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171話 優れた個体ほど成長が遅いらしい
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このラグナ=タイゴンという刺青の巨人とは、魔界にて禄(ろく)を食(は)む、一応の吸血貴族の家に生まれ、なに不自由ない数百年の成長期を過ごした。
だが、その生来の粗暴さと嗜虐(しぎゃく)的性情とは、領地を粛々と統治する貴族には不向きであり、タイゴンは家に仕える平民吸血鬼の者等の些細な落ち度を殊更に拾っては
「おのれ、貴族に粗相を働くとは何事か!?」
と大袈裟に取り立て、叱責し、それら下女や下男等を獄へと押し込め、夜な夜な鞭打ったという。
そして、この不当にして過剰なる虐待・私的制裁の果てに、それらの命を奪うことさえ珍しくなかった。
こうして悪逆無道な貴族として成長したタイゴンは、この折檻(せっかん)とは名ばかりの己のサディズムの解放に生きる''よすが''を見いだし、その歪んだ快楽に耽溺するのに加速度的に夢中になっていった。
そして、次第に彼は、哀れな被害者達を一思いに絶命させることよりも、じわじわといたぶることの方に深い悦楽を覚え、より犠牲者等を長く苦しめることに巧妙になっていった。
そうして幾星霜(いくせいそう)、息子や娘をラグナ家へと奉公に出させていた両親等が、それらが息災を伝える手紙を寄越すばかりで、ただの一人として戻らぬことを不審に思い、魔界の行政へと陳情を申し立てた。
その多くの懸命なる訴えにより徹底した捜査が行われた結果、ラグナ家の暗黒の地下牢が暴かれ、そこからはおびただしい数の拷問具、また見るも無惨な若いバンパイア達の損壊の限りを尽くされた骸とが無数に発見されたのである。
こうして、ラグナ=タイゴンは魔界の中央行政機関から、その爵位を剥奪され、厳重注意が申し渡された。
だが、この沙汰はタイゴンがより弱者を求めて人間界へと進出するきっかけをつくるものでしかなかった。
それからのタイゴンは住み慣れた魔界をあっさりと後にし、己の保有する超暴力をより完全無欠なるものとするため、人間界をさ迷いながら、その方々に隠遁する闇魔導師の元へと出向いては、そこで己の不死なる肉体を検体として差し出し、多種多様なる肉体強化の魔法実験というものを繰り返させたのである。
だが、一般的にバンパイアとは、一切の魔法を行使出来ない代わりに、強力な魔法耐性というものを持ち合わせており、その頑固な特性が邪魔をして、どんな高等な付与魔法を施させようとも、その試みの総てを虚しき徒労に終わらせた。
だがある時、特殊なインクを塗布した針で以(もっ)て、皮下組織に残留するほどに深く刺してそこに点描を画き、それをある種の魔法の陣とすることで、吸血鬼特有の超復元能力が著しく低下するとはいえ、それと引き換えに飛躍的な筋力の向上がみられることを遂に発見し、こうして放浪の吸血巨人ラグナ=タイゴンは、はれて念願の超越的な怪力と俊敏さとを得るに至ったのである。
その並みのバンパイアの十倍の破壊力の超速度の剛拳が今、眼下のちっぽけなカミラーへと容赦なく振り下ろされたのだった。
すると、殆んど爆発を想わせるような猛烈な破壊音が轟き、この見世物の巨大テントは決して大袈裟ではなく、局地地震に見舞われて揺れに揺れ、二十メートル四方の闘技の場は、すり鉢状に地盤沈下を起こしたのである。
これに観客等は、一瞬真上に跳ねさせられてから、そこの直下へと尻餅をつかされ、まさしく狂乱怒濤の群衆となって絶叫した。
そして、この激震により赤いテントは大いに揺らぎ、傾き、鋼鉄の格子と柵とは、ギューンとイヤな音を響かせて、次々にひん曲がった。
無論、闘技場の石の床は粉砕されて宙に舞い、その放射線状に広がった地割れの裂け目からは盛大に石粉が吹き出し、辺りをもうもうと煙らせるに至った。
これに特等席の街長は咳き込み、ジャリジャリと砂を噛んで、それを吐き出し
「ぺっ!ぺっ!あのバカめっ!加減というヤツを知らんのか!?
