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186話 3話で花火出てた……

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 葡萄酒の瓶を手に提(さ)げたドラクロワは、先頭をシャンとする、なぜかマリーナを欠いた女四名達に誘われるままに村の外れ、いや、そこの魔物避けのバリケードを越えた更に先、その草原を幾らか歩かされた。

 そうして──

 「これシャン。どこまで歩かせるのじゃ?その練習場とやらはまだかえ?」 
 と、カミラーが文句を言うか言わずかのとこで、漸(ようや)く一行は、ちょっとした大樹の切り株が異様な存在感を放って止まぬ、丸く開けた林の一角へと辿り着いた。

 そして、ヒンヤリとしたそこを見渡せば、煌々(こうこう)とした月明かりに切り取られたような、楕円の形に照らされたその切り株の上に、遠目にも重々しい何かが、ドンと鎮座しているではないか。

 「ウーン。なーにが出てくるかと思えば、何処の街ででも手に入りそうな、見るからに粗末な、ありふれた胴鎧が一個あるだけではないかえ?」

 夜目の利く闇の一族、その頭主たるカミラーが、前方25メートル程の所に在(あ)る切り株の真ん中に据え置かれた、鈍く光る鋼鉄鎧の籠手なしの上半身を眺めて言った。

 「ウム。あれなるブレストプレート、よくよく見れば、かなり破損しておるようだ。
 なるほど……あの鎧を的にして、その武器を使うと、そういう訳か」
 ドラクロワも夕闇にもハッキリと映る、その胴鎧の胸、腹、また肩当てといった、それら随所に穿(うが)たれた突入孔(あな)等を見て言った。

 「フフフ……流石はドラクロワだ。察しがいいな。
 そうだ、あの穴だらけの鎧こそは、この武器の訓練に使用したものだ」

 言ったシャンが、手にした革の包みの紐を解き、その内容物である、あの異世界にて一目で恋い焦がれ、それこそ強いて強いて所望し、そして譲り受けた''ピストル''がその姿を現したのである。

 その、人の本能的な部分に戦慄を覚えさせられるような、剣呑極まりない殺気に満ちた、何とも云えぬ禍々しさを纏って黒光りする物体にドラクロワとカミラーの瞳も釘付けとなった。

 「エヘヘ!ドラクロワさん!コレコレ!これがトンでもない武器の''ピストル''なんですよ!」
 ユリアが小さな人差し指で、この世界には存在はおろか、その概念すらない火薬兵器である'''拳銃''を差した。

 「うぬ?それが、すべての戦闘を覆すとかいう、なんとも大仰な触れ込みの強力無比なる武器なのかえ?
 うーん……。ちょっと見たところ、妙ちきりんな鉄の筒にしか見えぬがのう?
 うん、どこにも刃らしきものも見当たらんし……。
 あぁ分かったぞえ、コレには何か特殊な魔法が仕掛けてあるのじゃな?」
 カミラーがシャンが何気なくぶら下げた六連発の回転式拳銃(リボルバー)を眺め、一通りの所見を述べ
 「ウンウン。なるほどのー、異世界武器とは攻撃魔法の飛び出す香炉(こうろ)じゃったかー」
 と勝手に独り合点を済ませた。

 「ウム、この黒色鋳物らしきモノからは何か得体の知れぬ不吉な情調を感じぬでもないが……ウム、しかし特に魔素の類いは見えぬな。
 シャンよ、ソレを寄越せ」
 ドラクロワは殺気じみた視線でピストルを睨み、腕を伸ばす。

 「えっ?まさか!ドラクロワさんって魔素が見えるんですか?
 スッゴい!何の魔法も使わず瞬時に魔力の有無を感知するなんてー!!
 ふぁーっ!ヤッパリ、ヤッパリドラクロワさんはちょっと違うなぁー!」

 「フフフ……お前もコレの放つ、何とも云えぬ禍々しき凄味を感じ取ったか。
 だが、コレを手に取るのは少し待ってくれ、この特殊な武器は何の知識もなく無闇やたらに弄(いじ)くると思わぬ怪我をしかねんからな」
 シャンがピストルを眼前に掲げ、ドラクロワに歩み寄った。

 そして、この銃火器の仕様について充分な解説を施し、やっとドラクロワへと預けた。

 ドラクロワは大して恐れる風もなく、正しく無造作にピストルの銃把(グリップ)を握り、興味深げにその長い銃身(バレル)、照星(フロントサイト)辺りを見つめ、撃鉄(ハンマー)に親指をかけた。

