退屈な魔王様は冒険者ギルドに登録して、気軽に俺TUEEEE!!を楽しむつもりだった

有角 弾正

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155話 ピザ切るやつ

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 この女勇者ふたりのやり取りに、貧相な女人彫像のように微動だにしないメッカワだったが、突如、その骨に張り付いたような赤い皮の手首から先。
 その枯れ枝のごとき指を組んで形にした歪(イビツ)な顔面が、まるで別の生き物のごとく、ゴワゴワ、ギクシャク、パクパクと痙攣するように動いて
 「キャッハハハハー!!このバーカ丸出しのクソデカ女は、なーに訳の分かんねぇこと言ってんだー!?
 只の人間が、しかも片眼の若い女ごときが、たった独りでレッドドラゴンを狩れる訳がないだろがっ!?
 あーあー!分かったでちゅー!!このクッソ女、大事なクソ金貨を五枚も失うっていうクソ悲劇に、いよいよ頭がイカれちまったんだなーっ!?
 キャッハハハハー!!つか大体よー、んな簡単に単なる人間族が剣一本でドラゴンを殺れるってーんなら、この大陸を、この星を支配する魔王なんか、とーの昔に退治されてるっつうのっ!!」

 また、その隣で木製の手桶(ておけ)を抱き込んで、そこの中に折り重なる、どうみても昆虫・蜥蜴(トカゲ)らの素揚げにしか見えない、正体不明なオヤツを手掴み・鷲掴みにしては忙(せわ)しなく口内へと放り込み、実に旺盛な食欲を見せ付けていた、丸々と肥(こえ)太った兄のカッツォも、その不気味な茶菓子の混じった茶を吹いて
 「ブシシシシ!こ、この人(しと)バッカだなぁー。レッドドラゴンを三匹もやっつけたなんて、よーくもそんなトンでもないウソ思い付くよねー?
 ていうか、その冗談、最っ高に面白過ぎるんだけどー!?
 ブシシシシ……ブシャブシャ!ブシシシシッ!」

 「ニャッハッ!ホンマよねー!?
 ほんじゃーマリーナとかいう女戦士のあんた、あんたは、ここと違う世界じゃ凄腕の''竜殺し(ドラゴンスレイヤー)''でとおっとったゆうんねー!?
 ニャッハッ!えー!!?ちょっと待ちんさいやっ!!あ、あんた、冗談もええ加減にしんさいよっ!!?ニャハハハハハ!!
 あ、あんた、そげにキレーな真顔してからに、ホンマあんまし笑かさんといてーや!!ンニャハハハハハー!!」

 こうして真っ赤なドラコニアンの三人姉弟達は
 「アハッ!そうかい?そんなに面白かったかい?そりゃなによりだ」
 と三人がかりの嘲(あざけ)りの乱れ打ちにも、カエルの面にナンとやらで、実に平然と返すマリーナを指差しては、また大いにのけぞり、それを散々に嘲(あざ)笑った。

 彼女達はこの美貌の隻眼女戦士が、第一級の怪物狩人であるなど、どう考えても度の過ぎたデタラメ、また酷い妄想癖の吐いた戯れ言にしか思えなかったのである。

 だが、それらある意味常識的、至極当然ともいえるその反応を歯牙にもかけない女戦士は、サッと両手を口に添えて、代理格闘の死線舞台で大剣を構える分身へと
 「よーし!チッコイアタシーッ!アンタがこの前とイッショで、スンゴイチッコイってだけでー、それ以外はナンもカンもアタシとソックリ同じだってんならさー、そこのレッドドラゴン程度なら、割とテキトーにサックリ狩れっからねー!!?
 んだからさー!アンタとアタシらしくない、お利口そーに立ち回るとか、イッパンジョーシキ、とかみたいな事なんかは全っ然考えなくていいからさー、も頭空っぽにして、ただ目の前の闘いを思いっ切り楽しむんだよー!!?
 アハッ!大!丈!夫っ!!アンタならきっと出来るよっ!!
 うん!うん!コレッくらいはホント、朝飯前のラクショーってヤツだよっ!!」
 と、眼前の日焼けした小さな背中に向け、揺るぎない自信と信頼に満ちた、そんな太鼓判を捺(お)すような応援を贈ったのだった。

 無論、これに仲間のユリア達も直ぐにかしましき応援団となって混じってきた。

 そして、これらの黄色い声援に、盤上の孤軍であるミニチュアマリーナは
 「みんな応援あんがとっ!アハッ!アタシァーバッチシ気合いが入ったよー!
 アハッ!んじゃー、ここはイッチョハデに暴れてやっかねー!!」
 と、背後の対戦者席でドッシリと構える170㎝の本人より一オクターブほど高い声で言って、たった一度だけ鷹揚に頼もしくうなずくや、斬馬刀のごとき長大な剣を左手に持ち、その剣腹にルーン文字の刻まれた、ギラギラとした鋼の両刃と
 「やぁーーー!!」
 という勁烈(けいれつ)な雄叫びの尾を後方へと引きずるようにして単騎特攻。深紅の山のような強大な赤竜へと一気に駆け出したのである。

