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第4章 天空からの贈り物
特別番外編 俺たちはサンタクロース
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凍てつかせるかのような冷たい空気が世界を覆っている冬のある朝。
アクセルとアルケナは、ストーブの暖かい空気に満たされたマンションの一室、アクセルの自宅でいつも通り朝ごはんにトーストを食べていた。
「にしても、今日も一段と冷えてやがるなァ。てめェはなんで朝からおかしいぐらいに元気なんだよ?」
「だって雪が積もってるんだよ~!テンションが上がらずに居られる方がおかしいよ!」
「ガキかッ」
「ガキじゃないですぅ~。」
今朝の最低気温は-1℃。窓の外には一面銀世界が広がっている。このいつもとは違う景色にアルケナは胸を踊らせていた。
アルケナは何かを思い出したかのように目を輝かせて、アクセルの方を見て言った。
「そう言えばアクセル!明日はクリスマスだよ!クリスマスパーティーやろうよ!」
「あァ?そうか、今日は24日か。暫くこッちにいなかったし、そもそもクリスマスに楽しい思い出なんてねェからすッかり忘れちまッてた。だが、そんなめんどくせェことはやらねェよ。」
「そこをなんとか。」
「断る。」
アルケナの願いは断念された。
※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※
「あァ、クソ寒ぃ。なんでてめェは元気なんだよ?」
「だって雪だよ!雪!元気になるのも当然だよ!」
アクセルは「ガキかッ」と言おうとしたが、もう完全に子どもがはしゃいでるようにしか見えなかったので敢えて言わなかった。
アクセルとアルケナは晩ごはんの食材を買うために街のショッピングモールに来ていた。ショッピングモールはすっかりクリスマス仕様になっており、キラキラと輝いている。ショッピングモールの中庭的なところには大きなクリスマスツリーがあり、見る者全てを魅了するほどの美しさと迫力がある。
もちろん、それを見たアルケナは足を止めて完全に見入っている。しかし、アクセルはツリーには目もくれず、アルケナの服の引っ張りさっさと行くぞと目で訴える。
「綺麗だったのに~。アクセルには感情ってものが無いの?」
「そうかもなァ。昔は人を殺す時は最高に気持ちが高ぶッてたが、ここ1年悠貴に出会い、人を殺さなくなッたから感情がなくなッたのかもなァ」
「残念だねぇ。」
「何も悪いことばかりじャねェよ。無駄な心配も不安も抱える必要がねェからな。」
アクセルとアルケナは他愛ない会話を交わしながらショッピングモール内を歩く。
アクセルは『自分には感情がない』と言ったが、それは嘘だと後に思った。
自分にも夢があるし、守りたいものもある。自分の気持ちを素直に言えない自分を悔やんだこともあるし、レグルスがレイと戦った時は、レグルスが死なないかと心配もした。自分にも感情があるのだと思った。
「いや、俺にも感情が......あァ?」
アルケナに話しかけようと振り向くと、そこにはアルケナの姿はなかった。いつからいなかったのか、どこでいなくなったのか、全く見当もつかない。
「あのクソガキッ!この広いショッピングモール内を探せッてのか!ふざけんなッ!」
そう愚痴をこぼしつつアクセルは早足でアルケナを探し始める。この広大なショッピングモールにはたくさんの人で溢れかえっている。この中からアルケナを探し出すのは大変だろう。迷子センターに行けば放送ですぐに見つかるだろうが、アクセルにはそんな発想はできないみたいだ。
アクセルはとりあえず来た道を引き返すことにした。
―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―
「ほわぁ~、きれ~い。」
一方こちらはアルケナサイド。
彼女は今、とあるお店のショーウィンドウに飾られてあるオルゴールを目に焼きつけていた。
