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第5章 いざ、亜人界へ
85話 弱点
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天地が逆さまになっているとはいえ自身の体が逆さまになっていることには変わらないので次第に頭に血が登り、呼吸が苦しくなり、意識が朦朧とし始める。このままではいずれ死に至ると思った瞬間、
「──ッ!?」
みぞおちに強い衝撃が迸った。そのままアクセルは後退し、受け身も取れずに盛大に地面に叩きつけられる。頭蓋が軋む感覚や、体内から何かが込み上げてくる感覚に襲われながらも現在の状況を把握する。ここで漸く自分が殴られたことを理解する。アクセルは自身の能力であらゆる攻撃を反射してきたため、滅多にみぞおちを殴られることなんてなかった。そのぶん痛みが身に染みる。
とはいえ、大きく後退したが故にグレイが作り出す空間から逃れることができた。
「どうだった?天地が逆転した気分は?」
「最悪だ。もう二度とあんな気持ち悪ィ世界はごめんだ」
不意に言葉を投げかけたグレイ。しかし、彼からは次なる一手を考えているような表情が読み取れる。このまま好き勝手にやられてばかりはいられない。アクセルはこれまでの戦闘を踏まえてある仮説に至った。
「てめェのその魔法はすげェ厄介だ。空間自体を自在に操られたらこッちも思うように行動できねェ。たがな、どんなに強力な魔法にも必ず弱点が存在する。世の中の理を、世の中の秩序を覆すてめェの魔法にはそれ相応の欠陥があるはずだ。例えば操れる対象物に制限があるとか、大量のマナを消費するとかな」
アクセルの仮説はこうだ。
グレイの攻撃があり得ない方向から飛んできたり、アクセルがグレイに殴りかかった際にアクセルが元いた場所に戻ったことからグレイが使う魔法は空間と時間、つまり時空を自由自在に操る魔法であると推測した。
しかし、時空は本来操ることのできない物であるためそれを操ろうとすれば膨大なエネルギーが働くことになるだろう。魔法のエネルギーとなるのはマナであるため、アクセルはマナの消費が異常なのではと考えた。
また、先述の通り時空というのは本来操ることのできない物。その何人たりとも干渉できないものを完全に操ることはいくら魔法といえども不可能であるはず。
アクセルと地面、アクセルと時間、グレイと空間というように一定範囲内にある物の内せいぜい2、3個だけ操れるのではと考えた。
その証拠にアクセルが無数の光弾を放った際には時空を操らず自身の身体能力だけで回避した。
以上がアクセルの考察である。
アクセルの言葉を聞いたとたんにグレイの表情が強張ったのが見えた。アクセルの考察は概ね当たっているようだ。
「「さて、そろそろ終わりにしようぜ」」
「なぜ君が二人もいるんだ!!?」
刹那の間にアクセルが二人に増えたことに驚きを隠せないグレイ。『彼も空間を操れるのか?』そんな思考が頭の中を駆け巡る。
ただ、アクセルのトリックはそんな複雑なものではない。
「「鏡の前に立てば鏡の中には自分の姿が映される。当然のことだろォ?」」
これはアクセルが考え出した新たな戦闘方法だ。
アクセルは『反射魔法』という魔法を使うことができ、彼の両掌と両足の裏が鏡となっている。その鏡に自身を投影することで分身を作り出すことができるようになったのだ。
アクセルが先ほどと同じように無数の光弾を作り出す。しかし、今回は分身も光弾を作り出しているため数が倍以上になっている。
放たれた光弾はグレイを射ぬかんと襲いかかる。
が、魔法の弱点を見抜かれたとはいえ流石は聖龍軍幹部。素の身体能力でのらりくらりと躱していく。だが、体力的な問題でそう長く続くわけもなくグレイは光弾の餌食となった。