 「おっ!?このクソチビ!やんのか!?」
 「ブシシシシ……それにしても、あの剣とオッパイ、いっくらなんでもデッカ過ぎだよねー?」
 「ん?ウチの気のせいかね?今、あの代理格闘戦士……なんか喋らんかった?」

 これら三者三様の声を頭上から浴びながら、深紅の疾風となって荒野を疾駆する20㎝そこそこの女戦士だったが、その小さな足の脚力たるや、正しく目を見張るものがあり、一切の躊躇(ためら)いも、気負いも感じさせない、一種愚直ともいえる、強健な勇士に放たれた矢のような一直線で、グングンとレッドドラゴンに迫って行くのであった。

 勿論、これを迎え撃つ暴龍王レッドドラゴンには一分の油断・スキもなく、また決して眠っている訳でもなかった。
 竜は一瞬、右の前足を胸元まで掲げたかと想うと、ビュオッ!!ズッドオーーンと巨大な鉤爪の平手を落とし、遥か眼下のミニチュアマリーナを熨斗烏賊(のしいか)にせんと、強(したた)かに荒野の大地を打ったのである。

 だがしかし、これにミニチュアマリーナは即対応。殆ど真横に倒れ込むような、そんな信じられない急角度で突進方向を変えてからの大跳躍を極(き)め、見事、その隕石落下のごとき豪快な掌打を難なく交わした。
 
 そして、そこの荒野を揺らし砂煙を巻き上げた、そのバカげた厚み・サイズの深紅の鱗の掌の甲に颯爽(さっそう)と飛び乗るや、レッドドラゴンがそれを引くのを待たず、半瞬で大剣を大上段に構え
 「オッラァッ!!」
 と、そこの赤い鱗の強固な足場に倒れ込むようにして、そのしなやかな身体を海老(エビ)かアルマジロのように丸めて、鈍い銀光の尾を引く大剣を振るったかと想うと、なんとその赤竜の巨腕を、そのまま奇妙なでんぐり返しを継続させながら切り裂いてゆくではないか。

 それらの一連の回転斬擊とは、遠目・俯瞰(ふかん)で観るならば、まるで刃の付いた深紅のヨーヨーかなにかのようであり、上下の縦方向に恐ろしい猛回転を継続させながら、その大樹の幹のごとき竜の硬い鱗肌を、ブシャブシャ!!バリバリッ!!と深く切り裂きながら、まるで鯛でもさばくようにして、真っ赤な鱗の破片を盛大に撒き散らしながら、ひたすらそこを駆け登ってゆくのだった。

 そうして、その強いとか弱いとかいう次元を遥かに超越した鋼の三半規管、また人間離れした驚異的な身体能力とで、その重力に逆らうような死の高速でんぐり返しを続け、その突進・回転の推力が弱まると、瞬時に大剣を深々と竜の肉に穿(うが)ち、それを足場にして深紅の鋼鉄戦闘長靴の両踵(りょうかかと)で、カカーンッ!!とそれを蹴って、パッと金打(かねう)ち火花を撒いて散らし、それによりまた新たな推力を手に入れ、この不休の激回転クライミングを繰り返すのであった。

 この狂ったネズミ花火のごとき、あまりに荒唐無稽にして、未曾有の超回転攻撃に、右腕をいいように螺旋状に切り刻まれるレッドドラゴンは、堪(たま)らずミニチュアマリーナを左前足で払いのけようとする。
 だが、ミニチュアマリーナはそれを完全に読んでいたように、今度はその無傷な左腕に飛び移り、またそこで高速でんぐり返しカッターを繰り広げてゆくのだった。

 こうして、あれよあれよという間に、レッドドラゴンは両腕をそれらの肩まで切り刻まれ、その無数の裂傷から、ビュービューと黒血をほとばしらせ、その文字通り身を切られる激痛に、全身をよじって苦鳴の咆哮を上げた。

 なにせこの豆粒みたいな女ときたら、無尽蔵・無限の体力を持っているのか、ほんの一瞬も休むことなく、また一欠片の容赦もなく、その赤竜の超巨体を自らを回転鋸のようにして、正しく縦横無尽に、あちらこちらへと狂奔し、その赤い崖の鱗、肉はおろか、その下の骨に至るまで削るほどに深く、大きく切り裂きながら、そのおよそ剣術ともいえぬ無茶苦茶で奇怪な激走を継続するのだった。