もし今の一発で偽カミラーが死んだらどうしてくれるぅ!?」
今の峻烈なる一撃で四肢のいずれかを打ち砕かれたであろうカミラーを想い、砂煙を追っ払いながら苦々しく言った。
だが、その脇のドラクロワは、遠い視線の先にて放たれたラグナの恐るべきメガトンパンチにも眉一つ動かさず
「ウム。中々の破壊力だ。単純な力だけならあの刺青は並みの魔族を充分に越えておるな。
だが、重ねて言うようだが、それも当たらなければどうということはない」
闘技の場を覆い隠すような煙幕のごとき砂埃が、ようやく晴れつつあるのを眺めて言った。
そこでは、直径二十メートルのすり鉢型の大きな窪みの中央に巨人が屈み込んでおり、その信じられないくらい太い、面妖なる刺青にまみれた左の剛腕を、なんと肘辺りまでそこに突入させていた。
「はぁ……はぁ……フゥ……フッ!うふ……うふふふふ……ざ、ざまあないわっ!!
あのスペシャル生意気な小娘!一瞬でペシャンコにして上げたわ!!」
憤怒の兇相を崩し、幾らか満足そうに言って、ゴボリッ!!と瓦礫から利き腕を引き抜いた。
そして、激怒のカタルシスに酔いしれたようにして微笑み、口元のヨダレを拭おうとしたとき、ふと背後に何者かの気配を感じ、屈んだまま、半瞬でそれへと向き直った。
そこに立っていたのは、かすり傷一つない美貌のカミラーその人であり、その右の手に何かが描かれた白っぽい羊皮紙のような物を持ち、闘技場の篝火(かがりび)にそれを透かし、しげしげと見つめていた。
また、その左の手には右手で眼前に掲げ上げた物と同じ物体が、何枚も束になって掴まれていた。
「やれやれ、この大うつけめ。品のない野卑なる馬鹿力で無駄に埃を巻き上げおって。
ふーむ、ふむふむ。なにやらこれが魔的に作用して、かような馬鹿力が発揮されたようじゃな。
ギャハハッ!この珍妙なる光輝く紋様、あの三つ編みの低知能娘辺りならば、さぞや検分を求めて騒ぎ立てることであろうの。
うん、ちと気色悪いが、このヴァイスの土産に一、二枚持って帰ってやるかの」
と、自分の顔ほどの四角い薄っぺらな物体を観察して言った。
ラグナは自らの放った超音速の拳を見事に回避したカミラーに唖然としていたが
「あ、あはは……ほっ。流石はバンパイアっ娘。あたしの突きをなんとか交わしてくれたみたいねぇ。
あー、それならそれで大いに結構よぉ、アナタを呆気なく消滅させちゃったら、さぞやアントニオがうるさいだろうからねぇ。
うふふ……それにしてもアナタ、よーく今のを避けたわ、ねっ!?」
その安堵は一瞬で破られた。
なぜなら、カミラーが手にした、ブヨブヨとした薄い膜(まく)のような物体の面(おもて)に描かれた円形の紋様に、確かな見覚えを見てとったからだ。
ラグナは恐る恐る、ゆっくりと自らの左肘を見下ろし、カッと目を見開いた。
「へっ…………?なっ!ない!?ないないないない!ないわっ!!
あああ、あたしの肉体強化の特殊魔法陣がなくなってるゥッ!!?
そんな!ウソ!!こんなのウソよ!!
