにあたるんでしょうか!!?」
 ユリアは何かに弾かれたように、ハッと顔を上げた。

「お、おうよッ! 姉ちゃん! それ!! そ、そこんとこよ! 俺も丁度今聞いててよ、おやあっ? って思ったとこなんだよ!!

 どどど、ドラクロワの旦那ぁ! 旦那の云うトコのソレ、その"覚書"ってぇのが一体何かまではサッパリ見当もつかねぇが、も、もしかしてですぜ……そ、そいつさえあれば、俺達の使う魔法ってぇヤツが、そのぉ、普通のただの詠唱なんかでは絶対にかなわねえようなことに──
 そ、そう、な、なにかトンでもねぇことになるんじゃねぇんですかい!?」
 ロボは、純真無垢な子供のように眼を輝かせ、ゴクリ固唾を飲んでドラクロワの返答を待った。

「ウム。そうだ、まさしくそれこそが俺が見出だした研究の結果であり、一種秘術とも云える成果物である。

 あー、つまりだな、至極解りやすく、且(か)つ極めて乱暴に云うとだな──
 お前達の持つ、その触媒に、ある一定の文言、いや、祝詞(のりと)か、句、あいや、というより"式"とでも呼ぶべきか──
 ま、兎にも角にも、それを刻むことでだな、それこそ触媒のモノも依るが、それにより、単純にお前達の行使する魔法の効力や威力というものは、少なくとも、今までの数倍にまで飛躍的に亢進する、ということになる」
 永年の研究の結果といいながらも、また恐ろしくつまらなさそうに語るのがドラクロワである。

「す、すうば………」
 ロボは、まるで気まぐれに神託(オラクル)を授かった狂信者のような顔でドラクロワを見つめ、アワアワと分厚い唇を震わせた。

「そ、それが本当なら、す、スッゴい、スッゴいことですよ、ホント……。
 そんな素晴らしい秘術があるなんて、あのお師匠様も教えてくれませんでしたよ……てぇ、はぇ? ちょちょちょ、ちょーっとドラクロワさん!?
 あ、あのぅ、そ、そんなにスゴい秘術があるのなら、なぜ今の今まで私に教えてくれなかったんですかッ!!
 これまでの私達の旅のなかで、そりゃもう……何度も何度も絶体絶命というような危機があったじゃないですか!?
 それを今更になって、実は魔法が数倍にも強力になる方法があるのだ、なんて……。

 ──うう……ひ、酷い、じゃあ今までの私達の苦労はなんだったんですかーッ!!」
 ユリアは茫然自失の末に悲嘆に暮れ、極端に丈の短いローブの裾を握りしめた。

「ン? なぜか、だと? そんなもの、お前が訊かなかったからにきまっておろうが。

 あー、それより、そこな女。無論お前は知らんだろうが、今日は柄にもなくこの俺という男が、長々と有難い話を授けてやったのだ。
 だからして、そのようにいつまでも、間抜け面でボーッと呆けておらんで、さっさと極上の葡萄の一瓶でも出してよこさぬか」
 ドラクロワは平然とシュリに宣い、サッと辺りを見回してから、壁際に置かれた空いている椅子に顎をしゃくったという。
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