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第1話 Dランクの転生者
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「残念ながら、あなたは死にました」
「はぁ?」
突如告げられた衝撃の事実、その驚きと無理解から放たれた一の呆けた声が空間に木霊した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「行ってきま~す!」
家族に行ってきますの挨拶をして、家を出た少年。彼の名前は水口 一。
どこにでもいるようなごく普通の高校2年生である。
成績においても中位、運動においても中位、特に友達が多いわけでも少ないわけでもないごくごく普通の少年なのだ。
しかし、そんな一にも唯一飛び抜けているものがある。それは運の強さだ。
じゃんけんの勝率は脅威の90%。商店街の福引きでも何度も当たりを引いてきた。
さて、この辺で人物紹介を終わりにして本編に戻ろう。
「ーーッ!!」
いつもの通学路を歩いていると、道の真ん中でぐったりと倒れ込んでいるネコが目に入った。
しかも後方からは大型のトラックが走ってきている。このままではあのネコは轢かれてしまうだろう。
「助けるしかねぇだろ…」
一切の躊躇いなく一はネコの元へ駆け寄った。
ネコを抱き上げ状態を確認する。見るとたくさんの傷があり、所々出血も見られる。首輪を付けていないことから、おそらく野良猫だと思われる。縄張り争いから喧嘩が勃発、そのまま負けて今に至るのだろう。幸い細いながらも呼吸はある。今から病院に連れていけば何とかなりそうだ。
そう、安堵に胸を撫で下ろしたと同時に、後方からトラックのエンジン音が聞こえてきた。
そして、そのトラックはスピードをそのままに一の元に直進。
激しい衝撃音と共に跳ねられた一は抵抗も無く地面に叩きつけられる。
後のブレーキ音と運転手の「大丈夫か!!」という声を最後に、一の意識は深い闇へと消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「残念ながら、あなたは死にました」
「はぁ?」
突如告げられた衝撃の事実、その驚きと無理解から放たれた一の呆けた声が空間に木霊した。
意識が戻った瞬間、目の前にはこの世のものとは思えない程の美貌をした女性が立っていた。
美しい金色の髪を長く伸ばしたその髪には技巧を凝らされたたくさんの装飾品を身につけている。目鼻立ちが整っており、エメラルドを思わせるような美しい翠色の双眸を宿している。
華奢な体に純白のドレスを纏い、そこにもやはり豪華絢爛な装飾品が施されている。
急に突きつけられた膨大な情報量に頭の回転が追いつかない。
ここは一体どこで、この人は誰なのか?そもそも自分はどうしてこんな所にいるのか?
そこまで考えた時に直前の記憶が脳裏を過ぎった。
「俺は確かトラックに跳ねられて…、それで、それで一体俺は…」
「もしも~し、私の話聞いてた?」
思考の渦の中、そこに一筋の透き通った美しい声が放たれる。
急に投げかけられた声に一は咄嗟に声の主に視線を向ける。
「ごめん、考えがまとまらなくてつい…。で、俺は…」
「こんな容姿端麗な美少女を前によくそんな1人でぶつくさ言えるわね」
「自分で容姿端麗とか言うか?まぁ否定はしないけど」
「とにかく、あなたはトラックに跳ねられて死んだの!理解できた!?」
「信じ難いけど、それが事実なんだってことは理解できたよ」
やはり先の事故が起こったのは事実らしい。そして一があの事故で死んでしまったことも…。
あまりに早すぎる死。このまま自分はどうなってしまうのだろうかという不安が心の中で蠢いている。
「申し遅れたわね、私の名前はペルセウス。女神として人間に死後の第2の人生を選択させている存在よ。あなたは水口 一で間違いないわね?」
「あぁそうだ、よろしくペルセウス。ところでここは…」
「は~い、慌てない慌てない。確かにまだ状況が飲み込めてないのかもしれないけど、聞きたいことは一旦我慢しててね。順を追って分かりやすく説明するから質問があったらその後にど~ぞ」
ここはどこなのかと聞こうとした途端にペルセウスが一に待ったをかける。そのまま一は抵抗することなく言われた通り話を聞く態度に移行する。