いっ!いやあぁぁぁあぁーッ!!!」
自らの巨体の各所、そこで燦然と煌めいている筈の不可思議なる超怪力の源たるあの魔法陣が、ことごとく真皮ごと四角く剥ぎ取られているのを認めて、一瞬で思考停止からの困惑、そして錯乱状態となり、白い筋組織が四角く露出した頭を抱えて絶叫した。
その狂乱の元吸血貴族の目の端で、完全に打ち砕かれた石畳へと何かが無造作に、ボト……ボトと放棄して落とされた。
「まーったく、お前という奴は、馬鹿みたいに地面を殴ったり、はたまた叫んだりと、げに喧(さわが)しいヤツじゃの。
うん、やはりコレなる紋様、土産にしては些(いささ)か気色が悪いし、腐ると敵わんわ」
小さな手を、パンパンと叩(はた)いて、あーバッチイバッチイとばかりに顔をしかめた。
これを見つめる観客等は、超絶拳士のラグナが地を強(したた)かに打って、それを割ったとこまではなんとか理解したようだったが、そこか先の今現在、この闘技の舞台中央で、一体なにが起きているのか理解がついていかず、まるで水を打ったように静まり返っていた。
その静寂に、外の暴風雨がテントを叩く音と痛々しく斑(まだら)に生皮を剥がされたラグナの絶叫とが入り混じって、ぐわんぐわんと木霊(こだま)する様とは、なんとも奇怪で、心底ゾーとさせられるような、恐ろしく凄惨な光景だった。
「お、おい!!見ろよ!!なんだか、ラ、ラグナ萎(しぼ)んでないかぁ!?」
観客等の一人が未だ絶叫する、虫食いの刺青巨人を指差して言った。
見れば、その指摘通り、頭部を抱えたラグナの体格とは、まるで空気が抜けた人型の風船のように、みるみる萎み、どういう仕掛けか、それはまさしく、あれよあれよと言う間に並みの成人男性ほどの大きさに縮小したのである。
しかも、その驚異の減退劇はそれだけに止まらず、彼を見る影もない枯れ木のごとき痩身、いや老醜の皺クチャにさせ、ついには乾いた木乃伊(ミイラ)へと変貌させたのである。
そうして、その干し固めたような黒ずんだ肉の案山子(かかし)と化したラグナは、テントを打って殴るような暴風にあおられ、燃え尽きた竹炭のように僅かな火の粉を散らして足元から崩れ去り、真っ白な灰となって風に舞った。
カミラーはその吸血鬼の消滅(さいご)をつまらなさそうに眺めて
「ふむ。どうやらこの者、身体の面に画きし妖しい魔方陣に頼り、所謂、力の前借りというヤツをしておったようじゃな。
ふむ。誉れ高き貴族の一員にありながら、かように不様な最期を晒しおって。この一族の恥さらしめ!お前などは滅んで当然じゃわい。
ん?これ、そこな進行役よ!ボーッとしとらんで、次のを出さぬか!次のを!」
少し離れた場所で腰を抜かして虚脱状態となっていた燕尾服の小男に、このヴァイスが誇る''チーム超越''に名を連ねる、次なる刺客を平然と催促したという。
だが、その生来の粗暴さと嗜虐(しぎゃく)的性情とは、領地を粛々と統治する貴族には不向きであり、タイゴンは家に仕える平民吸血鬼の者等の些細な落ち度を殊更に拾っては
「おのれ、貴族に粗相を働くとは何事か!?」
と大袈裟に取り立て、叱責し、それら下女や下男等を獄へと押し込め、夜な夜な鞭打ったという。
そして、この不当にして過剰なる虐待・私的制裁の果てに、それらの命を奪うことさえ珍しくなかった。
こうして悪逆無道な貴族として成長したタイゴンは、この折檻(せっかん)とは名ばかりの己のサディズムの解放に生きる''よすが''を見いだし、その歪んだ快楽に耽溺するのに加速度的に夢中になっていった。
そして、次第に彼は、哀れな被害者達を一思いに絶命させることよりも、じわじわといたぶることの方に深い悦楽を覚え、より犠牲者等を長く苦しめることに巧妙になっていった。
そうして幾星霜(いくせいそう)、息子や娘をラグナ家へと奉公に出させていた両親等が、それらが息災を伝える手紙を寄越すばかりで、ただの一人として戻らぬことを不審に思い、魔界の行政へと陳情を申し立てた。
その多くの懸命なる訴えにより徹底した捜査が行われた結果、ラグナ家の暗黒の地下牢が暴かれ、そこからはおびただしい数の拷問具、また見るも無惨な若いバンパイア達の損壊の限りを尽くされた骸とが無数に発見されたのである。
こうして、ラグナ=タイゴンは魔界の中央行政機関から、その爵位を剥奪され、厳重注意が申し渡された。
だが、この沙汰はタイゴンがより弱者を求めて人間界へと進出するきっかけをつくるものでしかなかった。
それからのタイゴンは住み慣れた魔界をあっさりと後にし、己の保有する超暴力をより完全無欠なるものとするため、人間界をさ迷いながら、その方々に隠遁する闇魔導師の元へと出向いては、そこで己の不死なる肉体を検体として差し出し、多種多様なる肉体強化の魔法実験というものを繰り返させたのである。
