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219話 デ○ズニー映画とかのテーマは大体コレ
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明けて早朝──
遂に決戦。大陸南部最大級の祭典「ミス・南部」の開催日である。
普段は王都に次いで堅牢とされ、華やかさなどからは最も縁遠い、物々しき巨大軍事拠点ブルカノンだが、ここ数日はまるで空気が違った。
今やこの要塞都市は何処(どこ)もかしこも祭一色であり、昼夜をとわず雑踏と化した商店街には、軽業師など得体の知れぬ旅芸人達があふれ、また露天商の軒(のき)がひしめき合い、様々な音楽と喧騒とが湧き上がっていた。
また、午前から始まる競美会の舞台である、都市中枢に位置する大ホール入口からは、順番待ちの徹夜組が果てしない列をなしていた。
そして、その大舞台の裏側──
今しも飾り支度(じたく)にてんてこ舞いの乙女らが充満する、無数の鏡台が整然と設置された巨大な楽屋。
そのちょうど真ん中にて、ひとりの小柄な女が意を決したように声を張っていた。
「あの、お忙しいところすみません」
「はぁ…………あなたですか」
それを認め、恐ろしく億劫(おっくう)そうにため息をもらしたのは、年増の侍従に髪を結わせている可憐な乙女、ゴルゴンが長女メデュサである。
やはり、一般の生活圏や近所そこらではまず見かけるはずもない、非現実的(アンリアル)といっても過言でない美貌である。
「あ、はい。今、ちょっとよろしいですか?」
再度問いかける、目の覚めるようなサフラン色のドレスをまとった小柄な女はユリアであり、こちらは二人の灰銀色のお澄(す)ましメイドらを従えている。
そのユリアの壮麗な煌(きら)めく黄色衣装だが、恐らく競美会運営からの借り物であろう。
そう、これがまた絶望的に着なれた風がしなかったから。
「はぁ、なんですか? 今さらあんなお茶など結構ですが」
金色の長い美髪を束ねられ、わずかに頭部を揺らすメデュサは、今や身も心も競美の第一級選手へと転身しており、昨夜のミントティーへの固着など雲散霧消としていた。
「あ、いえ、そのことではなくて。あの"ジビエさん"という方についてなんですが」
ユリアの用件とは、昨夜の悪夢、猟奇の鋼鉄魔人についてである。
「あぁ。そういえば昨夜からジビエを見ませんわ」
次女のエウリュアレが、手にした華美な手鏡で頭頂の髪飾りをチェックしながら、どうでもよいことのように言った。
こちらも姉に負けず劣らず、まさに息をのむような美貌へと仕上がっている。
「あ、はい。その方の事なんですが。昨夜の貴女は、あのジビエさんに、私達からお茶の葉を奪うよう命令した際、確かに"生死は問いません"といいましたよね?」
ユリアは滅多に点(さ)さぬ頬紅の顔を神妙にしてメデュサへ問う。
「……? それが、なんだというのですか?」
恐ろしく邪険に聞き返すメデュサ。
「えと、はい。それが確かなら、昨夜あれほど平然と指示をされていた様子から察するに、あなたはあのジビエさんに、常習的に他者に不当な暴行を加えるよう指示してきたと思われます。
とすれば、これは明らかに大陸国王法に背く犯罪行為です。
で、ですから競美会などに出場するより、まずは軍に出頭して、過去に闇から闇からへと葬ってきたであろう人々についての供述をしていただきたいんです」
と、ゴルゴンの名の元に行われてきたであろう数々の蛮行、またおぞましい私刑(リンチ)について重々しく追及するユリア。
「はぁ……何を言い出すかと思えば、そんな下らないことですか。
まったく、勇者様とは相当にお暇なのですね。
で、あなたは何を証拠に私を訴えるつもりなのですか?
まさか、今あなたの言った昨夜の私の指示。生死は問いませんという、そのたったひとつの発言だけで、この私を告発するつもりですか?