その素直な態度にペルセウスは「うん、いい子いい子」と言い微笑むとそのままつらつらと語り始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ペルセウスの話によると、ここはこの世とあの世の境目にある空間らしい。ここでペルセウスは一のようにやって来た死者に対して第2の人生の選択をさせているらしい。
1つめの選択はこのまま死者としてあの世に送り成仏するまで長い時間を過ごすというもの。2つめの選択は亜人界と呼ばれる異世界に転生し、新たな人生を送るというもの。
「なるほどねぇ…」
一切現実味の無い話だが、すんなりと受け入れる事ができた。
要するにこれは異世界ファンタジー系アニメや小説でよく見るようなテンプレート的な展開だ。
チート能力を手に入れて異世界に転生し第2の人生を謳歌する。そんな生活を経験できるのなら異世界に転生するのも悪い選択では無さそうな気がする。
「はい、これで説明終わり!何か質問はある?」
「そういえば俺が助けたネコってどうなったんだ?」
一が死んだ要因の一つは弱ったネコを助けたことにある。もしあの時ネコも一緒に轢かれて亡くなっていたとしたら、これほど不幸なことは無かろう。
ペルセウスは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑み。
「あぁ、その事なら心配しなくても大丈夫だよ。無事警察に保護されて治療らしいよ」
「そうか、よかった…」
ネコだけでも助かって良かった。それだけで一の勇気行動は無駄ではなかったとそう思った。
「全然良くないよ!結局それであなたが死んじゃってるんだから!!命は大切にしなきゃ……」
「ーーッ」
そうやって安堵に胸を撫で下ろしていた一に対してペルセウスが怒りの声を向けた。
声の方を見ると彼女の翠色の瞳から一筋の涙が溢れていて…。
ペルセウスが言った通りだ。命は大切にしなくちゃいけない。数多の死者と出会いその度に2つの選択を迫っているペルセウス。その選択の数だけ命が絶たれてきたということだ。その度に心を炒めてきたはずだ。命の重さを1番理解している彼女の声が一の心に深く突き刺さった。
「本当に第2の人生をくれるのか?」
「もちろん!で、君はどうするんだい?」
そんなもの決まっている。この若さで無念の死を遂げてそれではい、終わりなんて納得できるはずがない。
「俺、転生するよ」
「了承しました。それで異世界に転生する為に契約が必要なんだけど」
「契約?」
異世界に転生する為に必要な契約。と言うよりも転生者には守らなければならない掟がある。
それは冒険者として魔王軍のボスを倒すために奮闘することである。異世界にも様々な職業があるが、転生者は冒険者にしかなれない。他の職業に転職した場合、
「転生者としての資格が剥奪されてそのまま死んじゃうって契約」
「『死んじゃう』っじゃねぇよ!めちゃくちゃ怖いじゃん!!」
生きる道が決められた異世界での生活。死者に再び命を吹き込むというのはそれだけ難易度が高いということらしい。
まぁ、元々そういう人生を歩んでみたいという気持ちで選択したのであまり支障は無いが、その他の道が閉ざされたのは少し残念ではある。
「死者が転生特典を受け取った瞬間に契約が成立するんだけど、特典のカタログを奥に忘れちゃったから、ちょっと取ってくるね」
「そんな大事な物忘れんなよ…。ってか特典なんてあるんだ」
「うん、特典である程度の力を付けて転生しないと亜人の強さに人間なんて敵わないからね。じゃあ取ってくるからちょっと待ってて!ずっと立ってるのも疲れるだろうからそこの部屋で座ってお茶でも飲みながら待ってて良いよ」
豪華な装飾が施された扉を指さした後、ペルセウスはいそいそと奥の方へと姿を消していった。
いよいよ異世界での新しい人生が始まる。そんな逸る気持ちを胸に一は指定された部屋のドアノブを捻り、ゆっくりと扉を開けた。
「ーーッ!?」
瞬間、眩い閃光が一の瞳に飛び込んで来た。
目に痛みを覚える程の膨大な量の光に目を覆いながら一は恐る恐る一歩扉の奥へと足を踏み入れる。
次第に意識が朦朧としてきた。このまま自分はどうなってしまうのか?これは一体何なのか?そんな不安を胸に一の意識は散り散りになって光に呑まれていった。
「あぁ!!案内する部屋間違えた!!」
数秒遅れてペルセウスは自分が犯したミスに気づいてすぐさま元の空間へ引き返した。が、時既に遅し。そこには一の姿はなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーここは…?」
一の意識が戻った時、彼の目に飛び込んで来たのはまたしても見慣れない光景だった。