亜人界には箱から音が鳴ることも、機械仕掛けの箱もないためとても不思議で、興味を持ったのだろう。アクセルに置いてきぼりにされて、アクセルがショッピングモール内を奔走しているともつゆ知らず。
「サンタさん、これをクリスマスプレゼントにくれないかな?」
この美しい音を奏でる機械仕掛けの箱をほしいと思っていると、誰かに襟を引っ張られた。
「ハァハァ、ッたくこんなところにいやがッたか...。ハァ、探したぞ!」
「アクセル~!ごめんね。でも見てこれ!」
「あァ?」
アルケナは軽く謝罪した後、まるで宝石のように目をキラキラと輝かせて、ショーウィンドウのオルゴールを指差した。
「オルゴールがどうしたッてんだ?」
「サンタさん、クリスマスプレゼントにこのオルゴールくれないかな?って」
「バカだなァおい。サンタッてのはなァ良い子にしてる所にしか来ねェんだよ。てめェみたいに居候の癖に家事もしねェし、買い物に来りャあ勝手に離れて迷子になるような所には来ねェよ。ッてかてめェはガキじャねェだろ?」
「ガキだもん!」
「てめェ、こういう時に限ッてガキを認めるのか...。」
アルケナに態度に呆れるアクセル。
アルケナはそんなアクセルをよそに再びオルゴールに見入っている。
「まァ、今からでも良い子にするように努力すればサンタも大目に見て来てくれるかもな。」
「本当に!?じゃあ僕これから掃除機をかけます。お風呂掃除もきちんとやります。ゴミだしも行きます。」
こんなことで今までやってこなかった家事をやると言い出したアルケナを見て「ちょろいな」と思ったアクセル。
こんなに家事をやってくれるなら、オルゴールの一つぐらい買ってあげようと思っていた矢先、
「あと、アクセルのお世話もします。だから、サンタさん、クリスマスプレゼントにこのオルゴールを下さい。」
「やッぱりサンタ来ねェかも。」
「えぇ~!?」
『アクセルのお世話』の辺りで一気に買う気が失せた。
※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※
「ッたく、なんで俺はこんな所に来ちまッたんだ?」
雪が降り積もる極寒の夜の街をアクセルが一人歩いてやって来たのは、日中訪れたショッピングモールである。
アクセルはアルケナにあのオルゴールを買ってあげるためにここまで来たのだが、
「───引き返すか、俺はそんな柄じャねェからなァ。何がクリスマスだ、馬鹿馬鹿しい。」
アクセルが引き換えそうと振り返った瞬間、日中のアルケナの映像が頭の中でフラッシュバックした。
目をキラキラ輝かせてオルゴールを見つめる姿。アクセルの言葉をよそにオルゴールに見とれる姿。そして、
『サンタさん、これをクリスマスプレゼントにくれないかな?』
ふと、アルケナが溢した言葉を思い出した。
普段は鬱陶しく思っているが、アルケナが来てからアクセルの生活が孤独で冷たいものでなくなったのは事実である。アルケナのおかげで、最近では徐々に素直な感情を出せるようになった。少し腑に落ちないがアルケナには感謝をしている。
だから、今日ぐらいは感謝の意を込めてオルゴールを買ってあげてもいいのではないかと思った。
「さッさと終わらせるか。」
アクセルがショッピングモールの入り口に向かって歩き始めた瞬間、後ろから名前を呼ばれた。
「あれ?アクセルじゃん!おーい!」
「あァ?」
アクセルに声をかけたのはレグルスであった。
「てめェ、こんな所に何しに来たんだ?」
「う~ん、そうだな。目的はアクセルと一緒かな。」
「はァ?」
「サンタクロースになるために来た!」
つまりは、ミラたちのクリスマスプレゼントを買いに来たというわけだ。
一人で買うのを躊躇していたアクセルにとってこのタイミングでレグルスが現れたのは好都合であった。
2人は一緒にクリスマスプレゼントを買うことにした。
―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―
「これクリスマスプレゼントにしたいので、包装してもらッてもいいですか?」
