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160話 友引の黒い焔
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「んきゃー!!やったー!ちょっと残酷だけど、シャンさんの必殺の''虚無おろし''が発動しましたねー!
確かに''悟り''なんてトンでもない、殆(ほとん)ど反則みたいな能力ですけど、同じ反則具合ならシャンさんも負けませんよー!!
おーい!頑張れー!頑張れ!小さいシャンさーん!」
ユリアはもう夢中になって盤上のミニチュアシャンへと手を振った。
これにメッカワは憤然となって立ち上がり
「あんだよそれっ!?はぁっ!?キョムだとーっ!?キョムって……あの虚無か!?
なんじゃそら!?マッタク意味が分からねぇっ!!て、あーっ!!」
少女らしい地声で喚き立てたが、突然の変事に驚愕して息を飲み、深紅の枯れ木みたいな指で盤上を差した。
なんとそこでは、信じられないような高速で駆けて、今や二刀流となった黒砂の背後にピッタリと影のように張り付いたミニチュアシャンが、そこの青い背にケルベロスダガーを突き入れていたのである。
そして、その兇毒の三枚刃は、一切の容赦なく黒砂のあばら骨と心臓とを貫き、その短剣の切っ先は真っ青な左胸。そこの黄金の前掛けみたいになった無数の首飾り達をかき分けて、銀色の小さな三つのトゲみたいになって露出し、そこで、キラリと輝いていた。
その鋭い暗殺刃と、それに塗布された精製猛毒のウルフズベインとに心臓を徹底的に損壊された黒砂は、同時に破られた肺臓から込み上げてくる喀血(かっけつ)に頬を膨らませたかと想うと、直ぐに大量の吐血をして、青い身体の前面を赤く濡らし、その深傷のショックで激しく痙攣し始めていた。
「ば、馬鹿な!!なんでー!?なんでボクの黒砂が!?
こんなのあり得ないっ!てゆーか、黒砂の悟りは、絶対に負けない最強無敵の能力なのにー!!
おかしい!こんなのおかしいよー!!」
カッツォは、絶大な信頼をおく無敵の手駒がここまで傷付けられたこと、そして、それが誇る必殺の悟りが破られたことをにわかには受け入れられず、只只当惑し、混乱の極みにいた。
「アハッ!コリャキマッたね!
あの四本腕、まさか心臓まで二人分ないだろうねぇ?アハハ!ま、ソリャないか!?
んー。なまじっかスンゴイ能力持ってたのが逆にアダになったね。
きっとアイツ、チッコイシャンがいきなり無になったんで、スンゴイ混乱したんだろーね。
アイツってば、ケッコーフツーに強いんだからさ、変にサトリとかに頼らずに、シゴクマトモにやり合ってれば勝てたかもしんないのにねぇ。
ま、そのおかげでシャンが勝てたんだけどさ」
どこか悲しい目で、背後のミニチュアシャンに支えられたまま白目を剥いて、ギリギリと食いしばった歯列の隙間から、尚も止めどなく鮮血を溢(こぼ)す黒砂を見下ろした。
ザエサも弟たちに負けないくらいに顔を歪めて口惜しさを露にし
「シャン、あんたホンマに恐ろしい女じゃね。
いきなり狼みとーになったり、あの悟りに引っ掛からんかったり……。
じゃ、じゃけど、それと勝負とは別みたいじゃね。
ニャハッ!ホーラ、あれ見てみんさい」
と、盤上で力なく揺らめく二人の代理格闘戦士達を指差した。
どうやら黒砂に刃を突入させたミニチュアシャンも、その下顎から額までも断ち割った銀の剣の特殊効果により、今や頭蓋内に銀毒が駆け巡り、それによって脳が腐食がさせられているようで、その意識は混濁し、朦朧としているのが見てとれた。
そして、直ぐに黒砂と重なったまま、共に仰向けで後方へと倒れたのである。
すると、そのいまわの際(きわ)のミニチュアシャン、黒砂のふたつの身体から、ボンッ!と何かが噴き出した。
それは、いつもの代理格闘戦士絶命の証である、あの黄色い炎ではなく、真っ黒い影の波頭のような、煌めく煙のごとき黒い炎であった。
そして、その黒炎は螺旋を描いて逆巻き、戦闘不能の闘士達を包み込んで、気味の悪い焔(ほむら)の竜巻となって、黒い薔薇の花弁みたいな欠片を撒いて、その中心のシャン、黒砂共々消え去ったのである。
これを認めたザエサは、突き出た左の長い犬歯の先を親指で押しながら
「なんじゃこりゃ?黒い、炎……?
