100 / 247
99話 人はそれを宝の持ち腐れという
しおりを挟む
その激しく明滅する黄色い光を眺めつつ、極めて美しい女児にしか見えない女バンパイアは、その閃光に小さな手を翳(かざ)し、さも煩(わずら)わしそうに目を細め
「ドラクロワ様。あの無駄乳女めの恐ろしいまでに単純な造りの思考形体から、一体何が生まれ出(いず)ると予想なされますか?
僭越(せんえつ)ながら、私めの見立てと致しましては、錆(さ)びをふいて欠けた蛮刀か、無骨な戦斧を引っ提(さ)げた、鼻には輪っか、知性の欠片もなく、鈍重この上ない、頭には銀蝿をまとわり付かせた、野蛮な牛頭の戦士辺りが精々かと存じまするが……」
たっぷりと揶揄を含ませた、最もらしい予想を呈して見せた。
ドラクロワも眩(まばゆ)い光を嫌忌するように睨み
「フフフ……。そうだな。だが、俺の予想まで、お前と似たり寄ったりでは興も乗らんし、つまらんな。
ウム。俺としては、ヤツとて幾許(いくばく)かは魔法を行使出来得る、一応は知性的な人間族というモノの端(はし)くれ。
ある程度は、その叡知(えいち)とやらを持ち合わせているという、この生物の知的一面を信じ、ここは逆に張ってみるとするか……。
そうだな、この間のオイラーだかワイラーだかで観た、あの四本腕の蜥蜴(とかげ)の女。アレの名はなんと申したか……。
ウム。そうだ、あのヤマアラシ(正しくは"アラシヤマ")とか何かではないか?
剣士同士、どことなく共感し合っておったようだしな。
ウム、蛮刀を引っ提げた、あの無骨にして愚直・猪突猛進なるヤツを呼び寄せるであろうよ。
ウム、これに違いない」
魔王はマリーナの知的一面とやらを全く信じてはいなかった。
さて盤上では、金髪碧眼の美女戦士の内奥(うち)を具現化せし、渦中の代理格闘戦士が姿を現した。
その姿とは、元々の肌は色白であろうが、それをよく日焼けさせた、刀傷と野獣の爪と牙による古傷にまみれた半裸の女のようであり、スタイルとしては十二頭身ほどであった。
そのすらりと伸びた優美な身体、手足、巨大なバストには、各々(それぞれ)深紅の部分鎧を装着し、その右目には、瞳のあろう辺りに大粒のルビーを据(す)えた黒革の眼帯、そしてその反対側の瞳は、健康的で透明感溢れる、鮮やかなサファイアカラーだった。
そして身体の割りに小さな頭部、そこの豊かな金髪は高く結われており、その先が垂れる背には、恐ろしく長大な斬馬刀を担いでいた。
つまり、サイズこそミニチュアレベルではあるものの、見まごうことなきマリーナ本人がそこに屹立(きつりつ)していたのである。
これにはカミラーも、ドラクロワも異口同音に「そう来たか……」と言って唸(うな)った。
無論、ラタトゥイユ、カサノヴァとその子分達も身を乗り出し、この魔法作用に驚き入っていた。
この代理格闘遊戯盤をこよなく愛し、それこそ毎夜打ち興じてきた彼等にして、この事態とは未曾有(みぞう)の展開そのものであり、本人の面影を幾らか残し、少し似ている程度ならばいざ知らず、水晶球にふれた本人がそのまま、一切のアレンジもなされず、このようにど真中のストレートに投影されたことなどは、只の一例すらもなかったからである。
マリーナ本人もブラウンの眉を上げて
「アレアレ?これってば……もしかしてアタシー!?
へっ!?どーいうこと!?」
と、長い人指し指を自らのすらりとした鼻梁と、眼前の盤上の女剣士とに交互に差し、大いに困惑していた。
その直ぐ後ろに立つ、深紫の襟(えり)高のプロテクターみたいな、細身のレザーアーマーを纏った女アサシンが、貫頭型のマスクの表面を波立たせ
「フフフ……。流石は我が親友のマリーナだ。
マリーナ、お前は気付いているか?