アクセルは店員に頼んでオルゴールをクリスマス仕様の包装紙で包装してもらった。
これでアクセルの用は済んだ。
「へぇ~、アクセルって敬語とか使うんだ。それに、クリスマスプレゼント用に包装とかするんだね。なんかそのまま渡すようなイメージだった。」
「てめェの勝手なイメージだろうが。俺だッて人に物を頼む時は敬悟ぐらい使うし、それに、ガキの夢は壊したくねェからな。壊すのが得意な俺にだッて壊したくないものぐらいある。」
「アルケナのこと?アルケナ、サンタクロースのこと信じてるんだ。かわいいね。」
2人はショッピングモールの中をしゃべりながら歩いていた。モール内には既に閉店している店が多くあり、急がなければレグルスの用が完了しないのだが、それよりもレグルスは今まで男子一人だったためできなかった男子同士の会話『男子トーク』を楽しんでいた。
※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※
「何が『男子トーク』だ!結局こうなるんじャねェか!」
「ごめんってば。」
レグルスとアクセルはショッピングモール内を全力疾走していた。
2人でのんきにしゃべっていたせいで店の閉店時間が迫っているのだ。
レグルスの残りの買い物を済ませるために2人は奔走している。アクセルにとっては本日2度目のモール内奔走である。
「で?あと何個買うんだ?」
「あとは、カンナのぬいぐるみだけ!ここは4階だよな?ぬいぐるみ屋さんは1階だからエレベーターを...」
「こッちの方が早いだろうがッ!」
「はっ!?えっ!?ちょっ...!?」
レグルスがぬいぐるみ屋さんの場所を教えると、アクセルはレグルスの服を掴んで、そのまま4階から1階まで飛び降りた。
刹那の間に起こった出来事に頭の中で整理が追いつかないレグルスとは裏腹にアクセルと当然のように怪我ひとつなく華麗に着地を決めた。
「お前、大丈夫か?足とかジーンってこない?」
「あァ、それなら大丈夫だ。俺の能力を忘れたか?俺の両掌と両足裏は反射鏡になッていて、あらゆるエネルギーを反射する。落ちるときに運動エネルギーが働くが、そのエネルギーを足裏で反射してッから着地ダメージはほとんど無ェんだ。その反射したエネルギーは俺の周囲に放ったから、所々壁にヒビが入ったところもあるが、まァいいだろ。」
「いや、よくねぇよ!大問題だよ!!裁判沙汰だよ!!」
レグルスが的確なツッコミを入れる。アクセルの言う通り辺りを見るとショッピングモールの壁の所々に少しではあるがヒビが入っている。幸い、周囲には人がおらず誰にも見られていないが、これは普通に器物損壊罪で逮捕されてもおかしくない。
まったく、ここは亜人界ではないし、屋内なので能力の使用は控えてもらいたいものだ。
「とにかく急ぐぞ!」
「おっ、おう。そうだな!」
2人は再び全力疾走を始めた。
―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―
「なんとか間に合った~!付き合ってくれてありがとな。」
「ッたく、おかげで散々な目にあッたぜ。コーヒーのひとつぐらい奢ッてもらいたいもんだ。」
「それもそうだな。寒いし温かいコーヒーを奢ってやるよ。」
レグルスは近くにあった自動販売機で温かい缶コーヒーを2本買い、2人は近くの公園のベンチに座った。
コーヒーを一口飲むと、体中に温かいコーヒーが染み渡り、冷えた体に元気を与えてくれる。
今夜は雲ひとつなく、空には無数の星が見える。街の光もまるで星のようで、天と地にたくさんの星が輝いているような、そんな美しい光景が2人の目に飛び込んできた。
「綺麗だなぁ、星。こんなに晴れていたらサンタさんも家を間違えるなんてことないね。」
「そうだなァ。」
「そうだ!明日、家でクリスマスパーティーをするんだけど、アクセルたちもおいでよ。」
レグルスがそんなことを言い出した。
アクセルは少し俯いて考える。
『明日はクリスマスだよ!クリスマスパーティーやろうよ!』