あっ!そーいやー!これ造ってくれた錬金術師のジイさんがゆっとったわ!
なんかー、この遊戯で戦士同士が相討ちとかなって、勝負が引き分けんなったときは、真っ黒い炎が出て代理戦士をいっぺんに消すゆーてね。
しかも、その黒い炎で消された代理格闘戦士は、ちょっと何日かとかは忘れたけど、なんかしばらくは使えんよーなるとかもゆーとったねー。
へぇー。ウチも引き分けなんか見るんは初めてじゃねー。
ふーん。ほんじゃ、これ引き分けゆーことなら、次の三本目であんたらが勝てば、めでたく勝ち越しゆーことになるねー。
ほんでー、逆にウチ等が勝てば延長戦に突入ゆー訳よ。
じゃあメッカワ、あっオタラじゃった。あんたの私刑(リンチ)の町で、これ延長戦にしたりんさい」
ザンバラ髪で顔を覆った、枯れ木のように痩せ細った、墓場の幽鬼・怨霊のごとき妹に指示した。
「分かりまちたー!!ボクの町でこのクソ冒険者なんか皆殺しでちゅー!!
キャッハハハハハー!!」
メッカワは乾燥仕切って、ひどく傷んだ緑の髪の裂け目から、陰火のごとき眼光を爛々(らんらん)と燃やし、指で作った歪(いびつ)な顔を快活に蠢(うごめ)かせた。
この不快な兇笑に、アンとビスは露骨に嫌悪の表情となりながらユリアに近づき
「さぁ、次はユリア様の番ですよ!頑張って下さい!」
「ウフフ……もし万が一負けても次がありますし、あまり気負わず、遊戯を存分にお楽しみ下さい」
と、そのサフラン色のローブの肩に手を置いて参戦を促した。
ユリアはマリーナとシャンが意義なしと、微笑んでうなずくのを見て
「じゃあ、次は私がやってもいいんですねー!?でも、今更ですけど、この遊戯盤って私本人が出ちゃうんですよね?
うーん。大丈夫かなー?あっ!でもそっか、もし私が負けても一勝一敗の一引き分けになるだけなんですよねー。
よーし!そういうことなら、この私がどこまでやれるか分かりませんが、ここは純粋に代理格闘遊戯を楽しむことにしますねー!!
うっひゃー!!どんな敵が出てきて、どーなるのかなー!?たたた、楽しみですー!!
ハッ!いけないっ!魔法杖魔法杖!あ、アンさんありがとうございます。
そうそう、コレがないと魔法が使えないとこでしたー!」
杖頭に穿(うが)たれた大きなルビーを、曲がりくねった細かな枝が取り囲むような、そんな仕様の螺旋にねじくれた木製杖を引っ掴み、早速、シャンと交代で対戦者席に着いた。
これを見送った光の勇者の仲間達は
「ウンウン。オッソロシー戦闘力のアンタなら、まぁ何が出てきても、まぁず心配ないよ」
「フフフ……。最新鋭の強力な攻撃魔法と脅威的な人体破壊格闘術との混合か……。
うん、こいつは面白くなりそうだ」
と、これからこの小さな死神が披露するであろう、恐ろしく兇猛・獰猛なる闘いぶりに想いを馳せ、凄惨なる屍山血河(しざんけつが)の地獄絵のただ中で、返り血に赤く染まって恍惚と立ち尽くすユリアを想像しては、その胸をときめかせたという。
その一方、四角い戦場の向こう側では、カッツォが太い人差し指の背で目の端に光る悔し涙を拭って
「さっきのはすっごく悔しかったけど、ボクの黒砂の仇はオタラがとってくれるよねー。
なんたって、オタラの''町''は時々ボクの黒砂を追い詰めるくらいの強さだったからねー。
てゆーか、普通の魔法使い程度じゃどーにもなんないと思うよー。
でも、この人(しと)達なにをしでかすか分からないから、オタラ、一応油断はしないでねー?」
これにメッカワは鼻で笑って、顔を覆う簾(すだれ)のような枝毛の前髪を揺らし
「うるさいでちゅー!!クッソ惨めに負けたクセに、イチイチ分かりきったことを言うなでしゅー!!
キャハハ!クソチビの女魔法使いかー。頼むから、クッソみてーなファイアボールとかでボクの町を火事にしないで下しゃいよー?
まぁその前にぶっ殺してあげましゅけどねー!!