この小さな姿はどんな宝石・財宝よりも貴(たっと)く、そして美しいという事を。
人は心の中に、どんな純粋な精神を宿しているつもりでも、そこには必ず、身の丈に合わぬ理想、他を圧倒したいという我欲、そして境遇・環境といった、決して好んでは望まぬ、他者より焼成(しょうせい)されし暗い歪(ひず)みといった二面性が存在する。
だが、これを見ろ!ここにお前自身があるがままに描出されたということ……。
これはすなわち、お前という人間には裏表、二面性、隠された心の闇などといった類(たぐ)いのものは、皆無・絶無であるということの現れなのだ。
素晴らしい!!私はお前という人間を尊敬する!」
そう解説する、シャンの上質なトパーズみたいな瞳は、濡れるようにして潤んでいたという。
だが、当のマリーナはそれを聴いて顔をしかめ
「んー。シャン、何かあんがとー。
でもさ、ソレってさー、何となく褒められてる気がしないんだけどー?
何かさー、裏表が全然ないって、なんつーかソレ、要はなーんにも考えてないバカみたいじゃない!?アッハハハハハ!!
ま、いっかー!?
さーて、ちっこいアタシ!そこの翼の戦士をやっつてけておしまいなさいー!!」
深紅のグローブの先、長い人指し指を、ビシーッと伸ばして命令した。
この直後。モヒカンモドキ達は再度、度肝を抜かれ、驚愕することとなるのである。
何故なら、盤上でラタトゥイユの猫目戦士と対峙(たいじ)する、斬馬刀のごとき剛刀を担いだ美しい立像(スタチュー)が、なんとマリーナに横顔を見せて、小さな深紅のグローブの親指を立て
「うん!任しときな!!コイツは下手に攻撃しても、その傷がアタシにまんま返って来ちまうんだったよね!?
フン!それならそれでやりようってモンがあるさ!」
と本人より1オクターブほど高い声で返事をして、あまつさえ意志疎通をして見せたのである。
ラタトゥイユはそれに心底、吃驚仰天(きっきょうぎょうてん)し、腫れぼったい目を精一杯見開いて
「えーー!!?しゃしゃしゃ、喋ったぁー!?ウソウソウソウソッ!!
い、今まで代理格闘戦士が、格別に盤の外の事象に反応したことなんて一度もないよー!?
コレ一体、何がどーなってんの!?代理戦士がたまたま話した言葉が、格別に会話として成り立っているだけなのかなぁ!?」
突き出た丸い顎を押さえて、オロオロと狼狽(うろた)えた。
カサノヴァも開いた口が塞(ふさ)がらず
「おいおいおいおい!!なんだぁコイツ!?マジで生きてるみてーじゃねーか!?
おいラタトゥイユ!コイツァ断じてたまたまなんかじゃねえぞ!?
このちっこいのと、この女、しっかりハッキリと会話しやがったぜ!!?
マジかよ!?ったく、信じらんねぇぜぇ!!
ん!?と、なるとよー!コリャかなりヤベェんじゃねーか!?
コイツは間違いなく、お前の代理戦士の弱点、"一発即死"を狙ってくるに違ぇねぇぜ!?」
言ってから口を押さえたが、既に遅かったようだ。
170㎝の方のマリーナは勝ち誇ったように、ニヤリとし
「アッハハハハハッ!!そこの翼の生えた、キンキンキラッキラのヤツは、まともに斬れば斬るほど、こっちがヤバくなるってのはさっきも聴いたよー!
となればさ、ちっこいアタシ!やれることは一つだよね!?
アッハハハハハ!よーし!よーし!そいつで一気に決めちまいなー!!」
眼前の小規模(ミニマム)な分身戦士へと、再び戦闘指示を与えたのである。
それを開戦合図(ゴング)にするようにして、荒野を模した四角い盤上では、遂に代理決闘が始まった。
ミニチュアマリーナは、おもむろに背(せな)へと手をやり、クンッ!ザジャーッと鞘走りを鳴らしつつ、真の剣豪だけが放つという、熱さのない燐の炎のごとき鬼気・オーラを全身に纏い始め、実に優雅・典雅とさえいえる動きで抜刀した。
そしてそのルーンブレイドを中段構えとして、真正面に立てたかと思うと、グーッと下方へと降ろして、そこで、ピタリと静止させ、油断なく構えたのである。
対するプラチナ一色、猫目の代理格闘戦士は、左右のガントレットの腕を大きく開き、その先の鉤爪を掲げて構えた。
この猫目戦士の能力の性質上、開始直後にして、正しく一触即発の最終局面であり、見守るギャラリー達も、その張り詰めた空気に思わず固唾を飲んだ。
流石のチャンピオン、KINGラタトゥイユも滅茶苦茶(めちゃくちゃ)な渋面となり
「うわっ!何コイツ!?格別に絶対強いよー!