「青い空に白い雲…、ここが言われた部屋って可能性は無さそうだな…」
辺りには心地よい風が吹き、青々と生い茂った草花が愉しそうに風に揺られている。空も天気が良く澄み渡っている。これがペルセウスに案内された部屋だというなら相当よく再現できた部屋だと思う。女神という存在がいるのだから、こんな現実には有り得ないような部屋ももしかしたらあるのかもしれないと、そう思い込むこともできるだろう。ただ、
「じゃあ俺はどこから来たんだ?入った扉が見当たらねぇ。どこでもドアでもどこから来たか分かるってのに」
自分が入ったはずの扉がどこにも見当たらず、ただ一本道に一は突っ立ってる状況なのだ。
特殊能力や強力な武器は持っていないからまだ契約を交わしていないはずだ。
それなのに今自分はこんな場所にいる。あれほど危険だと言ってた生身の人間状態で。ここがもし異世界で、あの扉が異世界に通じる扉だったとしたら…
「俺って異世界転生しちゃったのか!?最弱の状態で!!?あのバカ女神やってくれたなぁぁぁ!!!!!」
大きく息を吸って、胸中にある思いを一気に吐き出した。
ペルセウスに嵌められたか?と一瞬思ったが、それは無いと直感で思った。短時間の接触だったが彼女から嘘や偽りというものは感じられ無かった。契約の鍵となる特典のカタログ本を忘れるような奴で、しかもあの時かなり焦ってもいた。うっかり別の部屋を案内してしまったという可能性もある。シャレにならないが。
「とにかくここで喚いていても話にならねぇ。とりあえず人を探してここがどこなのか聞いてみるか」
戻る方法を探すという手もある。だが、こういう話の展開はもう後戻りできない可能性の方が高いと一は思った。それに、あの光に違和感を覚えたまま中に進んで行ったのは自分自身だ。もう少し警戒をする必要があったと思わなくもない。
こうなってしまった以上、今はこの状況を打開する術を考えるしかない。まずは情報集めをと一は歩みを進めた。
「ーーッ!!」
辺りを見渡しながら一本道を歩いていると、遠くの方で人影が見えた。近づくとその頭からはネコの耳が生えていて、いわゆる猫人族だと思われる容姿をしている。
何はともあれ漸く人に出会えたのだ。話を聞いて情報を集め状況を整理しようと思ったその時、後方から地面を揺らすような大きな足音が聞こえてきた。
パッと後ろを振り向くと、猛スピードで進んでいる牛車のような物が近づいてきていた。このままじゃあの猫人族が轢かれてしまうかもしれない。
「お~い!そこの人!!牛車が来てるからそんな所にいると危ねぇぞ!!!」
しかし、一の呼びかけはどうやら聞こえていないらしく動く気配が無い。
刻一刻と近づいてくる牛車。こんな状況で頭を回転させてあの猫人族に危険を知らせることなどほぼ不可能である。かといってこのまま見過ごす訳にはいかない。確かにあの猫人族も後に気づくかもしれないが万が一のことを考えると…。
一は一切の躊躇いなく走り出し、猫人族の元に駆け寄った。
「おい、あんた何してるんだ!牛車が来てるんだ、危ねぇぞ!!」
「にゃにゃ!?ってうわぁぁ、本当だ!ありがとうございます」
どうやら本当に気づいて無かったらしく、驚きを顕にする栗色のカールがかった髪の毛を肩まで伸ばした猫人族の女性。その服装はみすぼらしいもので、一体何があったのか気になる所ではあるが、今はこんな所では立ち話をしている場合では無い。いち早く道路の端によらなければ。
「とにかく無事で良かっ…」
道の端に避けようと思った瞬間、体の側面に衝撃が走った。鮮血を撒き散らしながら勢いよく空に投げ出された一は、そのまま受け身を取れるはずもなく地面に叩きつけられた。
『俺は…、さっきと同じ轍を踏むのか……』
全身を激痛が迸る中、そんな思考が浮かんだ。
徐々に視界も暗くなり、意識も深い海の底へと沈んでいくように遠くなっていく。
「おじさん!彼を、彼を助けて!!」
「おい、兄ちゃん!!しっかりしろ!!!」
感覚神経が機能しなくなっていく中、耳に必死に助けを求める女性の声と、焦りを顕にした太い男性の声が入ってきたのを最後に一は意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【あとがき】
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回この作品を書くことにしました覚醒龍神と申します。
事情により急遽変更になるかもしれませんが、一応隔週土曜日に更新したいと思っています。
これからよろしくお願いいたします!