キャッハハハハハ!!」
また気味の悪い裏声で嘲笑(わら)った。
こうして第三戦目の対戦者が確定し、それらの手が黄色い水晶玉へと置かれたのである。
確かに''悟り''なんてトンでもない、殆(ほとん)ど反則みたいな能力ですけど、同じ反則具合ならシャンさんも負けませんよー!!
おーい!頑張れー!頑張れ!小さいシャンさーん!」
ユリアはもう夢中になって盤上のミニチュアシャンへと手を振った。
これにメッカワは憤然となって立ち上がり
「あんだよそれっ!?はぁっ!?キョムだとーっ!?キョムって……あの虚無か!?
なんじゃそら!?マッタク意味が分からねぇっ!!て、あーっ!!」
少女らしい地声で喚き立てたが、突然の変事に驚愕して息を飲み、深紅の枯れ木みたいな指で盤上を差した。
なんとそこでは、信じられないような高速で駆けて、今や二刀流となった黒砂の背後にピッタリと影のように張り付いたミニチュアシャンが、そこの青い背にケルベロスダガーを突き入れていたのである。
そして、その兇毒の三枚刃は、一切の容赦なく黒砂のあばら骨と心臓とを貫き、その短剣の切っ先は真っ青な左胸。そこの黄金の前掛けみたいになった無数の首飾り達をかき分けて、銀色の小さな三つのトゲみたいになって露出し、そこで、キラリと輝いていた。
その鋭い暗殺刃と、それに塗布された精製猛毒のウルフズベインとに心臓を徹底的に損壊された黒砂は、同時に破られた肺臓から込み上げてくる喀血(かっけつ)に頬を膨らませたかと想うと、直ぐに大量の吐血をして、青い身体の前面を赤く濡らし、その深傷のショックで激しく痙攣し始めていた。
「ば、馬鹿な!!なんでー!?なんでボクの黒砂が!?
こんなのあり得ないっ!てゆーか、黒砂の悟りは、絶対に負けない最強無敵の能力なのにー!!
おかしい!こんなのおかしいよー!!」
カッツォは、絶大な信頼をおく無敵の手駒がここまで傷付けられたこと、そして、それが誇る必殺の悟りが破られたことをにわかには受け入れられず、只只当惑し、混乱の極みにいた。
「アハッ!コリャキマッたね!
あの四本腕、まさか心臓まで二人分ないだろうねぇ?アハハ!ま、ソリャないか!?
んー。なまじっかスンゴイ能力持ってたのが逆にアダになったね。
きっとアイツ、チッコイシャンがいきなり無になったんで、スンゴイ混乱したんだろーね。
アイツってば、ケッコーフツーに強いんだからさ、変にサトリとかに頼らずに、シゴクマトモにやり合ってれば勝てたかもしんないのにねぇ。
ま、そのおかげでシャンが勝てたんだけどさ」
どこか悲しい目で、背後のミニチュアシャンに支えられたまま白目を剥いて、ギリギリと食いしばった歯列の隙間から、尚も止めどなく鮮血を溢(こぼ)す黒砂を見下ろした。
ザエサも弟たちに負けないくらいに顔を歪めて口惜しさを露にし
「シャン、あんたホンマに恐ろしい女じゃね。
いきなり狼みとーになったり、あの悟りに引っ掛からんかったり……。
じゃ、じゃけど、それと勝負とは別みたいじゃね。
ニャハッ!ホーラ、あれ見てみんさい」
と、盤上で力なく揺らめく二人の代理格闘戦士達を指差した。
どうやら黒砂に刃を突入させたミニチュアシャンも、その下顎から額までも断ち割った銀の剣の特殊効果により、今や頭蓋内に銀毒が駆け巡り、それによって脳が腐食がさせられているようで、その意識は混濁し、朦朧としているのが見てとれた。
そして、直ぐに黒砂と重なったまま、共に仰向けで後方へと倒れたのである。
すると、そのいまわの際(きわ)のミニチュアシャン、黒砂のふたつの身体から、ボンッ!と何かが噴き出した。
それは、いつもの代理格闘戦士絶命の証である、あの黄色い炎ではなく、真っ黒い影の波頭のような、煌めく煙のごとき黒い炎であった。
そして、その黒炎は螺旋を描いて逆巻き、戦闘不能の闘士達を包み込んで、気味の悪い焔(ほむら)の竜巻となって、黒い薔薇の花弁みたいな欠片を撒いて、その中心のシャン、黒砂共々消え去ったのである。
これを認めたザエサは、突き出た左の長い犬歯の先を親指で押しながら
「なんじゃこりゃ?黒い、炎……?
