上 下
11 / 13
ジーランディア大陸編

【七陸・第十一話】ジーランディアの七不思議

しおりを挟む
 七つの大陸~異世界転生した勇者の奇妙な人生~


 タプモアは大きな目をパチパチさせて、首を斜めにし頭を横に傾けた。

「……無理もないのう、あれから11年も経つし、タプモアは生まれたばかりの赤ん坊じゃったからのう。ところで“コロモア”は、元気にしておるか!?」

 昔なじみの人のような親しみのこもった表情のタウィリ。


 機械仕掛けのようにくちばしを上下にカッと開き、パクパクした。

「オイオイ じいさんヨー! オイラ の ジジイ の ことを 知っているのかヨ!?」

 麒麟きりんの王ように長い首を下ろして、宙色そらいろの顔を、閻魔顔えんまがおに近づけるタプモア。


〈――ぇえっッ!? こぉ、これはぁ、タプモアの心の声なのか!? いぃ、いいや、違う、確かに俺の耳には、シーアを彷彿させるハスキーボイスが届いたっしょ!〉

 自暴自棄、天井を眺めながら、シーアの曲をリフレインしていた。そんな映像がアオの脳裏をかすめる。


「……アオくん、どうしたのかな!? キーウィが豆鉄砲を食ったような顔をしちゃって!」

 白金プラチナの華がある眉をひそめるアオに対して、プラチナブロンドの眉根まゆねを寄せて真剣な顔をするアロハ。


「なんなんしょー!! タプモアのハスキーボイスが俺の耳に届いたけど、空耳なのか…それとも幻聴なのか!?」


「貴様ァの首につけたを忘れてしまったのか!?」


「おりょ!? これのことか……」

 顎を下げ、寄り目になり、釣り針にデザインされたグリーンストーンを見つめる。


「その釣り針の形は『ヘイ・マトゥア』と言い、海とのつながりを示し、身につけることで移動中の安全、健康や幸運を祈るとされている! また、ポウナムは万石ませきじゃから、身に付けることより万獣まじゅうと直接コンタクトすることが可能になるんじゃ! 貴様ァはそんなことも知らんかったのか!?」


 ポウナムのネックレスに無造作に触れると、弱い電気が走り、温かな感覚がカラダの中を循環する。

「ぉおぉっッ! これってぇ、リアルなのか!? 体に溜まった疲労が滲み出てくるっしょ!」


「……ふぉっふぉふぉ、蒼い宇宙、浮かぶ星座、煌めく銀河の万七マナを詰め合わせたのが、ポウナムじゃ!」

 感じのいい、あじな目つきのタウィリ。


〈……このポウナムって、そんな神秘的なパワーがあったのかよー! こりゃー思ってたよりもミラクルで、ウルトラなアイテムっしょ!〉

「もしかしてだけど、ポウナムってレアな魔法石なの!?」

 G1レースを1位で終えた競走馬の鼻息のような、吐息を漏らすアオ。


「ポウナム原石は、ジーランディア大陸の南西にあるアラフラ川でしか採掘されない、とても貴重な万石ませきなのじゃ! その貴重な万石に“守護神・ポウティニ”が万七マナを注ぎ込むことにより、ポウナムが完成するのじゃが、ポウティニは気分にむらがある神じゃッて、ポウナムにも当たり外れがある! しかし、貴様ァに渡したポウナムは、外れ年のモノじゃから、ポウナムの効果も気まぐれじゃろうな!」


 この手のタウィリ特有な狡猾ずるい顔つきに気が付くアロハ。


「都合よくしかわからないけど、そんな、貴重なモノを本当に貰っちゃっていいのか!? 自分で言うのも滑稽こっけいだけど、身元不明な…」

「…そうじゃな、ワシも何故、貴様ァに貴重なポウナムを授けたのか解析かいせきできてないのじゃが、まぁ、強いて言えば、小僧ォがに似ていたからかのう!」


「カフランギって、アロハの兄貴で爺さんの孫で、この苔の生えた球体付き腰パンのオーナー。アロハも言っていたけど、そんなに俺に似ているのか!?」


「ここんとこ老眼なのか、貴様ァとカフランギが瓜二つに重なるけど、万七マナの種類が酷似こくじしてるからかのう……」

 思い出でも探るように目を細めるタウィリ。


「ならば、いつか何処かで、カフランギに逢ってみたいっしょ!」


「うんうん、おじいやんが家族以外にポウナムを授けるのって初めてやん! きっと、これは『ジーランディアの七不思議』なのかもね!」


「……あのヨー! そろそろいいかな じいさんたち。コロじい は たしかに オイラ の ジジイ だけど じいさんたち とは どんな 関係なのヨ!?」

 ながめ飽きたような、気だるい目のタプモア。


「そうじゃったな、待たせて悪かったのう。コロモアは、ユーライザ戦争でワシの戦友じゃったおとこじゃよ!

 ……あの刻、ワシはコロモアに救われた! そう、コロモアはワシのおんモアじゃ!」

 想い出モードのタウィリは、目をガマのように細めている。


〈ユーライザ戦争って、どこかで聞いたような気がするけど…ところで、おんモアってなんだ!?〉

 無意識にマシュマロリングを指先でぷよぷよしている。


「そうだったのヨー! だったら オイラ を コロじいたち が 暮らしている ワイテマの里 に 連れて行ってくれ! どうやら みんな と はぐれちゃってよ…オイラ ワイテマ いち の 方向音痴 だから このままだと 一生 里 に 帰れないかもヨー! ――メイビー!」


〈それにしてもタプモアって、愛らしい顔なのに言葉遣いがムチャ荒いっしょ! まぁ、そのギャップにハマりそうなんだけどっ! マウントクックリリーのティアラ、そして、可愛い形のした耳には、ゴールドのリングピアスがセンス良く輝いているっしょ!

 ……これは、俺の勝手な推測だけど、タプモアって、モア界ではピラミッドの頂上にいる王妃おうひだったりして!?〉


「……タプモアよ、ワイテマの里への道案内を引き受けてもいいのじゃが、条件が二つある!」


〈この卑猥ひわいな顔は、タパルアさんを見ていたニヤケ顔っしょ! タウィリさんの条件って、もしかして……〉

 目の光の揺れが、動揺に耐えていることがわかる。


「二つ の 条件 だと!? 容認 できるか どうか は じいさん の 条件次第だけど とりあえず 言ってみろヨ!」

 タプモアの動物的な感が、タウィリが発するいやらしさの根源に本能的に気づき、不機嫌な皺が眉間に刻まれる。


「一つ目じゃが、ここにいる小僧ォをワイテマまで乗せて行くこと!」


〈……怪鳥・タプモアに乗るって、どういうこと!?〉

 タプモアに耳目をそば立てると、高所から艶やかな首筋がすらりと伸び、アオのあどけない顔を覗き込み、さらさらプラチナヘアーを揺らした。

 長く切れた二重瞼を覆う茂みのような長睫毛の森、紫紺しこん愛敬紅あいきょうべにが整った顔立ち…タプモアに爽やかな風が吹き、森が遊ぶ。

 恐鳥きょうちょう・タプモアには、アオの心をそそるものが備わっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です

途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。  ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。  前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。  ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——  一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——  ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。  色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから! ※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください ※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...