「はぁ?」
突如告げられた衝撃の事実、その驚きと無理解から放たれた一の呆けた声が空間に木霊した。
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「行ってきま~す!」
家族に行ってきますの挨拶をして、家を出た少年。彼の名前は水口 一。
どこにでもいるようなごく普通の高校2年生である。
成績においても中位、運動においても中位、特に友達が多いわけでも少ないわけでもないごくごく普通の少年なのだ。
しかし、そんな一にも唯一飛び抜けているものがある。それは運の強さだ。
じゃんけんの勝率は脅威の90%。商店街の福引きでも何度も当たりを引いてきた。
さて、この辺で人物紹介を終わりにして本編に戻ろう。
「ーーッ!!」
いつもの通学路を歩いていると、道の真ん中でぐったりと倒れ込んでいるネコが目に入った。
しかも後方からは大型のトラックが走ってきている。このままではあのネコは轢かれてしまうだろう。
「助けるしかねぇだろ…」
一切の躊躇いなく一はネコの元へ駆け寄った。
ネコを抱き上げ状態を確認する。見るとたくさんの傷があり、所々出血も見られる。首輪を付けていないことから、おそらく野良猫だと思われる。縄張り争いから喧嘩が勃発、そのまま負けて今に至るのだろう。幸い細いながらも呼吸はある。今から病院に連れていけば何とかなりそうだ。
そう、安堵に胸を撫で下ろしたと同時に、後方からトラックのエンジン音が聞こえてきた。
そして、そのトラックはスピードをそのままに一の元に直進。
激しい衝撃音と共に跳ねられた一は抵抗も無く地面に叩きつけられる。
後のブレーキ音と運転手の「大丈夫か!!」という声を最後に、一の意識は深い闇へと消えていった。
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「残念ながら、あなたは死にました」
「はぁ?」
突如告げられた衝撃の事実、その驚きと無理解から放たれた一の呆けた声が空間に木霊した。
意識が戻った瞬間、目の前にはこの世のものとは思えない程の美貌をした女性が立っていた。
美しい金色の髪を長く伸ばしたその髪には技巧を凝らされたたくさんの装飾品を身につけている。目鼻立ちが整っており、エメラルドを思わせるような美しい翠色の双眸を宿している。
華奢な体に純白のドレスを纏い、そこにもやはり豪華絢爛な装飾品が施されている。
急に突きつけられた膨大な情報量に頭の回転が追いつかない。
ここは一体どこで、この人は誰なのか?そもそも自分はどうしてこんな所にいるのか?
そこまで考えた時に直前の記憶が脳裏を過ぎった。
「俺は確かトラックに跳ねられて…、それで、それで一体俺は…」
「もしも~し、私の話聞いてた?」
思考の渦の中、そこに一筋の透き通った美しい声が放たれる。
急に投げかけられた声に一は咄嗟に声の主に視線を向ける。
「ごめん、考えがまとまらなくてつい…。で、俺は…」
「こんな容姿端麗な美少女を前によくそんな1人でぶつくさ言えるわね」
「自分で容姿端麗とか言うか?まぁ否定はしないけど」
「とにかく、あなたはトラックに跳ねられて死んだの!理解できた!?」
「信じ難いけど、それが事実なんだってことは理解できたよ」
やはり先の事故が起こったのは事実らしい。そして一があの事故で死んでしまったことも…。
あまりに早すぎる死。このまま自分はどうなってしまうのだろうかという不安が心の中で蠢いている。
「申し遅れたわね、私の名前はペルセウス。女神として人間に死後の第2の人生を選択させている存在よ。あなたは水口 一で間違いないわね?」
「あぁそうだ、よろしくペルセウス。ところでここは…」
「は~い、慌てない慌てない。確かにまだ状況が飲み込めてないのかもしれないけど、聞きたいことは一旦我慢しててね。順を追って分かりやすく説明するから質問があったらその後にど~ぞ」
ここはどこなのかと聞こうとした途端にペルセウスが一に待ったをかける。そのまま一は抵抗することなく言われた通り話を聞く態度に移行する。
その素直な態度にペルセウスは「うん、いい子いい子」と言い微笑むとそのままつらつらと語り始めた。
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ペルセウスの話によると、ここはこの世とあの世の境目にある空間らしい。ここでペルセウスは一のようにやって来た死者に対して第2の人生の選択をさせているらしい。