真っ先に頭の中に浮かんだのは今朝のアルケナの言葉だった。アルケナはクリスマスパーティーをしようとねだってきたが、その時は断ってしまった。だが、レグルスたちの家でやるのであれば、面倒な準備もする必要もないではないか。それなのに、
「断る。何でこのクソ寒い中行かなきャなんねェんだ。」
アクセルのしょうもないプライドが勝ってしまった。自分でも子どもじみていると分かっている。それでも、一度クリスマスパーティーはしないと決めたことを数時間経てば掌を返したような態度をとる。そんなことアクセルのプライドが許さなかった。
アクセルの様子を見て何かを感じ取ったレグルス。そのレグルスの返答は思いもよらないものだった。
「じゃあ、明日の午後7時開始だからな。それじゃ。」
「はァ!?何勝手に決めてんだ。俺は行かねェ...」
「来いよ。もちろん、アルケナも一緒にな。」
レグルスはアクセルの言葉を遮ってそう言い残すと、一足先に帰っていった。
―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―
「うわぁ~!あのオルゴールだぁ!やっぱりサンタさんは僕の所に来てくれたんだね。」
「へいへい、そりャよかッたな。まァ、普通に考えてみりャあサンタなんてもん不法侵入でしかねェんだけどな。」
「そんなことばっかり言ってるからアクセルにはプレゼントが届かないんだよ。」
「俺はガキじャねェからな。」
翌朝、アルケナの枕元には綺麗に包装されたオルゴールが置かれていた。朝起きてからアルケナはオルゴールを既に10回ほど鳴らしており、それでも飽きずに機嫌良く聞いている。
朝ごはんの時も、歯を磨く時も、テレビを見る時も肌身離さず持っており、ずっと聞いている。こんなに気に入ってくれるなら買った甲斐があったとアクセルは思った。
『明日、家でクリスマスパーティーをするんだけど、アクセルたちもおいでよ。』
『じゃあ、明日の午後7時開始だからな。それじゃ。』
『来いよ。もちろん、アルケナも一緒にな。』
昨晩のレグルスとの会話を思い出す。
聞いたところでどんな答えが返ってくるかはわかっているが、それでも一応聞いてみる。
「なァ、アルケナ。」
「ん?どうかしたの?もしかしてこのオルゴール貸してほしいの?でもアクセルすぐに壊しそうだからなぁ~。ダメで~す。」
「そうじャねェよ!今晩、悠貴たちの家でクリスマスパーティーがあるらしいんだけど、どうだ?行くか?」
アクセルの言葉を聞いた瞬間、アルケナは固まって動かなかったが、すぐに目を丸くして、
「行く行く!行くに決まってるじゃん!!こうしちゃいられない!トランプやその他もろもろ遊び道具を準備しなくちゃ。」
「本当にガキみてェだな...。」
アルケナは子どものようにテンションを上げて、自分の部屋へと消えていった。
その様子に呆れるアクセル。だが、そんなアルケナを見てこれでよかったのだと納得していた。
今日は聖なる日。街中にいつもとは違う空気が漂っていた。
~完~
―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―
【あとがき】
最後まで読んでくださったみなさん。ありがとうございます。そしてメリークリスマス! どうも覚醒龍神です。
今年もクリスマスに特別番外編をあげることができました。去年のことが懐かしく感じる...。ぜひ去年の特別番外編も読んで見てください。
今回は、普段の生活の様子をほとんど書いた事がなかった新キャラのアクセルとアルケナを中心に書いてみました。
アクセルはアルケナの前でのみ素直な一面を見せるという新設定も入れてみました。
余談ですが、レグルスはどんなクリスマスプレゼントを買ったかと言いますと、
ミラ→チョーカー&ブレスレット
凛→ネックレス
カンナ→ぬいぐるみ
なんかカンナだけ安価な気がする方もいるかもですが、カンナが喜んでいたのでそれでいいんです。
みなさんはクリスマスをどうお過ごしでしょうか?恋人や友達と過ごしたり、家族と過ごしたり、2次元少女と過ごしたりと様々でしょう。ちなみに僕は家族と過ごします。
