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第3章 異世界からの侵略者

特別番外編 ゆくとし、くるとし

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すいません。投稿遅れましたm(*_ _)m
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「ねぇねぇ悠貴!今日は何の日か知ってる?」

そんなことを言ってカンナはレグルスを起こしに来た。カンナは自分の持っている宝石の様に輝く金色こんじきの瞳を更に何倍にも輝かせて、レグルスにそう聞いた。
今日は12月31日。月の最後の日であり、1年の最後の日であるこの日は。

「大晦日だろ?で?なんだその期待の目は?」

果たしてカンナはレグルスに何をして欲しいのだろうか。レグルスは思考を働かせる。
クリスマスにはパーティをしたし、プレゼントを凜から貰っているはず。別に今日はカンナの誕生日という訳でもない。レグルスは人間だった時大晦日に何かしてもらったわけてもないので本当に分からない。
すると、カンナが、

「おせち作って!」

…………。



「はぁぁ!!!?」

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とりあえず寝室から出て、リビングへ。ミラと凜に「おはよう」と軽く挨拶をして机の椅子に腰掛ける。すると、朝ごはんの準備が整いレグルスの横にミラが、目の前にはカンナが、その横には凜が座って朝食を食べた。今日の朝ごはんは白米と、味噌汁、鯖の塩焼きとほうれん草のおひたしと、和食であった。

「おせちなんてどこで知ったんだ?」

「ん。」

カンナは幼く、小さい可愛らしい手でテレビを指さして、

「あれ」
と、言った。テレビではちょうど今おせちのCMをやっていた。カンナたちは「おいしそう。」と言っているが、レグルスはそこまで好きではない。つまりまだレグルスは子供だからおせちのおいしさが分からないのだ。子供がおいしいと思うものがあまり入っていないので、レグルスは人間だったころ毎年元旦は雑煮を食べて、おせちはあまり食べなかった。だから、

「そんなに食いたいか?あまり美味いもんじゃないぞ。」

「亜人界にはこんなにキラキラした食べ物ない。だから食べたい!」

と、自分が持っているまん丸な瞳をめいいっぱい輝かせてねだってくる。
というか、CMでおせちがキラキラ光っているのはそういう演出なんだが…。

「おせちってのは大晦日に作るもんじゃねぇんだぞ。もっと2、3日前から取りかからないと。それにこの家にお重なんてないだろ。」

「それなら心配ないわ。この家買った時にお重貰ったから大丈夫よ。」

「なんであるんだよ!」

というわけでレグルスたちのおせち作りが始まった。
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「作るのはいいけどその分手伝ってくれよ。」

「うん!!」

レグルスの言葉にカンナたちが大きな声で応える。なぜか今日のカンナはテンションが高い。

「まずおせちを作るにあたっての豆知識を教える。」

「早く作ろ!」

「待て待て。これは重要な話だ。」

早く作ろうと急かすカンナにレグルスがストップをかける。

「おせちにはそれぞれの品に意味がある。」

例えば黒豆なら『一年中マメに務める』といった意味があったり、数の子であれば『子孫繁栄』を祈る意味があったり、海老には『腰が曲がるまで長生きする』などといった意味がある。そういった縁起の良いものを集めた料理こそが『おせち』なんだ、とレグルスは簡単に彼女たちに教えた。

「早く作ろう!」

「おいカンナ今の話を聞いてたか?作る時もそれぞれ願いを込めて作らないと行けないんだぞ?」

「わかってるって!」

レグルスの教訓をしっかりと理解しているのかどうかは定かではないが『おせちにはそれぞれ意味がある』ということは伝わったらしい。そしてくどいようだが今日のカンナはテンションが高い。

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レグルスたちのおせち作りは午前10時頃から始まった。ミラや凛どころかレグルスでさえおせちの作り方を知らないため、携帯電話の料理のアプリやインターネットのサイトを見ながら作り始めた。
家の冷蔵庫の中におせち料理に必要な食材がほとんど無かったため、まず買い出しから始まった。
そして、それぞれ分担して料理を作った。途中何度か休憩を挟んだりしたが、昼食をとっていないため、空腹のレグルスがつまみ食いしようとするも、
「ダメ!おせち作り終えたらご飯にするから。」

