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26話 要するに場違いってこと?
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美しい双子のライカンスロープは優雅に手を振って退場するが、全く興奮の冷めやらぬ観客達。
その熱狂的な大歓声が轟く中、自警団長の的確な指示のもと、屈強な自警団員のモップと雑巾がけ部隊が一斉に動き、汚れた舞台は実に手際よく、短時間であれよあれよいう間に清められてゆく。
流石に醜怪なる邪神兵の骸には自警団員等も二の足を踏んだが、団長自らが、がに股の腕捲りでドスドスと歩み寄り。
「いやはや。私、リンドーの自警団長ゴイス=ボインスキーと申す!
邪神の兵といえど、戦いに討ち死なばこれ敵として憎むこと能(あた)わじ!しからば失礼致す!」
と、それぞれ動かぬ二名に向かって敬礼し、その蛍光緑の体液にまみれた遺体を、己が汚れることも気にせず、両手(もろて)でかき抱くようにして担ぎ上げ、或いは拾い、丸で聖遺物を扱うように丁重に担架に乗せた。
老領主シラーは満足そうに一連の迅速な清掃作業を見下ろし、車椅子を鳴らして座り直すと、タメ息を一つ
「ほ。一時はどうなることかと思いましたが、アンとビスが何とか攻略してくれました。
邪神の尖兵の鉤爪が、善良な力なき領民に最初に下ろされなかったのが何よりです」
老人はリンドー領領主として心から安堵していた。
マリーナも神妙な面持ちで闘技場を見ていたが、大きくうなずき
「だね。アイツ等の言う通りなら、これから大陸各地で邪神の兵士達が暴れるだろうね。
でも、安心しな!魔王だとかそーゆーのと戦う為にアタシ達伝説の勇者がいるんだからね!」
頼もしく言い切って、長い親指で自らを差した。
シャンも、しみじみとそれに首肯して
「マリーナ、よく言った。私達の旅はその為のものだ。
さて、ユリア。聞きたいことがある。
邪神軍団は魔法が全く効かない者や、強靭な肉体を持つ者ばかりと聞く。
それらを相手に我々の光属性は有効なのか?」
魔法賢者の博識ユリアは、よほど戦闘が怖かったのか、目尻の滴を小さな手の甲、掌で拭いながら
「あっ、はい。相討ちで命を落としたものの、見事に邪神を撃退した初代勇者達は、そのうちの数名が光属性だったと古代の石板文献にあります。
それと、多分ですけど、先程アンさんとビスさんの使われた武器ですが、全体が仄かに輝いていたことから、おそらくは神聖魔法がかけられていたはずです。その威力は……」
シャンは腕を組んで、メタリックなパープルシャドウの瞼を閉じて
「うん。言われてみれば光っていたような……いや、正直なところ私は気付かなかった。
だが、魔法使いなら魔力検視でそれが分かるのだろうな。
なるほど。アンとビスの腕によるところも多大にあるだろうが、あの戟。確かに凄まじい切れ味だったな。
うん。邪神軍団とは決して完全無欠という訳ではなく、神聖魔法と光属性にはかなり弱いということか。ありがとうユリア」
マリーナが指をバキボキと鳴らして清掃の終了した舞台を指差し
「ほーん。じゃ、あれかい?あの場にアタシ達がいても、邪神兵を光の力でギッタギタに撃退出来たってことだね?」
アンとビスと自分達の力量の差を全く考慮に入れず、美しい女戦士は能天気かつ勇ましく答え合わせを求めた。
シャンは一瞬、遠い目になったが
「そうだ。さしずめ、我々は生まれついての第一級の退魔戦士ということになるな。
さて、ひとまずこの街の脅威は排除された訳だが、まだ神前大会は終わっていない。
マリーナ、準備は良いか?」
隣の前屈みで両手を両膝に、大柄な肩を回しゴキゴキと鳴らす美しい女戦士を見た。
そのブロンドのグラマーは
「勿論さ!あーんな戦い見せられたら、アタシは今すぐにでも、もうヤりたくてヤりたくてウーズウズしちゃうね!」
不敵に真っ赤な唇の口角を上げ、完爾として笑った。
女アサシンは仲間の淀みのない澄みきった自信と剛胆さを見て、トパーズの眼を細め、マスクの下で同じ顔になった。
シラーもシミの額に皺を入れて笑みを見せ
「さようにございますか。ホッホッホ……流石は伝説の勇者様、正しく読んで字のごと、誠に勇ましいことですな。ホッホッホ。
では、ご一緒に決戦の闘技場に向かいましょう。ホッホッホ……」
老人の笑う声は、最初こそ屈託のないマリーナの放つ、陽の光のような無邪気な明るさにあてられて、思わずと出たものであったが、途中からは抜け目のない、世故に長けた賢しい老人の声音になっていた。
突然の邪神兵の乱入により、中座していた老人の中の勇者退治の野望が帰ってきたのだ。
老人の車椅子を先頭に、緩やかなスロープを降りながら、口に手をあてていたユリアがモジモジとしつつ
「あ、あの……マリーナさん?」
両手剣を広い背に担ぎ、威風堂々と大股で歩く170㎝のマリーナは、蜂蜜色の頭の155㎝を見下ろし
「ん?なんだい?」
ユリアはひどくドギマギと躊躇いながら
「えと、あの……さっきの試合、す、凄かったですね?」
マリーナは長い下り坂の先へ視線を戻し
「ん?うん。あの狼犬のロリコンだっけ?ありゃとんでもないね!あの速さときたら、もー反則モンだよねー」
隣の細身のレザーアーマーの女アサシンは、まだ黙っている。
ユリアは正しく恐る恐ると言葉を紡ぐ
「そ、そうですね。は、反則レベルですよねー?」
マリーナは怯える小動物を想わせる美少女を眺め
「んー。あのさーユリアー。アタシはアンタみたいに賢い方じゃないからさ、仲間なんだし、思うことがあるんならさー、もっとこー、ハッキシいってくんないかな?
あーあー、別に怒ってんじゃないからね?」
ユリアは恐縮してちぢんでいたが、『仲間』という言葉にハッとして、意を決したように振り向き
「はい!す、すみません!えと、マリーナさんもシャンさんもこれから、さっきの凄い戦いぶりを見せたアンさんとビスさんと戦うんですよね?」
今更分かりきったことを聞く。
シャンの眉の上で一直線に切り揃えられた前髪は揺れない。
ソバカスの魔法賢者が続ける。
「神前組手大会ですから、さっきの邪神兵排除戦とは違って、刃の付いた武器の使用はないとはいえ、その……えと……。
こ、怖くはないんですか!?
もし怪我をしても治療役のこの街の僧侶様がいらっしゃるし、危なくなる前に降参すれば命を落とすこともないと思いますが、それにしたって、私なら怖くて怖くてあんな所に闘いに上ろうなんて絶対に思いません!」
この美少女は『怪我』とか『怖くて』という言葉でマリーナとシャンの反感を反らせようと努めているが、真意としては冒険者ギルドで登録してから、まだ幾らも経っていない女戦士と女アサシンがこの短い旅で、あのアンとビス相手にまともに戦えるほどに成長しているとは思えない、と指摘したかったのである。
特に同じパーティで寝食を共にしているユリアからすれば、今のこの二人が人外の強さを見せつけたアンとビスに挑むのは分不相応に過ぎたことであり、大観衆の前へ自ら喜び勇んで、わざわざ赤っ恥をかきに行くように見えたのだ。
だが。
ブロンドのグラマーは引き締まった腰に手を置き豪快に、シャンは拳をマスクにあて、大いに笑ったのである。
その熱狂的な大歓声が轟く中、自警団長の的確な指示のもと、屈強な自警団員のモップと雑巾がけ部隊が一斉に動き、汚れた舞台は実に手際よく、短時間であれよあれよいう間に清められてゆく。
流石に醜怪なる邪神兵の骸には自警団員等も二の足を踏んだが、団長自らが、がに股の腕捲りでドスドスと歩み寄り。
「いやはや。私、リンドーの自警団長ゴイス=ボインスキーと申す!
邪神の兵といえど、戦いに討ち死なばこれ敵として憎むこと能(あた)わじ!しからば失礼致す!」
と、それぞれ動かぬ二名に向かって敬礼し、その蛍光緑の体液にまみれた遺体を、己が汚れることも気にせず、両手(もろて)でかき抱くようにして担ぎ上げ、或いは拾い、丸で聖遺物を扱うように丁重に担架に乗せた。
老領主シラーは満足そうに一連の迅速な清掃作業を見下ろし、車椅子を鳴らして座り直すと、タメ息を一つ
「ほ。一時はどうなることかと思いましたが、アンとビスが何とか攻略してくれました。
邪神の尖兵の鉤爪が、善良な力なき領民に最初に下ろされなかったのが何よりです」
老人はリンドー領領主として心から安堵していた。
マリーナも神妙な面持ちで闘技場を見ていたが、大きくうなずき
「だね。アイツ等の言う通りなら、これから大陸各地で邪神の兵士達が暴れるだろうね。
でも、安心しな!魔王だとかそーゆーのと戦う為にアタシ達伝説の勇者がいるんだからね!」
頼もしく言い切って、長い親指で自らを差した。
シャンも、しみじみとそれに首肯して
「マリーナ、よく言った。私達の旅はその為のものだ。
さて、ユリア。聞きたいことがある。
邪神軍団は魔法が全く効かない者や、強靭な肉体を持つ者ばかりと聞く。
それらを相手に我々の光属性は有効なのか?」
魔法賢者の博識ユリアは、よほど戦闘が怖かったのか、目尻の滴を小さな手の甲、掌で拭いながら
「あっ、はい。相討ちで命を落としたものの、見事に邪神を撃退した初代勇者達は、そのうちの数名が光属性だったと古代の石板文献にあります。
それと、多分ですけど、先程アンさんとビスさんの使われた武器ですが、全体が仄かに輝いていたことから、おそらくは神聖魔法がかけられていたはずです。その威力は……」
シャンは腕を組んで、メタリックなパープルシャドウの瞼を閉じて
「うん。言われてみれば光っていたような……いや、正直なところ私は気付かなかった。
だが、魔法使いなら魔力検視でそれが分かるのだろうな。
なるほど。アンとビスの腕によるところも多大にあるだろうが、あの戟。確かに凄まじい切れ味だったな。
うん。邪神軍団とは決して完全無欠という訳ではなく、神聖魔法と光属性にはかなり弱いということか。ありがとうユリア」