この季節になるとますます思うことがあります。
あぁ~、彼女欲しい~...。
アクセルとアルケナは、ストーブの暖かい空気に満たされたマンションの一室、アクセルの自宅でいつも通り朝ごはんにトーストを食べていた。
「にしても、今日も一段と冷えてやがるなァ。てめェはなんで朝からおかしいぐらいに元気なんだよ?」
「だって雪が積もってるんだよ~!テンションが上がらずに居られる方がおかしいよ!」
「ガキかッ」
「ガキじゃないですぅ~。」
今朝の最低気温は-1℃。窓の外には一面銀世界が広がっている。このいつもとは違う景色にアルケナは胸を踊らせていた。
アルケナは何かを思い出したかのように目を輝かせて、アクセルの方を見て言った。
「そう言えばアクセル!明日はクリスマスだよ!クリスマスパーティーやろうよ!」
「あァ?そうか、今日は24日か。暫くこッちにいなかったし、そもそもクリスマスに楽しい思い出なんてねェからすッかり忘れちまッてた。だが、そんなめんどくせェことはやらねェよ。」
「そこをなんとか。」
「断る。」
アルケナの願いは断念された。
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「あァ、クソ寒ぃ。なんでてめェは元気なんだよ?」
「だって雪だよ!雪!元気になるのも当然だよ!」
アクセルは「ガキかッ」と言おうとしたが、もう完全に子どもがはしゃいでるようにしか見えなかったので敢えて言わなかった。
アクセルとアルケナは晩ごはんの食材を買うために街のショッピングモールに来ていた。ショッピングモールはすっかりクリスマス仕様になっており、キラキラと輝いている。ショッピングモールの中庭的なところには大きなクリスマスツリーがあり、見る者全てを魅了するほどの美しさと迫力がある。
もちろん、それを見たアルケナは足を止めて完全に見入っている。しかし、アクセルはツリーには目もくれず、アルケナの服の引っ張りさっさと行くぞと目で訴える。
「綺麗だったのに~。アクセルには感情ってものが無いの?」
「そうかもなァ。昔は人を殺す時は最高に気持ちが高ぶッてたが、ここ1年悠貴に出会い、人を殺さなくなッたから感情がなくなッたのかもなァ」
「残念だねぇ。」
「何も悪いことばかりじャねェよ。無駄な心配も不安も抱える必要がねェからな。」
アクセルとアルケナは他愛ない会話を交わしながらショッピングモール内を歩く。
アクセルは『自分には感情がない』と言ったが、それは嘘だと後に思った。
自分にも夢があるし、守りたいものもある。自分の気持ちを素直に言えない自分を悔やんだこともあるし、レグルスがレイと戦った時は、レグルスが死なないかと心配もした。自分にも感情があるのだと思った。
「いや、俺にも感情が......あァ?」
アルケナに話しかけようと振り向くと、そこにはアルケナの姿はなかった。いつからいなかったのか、どこでいなくなったのか、全く見当もつかない。
「あのクソガキッ!この広いショッピングモール内を探せッてのか!ふざけんなッ!」
そう愚痴をこぼしつつアクセルは早足でアルケナを探し始める。この広大なショッピングモールにはたくさんの人で溢れかえっている。この中からアルケナを探し出すのは大変だろう。迷子センターに行けば放送ですぐに見つかるだろうが、アクセルにはそんな発想はできないみたいだ。
アクセルはとりあえず来た道を引き返すことにした。
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「ほわぁ~、きれ~い。」
一方こちらはアルケナサイド。
彼女は今、とあるお店のショーウィンドウに飾られてあるオルゴールを目に焼きつけていた。
亜人界には箱から音が鳴ることも、機械仕掛けの箱もないためとても不思議で、興味を持ったのだろう。アクセルに置いてきぼりにされて、アクセルがショッピングモール内を奔走しているともつゆ知らず。
「サンタさん、これをクリスマスプレゼントにくれないかな?」