あっ!そーいやー!これ造ってくれた錬金術師のジイさんがゆっとったわ!
なんかー、この遊戯で戦士同士が相討ちとかなって、勝負が引き分けんなったときは、真っ黒い炎が出て代理戦士をいっぺんに消すゆーてね。
しかも、その黒い炎で消された代理格闘戦士は、ちょっと何日かとかは忘れたけど、なんかしばらくは使えんよーなるとかもゆーとったねー。
へぇー。ウチも引き分けなんか見るんは初めてじゃねー。
ふーん。ほんじゃ、これ引き分けゆーことなら、次の三本目であんたらが勝てば、めでたく勝ち越しゆーことになるねー。
ほんでー、逆にウチ等が勝てば延長戦に突入ゆー訳よ。
じゃあメッカワ、あっオタラじゃった。あんたの私刑(リンチ)の町で、これ延長戦にしたりんさい」
ザンバラ髪で顔を覆った、枯れ木のように痩せ細った、墓場の幽鬼・怨霊のごとき妹に指示した。
「分かりまちたー!!ボクの町でこのクソ冒険者なんか皆殺しでちゅー!!
キャッハハハハハー!!」
メッカワは乾燥仕切って、ひどく傷んだ緑の髪の裂け目から、陰火のごとき眼光を爛々(らんらん)と燃やし、指で作った歪(いびつ)な顔を快活に蠢(うごめ)かせた。
この不快な兇笑に、アンとビスは露骨に嫌悪の表情となりながらユリアに近づき
「さぁ、次はユリア様の番ですよ!頑張って下さい!」
「ウフフ……もし万が一負けても次がありますし、あまり気負わず、遊戯を存分にお楽しみ下さい」
と、そのサフラン色のローブの肩に手を置いて参戦を促した。
ユリアはマリーナとシャンが意義なしと、微笑んでうなずくのを見て
「じゃあ、次は私がやってもいいんですねー!?でも、今更ですけど、この遊戯盤って私本人が出ちゃうんですよね?
うーん。大丈夫かなー?あっ!でもそっか、もし私が負けても一勝一敗の一引き分けになるだけなんですよねー。
よーし!そういうことなら、この私がどこまでやれるか分かりませんが、ここは純粋に代理格闘遊戯を楽しむことにしますねー!!
うっひゃー!!どんな敵が出てきて、どーなるのかなー!?たたた、楽しみですー!!
ハッ!いけないっ!魔法杖魔法杖!あ、アンさんありがとうございます。
そうそう、コレがないと魔法が使えないとこでしたー!」
杖頭に穿(うが)たれた大きなルビーを、曲がりくねった細かな枝が取り囲むような、そんな仕様の螺旋にねじくれた木製杖を引っ掴み、早速、シャンと交代で対戦者席に着いた。
これを見送った光の勇者の仲間達は
「ウンウン。オッソロシー戦闘力のアンタなら、まぁ何が出てきても、まぁず心配ないよ」
「フフフ……。最新鋭の強力な攻撃魔法と脅威的な人体破壊格闘術との混合か……。
うん、こいつは面白くなりそうだ」
と、これからこの小さな死神が披露するであろう、恐ろしく兇猛・獰猛なる闘いぶりに想いを馳せ、凄惨なる屍山血河(しざんけつが)の地獄絵のただ中で、返り血に赤く染まって恍惚と立ち尽くすユリアを想像しては、その胸をときめかせたという。
その一方、四角い戦場の向こう側では、カッツォが太い人差し指の背で目の端に光る悔し涙を拭って
「さっきのはすっごく悔しかったけど、ボクの黒砂の仇はオタラがとってくれるよねー。
なんたって、オタラの''町''は時々ボクの黒砂を追い詰めるくらいの強さだったからねー。
てゆーか、普通の魔法使い程度じゃどーにもなんないと思うよー。
でも、この人(しと)達なにをしでかすか分からないから、オタラ、一応油断はしないでねー?」
これにメッカワは鼻で笑って、顔を覆う簾(すだれ)のような枝毛の前髪を揺らし
「うるさいでちゅー!!クッソ惨めに負けたクセに、イチイチ分かりきったことを言うなでしゅー!!
キャハハ!クソチビの女魔法使いかー。頼むから、クッソみてーなファイアボールとかでボクの町を火事にしないで下しゃいよー?
まぁその前にぶっ殺してあげましゅけどねー!!
キャッハハハハハ!!」
また気味の悪い裏声で嘲笑(わら)った。
こうして第三戦目の対戦者が確定し、それらの手が黄色い水晶玉へと置かれたのである。
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