わわわわわー!コレは格別本気でやられちゃうかもー!?」
青年の戦慄もやむ無し。
何故なら、彼の猫目戦士は、ダメージ反射能力の他には、特筆するほどに突出した、所謂(いわゆる)、白兵戦闘能力には乏しく、この異様な殺気を放つ、一足跳びに迫り来て、一瞬で斬首を極(き)めそうな、そんな剣聖然とした者には、到底太刀打ち出来そうもなかったからである。
マリーナの剣さばき、その人外の腕前を知る女勇者達が、その美しい代理格闘戦士も、本人ゆずりで同様にあろうと思い、勝利を確信した、その刹那。
ミニチュアマリーナの大剣が、正しく神速で跳ね上がった。
それは見事な斬撃となり、皆の予想通りに天馬のごとく天へと駆け上り、猫目闘士を即死せしめたかと想われた、が。
ドッゴンッ!!!
なんと、それは凄まじい轟音を放って、柄(つか)を握る持ち主である、ミニチュアマリーナの額を、そのルーン文字の刻まれた大剣の腹(真ん中の平らな面)にて、強(したた)かに打ち据えたのである。
皆は、この余りに予想外の行動、強烈な自傷的行為に目を剥いた。
「マリーナ……。確かにあの代理格闘戦士は受けた損傷を鏡のようにはね返す……。
が、だからと言って、自らを打てば、それが向こうに返るということではないと思うぞ?
まぁ、その発想と気持ち、分からんでもない……いや、すまん。ちょっと私に分からない……」
親友のシャンは、哀しげな遠い目になってうつむいた。
「えっ!?弱点って、コレの事じゃなかったのかいー!?」
それに振り向いたマリーナが喚(わめ)くのと、盤上にてミニチュアマリーナが後ろに、ドオッ!と倒れるのとは、ほぼ同時だったという。
女勇者達とアンとビスは頭を抱え、奥のカミラーは、ニコリともしない、極めて生真面目な顔で
「ドラクロワ様。この決闘、やはりダメかも知れません」
世にも美しい、魔界の完全芸術の立像のごとく固まったドラクロワは、ただ
「ウム。能力とは、最低限の頭脳あってのモノであるな……」
としかコメント出来なかった。
「ドラクロワ様。あの無駄乳女めの恐ろしいまでに単純な造りの思考形体から、一体何が生まれ出(いず)ると予想なされますか?
僭越(せんえつ)ながら、私めの見立てと致しましては、錆(さ)びをふいて欠けた蛮刀か、無骨な戦斧を引っ提(さ)げた、鼻には輪っか、知性の欠片もなく、鈍重この上ない、頭には銀蝿をまとわり付かせた、野蛮な牛頭の戦士辺りが精々かと存じまするが……」
たっぷりと揶揄を含ませた、最もらしい予想を呈して見せた。
ドラクロワも眩(まばゆ)い光を嫌忌するように睨み
「フフフ……。そうだな。だが、俺の予想まで、お前と似たり寄ったりでは興も乗らんし、つまらんな。
ウム。俺としては、ヤツとて幾許(いくばく)かは魔法を行使出来得る、一応は知性的な人間族というモノの端(はし)くれ。
ある程度は、その叡知(えいち)とやらを持ち合わせているという、この生物の知的一面を信じ、ここは逆に張ってみるとするか……。
そうだな、この間のオイラーだかワイラーだかで観た、あの四本腕の蜥蜴(とかげ)の女。アレの名はなんと申したか……。
ウム。そうだ、あのヤマアラシ(正しくは"アラシヤマ")とか何かではないか?