この美しい音を奏でる機械仕掛けの箱をほしいと思っていると、誰かに襟を引っ張られた。
「ハァハァ、ッたくこんなところにいやがッたか...。ハァ、探したぞ!」
「アクセル~!ごめんね。でも見てこれ!」
「あァ?」
アルケナは軽く謝罪した後、まるで宝石のように目をキラキラと輝かせて、ショーウィンドウのオルゴールを指差した。
「オルゴールがどうしたッてんだ?」
「サンタさん、クリスマスプレゼントにこのオルゴールくれないかな?って」
「バカだなァおい。サンタッてのはなァ良い子にしてる所にしか来ねェんだよ。てめェみたいに居候の癖に家事もしねェし、買い物に来りャあ勝手に離れて迷子になるような所には来ねェよ。ッてかてめェはガキじャねェだろ?」
「ガキだもん!」
「てめェ、こういう時に限ッてガキを認めるのか...。」
アルケナに態度に呆れるアクセル。
アルケナはそんなアクセルをよそに再びオルゴールに見入っている。
「まァ、今からでも良い子にするように努力すればサンタも大目に見て来てくれるかもな。」
「本当に!?じゃあ僕これから掃除機をかけます。お風呂掃除もきちんとやります。ゴミだしも行きます。」
こんなことで今までやってこなかった家事をやると言い出したアルケナを見て「ちょろいな」と思ったアクセル。
こんなに家事をやってくれるなら、オルゴールの一つぐらい買ってあげようと思っていた矢先、
「あと、アクセルのお世話もします。だから、サンタさん、クリスマスプレゼントにこのオルゴールを下さい。」
「やッぱりサンタ来ねェかも。」
「えぇ~!?」
『アクセルのお世話』の辺りで一気に買う気が失せた。
※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※
「ッたく、なんで俺はこんな所に来ちまッたんだ?」
雪が降り積もる極寒の夜の街をアクセルが一人歩いてやって来たのは、日中訪れたショッピングモールである。
アクセルはアルケナにあのオルゴールを買ってあげるためにここまで来たのだが、
「───引き返すか、俺はそんな柄じャねェからなァ。何がクリスマスだ、馬鹿馬鹿しい。」
アクセルが引き換えそうと振り返った瞬間、日中のアルケナの映像が頭の中でフラッシュバックした。
目をキラキラ輝かせてオルゴールを見つめる姿。アクセルの言葉をよそにオルゴールに見とれる姿。そして、
『サンタさん、これをクリスマスプレゼントにくれないかな?』
ふと、アルケナが溢した言葉を思い出した。
普段は鬱陶しく思っているが、アルケナが来てからアクセルの生活が孤独で冷たいものでなくなったのは事実である。アルケナのおかげで、最近では徐々に素直な感情を出せるようになった。少し腑に落ちないがアルケナには感謝をしている。
だから、今日ぐらいは感謝の意を込めてオルゴールを買ってあげてもいいのではないかと思った。
「さッさと終わらせるか。」
アクセルがショッピングモールの入り口に向かって歩き始めた瞬間、後ろから名前を呼ばれた。
「あれ?アクセルじゃん!おーい!」
「あァ?」
アクセルに声をかけたのはレグルスであった。
「てめェ、こんな所に何しに来たんだ?」
「う~ん、そうだな。目的はアクセルと一緒かな。」
「はァ?」
「サンタクロースになるために来た!」
つまりは、ミラたちのクリスマスプレゼントを買いに来たというわけだ。
一人で買うのを躊躇していたアクセルにとってこのタイミングでレグルスが現れたのは好都合であった。
2人は一緒にクリスマスプレゼントを買うことにした。
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「これクリスマスプレゼントにしたいので、包装してもらッてもいいですか?」
アクセルは店員に頼んでオルゴールをクリスマス仕様の包装紙で包装してもらった。
これでアクセルの用は済んだ。
「へぇ~、アクセルって敬語とか使うんだ。それに、クリスマスプレゼント用に包装とかするんだね。なんかそのまま渡すようなイメージだった。」