1つめの選択はこのまま死者としてあの世に送り成仏するまで長い時間を過ごすというもの。2つめの選択は亜人界と呼ばれる異世界に転生し、新たな人生を送るというもの。
「なるほどねぇ…」
一切現実味の無い話だが、すんなりと受け入れる事ができた。
要するにこれは異世界ファンタジー系アニメや小説でよく見るようなテンプレート的な展開だ。
チート能力を手に入れて異世界に転生し第2の人生を謳歌する。そんな生活を経験できるのなら異世界に転生するのも悪い選択では無さそうな気がする。
「はい、これで説明終わり!何か質問はある?」
「そういえば俺が助けたネコってどうなったんだ?」
一が死んだ要因の一つは弱ったネコを助けたことにある。もしあの時ネコも一緒に轢かれて亡くなっていたとしたら、これほど不幸なことは無かろう。
ペルセウスは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑み。
「あぁ、その事なら心配しなくても大丈夫だよ。無事警察に保護されて治療らしいよ」
「そうか、よかった…」
ネコだけでも助かって良かった。それだけで一の勇気行動は無駄ではなかったとそう思った。
「全然良くないよ!結局それであなたが死んじゃってるんだから!!命は大切にしなきゃ……」
「ーーッ」
そうやって安堵に胸を撫で下ろしていた一に対してペルセウスが怒りの声を向けた。
声の方を見ると彼女の翠色の瞳から一筋の涙が溢れていて…。
ペルセウスが言った通りだ。命は大切にしなくちゃいけない。数多の死者と出会いその度に2つの選択を迫っているペルセウス。その選択の数だけ命が絶たれてきたということだ。その度に心を炒めてきたはずだ。命の重さを1番理解している彼女の声が一の心に深く突き刺さった。
「本当に第2の人生をくれるのか?」
「もちろん!で、君はどうするんだい?」
そんなもの決まっている。この若さで無念の死を遂げてそれではい、終わりなんて納得できるはずがない。
「俺、転生するよ」
「了承しました。それで異世界に転生する為に契約が必要なんだけど」
「契約?」
異世界に転生する為に必要な契約。と言うよりも転生者には守らなければならない掟がある。
それは冒険者として魔王軍のボスを倒すために奮闘することである。異世界にも様々な職業があるが、転生者は冒険者にしかなれない。他の職業に転職した場合、
「転生者としての資格が剥奪されてそのまま死んじゃうって契約」
「『死んじゃう』っじゃねぇよ!めちゃくちゃ怖いじゃん!!」
生きる道が決められた異世界での生活。死者に再び命を吹き込むというのはそれだけ難易度が高いということらしい。
まぁ、元々そういう人生を歩んでみたいという気持ちで選択したのであまり支障は無いが、その他の道が閉ざされたのは少し残念ではある。
「死者が転生特典を受け取った瞬間に契約が成立するんだけど、特典のカタログを奥に忘れちゃったから、ちょっと取ってくるね」
「そんな大事な物忘れんなよ…。ってか特典なんてあるんだ」
「うん、特典である程度の力を付けて転生しないと亜人の強さに人間なんて敵わないからね。じゃあ取ってくるからちょっと待ってて!ずっと立ってるのも疲れるだろうからそこの部屋で座ってお茶でも飲みながら待ってて良いよ」
豪華な装飾が施された扉を指さした後、ペルセウスはいそいそと奥の方へと姿を消していった。
いよいよ異世界での新しい人生が始まる。そんな逸る気持ちを胸に一は指定された部屋のドアノブを捻り、ゆっくりと扉を開けた。
「ーーッ!?」
瞬間、眩い閃光が一の瞳に飛び込んで来た。
目に痛みを覚える程の膨大な量の光に目を覆いながら一は恐る恐る一歩扉の奥へと足を踏み入れる。
次第に意識が朦朧としてきた。このまま自分はどうなってしまうのか?これは一体何なのか?そんな不安を胸に一の意識は散り散りになって光に呑まれていった。
「あぁ!!案内する部屋間違えた!!」
数秒遅れてペルセウスは自分が犯したミスに気づいてすぐさま元の空間へ引き返した。が、時既に遅し。そこには一の姿はなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーここは…?」
一の意識が戻った時、彼の目に飛び込んで来たのはまたしても見慣れない光景だった。
「青い空に白い雲…、ここが言われた部屋って可能性は無さそうだな…」
