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第44話 可憐な狂気
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横たわり、胸ぐらを掴まれているおれは、後方から聞こえた声が気になり、首の力を抜いて天地が逆さまに見えるように後ろを見た。ワグナも気になって、おれを殴る手を止めていた。
「はは、なんだあの人、めちゃくちゃ強いんだ……」
綺麗な金色の長い髪、サラ支部長だ。いつもと違って髪を後ろで結んでいた。
残党を軽やかに倒していき、こっちに歩み寄ってくる。ユナさんも一緒だった。なんか大きなリュックサックを背負って、鉄パイプみたいなの持ってるな。
「なんだ、女の応援か? お前ら情けねぇなあ、お姉ちゃんたちが迎えに来たぞ?」
ワグナの挑発には誰も返事をせずに、サラさんが眉間にシワを寄せてそのまま歩いてくる。ワグナはおれを離して前に出た。容赦なく襲いかかる気だ。
「女が相手でもおれぁ手加減しねーぞ!」
笑いながらサラさんに殴りかかるワグナ。対するサラさんは、素早く回転しながらすれ違うように躱した。
「いらっしゃいまし~」
そして後ろにいたユナさんが、鉄パイプをワグナの顔面にフルスイングした。ワグナは跳ね返って地面に倒れたが、ふらつきながらもすぐに起き上がった。
そして間髪入れずにサラさんの槍で刺すような鋭い右ストレートがワグナの顔面に追い打ちをかけ、倒れて意識を失った。
「エレナ、頑張りすぎだ。ちょっと休め」
絶体絶命のピンチに駆けつけてくれて本当に嬉しかった。おれは緊張の糸が切れ、涙が零れた。
「おれよりおっさんを早く病院に連れてって!」
「ああ、ユナが言ってたとおり、重症だな。すぐに運ぶぞ」
サラさんはそう言って軍笛を吹きだした。どういう意味だろう。
「外に兵を待機させていてな。合図で入ってくるように言ってある」
サラさんの言う通り、脳筋みたいな男の兵士たちがダッシュでやってきた。
「っしゃお前ら! アラっちを医者んとこまで運べ!」
「おっす!!」
なんだか暑苦しい男たちだったけど、おっさんを担いであっという間に出ていった。とりあえず一安心だ。
「お前は病院行かなくていいのか? 相当ボロボロだぞ」
「今は大丈夫。それより、チサトが奥でアールズとやり合ってる。早く戻らないと」
おれとサラさんとユナさんで、チサトの元へ向かった。身体の痛みが半端なかったが、仲間と合流した喜びから、不思議と動ける程度には回復した。
再び奥の大部屋に戻るとまだ戦いは続いていて、疲弊したチサトの顔面に、アールズの前蹴りがヒットしていた。
「チサト!」
倒れても回転しながらすぐに立ち上がってまた構えとるチサト。顔を見ると、さっきより殴られた跡が増えていたが、まだまだ大丈夫そうだ。
「おやおや。今度は支部長さんがお越しですか。ご苦労さまです」
余裕の表情を見せるアールズに、おれはイラついた。
「サラさん。あいつの能力は多分、ダメージを相手に跳ね返すとか、そんなとこです。おっさんがあそこまでやられたのは、全部自分の攻撃したダメージが跳ね返ってきたからなんです」
「あ? なんだそりゃ。そんなことがありえんのか?」
「おれたちと同じ精霊の加護なのかわからないですけど、普通じゃないです、あいつ」
他にも今までの戦闘の流れを、細かくサラさんに説明した。その間、チサトは敵のパンチを躱して、時にいなして、そして素早く相手の懐に踏み込み、足を掛けながらアールズの顔面を鷲掴みで、地面に押し倒した。
「あんなふうに打撃じゃない攻撃でも、何か知らないけどダメージを受けないんですよ」
「そうか……」
サラさんは少し考えてから、チサトを呼んだ。2人はハイタッチをして選手交代した。