「てめェの勝手なイメージだろうが。俺だッて人に物を頼む時は敬悟ぐらい使うし、それに、ガキの夢は壊したくねェからな。壊すのが得意な俺にだッて壊したくないものぐらいある。」
「アルケナのこと?アルケナ、サンタクロースのこと信じてるんだ。かわいいね。」
2人はショッピングモールの中をしゃべりながら歩いていた。モール内には既に閉店している店が多くあり、急がなければレグルスの用が完了しないのだが、それよりもレグルスは今まで男子一人だったためできなかった男子同士の会話『男子トーク』を楽しんでいた。
※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※
「何が『男子トーク』だ!結局こうなるんじャねェか!」
「ごめんってば。」
レグルスとアクセルはショッピングモール内を全力疾走していた。
2人でのんきにしゃべっていたせいで店の閉店時間が迫っているのだ。
レグルスの残りの買い物を済ませるために2人は奔走している。アクセルにとっては本日2度目のモール内奔走である。
「で?あと何個買うんだ?」
「あとは、カンナのぬいぐるみだけ!ここは4階だよな?ぬいぐるみ屋さんは1階だからエレベーターを...」
「こッちの方が早いだろうがッ!」
「はっ!?えっ!?ちょっ...!?」
レグルスがぬいぐるみ屋さんの場所を教えると、アクセルはレグルスの服を掴んで、そのまま4階から1階まで飛び降りた。
刹那の間に起こった出来事に頭の中で整理が追いつかないレグルスとは裏腹にアクセルと当然のように怪我ひとつなく華麗に着地を決めた。
「お前、大丈夫か?足とかジーンってこない?」
「あァ、それなら大丈夫だ。俺の能力を忘れたか?俺の両掌と両足裏は反射鏡になッていて、あらゆるエネルギーを反射する。落ちるときに運動エネルギーが働くが、そのエネルギーを足裏で反射してッから着地ダメージはほとんど無ェんだ。その反射したエネルギーは俺の周囲に放ったから、所々壁にヒビが入ったところもあるが、まァいいだろ。」
「いや、よくねぇよ!大問題だよ!!裁判沙汰だよ!!」
レグルスが的確なツッコミを入れる。アクセルの言う通り辺りを見るとショッピングモールの壁の所々に少しではあるがヒビが入っている。幸い、周囲には人がおらず誰にも見られていないが、これは普通に器物損壊罪で逮捕されてもおかしくない。
まったく、ここは亜人界ではないし、屋内なので能力の使用は控えてもらいたいものだ。
「とにかく急ぐぞ!」
「おっ、おう。そうだな!」
2人は再び全力疾走を始めた。
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「なんとか間に合った~!付き合ってくれてありがとな。」
「ッたく、おかげで散々な目にあッたぜ。コーヒーのひとつぐらい奢ッてもらいたいもんだ。」
「それもそうだな。寒いし温かいコーヒーを奢ってやるよ。」
レグルスは近くにあった自動販売機で温かい缶コーヒーを2本買い、2人は近くの公園のベンチに座った。
コーヒーを一口飲むと、体中に温かいコーヒーが染み渡り、冷えた体に元気を与えてくれる。
今夜は雲ひとつなく、空には無数の星が見える。街の光もまるで星のようで、天と地にたくさんの星が輝いているような、そんな美しい光景が2人の目に飛び込んできた。
「綺麗だなぁ、星。こんなに晴れていたらサンタさんも家を間違えるなんてことないね。」
「そうだなァ。」
「そうだ!明日、家でクリスマスパーティーをするんだけど、アクセルたちもおいでよ。」
レグルスがそんなことを言い出した。
アクセルは少し俯いて考える。
『明日はクリスマスだよ!クリスマスパーティーやろうよ!』
真っ先に頭の中に浮かんだのは今朝のアルケナの言葉だった。アルケナはクリスマスパーティーをしようとねだってきたが、その時は断ってしまった。だが、レグルスたちの家でやるのであれば、面倒な準備もする必要もないではないか。それなのに、
「断る。何でこのクソ寒い中行かなきャなんねェんだ。」