剣士同士、どことなく共感し合っておったようだしな。
ウム、蛮刀を引っ提げた、あの無骨にして愚直・猪突猛進なるヤツを呼び寄せるであろうよ。
ウム、これに違いない」
魔王はマリーナの知的一面とやらを全く信じてはいなかった。
さて盤上では、金髪碧眼の美女戦士の内奥(うち)を具現化せし、渦中の代理格闘戦士が姿を現した。
その姿とは、元々の肌は色白であろうが、それをよく日焼けさせた、刀傷と野獣の爪と牙による古傷にまみれた半裸の女のようであり、スタイルとしては十二頭身ほどであった。
そのすらりと伸びた優美な身体、手足、巨大なバストには、各々(それぞれ)深紅の部分鎧を装着し、その右目には、瞳のあろう辺りに大粒のルビーを据(す)えた黒革の眼帯、そしてその反対側の瞳は、健康的で透明感溢れる、鮮やかなサファイアカラーだった。
そして身体の割りに小さな頭部、そこの豊かな金髪は高く結われており、その先が垂れる背には、恐ろしく長大な斬馬刀を担いでいた。
つまり、サイズこそミニチュアレベルではあるものの、見まごうことなきマリーナ本人がそこに屹立(きつりつ)していたのである。
これにはカミラーも、ドラクロワも異口同音に「そう来たか……」と言って唸(うな)った。
無論、ラタトゥイユ、カサノヴァとその子分達も身を乗り出し、この魔法作用に驚き入っていた。
この代理格闘遊戯盤をこよなく愛し、それこそ毎夜打ち興じてきた彼等にして、この事態とは未曾有(みぞう)の展開そのものであり、本人の面影を幾らか残し、少し似ている程度ならばいざ知らず、水晶球にふれた本人がそのまま、一切のアレンジもなされず、このようにど真中のストレートに投影されたことなどは、只の一例すらもなかったからである。
マリーナ本人もブラウンの眉を上げて
「アレアレ?これってば……もしかしてアタシー!?
へっ!?どーいうこと!?」
と、長い人指し指を自らのすらりとした鼻梁と、眼前の盤上の女剣士とに交互に差し、大いに困惑していた。
その直ぐ後ろに立つ、深紫の襟(えり)高のプロテクターみたいな、細身のレザーアーマーを纏った女アサシンが、貫頭型のマスクの表面を波立たせ
「フフフ……。流石は我が親友のマリーナだ。
マリーナ、お前は気付いているか?
この小さな姿はどんな宝石・財宝よりも貴(たっと)く、そして美しいという事を。
人は心の中に、どんな純粋な精神を宿しているつもりでも、そこには必ず、身の丈に合わぬ理想、他を圧倒したいという我欲、そして境遇・環境といった、決して好んでは望まぬ、他者より焼成(しょうせい)されし暗い歪(ひず)みといった二面性が存在する。
だが、これを見ろ!ここにお前自身があるがままに描出されたということ……。
これはすなわち、お前という人間には裏表、二面性、隠された心の闇などといった類(たぐ)いのものは、皆無・絶無であるということの現れなのだ。
素晴らしい!!私はお前という人間を尊敬する!」
そう解説する、シャンの上質なトパーズみたいな瞳は、濡れるようにして潤んでいたという。
だが、当のマリーナはそれを聴いて顔をしかめ
「んー。シャン、何かあんがとー。
でもさ、ソレってさー、何となく褒められてる気がしないんだけどー?
何かさー、裏表が全然ないって、なんつーかソレ、要はなーんにも考えてないバカみたいじゃない!?アッハハハハハ!!
ま、いっかー!?
さーて、ちっこいアタシ!そこの翼の戦士をやっつてけておしまいなさいー!!」
深紅のグローブの先、長い人指し指を、ビシーッと伸ばして命令した。
この直後。モヒカンモドキ達は再度、度肝を抜かれ、驚愕することとなるのである。
何故なら、盤上でラタトゥイユの猫目戦士と対峙(たいじ)する、斬馬刀のごとき剛刀を担いだ美しい立像(スタチュー)が、なんとマリーナに横顔を見せて、小さな深紅のグローブの親指を立て
「うん!任しときな!!コイツは下手に攻撃しても、その傷がアタシにまんま返って来ちまうんだったよね!?
フン!それならそれでやりようってモンがあるさ!」
と本人より1オクターブほど高い声で返事をして、あまつさえ意志疎通をして見せたのである。
ラタトゥイユはそれに心底、吃驚仰天(きっきょうぎょうてん)し、腫れぼったい目を精一杯見開いて
「えーー!!?しゃしゃしゃ、喋ったぁー!?ウソウソウソウソッ!!
い、今まで代理格闘戦士が、格別に盤の外の事象に反応したことなんて一度もないよー!?
コレ一体、何がどーなってんの!?代理戦士がたまたま話した言葉が、格別に会話として成り立っているだけなのかなぁ!?」
突き出た丸い顎を押さえて、オロオロと狼狽(うろた)えた。
カサノヴァも開いた口が塞(ふさ)がらず
「おいおいおいおい!!なんだぁコイツ!?マジで生きてるみてーじゃねーか!?