ここからはサラさんとユナさんペアでの戦闘になるみたいだ。さっきのを見る限り、ヘリドット支部は、女とか関係無しに強い人達が揃っている。
いや、むしろ女だから強いという部分もあるというべきか? まぁいいや、それっぽいこと考えてもわけわかんねぇ。とりあえずおれは力を回復させて、また戦闘に加われるようにしないと。
「チサト! あいつの潰し方、閃いたか?」
「え? えーっと、とりあえず投げ技……くらい?」
サラさんの急な問いかけにチサトなりに答えたのに、サラさんは尻尾を踏まれた大型犬のように、今にも噛みつきそうな顔でチサトを睨んだ。
「おめぇ! 1番戦っててそれだけか! エレナは!」
お、おれかい! 全然構えてなかった。
「殴り続ける……?」
サラさんの表情が凶暴な大型犬から、鬼の表情へと進化した。
「そんなことしたらアラっちの二の舞いだろうが!」
だって、そんな怖い顔で急に振ってくるからぁ……。
おれとチサトは2人して体操座りで地面を指でなぞっていた。
「ヒント、あげましょうか?」
静かに佇んでいるアールズが、話しかけてきた。
「ああ、ありがてぇけど使えねぇ男どもとは違って、ウチら賢いからよ」
「そうだそうだ!」
相変わらず調子のいいユナさんがサラさんの後ろから野次を飛ばしている。
「では、どうやって私を潰すつもりですか?」
「絞める」
「燃やす」
「刺す」
「埋める」
最高のドヤ顔で交互に言い放った2人。
「殺人鬼かあんたら!!」
すかさずツッコミをいれるチサトを見て、こんなやり取りがいつも行われてるんだなぁと悟った。
「ほう、さすがこのヘリドット支部で大将を張るだけのことはある。全部正解だ。非常に理にかなっている」
───当たってんのかよ。でも確かに、物理攻撃が効かないなら今言ったことなら効くかもしれない。でも、おれの雷も効かなかったし、その辺がわけわかんねぇ。
「ユナ、サポート頼むぞ」
「まっかせておくんなっせー!」
途端にサラさんは凛とした表情に変わり、歩き始めた。王国軍ヘリドット支部長、サラさんの本気の戦いが始まる。
「はは、なんだあの人、めちゃくちゃ強いんだ……」
綺麗な金色の長い髪、サラ支部長だ。いつもと違って髪を後ろで結んでいた。
残党を軽やかに倒していき、こっちに歩み寄ってくる。ユナさんも一緒だった。なんか大きなリュックサックを背負って、鉄パイプみたいなの持ってるな。
「なんだ、女の応援か? お前ら情けねぇなあ、お姉ちゃんたちが迎えに来たぞ?」
ワグナの挑発には誰も返事をせずに、サラさんが眉間にシワを寄せてそのまま歩いてくる。ワグナはおれを離して前に出た。容赦なく襲いかかる気だ。
「女が相手でもおれぁ手加減しねーぞ!」
笑いながらサラさんに殴りかかるワグナ。対するサラさんは、素早く回転しながらすれ違うように躱した。
「いらっしゃいまし~」
そして後ろにいたユナさんが、鉄パイプをワグナの顔面にフルスイングした。ワグナは跳ね返って地面に倒れたが、ふらつきながらもすぐに起き上がった。
そして間髪入れずにサラさんの槍で刺すような鋭い右ストレートがワグナの顔面に追い打ちをかけ、倒れて意識を失った。
「エレナ、頑張りすぎだ。ちょっと休め」
絶体絶命のピンチに駆けつけてくれて本当に嬉しかった。おれは緊張の糸が切れ、涙が零れた。
「おれよりおっさんを早く病院に連れてって!」
「ああ、ユナが言ってたとおり、重症だな。すぐに運ぶぞ」
サラさんはそう言って軍笛を吹きだした。どういう意味だろう。
「外に兵を待機させていてな。合図で入ってくるように言ってある」
サラさんの言う通り、脳筋みたいな男の兵士たちがダッシュでやってきた。
「っしゃお前ら! アラっちを医者んとこまで運べ!」
「おっす!!」
なんだか暑苦しい男たちだったけど、おっさんを担いであっという間に出ていった。とりあえず一安心だ。