はぁ、そんなもの、それくらいの真剣さを以(もっ)て茶葉を奪取しなさい、と指示をしたまで、別して殺人を強要したわけではない、と私が主張すれば、それきりで終わりではないですか」
「なるほど、きっとそう言われると思っていました。
ですが、あのジビエさんの箍(たが)の外れた嗜虐性(しぎゃくせい)、そして異常な強さから察するに、きっとこれまでにも多くの方々が、」
「はぁ、ジビエが、あの不潔な馬番ごときがなんだというのです……。
その昔、私達の祖父が何処(どこ)かの荒野で拾ってきた、わずかなお小遣いをまいてやれば大抵何でも片付ける、そんな用心棒のひとりに過ぎません」
「そうですわ! ゴルゴンに無数にいる使用人のひとりがなんだというのです!
そんなくだらない話で私達の貴重な時間を奪うはおやめなさい!」
カッとヒールで床を打つ、姉妹のうち一番小柄なステンノだが、それでもユリアより頭ひとつは高い。
さて、元よりこの南部の乙女らの憧れの的にして、今大会の最有力優勝候補のゴルゴン三姉妹──
それが何者かともめているとなれば、無論何事かと、他の参加者らも盛装(せいそう)の手を止め、刹那、水を打ったような静寂が差す。
「はぁ……あなたの主張は分かりました。その愚直なまでに生真面目な性格、きっとお仲間内でも、さぞや煙たがられておいででしょうね」
「そうですわ! 本当に煩(わずら)わしい! だいたい昨夜お姉様が指摘して差しあげたのに、そんな安っぽいドレスまで着て、まだ参加をするつもりなのですか!?」
「その通り! まったく場違い甚(はなは)だしいとはこのことですわ! いい加減身の程というものをわきまえなさい!」
南部競美会の常勝無敗にして、美の血脈ゴルゴン一門。その今期代表ゆえ、まず必勝という任務を背負わされた三姉妹は、如何(いか)な衆目を集めようとも毛ほども怯(ひる)まなかった。
すると、これを見守る可憐な参加者らも、壮麗に着飾ったユリアの"寸足らず"を認め、頬に手をあてては仲間とささやき始めた。
「はい、分かりました。あくまで無罪を主張されるおつもりですね。
確かに、こちらとしてもこれ以上の追及は出来ないようです。残念ですが仕方がありません。
ですが、今後はもう、使用人に争いをけしかけるようなことは止めてください。どうかお願いします」
一応仲間のなかでは最も勇者らしい気質のユリアは、同時に最も平和を愛する人間でもあった、が。
「はぁ、本当余計なお世話ですわ」
「クッ! なんです! その釘を刺すような言い方はッ!」
「我等ゴルゴン、断じてあなたなどに、なにかを諭される覚えはありませんッ!」
と、余計に傲岸不遜(ごうがんふそん)な女帝らを煽(あお)っただけだった。
「フフ……。では勇者様、この競美会であなた達がもし優勝でもしたならば、あなたのいうこと、少しは考えて差しあげましょう」
繊細な顎を付き出してユリアを睥睨(へいげい)する冷笑のメデュサは、どことなく高貴な白猫を想わせる。
「ウフフフフ!! お姉様ったらホントに意地悪。
よくも、そんな天地がひっくり返っても無理なことをっ!」
華奢な身体を折って嘲笑するステンノ。
「わあっ酷い冗談っ! ああそうだ! いいことを教えてあげましょう!