だが、一般的にバンパイアとは、一切の魔法を行使出来ない代わりに、強力な魔法耐性というものを持ち合わせており、その頑固な特性が邪魔をして、どんな高等な付与魔法を施させようとも、その試みの総てを虚しき徒労に終わらせた。
だがある時、特殊なインクを塗布した針で以(もっ)て、皮下組織に残留するほどに深く刺してそこに点描を画き、それをある種の魔法の陣とすることで、吸血鬼特有の超復元能力が著しく低下するとはいえ、それと引き換えに飛躍的な筋力の向上がみられることを遂に発見し、こうして放浪の吸血巨人ラグナ=タイゴンは、はれて念願の超越的な怪力と俊敏さとを得るに至ったのである。
その並みのバンパイアの十倍の破壊力の超速度の剛拳が今、眼下のちっぽけなカミラーへと容赦なく振り下ろされたのだった。
すると、殆んど爆発を想わせるような猛烈な破壊音が轟き、この見世物の巨大テントは決して大袈裟ではなく、局地地震に見舞われて揺れに揺れ、二十メートル四方の闘技の場は、すり鉢状に地盤沈下を起こしたのである。
これに観客等は、一瞬真上に跳ねさせられてから、そこの直下へと尻餅をつかされ、まさしく狂乱怒濤の群衆となって絶叫した。
そして、この激震により赤いテントは大いに揺らぎ、傾き、鋼鉄の格子と柵とは、ギューンとイヤな音を響かせて、次々にひん曲がった。
無論、闘技場の石の床は粉砕されて宙に舞い、その放射線状に広がった地割れの裂け目からは盛大に石粉が吹き出し、辺りをもうもうと煙らせるに至った。
これに特等席の街長は咳き込み、ジャリジャリと砂を噛んで、それを吐き出し
「ぺっ!ぺっ!あのバカめっ!加減というヤツを知らんのか!?
もし今の一発で偽カミラーが死んだらどうしてくれるぅ!?」
今の峻烈なる一撃で四肢のいずれかを打ち砕かれたであろうカミラーを想い、砂煙を追っ払いながら苦々しく言った。
だが、その脇のドラクロワは、遠い視線の先にて放たれたラグナの恐るべきメガトンパンチにも眉一つ動かさず
「ウム。中々の破壊力だ。単純な力だけならあの刺青は並みの魔族を充分に越えておるな。
だが、重ねて言うようだが、それも当たらなければどうということはない」
闘技の場を覆い隠すような煙幕のごとき砂埃が、ようやく晴れつつあるのを眺めて言った。
そこでは、直径二十メートルのすり鉢型の大きな窪みの中央に巨人が屈み込んでおり、その信じられないくらい太い、面妖なる刺青にまみれた左の剛腕を、なんと肘辺りまでそこに突入させていた。
「はぁ……はぁ……フゥ……フッ!うふ……うふふふふ……ざ、ざまあないわっ!!
あのスペシャル生意気な小娘!一瞬でペシャンコにして上げたわ!!」
憤怒の兇相を崩し、幾らか満足そうに言って、ゴボリッ!!と瓦礫から利き腕を引き抜いた。
そして、激怒のカタルシスに酔いしれたようにして微笑み、口元のヨダレを拭おうとしたとき、ふと背後に何者かの気配を感じ、屈んだまま、半瞬でそれへと向き直った。
そこに立っていたのは、かすり傷一つない美貌のカミラーその人であり、その右の手に何かが描かれた白っぽい羊皮紙のような物を持ち、闘技場の篝火(かがりび)にそれを透かし、しげしげと見つめていた。
また、その左の手には右手で眼前に掲げ上げた物と同じ物体が、何枚も束になって掴まれていた。
「やれやれ、この大うつけめ。品のない野卑なる馬鹿力で無駄に埃を巻き上げおって。
ふーむ、ふむふむ。なにやらこれが魔的に作用して、かような馬鹿力が発揮されたようじゃな。
ギャハハッ!この珍妙なる光輝く紋様、あの三つ編みの低知能娘辺りならば、さぞや検分を求めて騒ぎ立てることであろうの。
うん、ちと気色悪いが、このヴァイスの土産に一、二枚持って帰ってやるかの」
と、自分の顔ほどの四角い薄っぺらな物体を観察して言った。
ラグナは自らの放った超音速の拳を見事に回避したカミラーに唖然としていたが
「あ、あはは……ほっ。流石はバンパイアっ娘。あたしの突きをなんとか交わしてくれたみたいねぇ。
あー、それならそれで大いに結構よぉ、アナタを呆気なく消滅させちゃったら、さぞやアントニオがうるさいだろうからねぇ。
うふふ……それにしてもアナタ、よーく今のを避けたわ、ねっ!?」
その安堵は一瞬で破られた。
なぜなら、カミラーが手にした、ブヨブヨとした薄い膜(まく)のような物体の面(おもて)に描かれた円形の紋様に、確かな見覚えを見てとったからだ。
ラグナは恐る恐る、ゆっくりと自らの左肘を見下ろし、カッと目を見開いた。
「へっ…………?なっ!ない!?ないないないない!ないわっ!!