 「ウム、コレが前に倒れると、こんな小さなタマの尻を叩き、その内部に詰めた火薬が炸裂して、ここの先からその先端部が飛び出すという、そういった仕組みか……。
 なるほど、な。ウム、この筒の内側にも螺旋が刻まれており、このタマの突貫力と方向安定性とを増すのに寄与しておるわ」
 空の弾倉の拳銃と左手の弾丸とを代わる代わる眺めて言った。

 「フフフ……まぁ大まかなところはそうだ。
 どうだドラクロワ?撃ってみたくはないか?」
 
 「キャッ!!ききき、気をつけてくださいねドラクロワさん!!
 ソレ、スンゴイ威力なんですから!」

 鳶色の瞳の目を剥いて、ドラクロワの手首の気まぐれで、己れに向いた銃口から逃げ惑うユリアだった。
 が、前述したように、このピストルの回転式弾倉(シリンダー)には、未だ一発の弾丸も装填されてはいなかったので、この彼女の動揺とはまったくのオーバーリアクションでしかなかった。

 それを恐ろしく冷めた横目で流し見たドラクロワは
 「ウム、それにしても……こんな無駄に手が込んだだけのまったく使えぬ武器が、どうやってこの星の戦闘を覆すというのだ?」
 最早興味を失った、とばかりに、拳銃を放るようにシャンへと返すのだった。

 「うん?使えぬ、だと?何を言うかドラクロワ。
 このピストルの恐ろしい殺傷能力はだな、」

 「使えぬよ。先ず、一息に放てるとはいえ、その攻撃が六、たったの六矢であることが一つ。
 そして、その六回の攻撃に耐えた敵が猛然と襲い来る中、やたら手のかかるタマの詰め替えを必要とすること。
 また、幾らか戦闘で使用したら、定期的に分解掃除をしてやらねばならんというどうしようもない面倒さ……。
 ウム、これはどこをどう見ても魔法の方が千倍も万倍も利便性がある、と、こう思うがな。
 ウーム、理屈屋のお前が珍しく鼻息荒くも誉めていたものだから、さて何事かと想えば……正直、期待外れもいいとこだ」

 魔王は、名作と呼び声の高い映画がまったく趣味に合わないで、その二時間ほどを無為・無駄にしてしまった時ような、そんな虚しさを噛み締めるがごとき、恐ろしく興醒めの顔となって、深いため息をついた。

 「ウフフ」

 「フフフ……」

 「ホホホ」

 「ホホホ」

 これに、不意に女勇者達とその従者等が笑う。

 「うぬ?なーんでそこで笑うのじゃ?これ!お前達!ドラクロワ様に無礼であるぞっ!」
 カミラーは、今や口を押さえて吹き出す者達に不快感を覚え、吼(ほ)えた。

 「ウフフ!だって!だってー!今ドラクロワさんの言った感想って、異世界でこの武器について説明を受けたときのシャンさん、マリーナさん達とそっくりそのままおんなじだったんですよー!
 フフフフフッ!あー可っ笑しい!!」
 ユリアが腰を折って笑う。

 ドラクロワとカミラーは、女達が、カラカラと笑う様を見ながら何とも云えぬ顔となった。

 そして、カミラーがまたそれらを嗜(たしな)めようとした時。

 「フフフ……そうそう、そう思うよな。こんな小さなモノが、例え花火に使う火薬を選りすぐり、それを炸裂させてみたとて、それがどれほどの破壊力を生もうか、とな……。
 うんうん、その気持ちとても分かるぞ。
 だがなドラクロワ、なんでも決めつけは善(よ)くない、先(ま)ずはこのピストルの威力を見てから言ってくれ」
 と、シャンが言ったとこに、なにやら村の方角から茂みを擂(す)り潰すような音と、高らかなマリーナの声が届いた。

 「オーイ!お待たせーっ!!言われた通り、サイッコーに頑丈な''バケモノ鎧''を買ってきたよー!!」

 その分かりやすい美貌の女戦士は、大きな手押し車に弩(いしゆみ)、そして、まるで巨人族(オーガー)が着るように大きな、堅牢そのものの板金鎧(プレートアーマー)の一式を積んでいたという。
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