ちっぽけなあなたや、あの日焼けの傷まみれさんなんかより、そこ、その後ろの二人の小間使いをチームにお入れなさいな! その方がいくらかましにはなるでしょう!?」
エウリュアレはアンとビスを指して言い、姉の薄い肩へ寄りかかった。
「いいんです。私なら大丈夫……」
ユリアは手を横に上げ、今露骨な怒気を帯びて前に歩み出て、エウリュアレの頬を叩(はた)かんとしたアンを制した。
「は、はい……」
アンは憤怒のあまり、雪の肌の鼻梁(はな)辺りを蒼白くさせつつ、不承不承と姉の真横へ後退した。
「はぁ、このゴルゴンに思慮もなくたてついた勇者さん。
思い上がったあなたには、それ相応の罰が必要ですね。
ではこうしましょう。もしも、もしもあなた達がこの競美会にて優勝を果たしたなら、私はあなたのどんな訴えも是(ぜ)とし、無条件にそれに従いましょう。
はぁ、ここにいる耳のある数百の参加者、そのすべてが証人です」
どういう風の吹き回しか、なにやらメデュサは賭けのような事を持ちかけた。
自然、見守る参加者らが異様などよめきを以(もっ)て揺れたため、この広大な楽屋に一時、あの若い女性だけが放つ、特有の甘いような香りが萌立った。
「え? ば、バツ? あえ? 今罰と言いました?」
ユリアも新展開について行けない。
「そうです。ですが、このゴルゴンが勝利したときには、そこの二人。
そう、ゴルゴンに仕えるには一応の及第点のライカンの小間使い、その二人を私達に差し出すのです」
「はえっ!? ちょ、ちょっと待ってください!! あなた急になにを言い出すんです!?」
「お、お姉さま?」
流石にメデュサの物言いに面食らう妹ら。
ここで、ようやっとユリアは愛らしい顔をしかめ、メデュサへの反感を露(あらわ)にした。
「あ、あのですねぇ! このアンさんとビスさんは私の欠けがえのない、とーっても大切な仲間です!
それを先程から黙って聞いていれば、小間使いとか一応のなんとかとか、ましてや、まるで物のように差し出せ、だなんて。
流石に失礼にもほどがあるんじゃな、」
「はぁ、あなた──」
「ぅな、なんですか!?」
「はぁ。あなたは、いつから無期限の耐えがたき飢餓と戦っていますか?
そして、毎朝暗い内からどれほど走り、それで一体何足の靴をダメにしましたか?」
「あえ? ちょ、ちょっと……今度は急になんの話ですか?」
ユリアは、唐突に投げられた不可解な問いにただただ翻弄されるばかりである。
「はぁ、ここにいる数百の参加者は、皆ひとり残らずこの競美会、只この一日に己のすべてをかけ、今日この場に立っています。
それを、それを何の節制も鍛練も、また特別な思い入れもなく、恐らくは単なる思いつき程度の動機で参加しようとしている、あなた──
私達のことを失礼というのなら、もはやあなたのその存在そのものが、この私達にとっては決して許すことが出来ないほどの侮辱なのです」
と、メデュサが独特なる矜持(きょうじ)を説(と)くや、この巨大な楽屋にひしめく可憐な参加者らからは、無数のしゃくり上げるような声、また嗚咽とが上がった。
中には恐ろしい目で、まるで刺すようにユリアを見る者もいる。
「あ、え、えと……私、決してそんなつもりは──」
流石にユリアも圧倒され、思わず己の意識の低さを猛省するか、と思いきや。
「わ、私は、なんと評されようとも決して退きませんッ!!
そして、そして繰り返しますが、このお二人は私の欠けがえのない、まさに運命を共にする仲間であり親友です!!
