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第17話 オリフィス・ラック
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おれが精霊の加護を与えてもらった日から2週間が経った。
あの時は長い長い旅だったけど、社長やおっさんたちのおかげでなんとか目的を達成する事が出来た。
でも、個人的に最優秀賞は何日もおれたちを運んでくれた馬車の運転手と馬たちだったかな。
そんな今はロマーニの街に戻ってきて、事務所の横にある居酒屋で昼飯を食っていた。
「おばちゃん! ご飯おかわり頂戴! 大盛りね!」
「はいよ。あんた相変わらずよく食べるわねぇ」
夜は飲み屋として賑わっているこの店だが、昼間は定食屋としてこれまた繁盛している。マジで飯が美味いんだわ。
「オリフィスさん、もう食わないの?」
「ああ、腹いっぱいだよ」
「じゃあ残りもらうね!」
おれはとある男の人となっちゃんの3人で飯を食っていた。
その男の名はオリフィス・ラック。
実は同じ自警団の先輩がおっさんを除いて3人いる。オリフィスさんはその内の1人で、歳は確か25歳。
茶髪が所々混じった黒髪の長髪で、後ろで一つ結びをしているのが印象的だ。
背も高く、ガタイも程よくいいうえに、優しいから絶対モテるとおれは確信している。
「エレナ、あんた食べ過ぎよ。この後の仕事で動けなくなるわよ」
なっちゃんもおれが旅に出ている間に、いくつか仕事をこなしていたらしい。おれも負けずに頑張らないと。
「飯食って少し休憩したら、事務所でミーティングするから。後で集合な」
オリフィスさんはそう言って店を後にした。おれもご飯を食べ終えてから、なっちゃんと一緒に事務所に戻った。
事務所に戻るとオリフィスさんがソファーに座っていた。奥では社長も仕事をしているようだ。
「よし、それじゃあ仕事の話だ。内容はこれな」
テーブルの上にあった資料を指差して話始めた。
「アールズ不動産っていう、この街では有名な会社があってな。そこがどうにも違法な地上げをしているらしく、今回はその取り調べをしようっていう話だ」
なんだか難しそうな話っぽいぞ。
「地上げってなに?」
「要するに人の持っている土地を買って自分のものにするってだけさ」
「それの何が悪いの?」
「それ自体は何も悪いことじゃない。当たり前にある話さ。悪いのは、その土地を手放したくない人を、無理やり手放すように嫌がらせをすることだ」
そういうことか。それはとっちめないといけないな。
「アールズ不動産ってあの大きなビルでしょ? そんな悪いことしてる会社だったんだ」
なっちゃんは会社の場所を知っているようだ。
「黒い部分は表に出さないもんさ。真っ当な会社でもあり、要所要所では悪いやり方を使いながら儲けを出しているんだろうね」
今回は企業が相手なのか。なんかいつもと違って違和感があるな。
「1つ、肝に銘じておいて欲しいのが、この"取り調べ"というワードだ」
「ただそいつらの悪事を暴くってだけでしょ?」
「普通ならな。ただ、この仕事がフィストに回ってきたということは、実際は危険な戦闘になることが予想されるってわけさ」
そ、そういうもんなのか……?
「自分でいうのもなんだけど、ウチの売りはアホみたいな戦闘力の高さだ。だから回ってくる仕事はいつも危険なことばかり。どの仕事もそれが大前提ってことを覚えておいてくれ」
「わかりました」
今までおれもなっちゃんもいろんな仕事をしてきたけど、そんなふうに考えた事は一度もなかった。
まだ難易度の低い仕事しかしてないってのもあるんだろうけど。オリフィスさんのその言葉にプレッシャーを感じたおれだった。
◇
午後。おれたちはアールズ不動産の足取りを掴むべく、実際に嫌がらせを受けているという人のところに来ていた。
ウチの事務所からは少し離れた場所にある、"サリア青果店"という野菜や果物を売っているお店だ。
見たところ繁盛しているみたいだし、店主の人との接し方を見ていると、街の人にも親しまれているのがよくわかる。とても雰囲気のいい店だ。
オリフィスさんの後に続くおれとなっちゃん。客が一旦いなくなるまで待ってから、店まで近づき、店主に声をかけた。
「昨日お電話させて頂いた自警団フィストのオリフィスと申します。サリア社長でいらっしゃいますかね」
流れるような会話の導入に、おれは素直に凄いと感じた。
大人の人は喋りが上手だ。しかも、前日に電話していたなんて、"仕事──!"って感じだな。
オリフィスさん、それに社長もそうだけど、こういう話し方や立ち回りが上手でカッコいい。
大人なら当たり前なのかもしれないけど、自分にないものはどんどん吸収していこう。
「ああこんにちは。そうです、私がここの店主です。わざわざお越し頂いてすみませんね。どうぞこちらへ」
店の中の応接室みたいな部屋に案内してもらった。
「おーい! ちょっと店番頼めるかー?」
店主が違う部屋に向かってそう叫ぶと、奥から女性の声で返事が返ってきた。多分、奥さんに頼んだんだろう。
「ささ、かけてください。今お茶を淹れますから」