アクセルのしょうもないプライドが勝ってしまった。自分でも子どもじみていると分かっている。それでも、一度クリスマスパーティーはしないと決めたことを数時間経てば掌を返したような態度をとる。そんなことアクセルのプライドが許さなかった。
アクセルの様子を見て何かを感じ取ったレグルス。そのレグルスの返答は思いもよらないものだった。
「じゃあ、明日の午後7時開始だからな。それじゃ。」
「はァ!?何勝手に決めてんだ。俺は行かねェ...」
「来いよ。もちろん、アルケナも一緒にな。」
レグルスはアクセルの言葉を遮ってそう言い残すと、一足先に帰っていった。
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「うわぁ~!あのオルゴールだぁ!やっぱりサンタさんは僕の所に来てくれたんだね。」
「へいへい、そりャよかッたな。まァ、普通に考えてみりャあサンタなんてもん不法侵入でしかねェんだけどな。」
「そんなことばっかり言ってるからアクセルにはプレゼントが届かないんだよ。」
「俺はガキじャねェからな。」
翌朝、アルケナの枕元には綺麗に包装されたオルゴールが置かれていた。朝起きてからアルケナはオルゴールを既に10回ほど鳴らしており、それでも飽きずに機嫌良く聞いている。
朝ごはんの時も、歯を磨く時も、テレビを見る時も肌身離さず持っており、ずっと聞いている。こんなに気に入ってくれるなら買った甲斐があったとアクセルは思った。
『明日、家でクリスマスパーティーをするんだけど、アクセルたちもおいでよ。』
『じゃあ、明日の午後7時開始だからな。それじゃ。』
『来いよ。もちろん、アルケナも一緒にな。』
昨晩のレグルスとの会話を思い出す。
聞いたところでどんな答えが返ってくるかはわかっているが、それでも一応聞いてみる。
「なァ、アルケナ。」
「ん?どうかしたの?もしかしてこのオルゴール貸してほしいの?でもアクセルすぐに壊しそうだからなぁ~。ダメで~す。」
「そうじャねェよ!今晩、悠貴たちの家でクリスマスパーティーがあるらしいんだけど、どうだ?行くか?」
アクセルの言葉を聞いた瞬間、アルケナは固まって動かなかったが、すぐに目を丸くして、
「行く行く!行くに決まってるじゃん!!こうしちゃいられない!トランプやその他もろもろ遊び道具を準備しなくちゃ。」
「本当にガキみてェだな...。」
アルケナは子どものようにテンションを上げて、自分の部屋へと消えていった。
その様子に呆れるアクセル。だが、そんなアルケナを見てこれでよかったのだと納得していた。
今日は聖なる日。街中にいつもとは違う空気が漂っていた。
~完~
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【あとがき】
最後まで読んでくださったみなさん。ありがとうございます。そしてメリークリスマス! どうも覚醒龍神です。
今年もクリスマスに特別番外編をあげることができました。去年のことが懐かしく感じる...。ぜひ去年の特別番外編も読んで見てください。
今回は、普段の生活の様子をほとんど書いた事がなかった新キャラのアクセルとアルケナを中心に書いてみました。
アクセルはアルケナの前でのみ素直な一面を見せるという新設定も入れてみました。
余談ですが、レグルスはどんなクリスマスプレゼントを買ったかと言いますと、
ミラ→チョーカー&ブレスレット
凛→ネックレス
カンナ→ぬいぐるみ
なんかカンナだけ安価な気がする方もいるかもですが、カンナが喜んでいたのでそれでいいんです。
みなさんはクリスマスをどうお過ごしでしょうか?恋人や友達と過ごしたり、家族と過ごしたり、2次元少女と過ごしたりと様々でしょう。ちなみに僕は家族と過ごします。
この季節になるとますます思うことがあります。
あぁ~、彼女欲しい~...。
応援ありがとうございます!
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