どんなことがあってもお別れするつもりはありませんからぁっ!!」
わずかに垂れた大きな鳶色の瞳を潤ませ、ユリアは堂々と決意表明を発した。
無論この恐ろしいまでの"勘違い"とは、少し前にドラクロワが放った、この競美会の物差しをへし折り、その狭量なる美意識を根底から覆せ、という、あの怪演説(213話参照)。その恐るべし洗脳力による産物であった、とか。
「はぁ……あなたのその強情さ、そして根拠も、なんの裏打ちもない常軌を逸した自信……この私には目眩(めまい)がするほどに不愉快で、到底理解が及びません……。
はぁ、もう、もう本当に結構です。今日は精一杯頑張って、人生最大の恥でもおかきなさい」
メデュサは偏頭痛にでも襲われたようにこめかみ辺りを押さえ、籐(とう)の座席へと深く沈みこんだ。
いっておくが、ユリアは断じて醜いとか、肥満をしている訳ではない。
むしろ痩せすぎの部類に入り、このゴルゴンの三姉妹をして"妬(ねた)ましい"と言わしめたほどの美しさを持った、極めて愛くるしい乙女である。
だがしかし──
超一流のモデルとそのアイドル、またモータースポーツの最新鋭フォーミュラーカーと流麗なるスポーツカーとが相並べば、そこにはどうしようもない違和感が充満するのみ。
仮に最高峰パティシエらが鎬(しのぎ)を削るケーキコンクールがあったとして、そこにどこかの間抜けが紛(まぎ)れ込み、あまつさえ謎の使命感をさえ帯び、手塩にかけた最高級の金時を使った"極上の焼き芋"を出品したとしよう。
だが哀しいかな、その間抜けがどんなに純真な魂を持っていようが、またその場にて、いかに生涯最高の大傑作を完成させようとも、そのすべては単なる迷惑行為に外(ほか)ならないのだ。
そしてまた「えっなんで?! オレ焼き芋大好きなんだけど?」などという、とち狂った審査員も存在しないのである。
だが、この度の伝説のポテトは違った──
世界の誰ひとりとして頼んでもいないのに、大陸南部、その未来の凡百なる乙女らに勝手に思いを馳(は)せ、瞳を潤ませては確(しか)とメデュサを見据え──
「はい! ではゴルゴンの皆さん、表彰台でお会いしましょう!」
と威風堂々と宣(のたま)ったという。
遂に決戦。大陸南部最大級の祭典「ミス・南部」の開催日である。
普段は王都に次いで堅牢とされ、華やかさなどからは最も縁遠い、物々しき巨大軍事拠点ブルカノンだが、ここ数日はまるで空気が違った。
今やこの要塞都市は何処(どこ)もかしこも祭一色であり、昼夜をとわず雑踏と化した商店街には、軽業師など得体の知れぬ旅芸人達があふれ、また露天商の軒(のき)がひしめき合い、様々な音楽と喧騒とが湧き上がっていた。
また、午前から始まる競美会の舞台である、都市中枢に位置する大ホール入口からは、順番待ちの徹夜組が果てしない列をなしていた。
そして、その大舞台の裏側──
今しも飾り支度(じたく)にてんてこ舞いの乙女らが充満する、無数の鏡台が整然と設置された巨大な楽屋。
そのちょうど真ん中にて、ひとりの小柄な女が意を決したように声を張っていた。
「あの、お忙しいところすみません」
「はぁ…………あなたですか」
それを認め、恐ろしく億劫(おっくう)そうにため息をもらしたのは、年増の侍従に髪を結わせている可憐な乙女、ゴルゴンが長女メデュサである。
やはり、一般の生活圏や近所そこらではまず見かけるはずもない、非現実的(アンリアル)といっても過言でない美貌である。
「あ、はい。今、ちょっとよろしいですか?」
再度問いかける、目の覚めるようなサフラン色のドレスをまとった小柄な女はユリアであり、こちらは二人の灰銀色のお澄(す)ましメイドらを従えている。
そのユリアの壮麗な煌(きら)めく黄色衣装だが、恐らく競美会運営からの借り物であろう。