おいラタトゥイユ!コイツァ断じてたまたまなんかじゃねえぞ!?
このちっこいのと、この女、しっかりハッキリと会話しやがったぜ!!?
マジかよ!?ったく、信じらんねぇぜぇ!!
ん!?と、なるとよー!コリャかなりヤベェんじゃねーか!?
コイツは間違いなく、お前の代理戦士の弱点、"一発即死"を狙ってくるに違ぇねぇぜ!?」
言ってから口を押さえたが、既に遅かったようだ。
170㎝の方のマリーナは勝ち誇ったように、ニヤリとし
「アッハハハハハッ!!そこの翼の生えた、キンキンキラッキラのヤツは、まともに斬れば斬るほど、こっちがヤバくなるってのはさっきも聴いたよー!
となればさ、ちっこいアタシ!やれることは一つだよね!?
アッハハハハハ!よーし!よーし!そいつで一気に決めちまいなー!!」
眼前の小規模(ミニマム)な分身戦士へと、再び戦闘指示を与えたのである。
それを開戦合図(ゴング)にするようにして、荒野を模した四角い盤上では、遂に代理決闘が始まった。
ミニチュアマリーナは、おもむろに背(せな)へと手をやり、クンッ!ザジャーッと鞘走りを鳴らしつつ、真の剣豪だけが放つという、熱さのない燐の炎のごとき鬼気・オーラを全身に纏い始め、実に優雅・典雅とさえいえる動きで抜刀した。
そしてそのルーンブレイドを中段構えとして、真正面に立てたかと思うと、グーッと下方へと降ろして、そこで、ピタリと静止させ、油断なく構えたのである。
対するプラチナ一色、猫目の代理格闘戦士は、左右のガントレットの腕を大きく開き、その先の鉤爪を掲げて構えた。
この猫目戦士の能力の性質上、開始直後にして、正しく一触即発の最終局面であり、見守るギャラリー達も、その張り詰めた空気に思わず固唾を飲んだ。
流石のチャンピオン、KINGラタトゥイユも滅茶苦茶(めちゃくちゃ)な渋面となり
「うわっ!何コイツ!?格別に絶対強いよー!
わわわわわー!コレは格別本気でやられちゃうかもー!?」
青年の戦慄もやむ無し。
何故なら、彼の猫目戦士は、ダメージ反射能力の他には、特筆するほどに突出した、所謂(いわゆる)、白兵戦闘能力には乏しく、この異様な殺気を放つ、一足跳びに迫り来て、一瞬で斬首を極(き)めそうな、そんな剣聖然とした者には、到底太刀打ち出来そうもなかったからである。
マリーナの剣さばき、その人外の腕前を知る女勇者達が、その美しい代理格闘戦士も、本人ゆずりで同様にあろうと思い、勝利を確信した、その刹那。
ミニチュアマリーナの大剣が、正しく神速で跳ね上がった。
それは見事な斬撃となり、皆の予想通りに天馬のごとく天へと駆け上り、猫目闘士を即死せしめたかと想われた、が。
ドッゴンッ!!!
なんと、それは凄まじい轟音を放って、柄(つか)を握る持ち主である、ミニチュアマリーナの額を、そのルーン文字の刻まれた大剣の腹(真ん中の平らな面)にて、強(したた)かに打ち据えたのである。
皆は、この余りに予想外の行動、強烈な自傷的行為に目を剥いた。
「マリーナ……。確かにあの代理格闘戦士は受けた損傷を鏡のようにはね返す……。
が、だからと言って、自らを打てば、それが向こうに返るということではないと思うぞ?
まぁ、その発想と気持ち、分からんでもない……いや、すまん。ちょっと私に分からない……」
親友のシャンは、哀しげな遠い目になってうつむいた。
「えっ!?弱点って、コレの事じゃなかったのかいー!?」
それに振り向いたマリーナが喚(わめ)くのと、盤上にてミニチュアマリーナが後ろに、ドオッ!と倒れるのとは、ほぼ同時だったという。
女勇者達とアンとビスは頭を抱え、奥のカミラーは、ニコリともしない、極めて生真面目な顔で
「ドラクロワ様。この決闘、やはりダメかも知れません」
世にも美しい、魔界の完全芸術の立像のごとく固まったドラクロワは、ただ
「ウム。能力とは、最低限の頭脳あってのモノであるな……」
としかコメント出来なかった。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる