退屈な魔王様は冒険者ギルドに登録して、気軽に俺TUEEEE!!を楽しむつもりだった

有角 弾正

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25話 閲覧注意! アンとビスが凄く強かったので勝ちました

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 双子の美しい獣人の乙女達は、嵐の日の風車のごとく戟を回し、倒れるような前傾姿勢で駆け、それぞれの標的、黒包帯の大小を切り裂きにかかった。

 警戒し、瞬間的に身構えた邪神兵の二人へ風より速く、すれ違いざまの斬撃。
 止まることなく信じられないスピードで急旋回しつつ、また斬撃。
 更に対象にまとわりつくように、高速で駆け回りながらの戟と蹴りのコンビネーション連続攻撃を見舞った。

 アデスとタマルの形見、包帯の切れ端が黒い桜のように舞い散った。

 アンとビスの人を凌駕した、迅雷のごとき目にも留まらぬ攻撃に、堪らず頭部をガードして立ち尽くすだけの邪神兵の二人は、二つの旋風の鎌鼬にあらゆる角度から体表を切り刻まれ、蛍光緑の体液を散らす。

 「ぐ、くう!こ、こんな!」

 「うぐっう!や、やめろぉ!!」
 邪神兵等は女の不気味な裏声で喚いた。


 戦いを固唾を飲んで見守っていたボインスキーも、観客達も拳を握りしめ、突き上げ、一斉に雄叫びを上げた。

 神話に聞こえた、あの邪神の兵士達が我等が英雄によって切り刻まれ、苦鳴を漏らし、翻弄されるままに、いよいよ膝をついてゆくのだ。


 観客等の大歓声は領主の館までビリビリと振動させた。

 金髪を高く結った深紅の鎧の女勇者が、左掌を右拳でパンッ!と打ち
 「スゲー!スゲーよあの二人!!こりゃキメちまうよ!?」
 その舞台の荒れ狂う暴風のごときライカンスロープ達が、自分が次に戦わねばならない相手であることも忘れ、ただただ双子の圧倒的な強さに酔しれ、その巨大な胸を高鳴らせていた。

 ユリアは怖々と杖の陰から戦いを見て戦慄いていた。

 「た、確かに凄い、ですね……。
 超古代の人類やモンスター、はては竜族、魔族さえも打ち倒し、この星の生物を十分の一にまで減らしたといわれる、生ける災害とまで語り継がれる、あの強力な邪神の兵士がここまで一方的に制圧されるなんて……アンさんとビスさん!ほ、本当に凄いです」

 深紫のレザーアーマーの女アサシンも、険しい顔で人外の怒涛の攻めを眺め
 「狼犬の獣人深化か。確かに飛躍的な戦闘力の向上だな」
 マスクの顎の下を親指で押し、唸るように感想を述べた。


 舞台では、膝立ちの背の高い邪神兵が左腕で触手の顔面を覆い、ヨロヨロと右手の人差し指を高く跳躍したビスへかざし
 「小うるさい蝿め!!飛ぶのを待っておったわ!こ、殺してやる!!」

 緑のペンキを散らされたような、弛んだ黒包帯の垂れ下がる細い腕、その手の甲がモゴリ!と膨張、伸ばした指先へ向けて、ネズミ色の皮下で玉を運ぶように何かが脈動した。

 ザンッ!!

 そこへ脇の地面すれすれから、アンがすくい上げるような戟の一閃!

 不気味な違和感を放つ、その邪神兵の右腕の肘を薙いで切断した。

 切り飛ばされた、人差し指を立てた黒包帯の前腕が、その切断面から蛍光緑の血液を撒きながら真上に舞う。

 その空中で回転する腕の人差し指の先から、一筋の緑の光の筋がほとばしる。
 その眩く短い光線は、隣にいた小柄な邪神兵の左の肩口から右腰下までを斜め通過した。

 ジュワッ!!と、赤熱した焼きごてを濡れ雑巾に押し付けたような異音。

 「ギャアッ!!」
 
 小柄な邪神兵は後方の石の床まで、正しく袈裟がけに両断された。

 ズリッと頭が付いた斜め半身が、煙と陽炎の立つ切断面を滑り、ドザンッ!と地に落ち、それを追いかけるようにバタリ!と残りの左上半身と足の方も前のめりに倒れた。

 プラチナの美しい獣人は、輝く死の天使のごとくそれに舞い降り、錐のように体ごと回転し、戟の刃で仰向けに曇天を睨んでいた邪神兵の首を根元からはねた。

 「ぐっうっ!」
 ネズミ色の生首は切断面から緑の血液をバシャバシャと四方八方へ撒き散らしながら、白い石の床をドン、ドッ!ドンと転がった。

 「キャアッ!!」
 観客の女達と三階テラスのユリアが叫ぶ。


 片手を失った邪神兵は、大陸の共通語ではない苦鳴を呪詛のごとく漏らし、咄嗟に左手を右の脇の下へやり、必死に止血をし、その真っ黒な目に仲間の死を映していた。

 そこへ美しい黒死天使のごとく舞い降りたのは、縦方向に膝を抱えるよう激回転するビス。

 バザンッ!!

 長身の黒包帯は、反射的に防いだ左掌ごと頭部を唐竹に喉まで両断され、左右にはぜ割れた頭部からは緑の噴水が湧いた。
 
 ビスが華麗に屈んだ姿勢で無音で着地すると、噴水はドッと後方に倒れた。


 舞台はあちこち蛍光緑の水溜まりが出来上がり、そこへ黒い布切れが不気味なトッピングとして浮かび、正しく陰惨極まるおぞましき処刑の場と化していた。
 
 そこへ長柄の武器を構えて立つ、神々しい白金と純黒の獣人の双子。

 その光景は、なんとも妖しくも美しい、魔界の美の一枚絵として仕上がっていた。
 

 一方的な残酷な虐殺に声を失う観客達。

 
 アンはいつの間にか、前に伸びたクセのある人の顔に戻っていた。

 頬にかかるプラチナのボブを優雅に白い掌で左右に払って
 「酷なようですが。貴方達はアデスとタマルを殺し、神前大会を大いに汚した上、この街の住民まで手にかけようとしました。
 これはその報いです」
 そう冷厳かつ悼むように言うと、戟を振るって、鈍く光る先端の刃の緑の汚れを石の床へ、ビシャッと叩きつけ、邪神兵の骸に慇懃に頭を垂れた。
 
 姉の方も褐色の滑らかな肌の乙女の顔で
 「皆様。七大女神様のご加護により、ここに邪神の脅威は排除されました。
 アデス、タマル両名と戦えなかったのは誠に残念ですが、これで今大会優勝者は私達ということにあいなりました。
 これより不詳私達と伝説の勇者様達との神前決戦をお楽しみ下さいませ」
 返り血一つない、ピンと黒犬の耳の立った、艶めく漆黒の頭を悠然かつ整然と垂れた。
 
 観客達はそれを合図に熱狂し、割れんばかりの拍手と最大限の賛辞を口々に贈った。
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