あああ、あたしの肉体強化の特殊魔法陣がなくなってるゥッ!!?
そんな!ウソ!!こんなのウソよ!!
いっ!いやあぁぁぁあぁーッ!!!」
自らの巨体の各所、そこで燦然と煌めいている筈の不可思議なる超怪力の源たるあの魔法陣が、ことごとく真皮ごと四角く剥ぎ取られているのを認めて、一瞬で思考停止からの困惑、そして錯乱状態となり、白い筋組織が四角く露出した頭を抱えて絶叫した。
その狂乱の元吸血貴族の目の端で、完全に打ち砕かれた石畳へと何かが無造作に、ボト……ボトと放棄して落とされた。
「まーったく、お前という奴は、馬鹿みたいに地面を殴ったり、はたまた叫んだりと、げに喧(さわが)しいヤツじゃの。
うん、やはりコレなる紋様、土産にしては些(いささ)か気色が悪いし、腐ると敵わんわ」
小さな手を、パンパンと叩(はた)いて、あーバッチイバッチイとばかりに顔をしかめた。
これを見つめる観客等は、超絶拳士のラグナが地を強(したた)かに打って、それを割ったとこまではなんとか理解したようだったが、そこか先の今現在、この闘技の舞台中央で、一体なにが起きているのか理解がついていかず、まるで水を打ったように静まり返っていた。
その静寂に、外の暴風雨がテントを叩く音と痛々しく斑(まだら)に生皮を剥がされたラグナの絶叫とが入り混じって、ぐわんぐわんと木霊(こだま)する様とは、なんとも奇怪で、心底ゾーとさせられるような、恐ろしく凄惨な光景だった。
「お、おい!!見ろよ!!なんだか、ラ、ラグナ萎(しぼ)んでないかぁ!?」
観客等の一人が未だ絶叫する、虫食いの刺青巨人を指差して言った。
見れば、その指摘通り、頭部を抱えたラグナの体格とは、まるで空気が抜けた人型の風船のように、みるみる萎み、どういう仕掛けか、それはまさしく、あれよあれよと言う間に並みの成人男性ほどの大きさに縮小したのである。
しかも、その驚異の減退劇はそれだけに止まらず、彼を見る影もない枯れ木のごとき痩身、いや老醜の皺クチャにさせ、ついには乾いた木乃伊(ミイラ)へと変貌させたのである。
そうして、その干し固めたような黒ずんだ肉の案山子(かかし)と化したラグナは、テントを打って殴るような暴風にあおられ、燃え尽きた竹炭のように僅かな火の粉を散らして足元から崩れ去り、真っ白な灰となって風に舞った。
カミラーはその吸血鬼の消滅(さいご)をつまらなさそうに眺めて
「ふむ。どうやらこの者、身体の面に画きし妖しい魔方陣に頼り、所謂、力の前借りというヤツをしておったようじゃな。
ふむ。誉れ高き貴族の一員にありながら、かように不様な最期を晒しおって。この一族の恥さらしめ!お前などは滅んで当然じゃわい。
ん?これ、そこな進行役よ!ボーッとしとらんで、次のを出さぬか!次のを!」
少し離れた場所で腰を抜かして虚脱状態となっていた燕尾服の小男に、このヴァイスが誇る''チーム超越''に名を連ねる、次なる刺客を平然と催促したという。
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