そう、これがまた絶望的に着なれた風がしなかったから。
「はぁ、なんですか? 今さらあんなお茶など結構ですが」
金色の長い美髪を束ねられ、わずかに頭部を揺らすメデュサは、今や身も心も競美の第一級選手へと転身しており、昨夜のミントティーへの固着など雲散霧消としていた。
「あ、いえ、そのことではなくて。あの"ジビエさん"という方についてなんですが」
ユリアの用件とは、昨夜の悪夢、猟奇の鋼鉄魔人についてである。
「あぁ。そういえば昨夜からジビエを見ませんわ」
次女のエウリュアレが、手にした華美な手鏡で頭頂の髪飾りをチェックしながら、どうでもよいことのように言った。
こちらも姉に負けず劣らず、まさに息をのむような美貌へと仕上がっている。
「あ、はい。その方の事なんですが。昨夜の貴女は、あのジビエさんに、私達からお茶の葉を奪うよう命令した際、確かに"生死は問いません"といいましたよね?」
ユリアは滅多に点(さ)さぬ頬紅の顔を神妙にしてメデュサへ問う。
「……? それが、なんだというのですか?」
恐ろしく邪険に聞き返すメデュサ。
「えと、はい。それが確かなら、昨夜あれほど平然と指示をされていた様子から察するに、あなたはあのジビエさんに、常習的に他者に不当な暴行を加えるよう指示してきたと思われます。
とすれば、これは明らかに大陸国王法に背く犯罪行為です。
で、ですから競美会などに出場するより、まずは軍に出頭して、過去に闇から闇からへと葬ってきたであろう人々についての供述をしていただきたいんです」
と、ゴルゴンの名の元に行われてきたであろう数々の蛮行、またおぞましい私刑(リンチ)について重々しく追及するユリア。
「はぁ……何を言い出すかと思えば、そんな下らないことですか。
まったく、勇者様とは相当にお暇なのですね。
で、あなたは何を証拠に私を訴えるつもりなのですか?
まさか、今あなたの言った昨夜の私の指示。生死は問いませんという、そのたったひとつの発言だけで、この私を告発するつもりですか?
はぁ、そんなもの、それくらいの真剣さを以(もっ)て茶葉を奪取しなさい、と指示をしたまで、別して殺人を強要したわけではない、と私が主張すれば、それきりで終わりではないですか」
「なるほど、きっとそう言われると思っていました。
ですが、あのジビエさんの箍(たが)の外れた嗜虐性(しぎゃくせい)、そして異常な強さから察するに、きっとこれまでにも多くの方々が、」
「はぁ、ジビエが、あの不潔な馬番ごときがなんだというのです……。
その昔、私達の祖父が何処(どこ)かの荒野で拾ってきた、わずかなお小遣いをまいてやれば大抵何でも片付ける、そんな用心棒のひとりに過ぎません」
「そうですわ! ゴルゴンに無数にいる使用人のひとりがなんだというのです!
そんなくだらない話で私達の貴重な時間を奪うはおやめなさい!」
カッとヒールで床を打つ、姉妹のうち一番小柄なステンノだが、それでもユリアより頭ひとつは高い。
さて、元よりこの南部の乙女らの憧れの的にして、今大会の最有力優勝候補のゴルゴン三姉妹──
それが何者かともめているとなれば、無論何事かと、他の参加者らも盛装(せいそう)の手を止め、刹那、水を打ったような静寂が差す。
「はぁ……あなたの主張は分かりました。その愚直なまでに生真面目な性格、きっとお仲間内でも、さぞや煙たがられておいででしょうね」
「そうですわ! 本当に煩(わずら)わしい! だいたい昨夜お姉様が指摘して差しあげたのに、そんな安っぽいドレスまで着て、まだ参加をするつもりなのですか!?」
「その通り! まったく場違い甚(はなは)だしいとはこのことですわ! いい加減身の程というものをわきまえなさい!」