 ええいっ!ならば喰い千切ってやろう!と、ゾロリと恐ろしい白牙の並ぶ口を向かわせると、それを待っていたかのように、今度は巨大なその鼻面へと移動し、今度はそこの顔面を、ズタズタに裂(れっ)しながら容赦なく駆けずり回るのだった。

 これには赤竜も流石に堪らず、殆ど全身から血煙を噴出させて、筋肉を断絶され、骨を割られる耐えがたき激痛と、こんな矮小なる虫けらみたいな人間族のチビに、只只、一方的に蹂躙されるがままという、未だかつて味わったこともない屈辱とに激怒し、荒れ狂い、のたうち回る外なかった。

 このミニチュアマリーナによる、正しく超人的で、いっそ馬鹿馬鹿しくなるような、恐ろしく独創的過ぎる闘い振りを見つめるドラコニアンの三人姉弟らは
 「えぇー……。ナニ、コレ………」
 と、今現在、自分達の目前にて繰り広げられている一方的な凌辱的展開というモノに理解・把握がついていかず、三人横並びで一様に、ポカンと口を開け、驚くとか、悔しがるとか以前の放心虚脱・呆然自失となっていた。

 無論、それらとは対照的に、向かいの乙女勇者団側の皆は熱狂し、ユリアなどは涙して
 「こ、これは……。スゴいっ!!スッゴいですー!!
 ち、小さなマリーナさんっ!!あなたは……あなたって人は、見上げるようなドラゴン相手に一切の魔法もなしで、なんで、なんでそんなにも闘えるんですかっ!?
 うひゃーっ!!私、今、猛烈に感動しておりますっ!!うほぉーっ!!かかか、かっちょえー!!
 うおぉっ!!頑張れー!頑張れ小さなマリーナさーん!!
 おーい!おーい!聴こえていますかー!?小さなマリーナさーん!!
 今の貴女はトンでもなく、観ている者の魂を揺さぶりまくるほどにカッコいいんですよー!!?うあっひゃあー!!」
 と、肌に粟を立てて応援した。

 こうして、今や暴龍王レッドドラゴンは左の目玉を硬い目蓋(まぶた)ごと砕かれ、屈辱の紅い涙を溢(こぼ)しながら狂おしく哭き喚いていた。
 そして、頭上から落ちてきた蛇にとち狂った野生馬のごとく、その巨体をよじって暴れに暴れた。

 この無惨に全身を余すとこなく割られた怪獣の狂おしき身悶え、その大狂乱のあまりの揺さぶりに、流石のミニチュアマリーナもバランスを崩し、一端、必殺の回転断骨斬(ローリングボーンカッター)を止め、その大剣を龍の棘(トゲ)だらけの顎に刺したっ切り、それを楔(くさび)にしてそこに張り付くしかなかった。

 だが、猛り狂うレッドドラゴンが後ろ足で、ズオーッ!と棹立(さおだ)ちに立ち上がり、天へと大きく喘(あえ)いだ、その一瞬のスキを見逃さず、その半ばまで深く食い込ませた大剣を両の手で逆手に握るや
 「おぉおーーーーっ!!」
 と、キンキンとした高い声で野獣のごとく咆哮し、重力方向に従順に、遥か下方の大地へと向かって、そこから一個の赤い彗星と化し、信じられない速度で駆け降りながら、バリバリ!!ザザジャーッ!!メリメリメリッ!!と、レッドドラゴンの血塗れのバニラ色の顎、喉から首、また胸、そして腹とを、一気に縦一文字に切開しながら降りて行くのだった。

 そして、自身の落下による位置エネルギーと、それを楽々と上回るパワフルな両脚が生み出したスピード・エネルギーを相殺するため、またクドいほどに竜の脚を刻みながら左右に翔び、そこで垂直型の重力方向のエネルギーを斬擊力に交換・分散し、結果見事、着地に成功したのである。

 そして最早、隻眼のズタボロの死に体となったレッドドラゴンは、その正中線上の胸・腹に出来た深い谷から、黄白い粒々の密集したような脂肪細胞、また真っ白な胸骨の断層と、そして半透明なピンクの腹膜一枚で、何とか外部に飛び出さずにいる脈動する臓物らを露にしていた。

 そして、その見るも痛ましい赤黒い裂け目から鮮血の滝を、ダバダバ、ザーッと落としながらも、夢中で傷付いた背の大皮膜の翼をはためかせ、その荒野に暴風を招いたのである。

 そうして、その風に小さな顔を背けて左の目を細め、大地に大剣を振って、それに着いた血と脂とを叩き落とす、今や致死的脅威となったミニチュアマリーナを見ようともせず、まさに尻尾を巻いて逃げる負け犬のように、矢も盾もたまらないといった具合で、四角い代理格闘遊戯盤の空へと緊急逃避の大飛翔を果たしたのである。 
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