辺りには心地よい風が吹き、青々と生い茂った草花が愉しそうに風に揺られている。空も天気が良く澄み渡っている。これがペルセウスに案内された部屋だというなら相当よく再現できた部屋だと思う。女神という存在がいるのだから、こんな現実には有り得ないような部屋ももしかしたらあるのかもしれないと、そう思い込むこともできるだろう。ただ、
「じゃあ俺はどこから来たんだ?入った扉が見当たらねぇ。どこでもドアでもどこから来たか分かるってのに」
自分が入ったはずの扉がどこにも見当たらず、ただ一本道に一は突っ立ってる状況なのだ。
特殊能力や強力な武器は持っていないからまだ契約を交わしていないはずだ。
それなのに今自分はこんな場所にいる。あれほど危険だと言ってた生身の人間状態で。ここがもし異世界で、あの扉が異世界に通じる扉だったとしたら…
「俺って異世界転生しちゃったのか!?最弱の状態で!!?あのバカ女神やってくれたなぁぁぁ!!!!!」
大きく息を吸って、胸中にある思いを一気に吐き出した。
ペルセウスに嵌められたか?と一瞬思ったが、それは無いと直感で思った。短時間の接触だったが彼女から嘘や偽りというものは感じられ無かった。契約の鍵となる特典のカタログ本を忘れるような奴で、しかもあの時かなり焦ってもいた。うっかり別の部屋を案内してしまったという可能性もある。シャレにならないが。
「とにかくここで喚いていても話にならねぇ。とりあえず人を探してここがどこなのか聞いてみるか」
戻る方法を探すという手もある。だが、こういう話の展開はもう後戻りできない可能性の方が高いと一は思った。それに、あの光に違和感を覚えたまま中に進んで行ったのは自分自身だ。もう少し警戒をする必要があったと思わなくもない。
こうなってしまった以上、今はこの状況を打開する術を考えるしかない。まずは情報集めをと一は歩みを進めた。
「ーーッ!!」
辺りを見渡しながら一本道を歩いていると、遠くの方で人影が見えた。近づくとその頭からはネコの耳が生えていて、いわゆる猫人族だと思われる容姿をしている。
何はともあれ漸く人に出会えたのだ。話を聞いて情報を集め状況を整理しようと思ったその時、後方から地面を揺らすような大きな足音が聞こえてきた。
パッと後ろを振り向くと、猛スピードで進んでいる牛車のような物が近づいてきていた。このままじゃあの猫人族が轢かれてしまうかもしれない。
「お~い!そこの人!!牛車が来てるからそんな所にいると危ねぇぞ!!!」
しかし、一の呼びかけはどうやら聞こえていないらしく動く気配が無い。
刻一刻と近づいてくる牛車。こんな状況で頭を回転させてあの猫人族に危険を知らせることなどほぼ不可能である。かといってこのまま見過ごす訳にはいかない。確かにあの猫人族も後に気づくかもしれないが万が一のことを考えると…。
一は一切の躊躇いなく走り出し、猫人族の元に駆け寄った。
「おい、あんた何してるんだ!牛車が来てるんだ、危ねぇぞ!!」
「にゃにゃ!?ってうわぁぁ、本当だ!ありがとうございます」
どうやら本当に気づいて無かったらしく、驚きを顕にする栗色のカールがかった髪の毛を肩まで伸ばした猫人族の女性。その服装はみすぼらしいもので、一体何があったのか気になる所ではあるが、今はこんな所では立ち話をしている場合では無い。いち早く道路の端によらなければ。
「とにかく無事で良かっ…」
道の端に避けようと思った瞬間、体の側面に衝撃が走った。鮮血を撒き散らしながら勢いよく空に投げ出された一は、そのまま受け身を取れるはずもなく地面に叩きつけられた。
『俺は…、さっきと同じ轍を踏むのか……』
全身を激痛が迸る中、そんな思考が浮かんだ。
徐々に視界も暗くなり、意識も深い海の底へと沈んでいくように遠くなっていく。
「おじさん!彼を、彼を助けて!!」
「おい、兄ちゃん!!しっかりしろ!!!」
感覚神経が機能しなくなっていく中、耳に必死に助けを求める女性の声と、焦りを顕にした太い男性の声が入ってきたのを最後に一は意識を失った。
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【あとがき】
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回この作品を書くことにしました覚醒龍神と申します。
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