マリーナが指をバキボキと鳴らして清掃の終了した舞台を指差し
「ほーん。じゃ、あれかい?あの場にアタシ達がいても、邪神兵を光の力でギッタギタに撃退出来たってことだね?」
アンとビスと自分達の力量の差を全く考慮に入れず、美しい女戦士は能天気かつ勇ましく答え合わせを求めた。
シャンは一瞬、遠い目になったが
「そうだ。さしずめ、我々は生まれついての第一級の退魔戦士ということになるな。
さて、ひとまずこの街の脅威は排除された訳だが、まだ神前大会は終わっていない。
マリーナ、準備は良いか?」
隣の前屈みで両手を両膝に、大柄な肩を回しゴキゴキと鳴らす美しい女戦士を見た。
そのブロンドのグラマーは
「勿論さ!あーんな戦い見せられたら、アタシは今すぐにでも、もうヤりたくてヤりたくてウーズウズしちゃうね!」
不敵に真っ赤な唇の口角を上げ、完爾として笑った。
女アサシンは仲間の淀みのない澄みきった自信と剛胆さを見て、トパーズの眼を細め、マスクの下で同じ顔になった。
シラーもシミの額に皺を入れて笑みを見せ
「さようにございますか。ホッホッホ……流石は伝説の勇者様、正しく読んで字のごと、誠に勇ましいことですな。ホッホッホ。
では、ご一緒に決戦の闘技場に向かいましょう。ホッホッホ……」
老人の笑う声は、最初こそ屈託のないマリーナの放つ、陽の光のような無邪気な明るさにあてられて、思わずと出たものであったが、途中からは抜け目のない、世故に長けた賢しい老人の声音になっていた。
突然の邪神兵の乱入により、中座していた老人の中の勇者退治の野望が帰ってきたのだ。
老人の車椅子を先頭に、緩やかなスロープを降りながら、口に手をあてていたユリアがモジモジとしつつ
「あ、あの……マリーナさん?」
両手剣を広い背に担ぎ、威風堂々と大股で歩く170㎝のマリーナは、蜂蜜色の頭の155㎝を見下ろし
「ん?なんだい?」
ユリアはひどくドギマギと躊躇いながら
「えと、あの……さっきの試合、す、凄かったですね?」
マリーナは長い下り坂の先へ視線を戻し
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ユリアは正しく恐る恐ると言葉を紡ぐ
「そ、そうですね。は、反則レベルですよねー?」
マリーナは怯える小動物を想わせる美少女を眺め
「んー。あのさーユリアー。アタシはアンタみたいに賢い方じゃないからさ、仲間なんだし、思うことがあるんならさー、もっとこー、ハッキシいってくんないかな?
あーあー、別に怒ってんじゃないからね?」
ユリアは恐縮してちぢんでいたが、『仲間』という言葉にハッとして、意を決したように振り向き
「はい!す、すみません!えと、マリーナさんもシャンさんもこれから、さっきの凄い戦いぶりを見せたアンさんとビスさんと戦うんですよね?」
今更分かりきったことを聞く。
シャンの眉の上で一直線に切り揃えられた前髪は揺れない。
ソバカスの魔法賢者が続ける。
「神前組手大会ですから、さっきの邪神兵排除戦とは違って、刃の付いた武器の使用はないとはいえ、その……えと……。
こ、怖くはないんですか!?
もし怪我をしても治療役のこの街の僧侶様がいらっしゃるし、危なくなる前に降参すれば命を落とすこともないと思いますが、それにしたって、私なら怖くて怖くてあんな所に闘いに上ろうなんて絶対に思いません!」
この美少女は『怪我』とか『怖くて』という言葉でマリーナとシャンの反感を反らせようと努めているが、真意としては冒険者ギルドで登録してから、まだ幾らも経っていない女戦士と女アサシンがこの短い旅で、あのアンとビス相手にまともに戦えるほどに成長しているとは思えない、と指摘したかったのである。
特に同じパーティで寝食を共にしているユリアからすれば、今のこの二人が人外の強さを見せつけたアンとビスに挑むのは分不相応に過ぎたことであり、大観衆の前へ自ら喜び勇んで、わざわざ赤っ恥をかきに行くように見えたのだ。
だが。
ブロンドのグラマーは引き締まった腰に手を置き豪快に、シャンは拳をマスクにあて、大いに笑ったのである。
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