「ああいえ、お構いなく」
店主は慣れた手つきでおれたち3人にお茶を出してくれた。
「自警団フィストのオリフィス・ラックと申します」
「ナナ・コールです」
「エレナ・アリグナクです」
3人で軽く頭を下げて挨拶をした。
「店主のビム・サリアです。どうぞよろしく」
挨拶もそこそこに、話が始まるようだ。
「早速本題なんですけど、まずこのお店がアールズ不動産の地上げの対象になっているのは間違いないですよね?」
「ああ、間違いないよ。毎日毎日飽きもせずやってくるさ」
「どんな話を持ちかけてくるんです?」
「淡々と同じことを言ってくるだけさ。この土地を譲ってくれってことと、立ち退き料や移転先の斡旋の話だ」
「そうなんですね。ちなみに向こうが出す条件はお店にとって利益になる内容なんですか?」
「ああ。買い値も立ち退き料も金額的には結構太っ腹だ。それだけ見れば悪い話じゃねぇ」
……話が難しくて頭に入らない。
「それに対してご主人はどうご返答を?」
「断り続けてるよ。おれはこの土地でずっと商売やっていきてぇんだ。店を始めた当初から、この辺の人たちに支えられながらここまでやってきた。
いつも買ってってくれる常連さんもいるし、近隣の飲食店とも契約して個人だけじゃなくて店にも販売してんだ。
今となっては、ここでやり続けることに意味があるんだ」
目先の金より、人との繋がりを大事に、か。そんな店を奪うわけにはいかないよな。
その後もアールズ不動産について情報を聞いていると突然、応接室に奥さんが入ってきた。
「まだ来客中だ」
「邪魔してごめんなさい。でも、またアールズ不動産がやってきたわ」
奥さんと一緒に、小さな女の子もいた。娘がいたんだな。
2人ともとても不安そうな表情をしている。
「すみません、噂をすればやってきたようです。ちょっと待ってて頂けませんか?」
「わかりました」
オリフィスさんはそう言いつつも、店主が表に出た後、物陰に隠れながら後を追って近づいた。
おれとなっちゃんも、応接室から少し顔を出して、様子を伺った。
「こんにちは、サリアさん。いつもいつもすみませんねぇ」
やってきたのはニコニコしていて穏やかそうな男の人と、その人の部下であろう柄の悪そうな男だった。
あの時は長い長い旅だったけど、社長やおっさんたちのおかげでなんとか目的を達成する事が出来た。
でも、個人的に最優秀賞は何日もおれたちを運んでくれた馬車の運転手と馬たちだったかな。
そんな今はロマーニの街に戻ってきて、事務所の横にある居酒屋で昼飯を食っていた。
「おばちゃん! ご飯おかわり頂戴! 大盛りね!」
「はいよ。あんた相変わらずよく食べるわねぇ」
夜は飲み屋として賑わっているこの店だが、昼間は定食屋としてこれまた繁盛している。マジで飯が美味いんだわ。
「オリフィスさん、もう食わないの?」
「ああ、腹いっぱいだよ」
「じゃあ残りもらうね!」
おれはとある男の人となっちゃんの3人で飯を食っていた。
その男の名はオリフィス・ラック。
実は同じ自警団の先輩がおっさんを除いて3人いる。オリフィスさんはその内の1人で、歳は確か25歳。
茶髪が所々混じった黒髪の長髪で、後ろで一つ結びをしているのが印象的だ。
背も高く、ガタイも程よくいいうえに、優しいから絶対モテるとおれは確信している。
「エレナ、あんた食べ過ぎよ。この後の仕事で動けなくなるわよ」
なっちゃんもおれが旅に出ている間に、いくつか仕事をこなしていたらしい。おれも負けずに頑張らないと。
「飯食って少し休憩したら、事務所でミーティングするから。後で集合な」
オリフィスさんはそう言って店を後にした。おれもご飯を食べ終えてから、なっちゃんと一緒に事務所に戻った。
事務所に戻るとオリフィスさんがソファーに座っていた。奥では社長も仕事をしているようだ。
「よし、それじゃあ仕事の話だ。内容はこれな」
テーブルの上にあった資料を指差して話始めた。
「アールズ不動産っていう、この街では有名な会社があってな。そこがどうにも違法な地上げをしているらしく、今回はその取り調べをしようっていう話だ」
なんだか難しそうな話っぽいぞ。
「地上げってなに?」
「要するに人の持っている土地を買って自分のものにするってだけさ」
「それの何が悪いの?」
「それ自体は何も悪いことじゃない。当たり前にある話さ。悪いのは、その土地を手放したくない人を、無理やり手放すように嫌がらせをすることだ」
そういうことか。それはとっちめないといけないな。
「アールズ不動産ってあの大きなビルでしょ? そんな悪いことしてる会社だったんだ」
なっちゃんは会社の場所を知っているようだ。
「黒い部分は表に出さないもんさ。真っ当な会社でもあり、要所要所では悪いやり方を使いながら儲けを出しているんだろうね」
今回は企業が相手なのか。なんかいつもと違って違和感があるな。
「1つ、肝に銘じておいて欲しいのが、この"取り調べ"というワードだ」
「ただそいつらの悪事を暴くってだけでしょ?」
「普通ならな。ただ、この仕事がフィストに回ってきたということは、実際は危険な戦闘になることが予想されるってわけさ」
そ、そういうもんなのか……?