南部競美会の常勝無敗にして、美の血脈ゴルゴン一門。その今期代表ゆえ、まず必勝という任務を背負わされた三姉妹は、如何(いか)な衆目を集めようとも毛ほども怯(ひる)まなかった。
すると、これを見守る可憐な参加者らも、壮麗に着飾ったユリアの"寸足らず"を認め、頬に手をあてては仲間とささやき始めた。
「はい、分かりました。あくまで無罪を主張されるおつもりですね。
確かに、こちらとしてもこれ以上の追及は出来ないようです。残念ですが仕方がありません。
ですが、今後はもう、使用人に争いをけしかけるようなことは止めてください。どうかお願いします」
一応仲間のなかでは最も勇者らしい気質のユリアは、同時に最も平和を愛する人間でもあった、が。
「はぁ、本当余計なお世話ですわ」
「クッ! なんです! その釘を刺すような言い方はッ!」
「我等ゴルゴン、断じてあなたなどに、なにかを諭される覚えはありませんッ!」
と、余計に傲岸不遜(ごうがんふそん)な女帝らを煽(あお)っただけだった。
「フフ……。では勇者様、この競美会であなた達がもし優勝でもしたならば、あなたのいうこと、少しは考えて差しあげましょう」
繊細な顎を付き出してユリアを睥睨(へいげい)する冷笑のメデュサは、どことなく高貴な白猫を想わせる。
「ウフフフフ!! お姉様ったらホントに意地悪。
よくも、そんな天地がひっくり返っても無理なことをっ!」
華奢な身体を折って嘲笑するステンノ。
「わあっ酷い冗談っ! ああそうだ! いいことを教えてあげましょう!
ちっぽけなあなたや、あの日焼けの傷まみれさんなんかより、そこ、その後ろの二人の小間使いをチームにお入れなさいな! その方がいくらかましにはなるでしょう!?」
エウリュアレはアンとビスを指して言い、姉の薄い肩へ寄りかかった。
「いいんです。私なら大丈夫……」
ユリアは手を横に上げ、今露骨な怒気を帯びて前に歩み出て、エウリュアレの頬を叩(はた)かんとしたアンを制した。
「は、はい……」
アンは憤怒のあまり、雪の肌の鼻梁(はな)辺りを蒼白くさせつつ、不承不承と姉の真横へ後退した。
「はぁ、このゴルゴンに思慮もなくたてついた勇者さん。
思い上がったあなたには、それ相応の罰が必要ですね。
ではこうしましょう。もしも、もしもあなた達がこの競美会にて優勝を果たしたなら、私はあなたのどんな訴えも是(ぜ)とし、無条件にそれに従いましょう。
はぁ、ここにいる耳のある数百の参加者、そのすべてが証人です」
どういう風の吹き回しか、なにやらメデュサは賭けのような事を持ちかけた。
自然、見守る参加者らが異様などよめきを以(もっ)て揺れたため、この広大な楽屋に一時、あの若い女性だけが放つ、特有の甘いような香りが萌立った。
「え? ば、バツ? あえ? 今罰と言いました?」
ユリアも新展開について行けない。
「そうです。ですが、このゴルゴンが勝利したときには、そこの二人。
そう、ゴルゴンに仕えるには一応の及第点のライカンの小間使い、その二人を私達に差し出すのです」
「はえっ!? ちょ、ちょっと待ってください!! あなた急になにを言い出すんです!?」
「お、お姉さま?」
流石にメデュサの物言いに面食らう妹ら。
ここで、ようやっとユリアは愛らしい顔をしかめ、メデュサへの反感を露(あらわ)にした。
「あ、あのですねぇ! このアンさんとビスさんは私の欠けがえのない、とーっても大切な仲間です!
それを先程から黙って聞いていれば、小間使いとか一応のなんとかとか、ましてや、まるで物のように差し出せ、だなんて。
流石に失礼にもほどがあるんじゃな、」
「はぁ、あなた──」
「ぅな、なんですか!?」
「はぁ。あなたは、いつから無期限の耐えがたき飢餓と戦っていますか?