相手に休む暇を与えない。アクセルは更に攻撃を畳み掛ける。足で地面を強く踏みつける。すると辺り一面地面にヒビが入りその衝撃でグレイが宙に投げ出される。
グレイは未だに先の攻撃の反動で動けない。止めを刺すなら今しかない。
「「アルケナ、今だッ!!」」
『りょ~かい!』
アクセルの掛け声に合わせてどこからともなく木杭が飛んで来て、グレイの横腹に突き刺さる。
アルケナの繰り出す技『絶対狙撃』だ。この技を使用し放った物は標的を射るまで例え地獄の果てだろうと追跡し続けるまさに暗殺に適した技だ。
思わぬ不意打ちを食らったグレイは横腹の痛みに耐えきれず絶叫する。
自らの手で刺さった木杭を引き抜き、血が吹き出る傷口を手で抑えながら、痛みで飛びそうな意識を歯を強く食いしばることで何とか持ちこたえる。これだけ深手の傷を負わせても尚も立ち上がるグレイにはもはや天晴れと称賛したくなるほどだ。
「「どうだァ、俺とアルケナのコンボは?俺はただただ奴を逃がしたわけじャねェんだよ」」
「ハァ…ハァ…、確かに見事だ…恐れ入った……。だが、僕が滅ぶのは今ではない…。いずれ来る日を楽しみにしているといい…」
「「おい、ちょっ、まだ話は終わッてねェぞ!!」」
グレイはそう言い残すとアクセルの声が届く間もなく、空間を捻り亜人界へと帰っていった。
「行っちゃったね…。ごめん、アクセル…止めを刺せなくて」
「あァ?謝るこたァねェよ。標的を殺せないッてのがお前の魔法の性質だろ?それより、いずれ来る日ッてのはなんだ?とりあえず凛に連絡しとくか」
去り際にグレイが放った意味深な言葉。
それがアクセルには妙に引っ掛かった。
────────────────────
【あとがき】
最後まで読んで頂きありがとうございます! 覚醒龍神です。
1ヶ月近く更新ができずに申し訳ありません。
1年前に考えていたエピソードがどうも忘れてしまっていて新たに物語を作るのに時間がかかってしまいました。
加えて、いろいろと忙しく毎週投稿ができないかもしれません。暫くの間は不定期投稿という形になりますが今後ともよろしくお願いします。
「──ッ!?」
みぞおちに強い衝撃が迸った。そのままアクセルは後退し、受け身も取れずに盛大に地面に叩きつけられる。頭蓋が軋む感覚や、体内から何かが込み上げてくる感覚に襲われながらも現在の状況を把握する。ここで漸く自分が殴られたことを理解する。アクセルは自身の能力であらゆる攻撃を反射してきたため、滅多にみぞおちを殴られることなんてなかった。そのぶん痛みが身に染みる。
とはいえ、大きく後退したが故にグレイが作り出す空間から逃れることができた。
「どうだった?天地が逆転した気分は?」
「最悪だ。もう二度とあんな気持ち悪ィ世界はごめんだ」
不意に言葉を投げかけたグレイ。しかし、彼からは次なる一手を考えているような表情が読み取れる。このまま好き勝手にやられてばかりはいられない。アクセルはこれまでの戦闘を踏まえてある仮説に至った。
「てめェのその魔法はすげェ厄介だ。空間自体を自在に操られたらこッちも思うように行動できねェ。たがな、どんなに強力な魔法にも必ず弱点が存在する。世の中の理を、世の中の秩序を覆すてめェの魔法にはそれ相応の欠陥があるはずだ。例えば操れる対象物に制限があるとか、大量のマナを消費するとかな」
アクセルの仮説はこうだ。
グレイの攻撃があり得ない方向から飛んできたり、アクセルがグレイに殴りかかった際にアクセルが元いた場所に戻ったことからグレイが使う魔法は空間と時間、つまり時空を自由自在に操る魔法であると推測した。
しかし、時空は本来操ることのできない物であるためそれを操ろうとすれば膨大なエネルギーが働くことになるだろう。魔法のエネルギーとなるのはマナであるため、アクセルはマナの消費が異常なのではと考えた。
また、先述の通り時空というのは本来操ることのできない物。その何人たりとも干渉できないものを完全に操ることはいくら魔法といえども不可能であるはず。