「自分でいうのもなんだけど、ウチの売りはアホみたいな戦闘力の高さだ。だから回ってくる仕事はいつも危険なことばかり。どの仕事もそれが大前提ってことを覚えておいてくれ」
「わかりました」
今までおれもなっちゃんもいろんな仕事をしてきたけど、そんなふうに考えた事は一度もなかった。
まだ難易度の低い仕事しかしてないってのもあるんだろうけど。オリフィスさんのその言葉にプレッシャーを感じたおれだった。
◇
午後。おれたちはアールズ不動産の足取りを掴むべく、実際に嫌がらせを受けているという人のところに来ていた。
ウチの事務所からは少し離れた場所にある、"サリア青果店"という野菜や果物を売っているお店だ。
見たところ繁盛しているみたいだし、店主の人との接し方を見ていると、街の人にも親しまれているのがよくわかる。とても雰囲気のいい店だ。
オリフィスさんの後に続くおれとなっちゃん。客が一旦いなくなるまで待ってから、店まで近づき、店主に声をかけた。
「昨日お電話させて頂いた自警団フィストのオリフィスと申します。サリア社長でいらっしゃいますかね」
流れるような会話の導入に、おれは素直に凄いと感じた。
大人の人は喋りが上手だ。しかも、前日に電話していたなんて、"仕事──!"って感じだな。
オリフィスさん、それに社長もそうだけど、こういう話し方や立ち回りが上手でカッコいい。
大人なら当たり前なのかもしれないけど、自分にないものはどんどん吸収していこう。
「ああこんにちは。そうです、私がここの店主です。わざわざお越し頂いてすみませんね。どうぞこちらへ」
店の中の応接室みたいな部屋に案内してもらった。
「おーい! ちょっと店番頼めるかー?」
店主が違う部屋に向かってそう叫ぶと、奥から女性の声で返事が返ってきた。多分、奥さんに頼んだんだろう。
「ささ、かけてください。今お茶を淹れますから」
「ああいえ、お構いなく」
店主は慣れた手つきでおれたち3人にお茶を出してくれた。
「自警団フィストのオリフィス・ラックと申します」
「ナナ・コールです」
「エレナ・アリグナクです」
3人で軽く頭を下げて挨拶をした。
「店主のビム・サリアです。どうぞよろしく」
挨拶もそこそこに、話が始まるようだ。
「早速本題なんですけど、まずこのお店がアールズ不動産の地上げの対象になっているのは間違いないですよね?」
「ああ、間違いないよ。毎日毎日飽きもせずやってくるさ」
「どんな話を持ちかけてくるんです?」
「淡々と同じことを言ってくるだけさ。この土地を譲ってくれってことと、立ち退き料や移転先の斡旋の話だ」
「そうなんですね。ちなみに向こうが出す条件はお店にとって利益になる内容なんですか?」
「ああ。買い値も立ち退き料も金額的には結構太っ腹だ。それだけ見れば悪い話じゃねぇ」
……話が難しくて頭に入らない。
「それに対してご主人はどうご返答を?」
「断り続けてるよ。おれはこの土地でずっと商売やっていきてぇんだ。店を始めた当初から、この辺の人たちに支えられながらここまでやってきた。
いつも買ってってくれる常連さんもいるし、近隣の飲食店とも契約して個人だけじゃなくて店にも販売してんだ。
今となっては、ここでやり続けることに意味があるんだ」
目先の金より、人との繋がりを大事に、か。そんな店を奪うわけにはいかないよな。
その後もアールズ不動産について情報を聞いていると突然、応接室に奥さんが入ってきた。
「まだ来客中だ」
「邪魔してごめんなさい。でも、またアールズ不動産がやってきたわ」
奥さんと一緒に、小さな女の子もいた。娘がいたんだな。
2人ともとても不安そうな表情をしている。
「すみません、噂をすればやってきたようです。ちょっと待ってて頂けませんか?」
「わかりました」
オリフィスさんはそう言いつつも、店主が表に出た後、物陰に隠れながら後を追って近づいた。
おれとなっちゃんも、応接室から少し顔を出して、様子を伺った。
「こんにちは、サリアさん。いつもいつもすみませんねぇ」
やってきたのはニコニコしていて穏やかそうな男の人と、その人の部下であろう柄の悪そうな男だった。
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