そして、毎朝暗い内からどれほど走り、それで一体何足の靴をダメにしましたか?」
「あえ? ちょ、ちょっと……今度は急になんの話ですか?」
ユリアは、唐突に投げられた不可解な問いにただただ翻弄されるばかりである。
「はぁ、ここにいる数百の参加者は、皆ひとり残らずこの競美会、只この一日に己のすべてをかけ、今日この場に立っています。
それを、それを何の節制も鍛練も、また特別な思い入れもなく、恐らくは単なる思いつき程度の動機で参加しようとしている、あなた──
私達のことを失礼というのなら、もはやあなたのその存在そのものが、この私達にとっては決して許すことが出来ないほどの侮辱なのです」
と、メデュサが独特なる矜持(きょうじ)を説(と)くや、この巨大な楽屋にひしめく可憐な参加者らからは、無数のしゃくり上げるような声、また嗚咽とが上がった。
中には恐ろしい目で、まるで刺すようにユリアを見る者もいる。
「あ、え、えと……私、決してそんなつもりは──」
流石にユリアも圧倒され、思わず己の意識の低さを猛省するか、と思いきや。
「わ、私は、なんと評されようとも決して退きませんッ!!
そして、そして繰り返しますが、このお二人は私の欠けがえのない、まさに運命を共にする仲間であり親友です!!
どんなことがあってもお別れするつもりはありませんからぁっ!!」
わずかに垂れた大きな鳶色の瞳を潤ませ、ユリアは堂々と決意表明を発した。
無論この恐ろしいまでの"勘違い"とは、少し前にドラクロワが放った、この競美会の物差しをへし折り、その狭量なる美意識を根底から覆せ、という、あの怪演説(213話参照)。その恐るべし洗脳力による産物であった、とか。
「はぁ……あなたのその強情さ、そして根拠も、なんの裏打ちもない常軌を逸した自信……この私には目眩(めまい)がするほどに不愉快で、到底理解が及びません……。
はぁ、もう、もう本当に結構です。今日は精一杯頑張って、人生最大の恥でもおかきなさい」
メデュサは偏頭痛にでも襲われたようにこめかみ辺りを押さえ、籐(とう)の座席へと深く沈みこんだ。
いっておくが、ユリアは断じて醜いとか、肥満をしている訳ではない。
むしろ痩せすぎの部類に入り、このゴルゴンの三姉妹をして"妬(ねた)ましい"と言わしめたほどの美しさを持った、極めて愛くるしい乙女である。
だがしかし──
超一流のモデルとそのアイドル、またモータースポーツの最新鋭フォーミュラーカーと流麗なるスポーツカーとが相並べば、そこにはどうしようもない違和感が充満するのみ。
仮に最高峰パティシエらが鎬(しのぎ)を削るケーキコンクールがあったとして、そこにどこかの間抜けが紛(まぎ)れ込み、あまつさえ謎の使命感をさえ帯び、手塩にかけた最高級の金時を使った"極上の焼き芋"を出品したとしよう。
だが哀しいかな、その間抜けがどんなに純真な魂を持っていようが、またその場にて、いかに生涯最高の大傑作を完成させようとも、そのすべては単なる迷惑行為に外(ほか)ならないのだ。
そしてまた「えっなんで?! オレ焼き芋大好きなんだけど?」などという、とち狂った審査員も存在しないのである。
だが、この度の伝説のポテトは違った──
世界の誰ひとりとして頼んでもいないのに、大陸南部、その未来の凡百なる乙女らに勝手に思いを馳(は)せ、瞳を潤ませては確(しか)とメデュサを見据え──
「はい! ではゴルゴンの皆さん、表彰台でお会いしましょう!」
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その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
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しかし、その屋台店に数々の冒険者は救われ、そしてそこで食べた「らーめん」なる摩訶不思議なシチューに長細い何かが入った食べ物に魅了される。
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