退屈な魔王様は冒険者ギルドに登録して、気軽に俺TUEEEE!!を楽しむつもりだった

有角 弾正

文字の大きさ
上 下
68 / 247

67話 人と話すときは被り物は取りなさい

しおりを挟む
     「リウゴウ!?」

 女勇者達とアンとビスの二人も、女神官のカキアにつられるように、思わずその名を口々に唱えた。

 バッテン傷の女神官は、位階従一位の左神官長の直々のご登場に、畏れのあまり震える喉を何とか押さえ付け
 「リ、リウゴウ様っ!こ、この方々は正真正銘、本物の光の勇者様達です!
 私はこの目で、こちらの勇者様が、なんとウィスプ様の精神魔法を自らの理力で打ち破るのを見たのです!!
 ど、どうか信じて下さい!あれこそは正しく奇跡!伝説の光の勇者達にしか行えない奇跡でしたっ!!」
 痙攣して収縮する肺に負けるものかと、女は声を搾り出すようにして叫んだ。

 その真摯な誓いの吐露に、枯れ花とターコイズとで飾り付けられた、鹿の頭骨を被ったようなリウゴウの隣に立っていた、嘴(くちばし)も鋭い大鳥の骸骨をひっ被ったような、闇色の細いローブ姿が、ズイッと一歩前へ出て、ツルリとした丸い白骨の頭を慇懃(いんぎん)に垂れて
 「こんばんは。勇者様方、お初にお目にかかります。私は、リウゴウ様の側近のレイバラと申します。
 左神官長は東の深森のエルフ族の出であられますので、少しクセのある言葉を使われます。
 そこで僭越ながら、これよりは私ともう一人が言葉のやり取りさせて頂きますが、宜しいでしょうか?」
 このレイバラと名乗る痩せ方は、立ち上がったマリーナと同じくらいの170㎝ほどで、分別のありそうな、上品なやさ男を想わせる声音(こわね)であった。

 リウゴウ達三名は、突如として戸口前に音もなく、何やら怪しい風体で死神のごとく出現・佇(たたず)んでいたので、女勇者達は自然とそれぞれの武器へと手を伸ばしていた。

 だが、レイバラの穏やかな声の調子と、その意外なほどの礼儀正しさとに肩透かしを喰らったようになり、女勇者達と神官位の双子はスッカリと毒を抜かれ、お互いを見合って困ったような顔になった。

 その戸惑い色の空気を歯牙にもかけぬ者が居た。
 それは貫禄ある、この空間でぶっちぎりの年長者、五千歳のカミラーであった。
 その青い毛細血管が透けるような白い顎をしゃくられたシャンは、フム、と僅かにうなずき、静かに背筋を伸ばして、ツイと細い首をもたげ
 「そうか。これはこちらも初めまして、だな。
 先の自己紹介痛み入る。我々は光の勇者の一団で、私がシャン、こちらがユリア、そしてマリーナ、カミラー。それから仲間のアンとビスだ」

 女バンパイアを除いて、座席の女達はそれぞれ順に、ペコリと頭を下げた。

 更に女アサシンは代表を続行し
 「先ほど、そちらのリウゴウ殿が号外を見たと言われたが、そうなると、やはり私達の事を偽物の勇者団であると思っていられるのか?」
 この女アサシンもカミラー同様、少しも揺らいではいなかった。

 リウゴウの左隣、大型冷蔵庫に闇色の風呂敷を被せたみたいな、顎の大きく発達した類人猿の頭骨を被った巨漢が、その死の香りが立ちこめるような、不吉な白い頭を左右に緩やかに振り
 「私はガラサンタと申します、以後お見知りおきを。
 あの号外にございますが、私達は聖コーサ様の下された、あの突然の処刑宣告には、全く納得しておりません」
 こちらは、暴力的なほどに内側からローブを盛り上げる、小山のような巨躯の野性的大迫力を大きく裏切るような、まるで可憐な少女を思わせる、耳にも愛らしい、透き通るようなうら若き声であった。