と、ミラに阻まれる。
結局初めてのおせち作りが終わったのは午後6時を少し過ぎたころだった。
おせちを食べたいと言った本人カンナは、退屈で飽きたのか途中で作るのをやめて昼寝を始めた。

「やっと終わったー。これじゃあ時間的に晩ご飯だな。」

「そうね、結構大変だったかも。」

「っていうか悠貴は頭の中にご飯食べることしかないの?そもそも今日の夜ご飯の食材買ってきてないんだけど。」

「いや、問題ない。今日の晩ご飯はお鍋にしよう!」

レグルスが夜ご飯にお鍋を提案する。お鍋なら家にある具材を入れるだけで出来るし、何より簡単に作れるからである。
さらに提案したのにはもう一つ理由があって。

「俺が人間だったとき、毎年大晦日の夜ご飯は決まってお鍋だったからな。その伝統っていうか、そんな雰囲気をお前たちにも味わって欲しいと思って。」

レグルスがまだ橋中悠貴だったときの大晦日の夜ご飯はお鍋だった。家族みんなや親戚の伯父や叔母たちが集まってみんなで鍋をつついた。某歌番組を見て、伯父とトランプをしたり、叔母にクリスマスプレゼントを見せたりして、年越し蕎麦を食べて、新年を迎えていた。
そういえば…。

「年越し蕎麦買ってねぇー!!」

レグルスは財布を持って急いでスーパーへと走っていった。
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大晦日の夜も深まり、時刻は午後11時半。レグルスたちは某歌番組を見て、みんなでトランプをしたりして年末を楽しんでいた。晩ご飯はお鍋にした。今キッチンでは凛が年越し蕎麦を作っている。

人間界こっちの年末ってこんなに楽しいんだね!あっちでは考えられないよ。」

凛がキッチンで、そう呟く。
レグルスは凛が一年前どんな生活をおくっていたのかはわからない。というかミラたちに出会って半年以上経つが、彼女たちの過去についてほとんど知らない。
が、この世界の年末を楽しんでくれていると、いうことはレグルスにだってわかる。だって、レグルスだってこんなに楽しい年末を過ごすのは初めてだから。
そんなことを思い、微笑みながら凛の方を見ていると、

「さっきからにやけながら私の方見てどうしたの?」

「いやぁ、かわいいなぁって。」

「───ッちょっ、ちょっとやめてよ///!?お皿割りそうになったじゃない///!!」

レグルスの不意打ちに凛が、顔を真っ赤にして動揺する。そんな凛を見てレグルスが、

「冗談だよ。冗談冗談。」

「冗談ってのもちょっと傷つくんだけど…。」

レグルスの言葉に凛が小さい声でそう呟く。するとレグルスが「えっ?なんて?」と、聞き返すも「なんでもない!」と、凛がぶーたれてしまった。
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時刻は午後11時59分になったところだ。すっかり年越し蕎麦を食べ終えたレグルスたちはテレビを消して、正座で円になって座っていた。ちなみにカンナは眠たい目を擦りながら凛にもたれかかっている。そして、レグルスが携帯の方を見て、

「あっ、もう過ぎてた。あけましておめでとうございます!」

「「あけましておめでとうございます!」」

みんなで一斉に新年の挨拶をした。
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さて、この特別番外編はまだ終わりません。題名が『ゆくとし、くるとし』なので、新年1日目のことも書きます。
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レグルスの部屋に新しい年の神々しい光がカーテンの隙間から差し込む。レグルスは珍しくすぐに目を覚まし、服を着替えた。
そして、寝室から出ていつも苦戦している階段を難なく降りて、暖かい楽園リビングへと向かう。

「おはよう。」

「おはよう、じゃなくてあけましておめでとうございますでしょ。昨日悠貴自分で言ってたのに忘れたの?」

「そうだったな。あけましておめでとうございます。」

深々と頭を下げて挨拶をする。昨日の夜レグルスが「朝起きたら挨拶はあけましておめでとうございますにしよう」と、言ってたが、すっかり忘れていた。
リビングには既にみんな揃っていて、キッチンではミラがお雑煮を作っている。レグルスが人間だった頃のお雑煮は京風の白味噌ベースのお雑煮だったためミラが作り方の覚えて作ってくれた。