「お前は病院行かなくていいのか? 相当ボロボロだぞ」
「今は大丈夫。それより、チサトが奥でアールズとやり合ってる。早く戻らないと」
おれとサラさんとユナさんで、チサトの元へ向かった。身体の痛みが半端なかったが、仲間と合流した喜びから、不思議と動ける程度には回復した。
再び奥の大部屋に戻るとまだ戦いは続いていて、疲弊したチサトの顔面に、アールズの前蹴りがヒットしていた。
「チサト!」
倒れても回転しながらすぐに立ち上がってまた構えとるチサト。顔を見ると、さっきより殴られた跡が増えていたが、まだまだ大丈夫そうだ。
「おやおや。今度は支部長さんがお越しですか。ご苦労さまです」
余裕の表情を見せるアールズに、おれはイラついた。
「サラさん。あいつの能力は多分、ダメージを相手に跳ね返すとか、そんなとこです。おっさんがあそこまでやられたのは、全部自分の攻撃したダメージが跳ね返ってきたからなんです」
「あ? なんだそりゃ。そんなことがありえんのか?」
「おれたちと同じ精霊の加護なのかわからないですけど、普通じゃないです、あいつ」
他にも今までの戦闘の流れを、細かくサラさんに説明した。その間、チサトは敵のパンチを躱して、時にいなして、そして素早く相手の懐に踏み込み、足を掛けながらアールズの顔面を鷲掴みで、地面に押し倒した。
「あんなふうに打撃じゃない攻撃でも、何か知らないけどダメージを受けないんですよ」
「そうか……」
サラさんは少し考えてから、チサトを呼んだ。2人はハイタッチをして選手交代した。
ここからはサラさんとユナさんペアでの戦闘になるみたいだ。さっきのを見る限り、ヘリドット支部は、女とか関係無しに強い人達が揃っている。
いや、むしろ女だから強いという部分もあるというべきか? まぁいいや、それっぽいこと考えてもわけわかんねぇ。とりあえずおれは力を回復させて、また戦闘に加われるようにしないと。
「チサト! あいつの潰し方、閃いたか?」
「え? えーっと、とりあえず投げ技……くらい?」
サラさんの急な問いかけにチサトなりに答えたのに、サラさんは尻尾を踏まれた大型犬のように、今にも噛みつきそうな顔でチサトを睨んだ。
「おめぇ! 1番戦っててそれだけか! エレナは!」
お、おれかい! 全然構えてなかった。
「殴り続ける……?」
サラさんの表情が凶暴な大型犬から、鬼の表情へと進化した。
「そんなことしたらアラっちの二の舞いだろうが!」
だって、そんな怖い顔で急に振ってくるからぁ……。
おれとチサトは2人して体操座りで地面を指でなぞっていた。
「ヒント、あげましょうか?」
静かに佇んでいるアールズが、話しかけてきた。
「ああ、ありがてぇけど使えねぇ男どもとは違って、ウチら賢いからよ」
「そうだそうだ!」
相変わらず調子のいいユナさんがサラさんの後ろから野次を飛ばしている。
「では、どうやって私を潰すつもりですか?」
「絞める」
「燃やす」
「刺す」
「埋める」
最高のドヤ顔で交互に言い放った2人。
「殺人鬼かあんたら!!」
すかさずツッコミをいれるチサトを見て、こんなやり取りがいつも行われてるんだなぁと悟った。
「ほう、さすがこのヘリドット支部で大将を張るだけのことはある。全部正解だ。非常に理にかなっている」
───当たってんのかよ。でも確かに、物理攻撃が効かないなら今言ったことなら効くかもしれない。でも、おれの雷も効かなかったし、その辺がわけわかんねぇ。
「ユナ、サポート頼むぞ」
「まっかせておくんなっせー!」
途端にサラさんは凛とした表情に変わり、歩き始めた。王国軍ヘリドット支部長、サラさんの本気の戦いが始まる。
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