 女勇者のパーティは、またもや仲間内で視線を交えたが、直ぐに大猿の骸骨を見上げた。

 違和感を持たれることには慣れているのか、一息置いたガラサンタが続ける
 「少し前に王都にて、大陸王ガーロード様と教皇様が、ある勇者の一団を公式に救世勇者団として認められた事は、当然、私共の耳にも届いております。
 ですが、聖コーサ様は、その教皇様の遣わされた正式な勅使の認可報を、聖女たる自分は七大女神様達よりそのような御神託を承けた覚えはない、と一喝してはね除けられました。
 更にそれだけに止まらず、今後、聖都ワイラーは中央枢機卿院とは独立した、聖別された特別聖教街区として機能すると宣され、明確に正教会とは袂を分かつ事を発表されました。
 これには私達、西の中神殿としては正しく寝耳に水であり、リウゴウ様は、今度(こたび)の伝説成就の論争には、未だ声明を控えておられるところにございます」

 聖都ワイラー、その内部不一致という現状を静聴していたカミラーは、真正面からリウゴウの黒い洞穴のような眼窩(がんか)を見据え
 「では、お前達としては、わらわ達が真の伝説の勇者団であるやも知れんと、少なからぬ希望を持っておると、こういう訳じゃな?」

 角鹿の乾いた頭骨が「そうだす」と、乙女のような声で短く応えた。

 こめかみに聖なる金印の五芒星を焼き付けた、大鳥頭のレイバラも、傍らでうなずいて、それに同意を添え
 「その通りにございます。これまで私達、西の中神殿としましても、聖典の追筆を含めた、二十数年前より突如として始まった、聖コーサ様の反教皇院の姿勢と独断に異議を示して参りましたが、それらは何一つとして、全く以て取り合われず、それどころか中央区大神殿に対する叛意ありとされ、聖女様の古代魔法により、産まれし日より七大女神様より賜った肉体を人質に取られ、このようなおぞましき姿へと堕(お)とされたのでございます。
 そこで我等、ワイラーの南と西の信徒は、この聖都を元の清浄な信仰の拠り所に戻すべく、今日この日より、伝説の光の勇者様方に身を寄せる事をここに誓います。
 これよりは皆様と共に聖女様の元へと上り、そこでいかなる局面を迎えようとも、この聖都ワイラーに光を取り戻すため、この身を捧げる所存にございます」
 三つの闇色の呪われしローブ達は、その言葉を宣誓として、一斉に膝を折って、大食堂の床に骨の両手をつき、光属性の女勇者達へ平伏した。

 その信仰を貫いた、悲しき哀れな末路を目の当たりにした女賢者ユリアと、神官位のアンとビスは、双眸(そうぼう)から溢れる涙を抑えることが出来なかった。

 マリーナも恐ろしく険しい顔で、猛る雄牛のごとく鼻を鳴らして
 「へぇ。そーりゃ酷い話だねぇ。なんかそのコーサ様ってさ、スッゴい魔法を使うのかも知んないけどー、話だけ聴くとやりたい放題じゃないか!
 えーと、そういうのってなんつーんだっけ?えー、あぁそ、背教っつーの?なんかそんな感じだね!!?」

 シャンは最高級のトパーズに似た、妖しいほどに澄んだ美しい瞳をふせて、それにうなずき
 「そうだな、マリーナ。コーサとは、そんな"感じ"ではなく、明らかに背教者だ」

 マリーナはそれに不敵に微笑み
 「じゃ、そういうことならさ、アタシ達光の勇者のやれる事といえば?」

 「コーサめの成敗、じゃな!」
 美しい幼女にしか見えない女バンパイアは、掴んだ長大な朱槍の石突(いしづき)で、ドンッ!と床を叩いた。  
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ちーとにゃんこの異世界日記

譚音アルン
ファンタジー
「吾輩は猫である」 神様の手違いで事故死してしまった元女子大生の主人公は異世界へと転生した。しかし、お詫びとして神より授かったのは絶大な力と二足歩行の猫の外見。喋れば神の呪いかもしれない自動変換されてしまう『にゃ〜語』に嘆きつつも、愛苦しいケット・シーとして生まれ変わったニャンコ=コネコの笑いあり、涙あり? ふるもっふあり!! の冒険活劇が今始まる――。 ※2014-08-06より小説家になろうで掲載済。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...