「私がんばったんだよ~。なんだか悠貴のお手伝いさんみたいだね。」

と、自慢げにしてくるミラに、

「お手伝いさんっていうか家の味を継いでくれるっていう面だと『お嫁さん』みたいだな。」

と、レグルスが言うとミラは両手を頬に当てて、顔を赤らめた。

「そっ、そんなぁ。子供が欲しいなんて、まだ早いよぉ。」

「そっ、そんなこと言ってねぇよ!!ってか、新年早々何言ってんだおまえ!!」
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「結構人多いなぁ。これも新年の風物詩ってもんだな。」

時刻は午前11時。レグルスたちは初詣に来ていた。凛の家の近くにある神社にはたくさんの人が訪れており、賑わっている。
さて、おせちの件だが、カンナには不評だった。やはりまだお子さまなのだ。一方のミラや凛にはなかなかの好評で、来年も作ろうという話になった。ちなみにカンナが1番気に入ったのは『栗きんとん』である。

「さぁお前ら手を出せ。お賽銭を渡すからよ。」

「お賽銭ってなに?」

カンナがレグルスにそう質問する。
そう言われてみればお賽銭って何なんだ?何のためのお賽銭なんだ?レグルスは今まで普通にしてきたお賽銭のことに何の意味があるのか考える。考えた結果。

「1年間の身の守護のために神に捧げる対価のことさ。簡単に言うと契約金。」

「なるほど、この世界の神は安っぽいんだね。こんな数円で身を守ってくれるなんて。」

「おーい、そこ。バチ当たるぞ。」

レグルスとカンナの茶番に凛が鋭いツッコミを入れる。

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「せーのっ!!」

レグルスの掛け声と共にみんなはおみくじを開く。せっかく来たんだから1年の運勢を占おう。という事でみんなでおみくじを引いた。レグルスとカンナはどちらが運勢がいいか競っているみたいだが。
結果。レグルスが凶、ミラが中吉、カンナが小吉で、凛が大吉だった。

「えーすごっ!凛。大吉だって!」

「さすが凛。ここでも運がいいわね。まぁ恋愛運が低めだけどね。」

「べっ、別にそこは低くても別にいいじゃん。どうせ彼氏なんてできないんだし。」

「「じゃあ、悠貴を貰っていいのね?」」

「それは違う!」

ミラたちが、そんな他愛ない会話をするなか、レグルスは1人自分のおみくじとにらめっこしていた。
そこには難しくてなんと書いているかわからないが、簡単に言うと、

『努力を怠れば、大事なものを失うこととなる』

というようなことが書いてあった。
隅で縮こまっているレグルスを見てミラが、

「大丈夫、悠貴?おみくじでそんなに落ち込む?」

「いや、大丈夫だよ。ちょっと決意しただけ。」

「えっ、どんな決意?」

「教えねぇーよ。よしっ、帰るかー」

そう言ってレグルスは走り出し、その後をミラたちが追いかけていった。
おみくじに書いてあった通り彼女たちを守るために努力をする、そのためにまず強くならなくてはと、レグルスはそう決意した。
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「いいか、2拍1礼だぞ。」

レグルスはみんなに教える。



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《来年もまた、ミラと、凛と、カンナと一緒にここに来れますように。》

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【おまけ】

「おい、バカ!そんなにはしゃぐな!迷子になッても知らねェぞ!」

1人の細身の青年が、はしゃぐ犬人族の少年に怒鳴っていた。

「新年早々そんなに怒鳴らなくてもいいじゃん♪それより見てよこれー。やっぱり僕はもってるよ~。大吉だよ、大吉!やったー勝ったー!!」

「勝ったッてッ何が勝ちで、何が負けなんだよ。それに、てめェもってるもなにも、行き場が無くて俺に捕まッてるだろ?」

大吉を当てて喜ぶ犬人族の少女を見て、細身の青年は呆れたようにため息をついた。

                                                      ~完~
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【あとがき】
新年あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!
この小説にも年末年始ってものがやって来ましたよ。
皆さんはどうお過ごしでしょうか?某歌番組を見るのか、某お笑い番組を見るのかという点で分かれるんでしょうね。

この特別番外編で初めてこの作品を知った方も、以前から読んで頂いていた方も、これからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!
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