アクセルと地面、アクセルと時間、グレイと空間というように一定範囲内にある物の内せいぜい2、3個だけ操れるのではと考えた。
その証拠にアクセルが無数の光弾を放った際には時空を操らず自身の身体能力だけで回避した。
以上がアクセルの考察である。
アクセルの言葉を聞いたとたんにグレイの表情が強張ったのが見えた。アクセルの考察は概ね当たっているようだ。
「「さて、そろそろ終わりにしようぜ」」
「なぜ君が二人もいるんだ!!?」
刹那の間にアクセルが二人に増えたことに驚きを隠せないグレイ。『彼も空間を操れるのか?』そんな思考が頭の中を駆け巡る。
ただ、アクセルのトリックはそんな複雑なものではない。
「「鏡の前に立てば鏡の中には自分の姿が映される。当然のことだろォ?」」
これはアクセルが考え出した新たな戦闘方法だ。
アクセルは『反射魔法』という魔法を使うことができ、彼の両掌と両足の裏が鏡となっている。その鏡に自身を投影することで分身を作り出すことができるようになったのだ。
アクセルが先ほどと同じように無数の光弾を作り出す。しかし、今回は分身も光弾を作り出しているため数が倍以上になっている。
放たれた光弾はグレイを射ぬかんと襲いかかる。
が、魔法の弱点を見抜かれたとはいえ流石は聖龍軍幹部。素の身体能力でのらりくらりと躱していく。だが、体力的な問題でそう長く続くわけもなくグレイは光弾の餌食となった。
相手に休む暇を与えない。アクセルは更に攻撃を畳み掛ける。足で地面を強く踏みつける。すると辺り一面地面にヒビが入りその衝撃でグレイが宙に投げ出される。
グレイは未だに先の攻撃の反動で動けない。止めを刺すなら今しかない。
「「アルケナ、今だッ!!」」
『りょ~かい!』
アクセルの掛け声に合わせてどこからともなく木杭が飛んで来て、グレイの横腹に突き刺さる。
アルケナの繰り出す技『絶対狙撃』だ。この技を使用し放った物は標的を射るまで例え地獄の果てだろうと追跡し続けるまさに暗殺に適した技だ。
思わぬ不意打ちを食らったグレイは横腹の痛みに耐えきれず絶叫する。
自らの手で刺さった木杭を引き抜き、血が吹き出る傷口を手で抑えながら、痛みで飛びそうな意識を歯を強く食いしばることで何とか持ちこたえる。これだけ深手の傷を負わせても尚も立ち上がるグレイにはもはや天晴れと称賛したくなるほどだ。
「「どうだァ、俺とアルケナのコンボは?俺はただただ奴を逃がしたわけじャねェんだよ」」
「ハァ…ハァ…、確かに見事だ…恐れ入った……。だが、僕が滅ぶのは今ではない…。いずれ来る日を楽しみにしているといい…」
「「おい、ちょっ、まだ話は終わッてねェぞ!!」」
グレイはそう言い残すとアクセルの声が届く間もなく、空間を捻り亜人界へと帰っていった。
「行っちゃったね…。ごめん、アクセル…止めを刺せなくて」
「あァ?謝るこたァねェよ。標的を殺せないッてのがお前の魔法の性質だろ?それより、いずれ来る日ッてのはなんだ?とりあえず凛に連絡しとくか」
去り際にグレイが放った意味深な言葉。
それがアクセルには妙に引っ掛かった。
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【あとがき】
最後まで読んで頂きありがとうございます! 覚醒龍神です。
1ヶ月近く更新ができずに申し訳ありません。
1年前に考えていたエピソードがどうも忘れてしまっていて新たに物語を作るのに時間がかかってしまいました。
加えて、いろいろと忙しく毎週投稿ができないかもしれません。暫くの間は不定期投稿という形になりますが今後ともよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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